対峙する勇者
【種族】ゴブリン
【レベル】100
【階級】インペリアル・大帝
【保有スキル】《混沌の子鬼達の覇者》《叛逆の魂》《天地を喰らう咆哮》《剣技A−》《覇王の征く道》《王者の魂》《王者の心得Ⅲ》《神々の眷属》《覇王の誓約》《一つ目蛇の魔眼》《魔流操作》《猛る覇者の魂》《三度の詠唱》《戦人の直感》《導かれし者》《混沌を呼ぶ王》《封印された戦神の恩寵》《冥府の女神の聖寵》《睥睨せしは復讐の女神》《世界を敵に回す者》
【加護】冥府の女神
【属性】闇、死
【従属魔】ルーク・コボルト(ハス)(Lv56)灰色狼(Lv20)灰色狼(Lv89)オーク・グレートキング(ブイ)(Lv29)
【状態】《一つ目蛇の祝福》《双頭の蛇の守護》《土喰らう大蛇の祝福》《翼なき空蛇の守護》
目の前の人間を倒した俺は、軽く息を吐いた。後ろから聞こえるゴブリン達の歓声を聞きながら、握り締めていた大剣から手を離す。正直、ここまで追い込まれるとは思っていなかった。実力の差は歴然としていた筈だったのだ。
それでもここまで食い下がってくる。侮ることなど到底出来はしない。宿敵と言っても良い間柄だったが、少なくとも軽蔑するような敵ではない。敬意を以って葬り去るべき敵だった。
咳き一つ聞こえない敵の陣営を睨む。
切り札とも言えるガランド・リフェニンを失って、少しは動揺しているのかと思ったがどうやら違うらしい。まるで能面のように表情一つ動かなさい敵の兵士。
妙だ。
一言で言い表すなら、不吉。凡そ縁がないと思っていた感覚に戸惑いながら、視線を巡らせる。敵の一騎当千と言える戦力を討ち果たした今、勝利は直ぐそこにある筈だ。
攻める好機……。
そして俺は、ソイツを見つけてしまった。
「……ッ、な、に……?」
息も出来ない程の驚きが、俺の身体を縛る。
今、戦場にいることをすら忘れさせる、その顔は──。
一瞬にして駆け巡る過去の記憶。
忘れていた筈の、否、どうして忘れてしまっていたのか? それは決して忘れまいと、憎悪と共に誓った記憶であったのに。
何もない白い部屋と、そこで胡座をかいて座る老人。
『ほう? 誰か来たのか』
「何で……? 俺は……神社に、いた筈……」
見下すように俺を見つめる老人。まるで品定めされているかのような、あの目つき。実験動物を観察する科学者の如く、無機質で温度を感じさせない目。老人は、立ち上がることすらなく俺を自分の前まで招き寄せる。皺深い顔と指先がよく見えた。
『お前は死んだ。まぁ、よくあることだ』
老人は口元に薄っすらと笑みを浮かべる。その悍ましさに、全身に悪寒が走った。目の前の獲物を狙う猛獣でも、もう少し品がある。
『だが、お前は運が良い。生きたくはないか? 二度目の生を』
まるで断られることなど考えていない老人の声が、酷く耳障りだ。腕を広げ、傲慢に宣うこの老人の、一体何を信じろというのか?
『お前の欲しい物をやろう』
「欲しい物、だと?」
思い出される悍ましい声。だが、俺は確かな怒りを覚えていた。そんなもの、叶えられる筈がない。
俺の願い、俺の助けたかった人は、死んだのだ。
『だから──』
「巫山戯るな!」
いつの間にか俺の傍まで寄っていた老人の手を振り払う。
冗談じゃねえ。
俺の愛した人は死んだんだ。もう戻ってこない!
『──神に不可能はない』
神、だと?
目の前に居る、萎れた爺にしか見えないこいつが、神?
『そう、我は神よ。人間の神にして人の繁栄を司る、祖神アティブ』
ハッ、どこの神様だ。聞いたこともねえよ!
