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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
遙かなる王国
343/371

王の出馬

1月23日誤字修正

 鉄の国エルファを落とす為に周辺国を攻めていたギ・ギー・オルドは、一つの砦を攻略しようと軍を進め、半ばその砦を落としつつあった。

 だが、順調に攻め続ける彼の視界に映ったのは、まるで暗雲のように広がる黒い点。

 凝らした目に映るのは、空覆う黒い軍勢。

 掲げる旗は神聖帝国アーティガンドの太陽に王冠(ロンドメル)

 それを初めて目にした瞬間、ギ・ギー・オルドは背中に疾る危機感に突き動かされ、慌てて軍を反転させた。

「これは駄目だ」

 傍でどうしたと怒鳴る親友のギ・ジー・アルシルは友の豹変に目を剥いたが、ギ・ギーの懸念が現実のものとなったのは、それ程時間を経たずしてだった。

 年若い人間の女だろうか?

 デューク級の視力で捉えたのは、飛竜に跨る小柄な人影。

「人間が魔獣を操っているのか!?」

 驚愕は当然のもの。魔獣を操るというのは、人間には真似できないゴブリンの獣士特有の技能と思われていたのだ。それを人間が、しかも空を行く飛竜を操ってみせている。

 魔獣軍を編成し、ゴブリンの王の下で一つの方面軍を任されているギ・ギーにしてみれば、それは敗北に違いなかった。だが、それだけではない。地上の魔物は空の魔物に敵わないと、咄嗟の判断が出来た為だ。

 頭上を取られることが野生の動物にとってどれ程致命的か。それを身に沁みて分かっているギ・ギーだからこそ、即座に軍を反転させる決断をしたのだ。

「森まで逃げるぞ!」

 眉を顰めて背を丸めながらも、ギ・ギーの決意は固かった。空を飛ぶ者の利点は、そこから得られる行動の自由さと視界の広さである。

 どこにどれだけ敵がいて、どこを攻めようとしているのか。

 少しでも軍学を齧った者なら、そこからこの陣形の弱点はどこで、どのように攻めれば突き崩せるかまで見通せるだろう。

 そして、当然空には障害になり得る物は何もない。行軍の邪魔になる沼もなければ、足場の悪い山岳地帯も、草原も、砂漠も無いのだ。彼ら空を飛ぶ者達を遮るのは頭上に流れる雲と風、空を縄張りとする更なる強者のみである。

 ギ・ギーがそこまで論理的に考えたかは別として、彼の直感は正しさはすぐさま証明された。先頭を駆る少女は、まるで100匹の飛竜を己の手足のように操って急降下を始めたのだ。

 翼を広げれば、その大きさは10メートル。重さは馬2頭分にもなろうかという大型の魔獣が空から急降下してくるのである。それだけでも脅威であるのに、その背に乗った人間は手投げ槍でもって、更なる追撃を加えてくる。

 それが戦場での斥候隊を統括するギ・ジー・アルシルの目に入ったのは一瞬であった。

 逃げ遅れた一匹の魔獣が飛竜の鋭い爪に捕まり、天空高くまで拐われ、何かの冗談のようにそこで離されたのだ。後は落ちるのみとなった魔獣の姿を見て、流石のギ・ジーも青くなった。

「拙いな」

「だろう?」

 視線を交わし合うと、互いに部下を叱咤して一目散へ森へと逃げ込む。

 森の奥深くへ逃げ込み、一息つく。頭上を木々で覆われて尚、飛竜が追ってくるのではないかと不安げに頭上を窺いながら、2匹は互いに顔を寄せ合った。

「どうする?」

「虫は鳥には勝てん。だが、鳥は猛禽に狩られるものだ」

 眉を寄せたギ・ジーの言葉に、ギ・ギーは神妙な顔で頷く。

「つまり?」

「こういう時は、勝てそうな者を連れてくるに限る」

 二匹で首を捻る。

「あの人間の軍師殿はどうだ?」

「悪くない。後は……知恵者のギ・ザーなどはどうだ?」

 話し合った結果、二匹はギ・ザー・ザークエンドを呼ぶ結論を出した。一つには、ギ・ギーが提案した人間の軍師ヴィラン・ド・ズールは混成軍にて指揮を執っているだろうこと。もう一つは、王の親征に加えられなかったギ・ザーが悔しがっているだろうことが挙げられる。

