狂神
【種族】ゴブリン
【レベル】5
【階級】ロード・群れの主
【保有スキル】《群れの支配者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B+》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》《三度の詠唱》《直感》《王者の心得Ⅱ》
【加護】冥府の女神
【属性】闇、死
【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv1)灰色狼(Lv1)灰色狼(Lv1)
【状態異常】《聖女の魅了》
意識を集中して、自分自身のステータスを探る。
【スキル】《群れの支配者》部下の能力を引き上げます。同族に対して、魅了効果の追加。
【スキル】《王者の心得Ⅱ》群れの主と戦うとき、魔力20%UP、ダメージ20%増加と引き換えに、相手に与えるダメージ30%増加。
《群れの支配者》は俺自身と群れにとって良い効果だ。
同族に対する魅了効果、というのは信奉者を得やすくなるということと、解釈して間違いないだろう。俺の魔力が増大し、部下の能力を引き上げる効果があるなら、これ以上のことはない。
《王者の心得Ⅱ》幾つあるんだか知らないが、これは短期決戦用のスキルということだろう。殺すか、さもなくば死ねと言われている気がするな。
確かに群れの主同士で決着を早期につけられるなら、群れ全体への被害は少なくなる。
相手が人間の場合でも適用されるのだろうか。
ステータスの確認を終えた俺は、続いて部下の状況を確認する。レシアには悪いが、しばらくは働いてもらうことになる。
そんなことを考えながら、歩き。
一夜明けた集落の様子にしばし立ち止まる。
「ひどいものだな」
被害の状況をギ・ザーから直接聞いてはいたが、実際に目にするとその被害の大きさに愕然とする。だが、これで西からの脅威は取り去ったと考えていい。
西からの脅威さえなければ、ゴブリンの生存を脅かすのは野良のオークや、散発的な巨大蜘蛛との接触だ。しかし集落が襲われなくなったというのは何にもまして歓迎すべきだ。
逃げ込める安全地帯があるというのは、狩りに行くにしても心構えが違う。
そのための犠牲、それに見合うだけのものを俺は作り出さねばならないのだ。
自分を無理やり納得させると、集落の状況を引き続いて確かめた。
「王」
呼びかけられてとまった俺の目の前には、青い肌をしたゴブリンの姿。
「ギ・ゴー殿が進化いたしました」
膝を突いて俺の前に侍るのは、集落の元リーダーであるギ・グーの姿。
先の戦いでは俺の右腕として一隊の指揮を執った。自然集落のゴブリンのまとめ役のような形に収まっている。俺の次に階級が高くノーブル級のゴブリンだった。
「他にもレア級へと進化したものが数名。ご覧になりますか?」
ゴブリン20匹の命と引き換えに得たもの。しっかりとそれを確認しなければならない。
「報告を」
「御意」
ギ・グーの話をまとめると、レアからノーブルに進化した者は古武士然としたギ・ゴー。
ノーマルからレア級へ進化を遂げたのが6名にも上る。
名前を考えなければな。頭の痛いことだ、
「彼らに対する指示はいかがいたしましょう?」
そうだな、全員一緒に見てもいいがどうせならしっかりと全員を確認したい。その有用性も考えていかなければならないだろう。
「ギ・ゴーを呼べ」
「それと……」
「まだ何かあるか?」
「いえ、何もありません」
かしこまるギ・グーを見送ると、俺は集落を再び見回りだした。
◇◆◆
王の家に戻ってしばらくするとギ・ゴーがやってきた。
ギ・ゴーのステータスを確認する。
【種族】ゴブリン
【レベル】1
【階級】ノーブル・サブリーダー
【保有スキル】《剣技B-》《叩き上げ》《歴戦の戦士》《侠気》《武士の魂》
【加護】剣神
【属性】なし
剣技のスキルがずいぶん高い。ノーブル級にしてこの高さなら後一段階上げたなら俺を追い越すのではないだろうか?