『信じるか、信じないかは、貴様次第。だが、もうお前は戻れぬところまで来ておる』
戻れない? 俺が死んだだと?
『そうだ。お前は死んだ。だが、機会を与えてやろう。愛する者を取り戻す機会を』
一瞬だけ迷わなかったと言えば、嘘になる。
それ程に、俺は彼女を愛していた。
だが、だが……それは、死んだ彼女への……。
『では、神たる我に捧げてもらおう』
迷う俺の胸に突き立つ、目の前の爺の腕。
「あ、がっ!?」
貧相な爺に不釣り合いな、欲望で濁った瞳と禍々しく歪む口元。こいつは神なんかじゃねえ! こいつは──!
『お前自身を』
醜悪に笑うその顔を、決して忘れるものかと睨み付ける。
『……いや、もうお前のものではないがな』
指一つ動かせないまま、俺の意識は遠のく。
『ああ、そうそう……お前の魂などと言う邪魔な物は要らぬ。それはくれてやろう』
その言葉を、その声を、どうして忘れられよう。
俺の、今の俺が生まれた切欠を作った神の声。
必ず報復せねばならない、怨敵の声だ!
「あ……あ、あぁ………アアアアァァアアア!!」
見つけた。見つけたぞ!
気が付いた時には既に地面を蹴っていた。
目の前に立ち塞がる能面のような顔をした雑兵共を蹴散らす。腰に佩いた大剣を引き抜き、力任せに振り払う。
「我が命は砂塵の如く!」
受ける刃など、知った事か!
空気と共に人間共の壁を突き破り、ソイツの目の前に到達すると同時、振りかぶった大剣を振り下ろす。
「ん?」
だが、目の前の男は平然とそれを受け止めた。俺の渾身の一撃を、長剣でいとも容易くだ。だが、そんなことはどうでもいい。どうでもいいのだ!
こいつは、こいつは──!
「貴様ァアアアァアアアア!」
力任せに再び連撃。
だがそのどちらも、まるでそよ風が吹き抜けた程度だと言わんばかりに、目の前の男は涼しい顔で防いでみせた。
「グルウルウゥゥウオオアアアアアア!!」
凶猛な感情が目の前を赤く染める。
刀身から黒炎が吹き出す。三度目の詠唱を経て魔素を更に喰らい、燃え上がる大剣を再び振り下ろす。砕ける程に奥歯を噛み締め、喉も嗄れよとばかりに吠える。腕の肉が削げても構わない!
この男に刃を届かせられるのならば──!
「誰だ貴様はあァア!?」
「ん? 僕は勇者さ。君が魔王であるようにね」
勇者、勇者だと!?
「巫山戯るなよ! それは、その身体は、俺の身体だろうがッ!!」
「くっははは! おかしなことを言うね。君の身体だって? 勇者である僕の身体が、君の……?」
勇者の口元が歪む。
今までどこか虚ろだった勇者の表情が、感情の篭ったものになる。あの老人そっくりな、醜悪な欲望に濁った瞳。吊り上がった口元は下卑た人間のそれだ。
「まさか……? ふふふ……君はあの時の?」
返事代わりに再び刃を叩き付ける。
「くくく……あは、あはははははは!! あっはっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!」
腹が捩れる程に笑う、目の前の男。瞳孔は開き、口元は歪んで、狂人のようだ。
あの時の、アティブと名乗った糞爺!!
「何がおかしい!?」
「何が? これが笑わずに居られるかい!? 捨てた魂が勝手に身体を作り上げたのか、それとも命なき入れ物に入ったのか、どちらにしても傑作じゃないか! しかもゴブリン! 醜悪で、下等で、凡そ考えられる最悪の生き物! これが笑わずにいられるとでも!? ねえ、僕を笑い死にさせるつもりなのかい?」
「俺の顔で………俺の声で……! それ以上口を開くな!!」
再び渾身の力を込めて叩き込む大剣の二連撃を、勇者は呆気無く防ぐ。
「しかも、この僕の引き立て役として随分連れて来てくれたじゃないか! 何て素晴らしい、君は最高に道化だよ。アハハハハハハ!!!」
敵の長剣が振るわれる。
それを防ごうと、防御に回した大剣が押し込まれる。
くそっ!
