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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
王の帰還
53/371

ガンラの姫

【種族】ゴブリン

【レベル】5

【階級】ロード・群れの主

【保有スキル】《群れの支配者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B+》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》《三度の詠唱》《直感》《王者の心得Ⅱ》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死

【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv1)灰色狼ガストラ(Lv20)灰色狼シンシア(Lv20)オークキング《ブイ》(Lv36)





 出発の日。先導をするのは氏族の集落から来たラ・ギルミ。背負った矢筒と、手にした小型の弓。さらには人間的な格好。まるで狩人のそれだ。

 ガンラの狩人に同行させるのは獣士ギ・ギー、隠密ギ・ジーだ。

 ガンラの集落までに戦闘があった場合彼らが前衛として敵を察知する。

 こいつらが敵を察知することができるか否かが、全体の戦況を左右する。

 本隊を構成するのは、狂神(ズ・オール)の加護を受けたギ・ズー。ドルイド達の長としてギ・ザー、剣神(ラ・パルーザ)の加護を受けたギ・ゴー・アマツキ。風術師ギ・ドー。

 前衛で見つけた敵を、殲滅するのが本隊の役割だ。

 後衛として、ギ・グー・ベルベナ、その配下として、見開く瞳のギ・ヂーを配した。

 この二匹には、ギの集落から氏族の集落を繋ぐ道を確保してもらわねばならない。

 立ちふさがるものがいるなら、ダメ押しの一撃を加えるための後衛だ。

 そして集落に残るのは、長腕のギ・ガー・ラークス、先の戦でドルイド級となった水術師ギ・ゾー、槍使いのギ・ダーの3匹だ。本来なら、余裕のない戦力をここに残しておきたくはないのだが、ギ・ガーが負傷して戦闘に耐えない体だというのが大きい。

 その支えとして、水術師ギ・ゾーと槍使いのギ・ダーを配置せざるを得なかった。さらに、コボルト達と連絡を取るため、獣士ギ・デーを残していかなければならない。

 一般のゴブリンは、三匹一組(スリーマンセル)を2組ずつ。

 48匹を引き連れていく。

 オークとの戦闘で磨り減った戦力ではあったが、食料の関係を考えれば大軍ばかりがいいとは限らない。50匹を超えるゴブリンの移動だけでもかなりの食料を消費する。

 保存食を使う理由はそこに限る。

 狩りをしながら進めば一日に進める距離は、ほとんどないだろう。だが、移動だけに時間を費やせば、その分目的地には早く到達できるはずだ。 

「ギ・ガー頼むぞ」

 槍を杖代わりに、ギ・ダーに支えられるギ・ガーに声をかける。

「王も、ご無事で」

 別れの挨拶を済ませると俺はそれ以上何も言うことなく、集落に背を向ける。

 でなければ余計な一言を言ってしまいそうだったからだ。

「出発っ!」

 森に響かせるがごとく声を張り上げた。


◇◆◆


 オークの縄張りを抜けるのに3日。

 そのあたりになるとモンスターの質もだいぶ変化してきていた。

 天地を分ける巨大な山脈に近づくにつれて、鬱蒼とした森林地帯は鳴りを潜め、草原が姿を現す。草を揺らす風が、心地よく吹き付ける。風渡る草原には、鎧を着たような縞馬──アーマーストライプや、剣牙虎──サーベルタイガー、二足歩行で槍を手にした鼠──ラットマンなどが生息しており、それらを駆逐しながら進む。

 いつも真っ先に獲物を発見するのは、獣士ギ・ギーの使役する獣達だ。自身が乗って戦うこともできるダブルヘッドをはじめ、彼の配下のものには、野犬などゴブリンよりもさらに“鼻の効く”使役魔獣がいる。

 そうして獲物を発見すれば、ラ・ギルミの矢が唸りをあげて飛んでいく。

 ゴブリンは不器用であるとの常識を打ち破る弓の使い手。角度をつけた半月弓の先から射られる矢はあらかじめ予定されていたかのように、獲物に突き刺さる。

 だが、腐っても魔獣と呼ばれる凶悪な獣。

 ラ・ギルミの一撃のみで魔物が止まるはずもない。

 怒りに任せて襲ってくるのを、隠密ギ・ジーが気配を殺して近づき、長剣を叩き付ける。

 ほとんどの獲物はこれで倒すことができるが、稀に恐ろしく生命力の高い獣もいる。そのときには、本隊のドルイド達の出番だった。風術師ギ・ドーの魔法が獲物に襲い掛かり、その動きを封じる。