 虎獣と槍の軍(アランサイン)を率いるギ・ガー・ラークスと斧と剣の軍(フェルドゥーク)を率いるギ・グー・ベルベナのように、激しい競争意識に駆り立てられていないギ・ギー達は王の下で武功を競うことよりも、王の下で忠誠を示して働くことそれ自体に価値を見出していた。

 故に自らの戦力が足りないと判断すれば、すぐさま援軍を要請する。

 それ自体に躊躇いは無かったし、ゴブリンの王もそんなことでギ・ギー・オルドを咎めたりはしなかった。黒き太陽の王国(アルロデナ)の東征軍が始まって以降、軍にも余裕がある為ギ・ギーの姿勢も決して批難されるものではない。

 下手に意地を張って壊滅の憂き目を見るよりは余程良い。宰相プエルも、ゴブリンの王も、そう意見の一致を見せていたのだった。

 ともあれ、そんな事情から最前線に呼ばれたギ・ザー・ザークエンドだったが、100騎程の飛竜騎士団の猛威に唸らざるを得なかった。

「奴ら、魔法使いも背に乗せているな」

 遠距離からの魔法攻撃は、全て無効化されてしまう。

「天候の変化を待つのも一つの手だが、それでは根本的な解決にはならん」

 雨天を選んでの強襲なら、砦を落とすことも可能だろう。風雨吹き荒れる日などは、もっと良い。だが、それがいつ来るのか、どのくらい続くのかが分からないのでは、作戦に組み込むのは躊躇われた。

 飛竜騎士団自体を無効化するような策が求められる。

「アレを呼ぶか」

 その為には、先ず聖女レシア・フェル・ジールを説得せねばならない。

 腕を組んだまま難しい顔をしていたギ・ザーの姿に、ギ・ギーとギ・ジーは顔を見合わせて失敗だったかと相談し合う。結局、未だ結論を出すには早いとの意見で一致した彼らは、暫くは魔術師級ゴブリンの知恵を拝見する姿勢を取るのだった。

 一端戦場を離れ、一目散に首都王の座す都(レヴェア・スー)へと舞い戻ったギ・ザーは、兎も角戦局を逆転する鍵を握るレシアに面会を求めた。

 余談ではあるが、この頃になるとアルロデナ全域では公共事業である道路網の整備が着々と進んでいた。東征軍を派遣し続ける巨大国家には、何よりも距離と時間が問題になる。

 それを解決する為、レヴェア・スーと各方面との間には整備された道路と駅伝馬と呼ばれる騎馬が備え付けられた国有の駅が設けられた。

 単独という条件付きなら乗馬があまり得意ではないギ・ザーでも、3日もあれば最前線から王都へ戻ることが出来た。

 ガストラを抱え上げて難しい顔をしているレシアに会うと、ギ・ザーは火炎龍ドゥーエの借用を頼み込む。

「是非にと言うのであれば、私から話しても良いのですが……」

「何が言いたい?」

「勿論、何か私の得になるお話があるんですよね?」

「死傷者が減る。これは聖女としてのお前の望みに合致する筈だ」

「私はもう聖女でも何でもありませんし~? ただの信徒ですし~?」

癒しの女神(ゼノビア)の信徒が、それで良いのか!?」

「あら? 何か誤解があるようですね。ゼノビア様は誰にでも無償の愛を捧げろとは仰られてはいませんよ。各々が出来る範囲で、可能ならば癒してあげなさいと、そう仰られたんです。況して、利益が絡むのなら尚更です。ギ・ザーさん、信徒として私から貴方に一つ教えを授けましょう。愛と時間は、何時だって有限なのですよ?」

