追撃
【種族】ゴブリン
【レベル】5
【階級】ロード・群れの主
【保有スキル】《群れの支配者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B+》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》《三度の詠唱》《直感》《王者の心得Ⅱ》
【加護】冥府の女神
【属性】闇、死
【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv1)灰色狼(Lv1)灰色狼(Lv1)
【状態異常】《聖女の魅了》
湖水に映る姿は、灰色の肌に、蛇を彷彿とさせる黄金の眼。頭から背中にかけて伸びる鬣は黒く、背はデュークのときより少し大きくなり、ギリギリ大きな人間ですと誤魔化せる程度。
右腕に巻きついた真の黒は一層その範囲を広げ、顔つきはデュークからあまり変わらず爬虫類じみた凡庸さが漂う。頭から生えた角は、捩れた2本と天を突く一本の合計3本。
なんと驚くべきことに、尻尾が生えた。ついでに、手のひらで触れば、肌に薄っすらと体毛まで生えている。
自分の意思で尻尾を動かす感触とはなかなか言葉にしづらい。なにせ人間の時には無かったものだ。そう、例えるなら尾てい骨のあたりにもう一本足のようなものがあると言えばいいのか。
ふりふり、と動かしてみてその感覚を確かめる。間違ってもコボルトのように強烈に振ることはできそうにない。
一体何に向かっているんだ?
気分を一新して、湖を覗き込んだ俺は、自身の容姿に思わず首をかしげた。
もしこれがあの女神の趣味なのだとしたら、最悪にセンスがない。
顔つきを見れば、いささか皺が少なく、人間に近いほど滑らかだが、あくまでゴブリンというしかなく、尻尾の存在と鬣は俺が思うに獣にしかない。
やはり理解に苦しむ。
だが、この姿を見てもレシアや他のゴブリンは全く動揺していなかった。
だからやはりこれは俺なのだろう。むしろそっちの方が驚きだ。
普通ここまで姿形が変われば、一見して誰だかわからないのではないだろうか。
まぁ体毛が生まれたのは喜ばしい。
爬虫類から哺乳類には近づいているのだろう。
さて。
見たくもない容姿については、このぐらいにしておこう。
にやりと湖に向けて笑いかけたその顔の凶悪さ。俺でも心臓が止まるかと思った。
他の奴らは、よく平気でいられるものだ。
◇◆◇
集落に戻った俺は、被害の全容を把握すべく、王の家にて報告を受けると同時に新たに加わったゴブリン・レアのステータスを確認した。
いつもなら、無理をせず翌日に持ち越すところだが、あいにくと今は時間がない。
「次のものはドルイドです」
入ってきたゴブリンの姿は、まさに人間に近しいドルイドの姿だった。
【種族】ゴブリン
【レベル】1
【階級】ドルイド
【保有スキル】《魔力操作》《水術操作》
【加護】水神
【属性】水
そういえば、祭祀を《赤蛇の眼》で見たのはこれが初めてだった。
ふむ?
【階級】がレアではなくて、ドルイドなのか。
ということは、彼らは階級が上がればドルイドではなくなるということだろうか。
そのあたりは、ギ・ザーに期待するか。新たなゴブリンの進化の形を示してくれるかもしれない。
「ギ・ゾーとする」
「ありがたき幸せ」
やはり滑らかな言葉を喋る。ギ・ザーが特別というわけではないのだな。
ギ・ザーの後継として、集落を任せてもいいかもしれない。
最初から全てを任せては諍いが起きるだろうから、誰か信頼できるものを残してその下で経験をつませるところからはじめようか。
その後姿を見送ったところで、老ゴブリンの声がした。
「続きましては、ギ・ガー殿の下で槍を学んだ者です」
【種族】ゴブリン
【レベル】1
【階級】レア
【保有スキル】《槍技C-》《槍の心得》《投げ槍》《威圧の咆哮》《往生際の悪さ》
【加護】なし
【属性】なし
《槍の心得》槍技に補正がかかり一段階上昇させます。
《往生際の悪さ》死に至るダメージを受けてもしばらく行動することができます。
ギ・ガーの派閥というだけあって、やはり槍には精通しているようだ。もし俺が同じ槍で戦うとしたらきっとギ・ガーの派閥には勝てないだろう。
「ギ・ダーとする」
「ありガタく」
やはり、レア級というだけでは言葉を流暢に話すのは無理があるか。
だが決して不便なわけではない。
狂神に取り付かれたゴブリンもそうだが、今回ギ・ガーの派閥からレア級が生まれているのは、やはりそれだけ激戦の中に放り込んでしまったためだろう。
だが、このままではギ・ガーの派閥自体が解体ということになりかねないか?