「目覚めて直ぐに、この喜劇。幸先がいいなァ。僕の可愛い人間達を蹂躙してくれたのが、君のような道化だったとはね……。ああ、苦しめなくてはね。君を、身も心も蹂躙してあげなくてはね。ふふふふふふはははははははは!!!」
押し込まれる大剣と共に、俺の姿勢が崩れていく。
何だこの力は!? 悲鳴を上げる筋肉を総動員して圧力に抗う。
まるで巨人と対峙しているかのような圧倒的な力の差だ!
「どうだい、楽しかっただろう? 僕の力を、僅かながらも使いこなしたんだろう? だからこそ、ここまで勝ち抜いてこれたんだろう?」
「何のことだ!?」
怒声と共に問い返す。同時に放つ斬撃は容易く弾かれてしまう。
「ステータス、だったね。面白い知識だ。でも、そんなものが見えるのはおかしいと思わなかったのかい? 君の他に、それが見える者は居たのかい?」
居た。当然だ! これは老ゴブリンから教えられたのだ。
「当たり前だ!」
「おや、本当に? その者は、確かにステータスが見えると言ったのだね?」
「何をっ!?」
「集中すれば相手の強さが分かる、とでも言ったのではなく、相手の強さが、はっきりとステータスとして見える。そう言ったのだね?」
口元に刻む笑みは深い自信に満ちたものだ。
確か、あの時、老ゴブリンは……どう言っていた? 僅かに記憶を蘇らせようとするが、目の前の敵には考え込む素振りすら危険だった。
「さあ、思い出してご覧!」
今度は勇者を名乗る爺から下段からの切り上げるような一撃。
──抑えて、首を薙ぐ。
瞬時の判断で態勢を入れ替えた俺は、下段から切り上げてくる一撃を大剣で抑え付けようとして、そのまま宙に浮いた。
「何!?」
「もしかして、未だ力の差が分からないのかな? ふふふ」
手元で抑えた筈の勇者の一撃が、俺を吹き飛ばして宙に飛ばす。そのまま重さなどないかのように振り切られた長剣が勇者の手元に戻り、空中で身動きが取れない俺に向かって再び振るわれる。
「ぐぅ!」
くぐもった悲鳴を噛み殺し、衝撃に耐える。
勇者の一閃により衝撃波が生み出され、それが俺の身体を穿つ。
嘗て戦った如何なる人間達とも違う。根本から狂っているような力の差をまざまざと見せつけられ、態勢を崩して地面に叩き付けられた。
「世界よ我が為に在れ」
勇者の持つ長剣に光が集まる。俺の魔法とは根本的に異なる原理。吹き出すように魔素を放つ俺のものと、周囲から取り込むようにして剣を強化している敵のもの。
「怯えて逃げても良いのだよ?」
「誰が、貴様などに!」
黒炎が再び吹き上がる。俺の怒りに呼応するように、握り締めた強さの分だけ力を込める。黒緋斑の大剣を地面に突き立て、黒炎揺らめく大剣を両手で握る。
俺にとっての不倶戴天の敵を目の前に見据え、地面を蹴り付ける。
「良いだろう。君が動けなくなるまで遊んであげよう」
その見え透いた挑発を後悔しろ!
空気の壁を突き破り、踏み出す一歩は神速。繰り出す一撃は、今までで最高の斬撃。
狙いは首筋。目で追えるかどうかの速度を伴った剣先が光を纏った勇者の長剣とぶつかり、僅かにブレる。
──押し切れる!
そう判断した直後、まるで強風に吹きつけられたかのように黒炎が吹き消された。
「──ッ!?」
声を出す暇もない。
直後に砕けた大剣の切先を確認するまでもなく、長剣は斜めから銀の軌道を描いた。
俺の身体から噴き出る黒炎──。
──くそっ!
