表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
遙かなる王国
344/371

対峙せし最後の国

1月23日誤字修正

 王暦4年から5年に渡って行われた三国同盟から鉄の国エルファの攻略に際して、神聖帝国アーティガンドは飛竜騎士団と貴族の私兵を繰り出すのみであった。

 三国同盟以前、王暦3年の後半から4年の間に至っては黒き太陽の王国(アルロデナ)の東征によって生まれた難民を受け入れ、更に海洋国家ヤーマを併呑した時期である。

 アーティガンドとは、勇者の存在によって急激に勃興した国である。

 人類最古の王国の後継を名乗るアーティガンドは、当然人間以外の入り込む余地はなく、新進気鋭の商人達が活躍するには芳しくない場所である。そこでは古いしきたりと伝統が幅を利かせ、古きものこそが正しく、新しきものは悪であるとまで考えられていた。

 今までの周辺国と違って、プエルの子飼いの商人達では情報を得ることが難しく、ソフィア率いる諜報部隊も入り込むのに苦労していた。

 そのような中で難民に紛れさせてアーティガンドに間諜を潜り込ませたプエルだったが、情報を統括するソフィアからの報告に自然と眉を顰めざるを得なかった。

「船……ですか?」

 頷くソフィアを確認して、手元の書類に目を落とした。

「それも極めて巨大なものです。それを国の機密として建造しているようなのですが」

 言い淀むソフィアに、プエルは視線だけで続きを促す。

「勇者の登場以前から極秘裏に進められている計画のようなのです」

「巨船……であれば、狙いは外洋?」

 アーティガンドに併合されたヤーマは海洋国家であった。プエルが知っている中でも群島諸国や南北アグストリア大陸など、この大陸以外にも国は存在するが、そこへ渡る為の船だろうか? 近海ならば、先のエルファ攻略の際に見せた商船で十分な筈だ。

 外洋を渡る為に巨大な船の建造を進めているのだろうか?

 エルファ攻略中のアルロデナにとって、海から齎される補給物資は邪魔以外の何物でもない。現に、その御蔭でエルファ攻略は大幅な遅れを見せている。

 周辺三国をエルファと同時か、それよりも早く攻略せねばならない。そのような事態まで見越して外交を行った神聖帝国アーティガンドの手腕なのかもしれないが、プエルには一抹の悔しさが滲む。

「アーティガンドが何を企んでいるのか分かりませんが、海上とは言え自由に振る舞われては此方の戦局に影響します。手を打つ必要がありますね」

 細い顎に手を当てて考え込むプエルは、亜人の八族長から交渉事に長けるタニタを向かわせることを決定する。長尾の一族の族長にして双頭二尾のタニタは、リザードマン達から尊敬を集めている。

 ソフィアが集めた情報から東部の国々の河畔にはリザードマン、海洋に面した国々にはマーマンが住み着いているとの報告が上がっている。それらを扇動し、海上を渡る船を襲わせようと考えたのだ。

 プエルからの要請に、タニタは甲殻で覆われている半身と両生類のように肌が露出している半身の双頭を傾げながら、やってみようと交渉を引き受ける。

 アルロデナは陸軍国家である。

 今まで海上輸送の重要性を十分に理解しないまま勝ち進んで来れたのは、攻略すべき都市が海に面していないだけでなく、大陸の覇権を争う人間の国々が互いに連携してこなかった為だ。

 川で水浴びをしない者は居ないが、内陸で海を見たことがある者は稀であり、その海の水が塩辛いことを知っている者は更に限定される。

 そのような者達の中にあって、プエルが海洋の重要性を理解しているのは冒険者時代の影響が大きい。また、湖畔に住まうリザードマン達や海岸に住まうマーマン達を活用しようと考えたのも、やはり冒険者時代の経験のお陰であった。

「全ての船を沈める必要はありません。襲撃と沈没の危険があることを知らせてやれば自ずと敵の動きは鈍り、物資の流入は減少します」

 タニタに策を授ける際、プエルはそう言って締め括った。

「委細承知した」

 先頃開校したミドルドの学校で教えられた通りに礼をしてみせるタニタに、プエルは僅かに目を丸くした。ヨーシュ・ファガルミアの治める西都と暗黒の森との境にあるミドルドは、嘗て暗黒の森を切り開こうとした聖騎士ゴーウェン・ラニードの遺産である。