いや、いっそ派閥は解体させるべきか。
新たに生まれてくるゴブリン達を、重傷を負ったゴブリンに教育させるというのはどうだろう。
試してみる価値はあるだろう。
「次の者はギ・グー殿の派閥のものです」
【種族】ゴブリン
【レベル】1
【階級】レア
【保有スキル】《威圧の咆哮》《剣技C−》《見開く眼》《雑食》《呼び掛け》
【加護】なし
【属性】なし
《見開く眼》敵の弱点を見破ります。
《呼び掛け》連携攻撃を容易にします。
俺の青蛇の眼と同じ効果のあるスキルに、連携をし易くするスキルか。やはり《連携》を使うギ・グーの派閥だけあって、それらしいスキルが育っている。
「ギ・ヂーの名前を与える」「はイ」
その他に獣士のスキルを取得したギ・デー、同じくドルイドから風を扱うギ・ドーの名前を与えた。
これらは新しい力として、ゴブリン達を指揮して行ってくれるだろう。
問題があるとすれば……狂神に飲み込まれたあのレアだ。
何とかしてやりたいが……。
だが今は、他の部下に指示を出さねばならない。
襲撃の傷跡は何も建物の破壊と人的被害だけではない。
外に掘った落とし穴には、オークの屍が埋まり集落の周りにも数え切れないほどの屍がある。
腐臭のしてきそうなそれの処理も、勝利したこちらの仕事だった。
見たことはないが、アンデットなどになったりしたら嫌だし、それでなくとも精神衛生的に良くはない。
「ギ・ギー、ギ・ジー参りました」
老ゴブリンの声に俺は、視線をあげた。
「ご苦労」
連れ立った二人が俺の前で膝を突いている。獣士ギ・ギーと隠密のギ・ジーを呼んだのは、他でもない。
「お前たちには、オークの足跡を辿ってもらう」
顔を上げる2匹のゴブリン・レアに、俺は宣言する。
「これから1日後、本隊はオークを追討する! お前たちはその斥候としてオークを捕捉せよ」
「はイ」
二人とも頭を下げるのを確認する。
「準備ができ次第出発せよ」 2匹を送り出すと、元集落のリーダーであるギ・グーを呼ぶ。
「ギ・グーお前は、集落の守りを固めろ。狩りを決して滞らせるな。平行して、集落の復旧を行え」
「御意」
俺は膝を突くギ・グーの耳元にそっと付け足す。
「それから、ギ・ガーを頼むぞ」
察したギ・グーは一層深く頭を垂れた。
「御意!」
「よし、行け!」
ノーブル級にして、サブリーダーの称号があるのだ。うまくやるだろう。
ギ・グーを立ち去らせると、次は祭祀ギ・ザーと剣神の加護を受けた曲刀使いのギ・ゴーだ。
「明日、各々手勢を率いてオークを追う」
「正気か?」
こちらの反応を窺うギ・ザーの言葉に、俺は頷く。
「未だ集落の復旧も十分ではなく、足場も固まっていないのにオークを追うと?」
「ああ。今追わねば、オークはまた力をつけて戻ってくる。それからでは遅いのだ」
「……賭けだな」
西からの脅威を退けた今、オークをこのまま追撃して西への道を突き進む。
速やかな進軍こそが、オークから本当の意味でこの集落を解放するのだ。
「今度も、俺が勝つ」
「いいだろう。王よ、お前に乗る」
きびすを返すギ・ザー。
「王命のままに」
腰に二本の曲刀を佩いたギ・ゴーもまた、準備のためにその場を去った。
◇◆◇
新たに加わったレア級ゴブリンのうち、水術師ギ・ゾーはギ・グーと共に集落の守りに残した。同じく獣士のスキルをもつギ・デーもコボルトとの連絡役に残さねばならない。
ギ・デーには早速だが、使役している犬にコボルトの臭いを覚えさせ、肉を持たせて出発させた。
所謂面通しというやつだ。
他のレア級ゴブリンである、風術師ギ・ドー、見開く瞳のギ・ヂー、槍使いのギ・ダーはオークの追撃に加わらせる。
一夜明けて、マチスが作った保存食を持つと、俺はオークの追撃にかかった。
ノーブル級ゴブリン1、レア級ゴブリン4、そうしてノーマルゴブリンが30匹。それぞれが三人一組で組ませたゴブリンを2組6匹ずつ率いて行かせる。
この他に、先行している獣士ギ・ギー、隠密ギ・ジーらが1組ずつ計6匹のノーマルゴブリンを連れて先行している。
ギ・ガーを始めとした重傷者を除けば、今集落を守るゴブリンは38匹ほどになる。もちろん、妊娠している雌ゴブリンや幼生のゴブリン。そして老ゴブリンを除いた数ではあるが。
早めに決着をつけたいものだ。
出発しようとすると、一匹のレア級ゴブリンが寄ってくる。
「主」
地面に頭をこすり付けるそのゴブリンは昨日、俺と殴りあった狂神の加護を持つもの。
「どうカ、この遠征ニ参加ヲさせてクダさいますよう」
確かに目を離して暴走されるよりかは、俺の目の届くところにおいて、監視をしたほうがいいかもしれない。
「……わかった。支度をせよ」
ギ・ガー配下だったゴブリンに、即決で名前を与える。
「ギ・ズーとする」
「ありがたキ幸セ」
鷹揚に頷くと、俺は進路を西にとった。