背に負った巨人の守護剣に手を伸ばそうと──
「七斬一閃」
銀線が七条走り抜ける。知覚を超える速度と威力を伴った斬撃が、俺の右腕を吹き飛ばす。更に右足、左右の助骨、両肩。ご丁寧にも腕は両断されていた。
傷口から噴き出る黒炎のお陰で死にはしない。だが、代わりに襲ってきたのは激痛だ。
「どうだい、痛いだろう? 死にたくなったかい?」
切り払われた右足では立つこともできず、崩れ落ちる。
「未だかな?」
口元に浮かべた歪んだ笑みを睨み付け、奥歯を噛み締めて苦鳴を噛み殺す。
「うんうん、元気なのは良い事だ。さあ、踊れ!」
振り下ろされる勇者の剣。それと共に大地が爆ぜる。
残った左手を背後に回して大剣に手を伸ばすが、指先一つ動かすだけでも傷口を抉られるような激痛を感じる。大剣を引き抜くと同時に地面に叩き付けられる瞬間、再び大地が爆ぜる。
土塊や小石が肉を抉る。
大剣の間合いからは、かなり遠い。距離が離れても攻撃手段がある敵と、攻撃手段が無い俺では当然相手の方が有利だった。
二度三度吹き飛ばされ、間合いが大きく開いてしまった。それをどう詰める?
だが、俺の心配を他所に勇者は悠然と距離を詰めてきた。
「まだまだ壊れないみたいだね? うん、そうではなくては」
巨人の守護剣を杖にして立ち上がる。黒炎のお陰で、傷は殆ど塞がりかけていた。
「ん?」
突如、勇者が何かに気付いたかのように視線を外す。俺の後ろで聞こえる喚声。
何故邪魔をする、プエル!?
「ああ、そういえば軍を動かさねばね」
悠然と長剣を肩に担ぎ、空いた手を頭上に掲げて指を鳴らす。
「進軍」
さして大きくもない勇者の声に反応して、表情の無い人間の軍勢が動き出す。
◆◇◇
時は少し遡る。
ゴブリンの王がガランド・リフェニンと一騎打ちを果たす前、黒き太陽の王国の首都王の座す都では、天を覆う雷雲が突如として北の空から押し寄せてきた。妖精族達は警備を強化し、空を睨む。
「どうにも不穏な風だ」
火の妖精族有数の戦士であるバールイは、空を見上げて眉を顰める。風も殆ど無いのに、上空を覆う雷雲は北の空から延々と続いている。
東の果てでは、今まさにゴブリンの王が大陸の覇権を賭けての最後の大戦の真っ只中だというのに、この空模様はどうしたことだろう?
普段なら雷雲と共に生温い風が吹き付ける筈が、寧ろ空気は凍てついてさえいる。
底冷えするような雨の日には、火の妖精族に伝わる昔話を思い出さずにはいられない。
──雷雲の中を泳ぐ者あり。彼の者、雷鎚を統べ、天を巡り空の王者と争いたり。
「ガウェイン……天の覇者たる翼なき空蛇、か」
一際強く雷鳴が轟くと、それに続くように雷鳴が鳴り響く。
だが、予想されていた豪雨は来ない。
代わりに鳴り響いたのは、怒りを隠しもしない誰何の声だった。
「矮小なる者の王は何処か!?」
その声は、正に天を割るが如き声量でもってレヴェア・スー全域に鳴り響いた。
響き渡った声と、それに込められた憤怒に、殆どの者は天を見上げながら悲鳴を上げた。雲間から顔を出す巨大な龍。眼光鋭く下界を見下ろすは、伝承に謳われし冥府の女神の眷属神。
少数の者達は悲鳴こそ上げなかったが、その存在の大きさに目を剥き、己の手に武器ある者達は、それの頼りなさを嘆いて、それでも天空の存在を睨み付けた。
「再び問う! 矮小なる者の王は何処か!?」
その問いに応えていいものか、誰もが判断に迷った。
「それを知ってどうするのです? 天の支配者ガウェインよ」
群衆が空を見上げる中、ただ1人その問いに答える者がいた。