「……ええい、性悪な人間め! 何が望みだ!?」

「私も最前線に連れて行ってください」

「それはっ……!?」

 今までおちゃらけていたレシアの様子が一変する。ギ・ザーを見つめる眼差しは真剣そのもの。

「王が、何故お前を置いて行ったのか。分からん訳でもあるまい」

 諭すギ・ザーの言葉も、どこか力が無い。

「だからと言って、それに甘えるのは私の生き方に反します」

 戦いは凄惨を極める。その光景は、聖女戦役で自らの周囲に地獄を創らされたレシアには酷だろうと、ゴブリンの王は考えた。彼女が居れば確かに力になる。レシア・フェル・ジールの癒しの力は、医療兵100人に匹敵するだろう。

 だが、それでもゴブリンの王は彼女をレヴェア・スーへ残す決断をした。

「近く、王様は大陸を制覇なさるでしょう。私はそこで流される血から目を逸らすことは出来ません。栄光を築くことは、膨大な血の川と数多の屍の山を築くことと同義です。そのことを、この目で見て、受け止めたいのです」

 彼女はゴブリンの王の覇道を否定している訳ではない。

 ただ、犠牲から目を逸らしたくはないと言っているのだ。

 此方に同調せず、かと言って敵対もしないレシアの考えは、ギ・ザーの胸中に深く響くものがあった。

「分かった。プエルに話してみよう」

「期待していますね」

「フン、勝手にしていろ」

 結局、ドゥーエを借り受ける為にレシアを説得しようとすれば、プエルに話を通さざるを得なくなったギ・ザーは彼女の下に赴く。

「……飛竜、ですか」

 空を飛ぶ軍勢の脅威を指摘されたプエルは、すぐさま理解を示した。そして、それを排除する為にドゥーエが非常に有効であることも。

 だが、プエルとしてもゴブリンの王が残すと宣言したレシアを勝手に連れ出して良いのかという判断は難しかった。加えて、レシアには既に仕事を任せている。

 レヴェア・スーの治安の回復は、そこに住む住民にとって安定した生活が戻ってきたことを意味する。

 そして、人はパンのみにて生くるにあらず。

 レシア・フェル・ジールは大陸で最先端の教育を受けられる象牙の塔の出身であり、神々の話を伝える修道女が本業である。ゴブリンの王は、殊の外教育というものに熱心だった。少なくとも同時代の支配者達よりも、余程。

 支配下の街には必ず学校の建設を命じ、それはレヴェア・スーでも同様だった。

 西に行けば妖精族が教鞭を執り、亜人が授業に出席する学校なども珍しくはないが、大陸の中央から東では人間が教え学ぶのが一般的だった。

 その学校にも助成という形で国から支援をし、経営が上手く立ち行くよう配慮を忘れない。そこの教員の1人としてレシアの名前が挙がっていたのだ。元々、村や街を巡って教師の真似事をしていたレシアである。彼女の話は人々の興味を引き易く、種族を問わず人気があった。