《叩き上げ》成長に時間がかかりますが、その分階級を上げたときの見返りは大きくなります。
《歴戦の戦士》相手のクリティカルの発動を抑えます。敵クリティカル発動率30%減。さらに最前線で戦うことにより、筋力・機敏性10%増、ダメージ20%減。
《侠気》ゴブリンに対する魅了効果、20%増。
《武士の魂》は長腕のギ・ガーと同じか。
そうして気になる【加護】だ。俺以外では初めて見つけた加護もちのゴブリン。その加護が剣神。
【加護】剣神。剣技の成長を助けます。A+級まで到達すれば【スキル】《奥義》を使用することができます。
ただし、剣以外の武器を使うとその加護が失われます。
ギ・ゴーのステータスを確認し終えると、その使い方について考える。
先にノーブル級になっているギ・グーもサブリーダーという呼称を与えられていたが、印象は大きく異なる。
ギ・グーはスキルでゴブリンを率いるのに対して、ギ・ゴーはその個人的な魅力でゴブリンを率いているのだろう。洗練されているのは、ギ・グーだが、ギ・ゴーの派閥はギ・ゴー自身に心酔しているものが多い。
《歴戦の戦士》の内容から考えるに、常に最前線で戦わせればその力を発揮してくれそうだ。相手のクリティカルを抑えるということは、格下の相手には取りこぼしが少ないだろうし、格上の相手にも粘り強く戦えるということだ。
使うとしたら、最前線か。
「ギ・ゴー、このたびの働き見事だった。褒美として剣を取らせる。受け取れ」
オークの遺品の中から質の良さそうなものを選んでギ・ゴーに与える。
「恐れながら」
片膝を突き頭を垂れながらも、ギ・ゴーは首を横に振る。
「直剣よりは曲刀を頂きたく」
これは盲点だったな。
「これは俺が悪かった。お前には剣神が憑いていたのだな」
ならば同じ種類の武器にしたほうがいいか。
剣技が曲刀を使って剣神の加護を受けるまでになったなら、それ以外の武器、たとえ同じ剣でも使いたがらないのは仕方のないことかもしれない。
俺にしてもせっかくついた【加護】がこんなことで離れてしまってはつまらない。
オークの遺品から状態のいい曲刀を選ぶと、ギ・ゴーに下賜する。
「ありがたく!」
曲刀を押し頂くギ・ゴーの姿に満足すると、しぶとく生き残っていた老ゴブリンに命じて次のレア級に進化したゴブリンを招き入れる。
「次のものは、ゴブリンであるにも拘らずオークを3匹倒しております」
オークを3匹だと?
そんな馬鹿な。
「失礼しマす」
入ってきたゴブリンは、ギ・ゴーやギ・グーに比べると一回り大きなレア級ゴブリンだった。
【種族】ゴブリン
【レベル】1
【階級】レア
【保有スキル】《威圧の咆哮》《投擲》《槍技C-》《必殺の一撃》《狂犬》
【加護】狂神
【属性】なし
確か、俺が群れの主についてから生まれたゴブリンだったはずだ。
だが戦の前に比べるとその顔つきはまったく違ったものになっている。どこか穏やかだった顔つきは戦傷に傷つき、愛嬌など欠片もない。憎悪に歪んだ視線は、俺ですら敵と見なしそうに強く俺を射る。
さらに意識を集中させて、スキルを確認する。
《必殺の一撃》敵の急所を狙い打ちます。
《狂犬》狂神の加護を受けて全てのスキルが使えなくなるのと引き換えに、筋力・機敏性40%増、ダメージ軽減40%の効果がある。及びステータス異常からの解放。
加護が強すぎるのか?
俺自身のことを確認するまでもなく、加護というのは力を与えてくれると同時に、副作用をもたらす。ギ・ゴーが俺の考えに逆らってまで曲刀を求めたり、レシアのように体を勝手に使われたり、さまざまだが。
目の前のゴブリンの有様は、加護を与える神に精神が引きずられているのではないだろうか。
俺と似たようなその境遇に同情を覚えつつ、いくつか質問をし、名前を与えようとすると。
「主、お願イガ……狩猟ヲ、是非共ニしてイタダキたク」
赤蛇の眼を発動させるまでもなく、目の前のゴブリンが《狂犬》を発動しているのがわかった。発動しているのか、発動させられているのかはわからないが。
「良いだろう」
このままではこのゴブリンが危険だ。
せっかく戦力として数えられる手下をみすみす見捨てることなどできはしない。
何とか救ってやらねば。
「今日はここまでにする。後は後日だ」
老ゴブリンに宣言すると、俺は狂神に飲み込まれそうなゴブリンを伴って二人森へと入った。