 亜人は元々、人間に追われた頃から妖精族に土地を与えてもらった恩義を感じているのはプエルも知識として知っていたが、自分達が驚く程丁寧な礼儀を身に付けているのを見て瞠目したのだ。

「長年の恩義に報いる為、全力を尽くさせて頂く」

 嘗て熱烈な妖精族の支持者だった人馬族の前族長ダイゾスが見れば、涙を流して喜んだであろう光景である。

 続いてプエルに呼ばれたのは、土鱗(ダルタピエ)の族長であるファンファン。

 小柄な見た目とは裏腹に種族に跨る言語を操るこの亜人は、森の中では商人として見られていた。最近は何やら本を作っているようだが、土鱗の感性は独特で、プエルにはどうにも良さが分からなかった。

 長い体毛の間から円らな瞳で見上げるファンファンに、宰相プエルは地下道の建設を持ちかけた。

「東部で飛竜の脅威が問題になっています。地下道を設けて彼らの脅威を軽減したいのですが」

「ファンファンは土質が問題だと思うのだ」

 土の中を移動する土鱗の一族だが、彼ら自身が通る穴を掘るのには精通していても、軍団が通過するような大規模な地下道を掘るのには慣れていない。更に掘る土が柔らか過ぎると崩れるし、硬過ぎれば掘ることが出来ない。

「だからファンファンは提案するのだ。蟻人(キラーアント)の女王の娘がそろそろ巣立ちの時期なのだが、ファンファンがそれを案内するのだ」

 熱砂の神(アシュナサン)の大砂漠で友誼を結んだキラーアントの女王と、彼女は今でも交友がある。そのキラーアントの次代の女王が巣立ちの時期を迎えるのだ。

 彼女達キラーアントは、地下に大規模な集落を形成する種族である。

「あまり時間はかけられませんが……」

「そこはファンファンが交渉してみよう」

「宜しくお願いします」

 歩き出すファンファンの背を見送り、宰相プエルは窓から東に視線を向ける。エルファは遠からず陥落する。それは当然として、問題は神聖帝国アーティガンドだ。人間発祥の地と言われる地域を支配する新興国家は、不気味な沈黙の中を保っている。

 死にかけていた筈の老大国が、たった一人の人間によって蘇った事実。それも異常なまでの短期間で。その事実に、プエルは勇者と名乗る人物の脅威を感じる。まるで奇跡とも呼べるような圧倒的な業績。英雄などという生易しいものではない。いっそ怪異と呼ぶべきだ。

 故に、プエルは勇者を殺さねばならないと結論付ける。或いは、彼女が気付かないだけで本能的に恐れているのかもしれない。勇者は人間だけを守護する者にして、それ以外の者達の脅威であると。

 アーティガンドを降し、その中心たる勇者を倒す。そこで初めてゴブリンの王の大陸の支配は実現する。少なくとも、プエルにはその未来しか描けなかった。

「大陸制覇……。その為には、必ずこの手で勇者を」

 血塗られた歴史に終止符を打たねばならない。

 嘗ての仲間達の死が、無駄ではなかったことを証明する為に。

 あのゴブリンの王の覇道を成就させる為に。

 冷酷非情と口さがない者達の罵声を浴びるプエルは、静かに決意を固めていた。


◆◇◆


 ゴブリンの王はギ・グー・ベルベナの斧と剣の軍(フェルドゥーク)を掌握すると、すぐさま南下を開始した。エルファの攻略には各軍団の総力を結集する必要があると考えた為だった。

 移動中に戦況の推移を報告として受け取ったゴブリンの王は、フェルドゥークの掌握後すぐさまギ・ギー・オルドの双頭獣と斧の軍(ザイルドゥーク)を麾下に納めるべく軍を南下させた。