 将来を見据えた人材の育成という側面から見ると、彼女の存在は非常に重要だった。

「……いいでしょう。彼女の穴埋めはこちらで手配します。王への手紙を書きますので、ギ・アー殿に届けてもらうよう計らいましょう」

「感謝する」

 その言葉に、プエルは僅かに目を見開いた。

「……貴方からそんな殊勝な言葉を聞けるとは。それだけで苦労をする甲斐があるというものですね」

 ギ・ザーは苦々しく顔を歪めると、鼻を鳴らして踵を返す。

 結果をレシアに伝えると共に、ドゥーエ共々最前線に向かう為だ。

「ドゥーエさんドゥーエさん。お散歩に行きませんか?」

「……信徒よ。貴様、我を犬か何かと勘違いしておらんか?」

 ガストラを抱き抱えたレシアが王宮の庭で蟠を巻くドゥーエに話しかける。恐ろしげな唸り声を上げるドゥーエを意に介せず、彼女は微笑んだ。

「あら、貴方の命の恩人は誰でしたっけ?」

「……信徒め! ゼノビアめ! 我が主よ!」

 呪いの言葉と助けを求める悲鳴を同時に発し、ドゥーエは頭を垂れた。

「で、どこへ行くのだ?」

「で、どこへ行くんです? ギ・ザーさん」

「……」

 無言の内に睨むドゥーエを無視して、レシアは鮮やかにギ・ザーに話を振る。

「ギ・ギー・オルドの攻め立てる砦だ。南東だな」

「良かろう」

 音もなく舞い上がるドゥーエの背でガストラがおっかなびっくり下を覗き、すぐさまレシアの下へ駆け寄っていった。


◆◆◇


 鉄の国エルファを守る為に派遣された飛竜騎士団は、その戦い方を大きく変えねばならなかった。当初は偵察による情報収集が主任務であったが、重騎士団がゴブリンに打ち破られるという段階になって積極的に攻勢を仕掛ける遊撃軍としての役割を持つことになる。

 その戦果は凄まじく、僅か100騎の飛竜騎士達でギ・ギー・オルドの双頭獣と斧の軍(ザイルドゥーク)の侵攻を妨げ、周辺国の危機を救うという快挙を成し遂げていた。

 中隊長としてそれを率いるのは、ミーシャ・タングレー。

 勇者に見出された若く美しい少女である。緻密にして慎重を旨とするその用兵は、損害を嫌うという向きはあるものの、あらゆる手段を用いてゴブリンの侵攻を妨害するという点で非常に有用だった。

 ある時は自身で100騎の飛竜を率いてギ・ギー・オルドのザイルドゥークの侵攻を妨げ、またある時はフェルドゥークの補給線を小隊単位に分けた編隊で襲わせる。

 様々な妨害工作でエルファの延命に寄与する彼女だったが、同時に己の手勢の限界も見通していた。どうやっても、ゴブリンの侵攻が止まらない。彼女が必死にザイルドゥークの攻勢を挫き、フェルドゥークの補給を妨害しても、ゴブリン側は徐々にだが確実にエルファを攻略しつつあった。

 単純に、元々の地力が違うのだ。

 飛竜騎士団に多少荒らされた程度で“失言多き天才(マーティガス)”ガノンが整えた兵站に狂いは生じなかったし、飛竜騎士団が現れてすぐさま反転したザイルドゥークは殆ど損害を受けていない。

 エルファではミーシャは戦乙女として称賛されたが、彼女はその度に暗澹たる気持ちになった。これでは、勇者に与えられた任務を果たし得ない。このままでは、エルファは近い内にゴブリン達に飲み込まれるだろう。

 現に、飛竜騎士団が目の届かない戦場ではゴブリンの攻勢が一段と激しくなっている。遊撃戦に徹していた軽騎士団は既に1個騎士団相当が壊滅させられていた。

 ゴブリンの東征軍の主力であるフェルドゥークは既に王都近郊にまで迫り、本国アーティガンドから随時送られてくる貴族の私兵は、北方でアランサインに蹂躙されているという。

 彼女にとって嬉しい誤算は、エルファの騎士団長ラスディルが協力的なことだろう。補給と支援は万全と言って良い。

 根本的にゴブリンを敗退に追い込むには、彼女の持つ戦力だけでは不足している。それを理解しているからこそ、ミーシャは本国に近況の報告を繰り返していた。だが、本国がそれに応えることはなく、彼女は焦燥の中でゴブリン達の妨害を続けなければならなかった。

 援軍として飛竜騎士団を派遣したアーティガンドは、その後も勇者の企図通りに動いていた。貴族の私兵を次々に援軍として送ると同時、些細な罪で貴族らを処罰し、罰則という名で供出させた資金や財産を王家に吸収させることを忘れない。

 そんな横暴な振る舞いに、それでも貴族達が唯々諾々と従うのは中央の大貴族達が勇者に従順に従っているからだった。主流派の貴族がそうであるなら、非主流派の貴族の扱いなど推して知るべしである。

 その非主流派の筆頭とも言うべき人物が先の辺境伯モードレッドだったが、彼は先頃に謎の不審死を遂げ、麾下の私兵達もゴブリンと対峙する為にエルファへの援軍として送られた。

