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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
遙かなる王国
340/371

三国同盟

 渓谷に住まう飛竜達は、侵入者に逃げ惑っていた。

 飛竜とは人間には竜の亜種であると思われているが、実際には全くの別種である。竜が種族として確立しているのに対して、飛竜は蜥蜴系統の魔獣の一種である。竜という名は付いているものの、竜王グリムモアの眷属という訳ではない。

 だが、彼らが竜王グリムモアの影響を全く受けていないのかと言われれば、そんなことはない。何せ山脈を一つ隔てた北側には黄金の竜王グリムモア率いる竜達が冥府の女神の眷属たるガウェインと激しい闘いを繰り広げているのだ。

 力の大きさで言えば、一匹で渓谷に住まう飛竜を皆殺しに出来るだけの力を備えた竜達が500匹以上も集っているのだ。それでも飛竜が渓谷に住み着くのは餌となる生き物の存在と、竜の脅威によって他の競争相手が少ない為である。

 飛竜の餌となる大型の草食獣は大陸東部には非常に少なく、また大陸南部は飛竜が生きるのには気温が高過ぎる為に生存領域が狭められる。大陸西部には競争相手が非常に多く、彼らが安定して繁栄出来るだけの地盤が確保出来ない。

 故に渓谷という狭い地域に押し込められて生きているのが、飛竜という魔獣の真実であった。

 その飛竜達は魔獣であるが故に危機には非常に敏感である。今、彼らの生存本能とも言うべきそれらが最大の警鐘を鳴らしていた。

 普段なら餌でしかない筈の人間の姿をしたナニカが、脅威の正体であった。

 逃げ惑う飛竜達の頭上を易々と飛び越えると、その首筋に縄を括り付けてしまう。人間の作り出した魔法道具である従属の首輪を改良したもので、魔獣にも効果を及ぼすものであった。

 それを付けられた飛竜は飛び立つ為の力を失い、低く鳴くと地面に座り込んでしまう。数十匹の飛竜を捕獲したところで勇者は満足し、飛竜を引き連れてその地を後にした。

 だが、飛竜達の被害はその一度だけではなかった。

 それから定期的に、こともあろうに飛竜に乗った人間達が飛竜を捕まえに来るようになったのだ。最終的に渓谷の飛竜は数を大きく減じることになる。その御蔭で神聖王国アーティガンドは戦場を空へと広げる飛竜騎士団を結成するに至った。

 飛竜騎士団と勇者の影響は、団の完成を待たずして様々な方面へと及んでいた。その最たるものはゴブリンの王率いる黒き太陽の王国(アルロデナ)の侵攻に耐えかねた小国からの避難民の流入である。

 飛竜の戦力化に成功した勇者は、偵察として各国に飛竜騎士団を派遣。アーティガンドの武威を見せ付けると同時に優秀な人材の引き抜きに掛かっていた。魔獣の討伐に始まり、盗賊の撃退や反乱した奴隷の討伐など、聖女戦役に際して兵力を大きく損なった小国に援助という形で優秀な配下を派遣したのだ。

 西から迫るゴブリンの軍勢に恐れを為していたのは、小国の上から下まで一緒である。危機に敏感な商人達が逃げ出すと、後は雪崩を打ったように早かった。裕福な者達が真っ先に逃げ出し、それに続くように貧しき者達も恐怖に駆られてアーティガンドに逃げ込んでいく。

 一方で、勇者は先般自身が滅ぼした海洋国家ヤーマの海洋技術を使って遠方諸国から食料の大量輸入を実施していた。

 ──アーティガンドに行けば助かる。

 飛竜騎士団と商人達によってばら撒かれた情報は大量の難民を生むことになった。そして勇者は発生した大量の難民を効率良く活用してくことになる。兵士や工兵として、或いは労働力として……。

 いつの頃からか、勇者の周りにはそれに寄り添うように小柄な黒髪の少女の従者が存在していた。そればかりでなく、爆発的に増える人口を養う為の食物を発見し改良した農学者や、武技に優れた騎士や経済感覚に優れた商人などが集まり始める。

 その何れもが若い女性であり、驚く程の美貌の持ち主であるというのが共通点ではあったが、彼女達はアーティガンドの急速な軍事化に大きく貢献していった。

 まるで予め用意されていたかのように、勇者の周りに優秀な人材が集まり始める。

 大量に流入した難民の中から、滅ぼした海洋国家ヤーマから、聖王国アルサスの貴族階級の中から、或いは市民の中から。彼の周りに優秀で美しい者達が集まっていった。

 その一方で、勇者は突如その足を北方未踏領域へと向ける。

 黄金の竜王グリムモアの支配するその地域は、前人未到の領域であるばかりでなく、如何な大国といえども触れることの出来ない聖域である筈だった。


◇◆◇


 ゴブリンの王から指揮権を預かったシュメアがギ・グー・ベルベナの猛攻に曝された三国同盟へと赴いたのは、開戦から丁度二ヶ月程経った頃だった。斧と剣の軍(フェルドゥーク)の猛威が吹き荒れる三国同盟の北部はギ・グーが宣言した通り、灰燼に帰していた。