 無論、北辺にあって神聖帝国アーティガンドからの援軍を蹂躙しているギ・ガー・ラークスの虎獣と槍の軍(アランサイン)にも、軍使という形で連絡を取っている。

 飛竜の脅威を聞き及んでいたゴブリンの王は、決して無理をせず見通しの悪い森林地帯を選んで行軍を続ける。現状、対策としては妖精族の部隊による一斉射撃程度しか思いつかない為、なるべくなら飛竜騎士団とは交戦したくないと考えてのことだ。

 時を同じくして、混成軍の中核を為すギ・ヂー・ユーブとギ・ズー・ルオの元に長尾の族長タニタが派遣されて来ていた。護衛として長尾の一族の屈強なリザードマン達を護衛に付けたタニタは派手な色の羽飾りを身に付け、先端に火水晶を取り付けた杖を持っている。

「これは、柔らかな鉱石の末殿」

 ギ・ヂーから尊称で呼ばれたタニタは、此方も丁寧に礼を返す。

「何だ、双頭の爺さんか」

「黙れ小童」

 ぶっきらぼうなギ・ズーに対しては、ぞんざいな言葉使いで返した。

 宰相プエルからの依頼と王の出馬を混成軍の主要な参加者達に告げると、タニタはプエルからの依頼を果たす達に、そのまま軍営地を通り過ぎて行く。

「我らはこのまま、我が君と合流するのが正しいのであろうか?」

「王のご下知に従うことに、何か不満でもあるのか?」

 考え込むギ・ヂーに鋭い視線を向けるギ・ズー。

「いや、そうではない。我が君は軍を南に向けているのだろう? ならば、我らは王の道すがらを安寧に保つことが肝要では?」

「つまり、王が来る前にここいらの敵を?」

 頷くギ・ヂーに、ギ・ズーはやっと理解が及んで考え込むが、大して捗らない内に同盟国の軍師へと視線を向ける。

「分からん。軍師殿はどう思われる?」

「合流せよとの命令は受けているので?」

「いや、無いな」

 ギ・ズーはそう答えた後で確認の為に視線をギ・ヂーに向けるが、ギ・ヂーも頷くだけであった。

「ならば眼前の目標たる国々を陥落させるのが急務でしょう。命令の変更があれば、自然と軍使なり伝令なりが届く筈です」

「そういうものか」

 腕を組んでいたギ・ズーは、すぐさま膝を打つ。

「よし、ならば簡単だ! 今までのようなまどろっこしい戦いは辞めにして、早速敵を倒しに行こう!」

 まどろっこしいと言われて苦笑を禁じ得ないヴィランであったが、彼の見る所、確かに機は熟している。エルファはフェルドゥークの暴風に耐え切れず、徐々に勢力を後退させているのだ。港を持つ周辺国である目の前の国も、相当数の兵を失っている。

 周辺国からエルファへ通じる隧道も既に発見済みである。真綿で首を絞めるように外堀を固めてきたヴィランは、僅かに考えて頷く。

「……では、そろそろ攻め潰しに行きましょうか」 

 同盟国の軍師の言葉に獰猛に笑う2匹のゴブリンは部下に下知を出すと改めて拳をぶつけ合い、出陣に向けて動き出した。

「進軍の日は、四日後にしましょう」

 ヴィランの言葉に、ゴブリン2匹は顔を見合わせる。

「そんなに待つ必要があるのでしょうか?」

 代表して問いかけたギ・ヂーに、ヴィランは慎重に頷いた。

「念の為、天候の悪い日を選びます。四日後には風雨になりますよ」

 今までの実績からヴィランのことを信頼していた高位のゴブリン2匹は、半信半疑ながらもヴィランの言葉を受け入れた。

 混成軍は編成を大きく2つに分ける。隧道から進入するギ・ズー・ルオの千鬼兵(サザンオルガ)と、堂々と地上から攻めるギ・ヂー・ユーブの(レギオル)。ヴィラン率いる“赤備え(ジャニサリス)”と傘下の同盟国からの参加兵は地上を進む。