 後はレア級に届いていないゴブリンたちの手で、獲物をしとめていく。

 俺はこの行軍中に、下層の強化を積極的に行うつもりだった。

 ノーマルからレアへ、レアからノーブルへ。

 積極的に階級の低いゴブリンを使うことによって、彼らに経験を積ませようとしていた。

 4氏族がどれほどのものか、使者であるガンラのラ・ギルミの腕前を見ればわかるというものだ。

 そのガンラが、圧されている。

 剛力(ごうりき)のガイドガ氏族。

 オークよりも困難であると考えて、戦力は上げておくに越したことはない。草原地帯を抜けるのに3日が経過し、再び俺達は鬱蒼とした森林地帯に入った。

「この先は我らが領域です。オークといえど、この先には入ってこれません」

 胸を張るラ・ギルミの案内に従って、獣道を進む。

 先頭を快調に進んでいたラ・ギルミと、前衛達が立ち止まった。

 指先を立てて静止を促すラ・ギルミ。身構える隠密ギ・ジー。使役する獣を静かにさせるギ・ギー。俺は本隊を獣道から垂直に展開させる。

 何かが来る。

 がさりと、獣道の奥から音が聞こえた。

 手にした弓を構えるラ・ギルミ。スッと一息飲むと同時に、獣道から出たゴブリンと弓を突きつけあう。

「族長!?」「ギルミ!?」

 その後に続いて出てきた弓を構えたゴブリンに、ギ・ジーが長剣を突きつける。

 互いに睨み合う前衛と、正体不明のゴブリンたち。

 いや、正体なら既に割れている。ラ・ギルミが族長と呼んでいたのだ。

「剣を引け、ギ・ジー。獣を抑えろ、ギ・ギー」

 ガンラ氏族だろう。

 はっとしたような表情で、族長と呼ばれたゴブリンが命令を下す。

「弦を緩めよ。敵ではない!」

「珍しいな。メスのレアか」

 俺の隣で成り行きを見守っていたギ・ザーが呟いた。

 ほぅ、と俺は改めてそのゴブリンを眺める。

 確かに俺の集落には居ないタイプのゴブリンだったが、メスのゴブリンとはな。

 普通のゴブリンのメスはオスのゴブリンと大差ない。人間だった俺の感覚からすれば、という前提付だが。僅かに胸が出ていて、付いてるものがあるかないか、という程度だ。

 だが目の前に現れたゴブリン・レアはより人間に近い。

 肌の色は赤く、額には一本の角を持つ。流れた緑色の髪は、森林を友とする証か。身長は並のゴブリンより一回り大きいが、人間と言い張れなくもない。

 言い張っても子供か少女かぎりぎりのところだろうが。

 顔つきは些か厳しいが、人間として通用しない程度ではない。胸と腰に布を巻きつけたその姿は狩人というイメージを強くするものだった。

「いかがなされたのですか。集落でお待ちいただく予定では?」

 ギルミの言葉に、族長の顔が歪む。

「ガイドガの馬鹿どもだ。一気に攻めてきた。皆を逃がすのは成功したが、集落はもうだめだ」

 痛みをこらえる様にして言葉を吐く族長の視線が、俺に止まる。

「……そちらの方は?」

「こちらは、東のゴブリンを纏めていなさるギの集落の長で在らせられます。この度、ガンラの危機に、手勢を率いて駆けつけてくださいました」

 胸を張るギルミに、俺のほうを向く族長をはじめとしたガンラの視線。

「ギランが子、ラ・ナーサだ。ガンラの族長をしている」

 堂々と胸を張るその態度は、一族を率いる風格すら漂う。

「折角きてもらったところ悪いが、帰ってもらえ。もはや、助けを求めるべき集落はない」

 吐き捨てるやそのまま通り過ぎようとするナーサに、剣神の加護を受けたギ・ゴー・アマツキが曲刀を突きつける。腰に佩いた曲刀をまさに流水の如き流れるような動作で抜き、首元に突きつけていた。