「こりゃまた、派手にやったねえ」

 荒れ果てた大地を見渡して、シュメアは困ったように頭を掻く。

 ゴブリンと人間との混成軍からなる援軍は人間側の感情も考慮せねばならなかったし、シュメア自身もギ・グーの猛攻が凄まじいとは聞いていたが、まさかここまでとは思っていなかった。

「ま、やっちまったもんは仕方ない。これからどうするかってのが問題だね」

 ゴブリン相手だろうと堂々と自身の意見を押し通す頭抜けた度胸を買われた女傑は直ちに猛攻を続けるフェルドゥークの後を追うと、早速ギ・グーとの会談を設ける。

「……気に入らんな」

「まぁ、気持ちは分かるよ。けどまぁ、仕方がないと思って諦めてもらいたいもんだね。他ならぬ旦那の命令だしね」

 事情と自身の立場を説明し、今後の戦の方針を変えると伝えたシュメアだったが、ギ・グーは腕を組んだまま鋭い視線を彼女に向けた。

「それとも疑ってんのかい? コレ」

「俺は字が読めん。だが、王の紋章ぐらいは分かる。それに、お前が嘘とは無縁の人間だということも知っている」

「評価が高過ぎて、どうもこそばゆいね」

 珍しいことにギ・グーはシュメアを高く評価していた。一早く人間社会に見切りを付けて王の下に集ったことも、そこから挙げる赫々とした武勲も、決してゴブリンに劣るものではない。

 ゴブリン至上主義であるギ・グーから見ても、彼女の挙げた武勲は認めざるを得ないものであった。だが、それとは別に自分の戦を彼女に譲らねばならないことに不満が無い訳ではなかったのだ。

「敵は交渉相手としては信用出来ぬぞ」

「それは分かるよ。けど、今度のことで相手も少しは本腰を入れて交渉するんじゃないかね」

「ふむ」

 顎を摩りながら、尚も不満そうにしているギ・グーに、シュメアがあっけらかんと言う。

「ま、フェルドゥークの武勇は伝えておくから、王様がアンタ達に下す評価が下がることはないと思うけどね」

「そうか……。そこまで言うなら、引き下がらねばならんか」

 ギ・グーがシュメアの意見に従う姿勢を見せ、戦の方針を変えるのを了承すると、彼女は早速行動に移る。フェルドゥークに再編を命じると、ギ・ヂー・ユーブの(レギオル)とギ・ズー・ルオの千鬼兵サザンオルガら混成軍を己の手勢に加え、三国同盟が統治する都市に攻撃を仕掛けた。

 ただし、そのやり方はフェルドゥークに比べれば生温いと言える程弱いものである。

「この程度では、奴らは降伏しないのではないですか?」

 ギ・ズーやギ・ヂーの意見を聞きながら、シュメアは同盟国の軍師ヴィラン・ド・ズールに意見を求める。

「軍師殿も、そう思うかい?」

「ええ、そうですね……」

「ふぅ~ん」

 意味ありげに微笑むシュメアを見て、ヴィランは再び沈黙の内に考えを巡らせる。

「良いんだよ。今は未だ、このままでね」

 自身の得物である短槍を肩に担ぎながら敵の都市の城壁を見守るシュメアに、一同は顔を見合わせていた。

「さて、あたしはちょいとギ・ギー・オルド殿の所に行ってくるから留守を頼むよ」

 そう言い置いて、シュメアは少数の兵士を連れてギ・ギー・オルドの所へ出かける。別の日にはギ・グー・ベルベナの所へ出かけたりもする。

 その様子を見ていたヴィランは、流石にシュメアの意図を察することが出来た。

「つまり、シュメア殿はフェルドゥークとザイルドゥーク、更には混成軍(われら)を指揮下に収めていることを最大限に活用するつもりなのでしょうね」

「どういうことだ?」

 疑問に首を傾げるギ・ズーとギ・ヂーに、ヴィランは噛み砕いて説明を加える。

「敵からすれば、我らは戦力の逐次投入をしている愚か者に見えます。シュメア殿はそこを改善しようとしているのでしょう。脅しを掛けるのにも有効ですしね」

「つまり、数の利点を活かすと?」

「ええ。我々に勝てないと思わせることで交渉を引き出したいのでしょう。この都市への攻撃が手温いと感じるのも、時間稼ぎの意味合いが大きい為です」

 ヴィランの指摘通り、フェルドゥークとザイルドゥークは急速に再編成を済ませ、混成軍の後を追ってきている。間もなく合流出来るという連絡が来ている程だ。

「実に意外ですが、彼女は政治家向きですね」

 ヴィランの表現にゴブリン達は首を傾げたが、功績を独占せず、勢力の均衡を図るなどという考えは人間ならではのものである。ゴブリンの軍勢が功を競いながら東征している中、どこか一つの軍勢を依怙贔屓するようなら軍全体に歪が生じるとの判断であった。