 悪天候の日を選んで進軍を開始した地上軍は、ヴィランの予言通り風雨となった空を見上げて喝采を上げていた。

「軍師殿、軍師殿は天候も操れるのか!」

 興奮して詰め寄るギ・ヂーに苦笑で応じたヴィランは、首を横に振る。

「雲の流れと、季節の風と、風土を学べばこのぐらいは誰でも出来ますよ。貴国のプエル殿も霧に乗じて赤の王の大軍を打ち破ったでしょう? 元来軍師とはそういうものです」

「そうか、成程! だが、軍師殿が凄いことに違いはない!」

 興奮したギ・ヂーは、配下のゴブリン達に叫ぶ。

「この風雨は我らが吉兆! 軍師殿が呼んだこの風雨に乗って、奴らの国を落とすのだ!」

 掲げた槍先に当たる雨粒が、彼らの喚声に混じっていく。雨に濡れる全身を厭いもせず、ギ・ヂーは進軍を命じた。

 一方、隧道を進むギ・ズー・ルオも響く雨音を聞いて手下を鼓舞していた。

「親父、あの軍師の野郎は天候も操れるんですかい!?」

 ギ・ズー配下のズー・ヴェドの言葉に、ギ・ズーは笑みを深くした。

「そのようだな! ここまでお膳立てしてもらって負けたとあらば、サザンオルガの名折れ! お前ら、気合いを入れろ!」

 隧道に響くゴブリン達の声が、雨音と相まって不気味な音響を遠く響かせる。

「進め! 俺達には天候を操る軍師が付いているぞ!」

 喚声で応えたサザンオルガは隧道を進む。風雨と共に進軍した混成軍は、その日の内にエルファの南の小国を一つ陥落させた。


◇◆◆


 勇者は、巨大な船を見上げて笑みを浮かべた。玩具を自慢する子供のような無邪気な笑みだ。

「おお、勇者殿! いらしていたのか」

 彼の姿を見つけて両手を開いて歓迎を現したのは、白衣を着た老人と小柄な少女だった。

「お疲れ様です。博士、良い出来ですね」

「何、それもこれも勇者殿の尽力あればこそ! 儂は陣頭指揮を執っておるに過ぎんよ」

 満面の笑みを浮かべる老人と微笑みを浮かべる勇者。勇者に見惚れていた小柄な少女は、そんな自分に気が付くと頬を染めて俯いた。

「そうだ。博士、この船の名前などは考えておられるのですか?」

「名前か……。ふむ、勇者殿には思案がお有りなのだろう?」

 頷く勇者は視線を上げると、その名を呟いた。

「方舟ノア」

「方舟……ノア、ノアか」

 口の中でその名を転がすと老人は、満面の笑みを浮かべる。

「良い名前じゃ。のう、マーヤ」

 呼びかけられた少女は、先程よりも頬を赤く染めて頷く。

「す、素晴らしい、名前だと思います。本当に」

「ありがとう」

 視線を老人に戻すと、勇者は何でもないことのように提案する。

「この船を量産しないといけませんね。魔王の力はそれ程に強大です」

「だが、材料がのう……」

 渋い顔で顎を擦る老人に、勇者は頷く。

「それに関しては大丈夫です。少々竜を狩ってきましたから、材料は不足しません」

 目を見開き驚く老人を尻目に、勇者は気楽そうに笑った。

「……勇者殿が仰るなら、誠のことなのだろうな」

「ええ、安心してください。僕に任せてくれれば、全てが上手くいきますよ」

 悠然と笑う勇者が次に向かったのは、王宮に与えられている自室だった。アーティガンド建国の立役者にして、姫との婚約を控えた準皇族とも言える扱いを受ける勇者。

 更に独自の軍を持つことも許されている。

 飛竜騎士団を始め、海軍や義勇兵などである。エルファに敵が集中している間に飛竜騎士団は更に軍備を拡張し、総数を800にまで増やしている。また、海軍については旧海洋国家ヤーマの造船技術をそのまま飲み込んでいる為、400隻の軍船だけでなく商船なども含めれば、その数は1000を超える。

 また、難民としてアーティガンドに逃れてきた者達の中から義勇兵を募り、その組織化に成功していた。実務を取り仕切ったのは勇者に心酔する若き女性士官であったが、義勇兵を指揮統率し、戦に投入するのは勇者の権限とされた。