「レシア様だ!」
街中で見上げる誰かが指差す。高い尖塔の上に立つのは、簡素な修道士の衣服を纏った女の姿だった。
「……癒やしの女神の信徒か」
顔以外にも徐々にその全貌を現すガウェインに群集は恐怖と畏怖の声を上げ、同時にそれと向き合うレシアに尊敬とも崇拝とも言える期待の視線を向ける。
「知れたこと。嵐の時が来たのだ! 約定に従い、我は天を、貴様らの王は地上を食い荒らさん!」
「我らが王は、既に東で人間達と熾烈な戦いを繰り広げています」
「……ほう? 殊勝なことだ」
レシアの声に、ガウェインは口元を裂くようにして笑った。
「なれば、その心意気に免じて助勢せねばなるまい。我らが神を奉ずる、数少なき同胞なればな」
「もし叶うなら、私も連れて行ってください」
「何だと……? 成程、これまた殊勝な心意気である」
その心根を見透かすかのように、ガウェインはレシアに近寄る。建設中の王城を包み込む程の巨躯。眼前に迫ったガウェインに、レシアは覚悟を決めると、その身体に飛び乗る。
「まさかゼノビアの信徒を我が背に乗せるとは! 先の戦の時には思いもせなんだ!」
雷雲の中を進む天の支配者は独り言ちると、すぐさま東の戦場に向かった。
◇◆◆
「ギ・グー殿に戦線を押し上げるよう命令を! ギ・ベー・スレイ殿とギ・ガー・ラークス殿の準備は!?」
王と勇者の一騎打ちに割って入ったプエルは、次々と的確な指示を出していた。
「王よ、恨んで頂いて結構です。ですがこれ以上は……!」
小さく謝罪の言葉を吐き出し、黒き太陽の王国の全軍を進軍させる。
「特務部隊に突撃の用意を!」
全体的に見れば、戦場はアルロデナ側が押している。当然である。如何に高額な装備や優秀な軍馬を揃えようと、それを有機的に連携させてこそ軍の真価が発揮されるのだ。
大陸を遍く駆け巡ってきた軍勢は、王を助けるという一点において目的が一致している。将をして目的を一致させたなら、後はそれを戦術規模でどう連携させるかという問題だけだ。
その点に関しても、アルロデナは宰相プエルが全軍を取り纏めている。
直押しに進むだけの勇者の軍勢に比べて、優位に戦いを進められているだろう。だが、プエルの目に映る戦況は油断出来るものではなかった。
勇者の軍勢の最前列に並ぶのは重装備の歩兵達だ。若い男女を並べている最前列。表情の少ない彼ら彼女らは、辛うじて成人していると言っていい年頃だ。年若い兵士を並べた中段に比して、未だ真っ当な兵に見える。だが、揃える槍先は寸分の狂いもなく統一され、測ったかのように同じ高さに揃えられていた。
プエルの主観で言うなら、不自然な程に整っている。
「喚声も鬨の声もない。伝令兵も居るようには見えない。何て不気味な……」
だが、やらねばならない。
不気味と言えば、その軍勢を統括する勇者こそ、彼女にとって不気味以外の何物でもない。そんな者の前に王を晒しておくことこそ、我慢できないことだった。
しかも、王は今窮地に陥っているように見える。
ここで王を失えば、待っているのは人間側に殲滅される未来だ。少なくともアルロデナは要石を失い、空中分解するだろう。諸種族の紐帯の証として建設を勧めたレヴェア・スーは灰燼に帰す。故郷を取り戻した亜人達は再びその故郷を追われ、ようやく安寧の訪れた西方領域は略奪の憂き目に遭う。
これまで数多の屍山血河を築き上げてきた彼女にとって、それは容認出来ないことだった。
「ここで貴方を失う訳にはいかないのです……!」
空高く放たれる矢を合図として、各軍団は一斉に攻撃を開始した。