 そして、その中にはガランドの名前もある。

 三国同盟からアーティガンドへ亡命を果たしたアルドゥールの敗残兵達を率いるガランドは、一時的に辺境伯モードレッドの元へ身を寄せていた。元々、各国から亡命してくる難民を積極的に受け入れる姿勢を示していたのは、中央の勇者よりも地方で開拓に当たる辺境伯らが中心だった。

 モードレッドの元へ身を寄せたのは三国同盟時代からアルドゥールが誼を通じていたことと、モードレッドの人当たりの良さからである。世界で最も驕慢と陰口を叩かれた、嘗ての聖王国アルサスの時代から中央の思想に馴染めず、辺境に居座って独自の人脈を築いてきた人物である。

 その麾下にはモードレッドの人柄を慕って様々な人物が集っていたが、後継者たるレダンには父親のような才覚も覚悟も無かった。

 国に睨まれるのを良しとしなかったレダンは、命じられると直ぐに私兵をエルファの援軍に送る。モードレッドの存命中に信頼を得ていた家臣なども纏めてエルファの援軍に送り込んだのだから、その徹底ぶりが伺えた。

 だが皮肉なことに、そうして送り出された辺境伯軍は貴族の私兵の中で最も力のある軍としてゴブリン達と対峙することになった。当然、誰しも死ぬ為に送り出された訳ではない。

 自らを弱小と認識する寄せ集めの軍勢はモードレッド軍を中心として小さな纏まりを作ると、主流派貴族の私兵達が次々とアランサインに蹂躙されていくのを横目で見ながら巧みに戦場で立ち回り、大きな被害を出さないままにエルファに入ってしまったのだ。

 機動力で敵を撹乱し殲滅する役割を負っていたアランサインは幾多の私兵軍を壊滅に追いやったが、その全てを壊滅させるには至らなかった。

 エルファの民はこれに熱狂し、熱烈な歓迎と共にこの援軍を迎え入れることになる。敗亡への道を突き進んでいると思える祖国に、犬猿の仲と思われていた隣国から援軍が来たのだ。

 ゴブリン相手の戦いにも、再び積極策が目立つようになっていく。

 民の挺身に支えられたエルファ騎士団は、再び遊撃戦を活発に行なっていく。同時にフェルドゥークの攻勢が強まる前に出来る限りの物資と人材を補填しようと、傭兵の募集を群島諸国へ掛ける。

 これが可能だったのは旧海洋国家ヤーマの航海技術があり、尚且つ海に接する隣国が未だに健在であったからだった。今まで自国の防衛は自分達で担うと断言していた頑なエルファが、その国策の大転換を行ったのだ。

 一時的にではあったが、その国策の変更はエルファの息を吹き返させる。

 勢いに乗る敵の遊撃に手を焼いていたギ・グー・ベルベナに、思わぬ報せが届く。

 ──ゴブリンの王、軍を率いてエルファとの国境に進軍。

 敵味方両方の意表を突く進軍速度で軍を進めると、軍使としてギ・ベー・スレイを派遣する。ここに至って、ギ・グーは戦場の主役が自分達から王の御手に帰したことを痛感する。

 だが、それでも決して不快ではなかった。

 ギ・グーを始めとして、多くのゴブリンが意識するしないに関わらず感じていることだった。ゴブリンの王の下で戦える時間がそう多くはないことに。

「我が王がいらっしゃったのか」

 エルファの鉱山地域に人を進め、エルファを半ばまで食い破ったギ・グーは、連なる山脈を眼前に見ながら呟いた。

「ギ・グー殿の武勇、シュメア殿やプエル殿から我らの王の元へ届いております」

「そうか。我が王にお伝えせよ。ギ・グー・ベルベナは、これより王の手足となって指揮下に入るとな」

 シュメアの義理堅さに感じ入ると、ギ・グーはギ・ベー・スレイへ言伝を頼む。

「承りました」

 ゴブリンの王率いる親征軍はギ・グー・ベルベナの軍を掌握すると、すぐさま軍を南下させた。

 王暦5年、新年の頃である。



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