 総数は3000程。国王が直率する兵士の数には及ばないが、そもそも帝国軍として新規に召し抱えられた兵士の殆どが難民から選ばれている。

 その事実から、勇者が強い影響力を及ぼして軍部の第一人者になっているのは明白であった。今では帝国の陸・海の将軍それぞれが勇者に伺いを立ててから作戦を立案している。

 海の向こうの国との取引は大手商会の取り仕切るところとなり、その方面からの勇者の支持の声は非常に高い。商家の才媛達は勇者の心を射止めようと様々な贈り物をするばかりでなく、彼に力を貸すことでより良い関係を築こうと心を砕いた。

「アーティガンドの各階層からの支持も当然のこと、国王陛下も揺るぎない信頼をお寄せです」

 シャルロッテと名乗る翡翠色の髪をした女性士官は義勇兵を組織した功績を認められ、勇者の秘書のような形に落ち着いている。勇者が望む情報を集めるのが彼女の役割であった。

 玉座のような巨大な椅子に座る勇者は、彼女の報告に耳を傾ける。

「シュヴァル商会のご令嬢とミシェーレ商会のご令嬢から面会の申し込みがありました。群島諸国からの商談について、相談に乗って欲しいとのことです」

 優秀な女性士官の言葉に、勇者は笑みを浮かべて頷く。

 軍事・政治・商人。あらゆる者達から支持を集める勇者は、建国の英雄にも勝るとも劣らない権力を掌中にしていた。


◆◇◆


 混成軍の中核たるギ・ズー・ルオ及びギ・ヂー・ユーブが小国を陥落させたとの報告に、ゴブリンの王は満足気に頷いて麾下にある将兵を見て回った。

 森から木々を切り出して攻城兵器を作らせると同時に、対飛竜用に弓の扱いに長けた妖精族の部隊を編成する。

 エルファの南の補給路は混成軍により潰され、南からの物資の流入はない。

 そして、如何に強兵を誇っても食糧が無ければ戦えないのが生き物というものだ。ゴブリンの王は混成軍を北上させると、自らの率いるフェルドゥークとザイルドゥークにも北上を命じる。

 エルファ側にしてみれば北側から東側はアランサインに妨害され、南側はゴブリンの王を始めとする主力に封鎖されている状態だった。西側に至っては敵国の領域である。

 補給を閉ざされたエルファ側は、南北或いは東側の敵を撃破し、アーティガンドからの輸送を再開するしか生き残る道が無い。そして東側は山岳地帯が連なっており、遊撃戦には最適でも大軍を運用するには向かない。

 更に、長年敵国として隣接していたアーティガンドとの間には真面な交易路も無かった。

 であれば、南北何れかに打って出る必要がある。

 アランサインには、事前にエルファの軍が北上しても相手にするなとの命令を出してある。これはシュメアからの助言をゴブリンの王が受け入れた形だった。戦えば、恐らくアランサインが勝利を収めるだろう。

 だが、それでは血を流しながらエルファの領土を切り取ったフェルドゥークの功績が少なくなる。そこまで配慮したシュメアの意見に、ゴブリンの王は苦笑気味に頷いた。

「シュメアにかかれば、我が軍が誇る4将軍も子供同然か」

 ゴブリンの王自身、折角戦う機会が目の前にあるのだから自身の手で、という思いが無かった訳ではない。プエルは眉を顰めるだろうが、ゴブリンの王は常に最前線で剣を振るう王でありたいと思っていた。

 自身が命令して失われる命も、自身がその手で奪い去る命も、等しく自身の肩に掛かる。その覚悟なくして、どうして王が務まるだろう? ゴブリンの王はそう考えていた。

 故に、ゴブリンの王は最前線を好む。

 そうして進軍を開始したアルロデナの本隊は南の森林地帯を超えたところで、遠目に飛竜騎士団100騎を確認することになった。

 王暦5年の初春。アルロデナの軍勢は、アーティガンド直属の軍と初めて干戈を交えることになった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