「何のつもりだ下郎!?」

 騒ぎ出すガンラのゴブリン達を睨み、ギ・ゴーは目を細めた。

「主に対しての無礼は許さん」

「アマツキ殿!お止めください」

 ギルミの静止の声にも、ギ・ゴーの曲刀は微動だにしない。

 ナーサのほうも、やるならやれと微塵も動揺した様子がない。女だてらに随分肝が据わっていると見える。

「ちなみにギルミ殿。このまま我らが帰ったとして報酬の話はどうなります?」

「え、それは……」

 口の端に意地の悪い笑みを浮かべたギ・ザーの質問に、咄嗟にギルミは答えられない。払えるはずがないからだ。

「それでは困りますな。我らは既に行動を起こしてしまっている」

 僅かに視線で俺に合図し、任せろと茶目っ気たっぷりに視線だけで笑うドルイドの長ギ・ザー。

「それは……ですが!」

「助けは要らないと申されるのは勝手だが、貰うものは貰わねば、こちらは収まりません。お分かりか?」

 腕を組んで成り行きを見守る俺。

 どういう結末になるにしろ、最終的に4氏族すべて俺の下についてもらう。

 そこだけを考えるなら、ギ・ザーの交渉の腕を見ておいてもいいかもしれない。何より、随分ノリノリで悪役をやるじゃないか、ギ・ザーめ。楽しんでいるな。

「何を約束したのだ。ギルミ」

「妖精族の姫を1人」

「馬鹿な!」

 吐き捨てるナーサに、ギルミが言い訳がましく言い募ろうとし。

「ですが……」

「貴様らにやるものはない。帰れ」

 強い視線で睨み付け一蹴するナーサ。

「それでは困ると、言ったはずだが」

「姫……」

「族長と呼べ!」

 ギ・ゴーの刃が喉元に突きつけられているのを、忘れているのではないだろうか。

 ガンラゴブリンの族長は、頭に熱が昇ると止まらないようだ。

「話になりませんな。別に我らは、ナーサ殿でもいいのですよ? ギルミ殿」

 ギ・ザーめ。悪役ぶりが板についている。

 どこで覚えたんだか。

「それは、なりません!」

「くっ……やはり氏族以外のゴブリンなど、獣と同じか……」

 ギ・ザーの視線に気がついたギ・ゴーがナーサの首筋に刃を押し付ける。漏れた呟きは力のないものだった。

 一触即発の事態をもう少し楽しんでもいいのだが、ギ・ギー配下の野犬が唸り声を上げていることに気がついた。

「……遊びは終わりだ。ギ・ザー」

 肩をすくめて苦笑するギ・ザーをよそに、鋼鉄の大剣(アイアン・セカンド)を構える。

「東の主殿、しばしお待ちを!」

 ギルミがナーサの目の前に立ちふさがるが、そんなことにかまってる場合ではない。

「ギ・ギー、敵の数は?」

「20ほドかと」

 間髪いれずに返ってくる答えに満足する。ギ・ザーの遊びに付き合わず、常に周囲を警戒していたギ・ギーの功績だ。

「ギ・ゴー切り込むのは任せるぞ」

「承知!」

 事態の進展についていけないガンラ・ゴブリンを他所にギ・ゴーが腰から2本目の曲刀を抜き放つ。

「ギ・ドー正面の援護だ。ギ・ザーは右を襲え!」

「はい!」

「任せろ」

 俺の号令により、瞬く間に散っていく手下たち。

 己の配下となるノーマルゴブリンたちを引き連れて、密林の中を背を縮めて走る。

「ギ・ギー、ギ・ジー、ギ・ズー左を任せるぞ」

「はイ」

 3匹のレア級ゴブリンが連れ立って森林の中に入る。

「ギ・グー、ギ・ヂーお前たちは待機だ」

 一通り指示が終わってから、俺は改めてギルミに向き合う。

「ガンラの使者ギルミ。約定どおり集落を救ってやろう」

「は? はい!」

「だが、それには条件がある。ガンラ氏族は今後俺の配下として戦ってもらう」

 一度ナーサに視線を移すギルミ。

「ふざけるな!」

 ナーサの怒声を無視して俺はギルミだけを見下ろす。

「……よろしいでしょう。氏族の他の者は私が説得します」

「ギルミ!」

「……決まりだな」

 肩に担ぐ鋼鉄の大剣の握りを確かめる。

 さあ、まずはひとつ落とした。

 次はどの氏族だ?



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