 無論、ヴィランが指摘した数の利点を利用して敵を圧倒したいとの思惑があることは否めない。兵力を集中させることにより、それらの利点を引き出すことが出来ると判断したシュメアの感覚は非常に優れたものであった。

 少なくとも前面の敵を撃ち破ることにのみ集中しているゴブリン達よりは広い視野を持っていることは確実であり、そういった資質を持っているからこそ、ゴブリンの王も指揮権を預ける気になったのかもしれない。

 シュメアは三軍が揃うのを待って、攻撃していた都市に降伏を勧める使者を派遣。凡そ2万の大軍を眼前に並べられたその都市は為す術無く降伏。フェルドゥークの暴虐に怯える諸都市に対して、交渉に当たったのが人間であるシュメアと軍師のヴィランだったのが決め手だった。

 食糧を供出することと併せて降伏を誓わせると、シュメアは次々と諸都市を降伏させ、開城させる。そして、遂に不死身のアルドゥールが守る城塞にまで軍を進めた。

 早く攻撃に移りたいゴブリン達を良く抑え、彼女は実にゆっくりと戦の準備を進める。

「こっちが焦る必要はないからね。食料が無くて切羽詰まっているのは向こう側さ」

 至極何でもないように言ってのけると、諸都市から集めた食料を誇示するように城塞の前に陣営地を築き、それを強化補強する。更には石造りの兵舎の建築まで始めてしまう。城塞に籠りながらその様を見たアルドゥールは腕を組んだまま眉を顰めた。

 これまで、彼は進出してくるゴブリン側を撃退することで勝利を重ねてきた。嘘の降伏も、都市を丸ごと犠牲にしたのも、全てはゴブリン側の出現する場所と攻撃する場所を限定させる為に実施されたことだ。

 正面対決を避けつつ、ゴブリン側の弱点を突くアルドゥールの戦術は確かに有効だったが、シュメアの戦略はアルドゥールの戦術を根本から崩すものであった。

 これまで各個に攻め込んできていたゴブリンの軍勢に指揮官としてシュメアが加わることにより、3つの軍勢が1人の意志によって動き出していた。これでは今までの隙を突くアルドゥールの戦術が通じ難くなる。

 何より、シュメアが前面に立つことによって恐怖が先に立って必死に防戦していた諸都市の間に弛緩した空気が流れるようになっていた。危機感を煽り、必死の防戦に努めてきたアルドゥールにしてみれば最も痛い戦略上の挫折である。

 現に三国同盟統治下の諸都市の中にはシュメアが相手なら降伏しても良いのではないかという意見まで出てきているのだ。ゴブリン達を抑えるだけでなく、約定を必ず守る彼女は敵ながらに不可思議な人気すらあった。

 シュメアの戦略は、着実にアルドゥールを追い詰めていた。


◆◇◆


 三国同盟の誇る城塞三鷹の砦(クルス・ティガ・ラス)に詰めている兵士達は、誰も彼もが傷を負っていた。相手よりも少ない兵力で強兵であるゴブリン達を相手にするのだ。当然、一人に掛かる負担は大きくなる。

 それでも彼らが戦うのは、アルドゥールという男の為である。

 細身の身長ではあるものの、決して美男ではない。癖のある茶色の髪と強い意志を感じさせる眉。

 為す術無く崩れ往く筈だった三国同盟を、僅かでも生き延びさせることに成功した男は苦悩の中にいた。

 取り留めなく足を動かし、城塞の中を見回るアルドゥールに声を掛けてくるものは少ない。これは彼が恐れられているからというより、自分達の指揮官がそうやって思考を固めているのだと知っている兵士達が遠慮して声を掛けない為だ。

 目が合えば当然の如く兵士達は彼に敬礼し、自然と彼の視界に入らない位置に移動する。

 そんな兵士達の心遣いに感謝しながらも、アルドゥールは僅かに苦笑する。

「俺も、偶には誰かと飲みたい時ぐらいはあるんだがな」

 まるで他人事のように呟きながら、指揮官級の人間に割り当てられた個室を尋ねる。

「入るぞ」

 返事を聞かずに部屋の扉を開けると、大剣を抱きながら寝台に腰掛けていた男の姿がある。

「司令官殿か。何の用だ?」

 歴戦と言って相違ない相貌の男がそこにいた。亡国ゲルミオンの武威の象徴である聖騎士。嘗て英雄とまで呼ばれた男の瞳は暗く、影がある。

「俺も飲みたい時くらいある」

「……そうか」

 だが、以前の張り詰めたような険は鳴りを潜め、ガランドは静かに頷いた。

 アルドゥールは部屋に用意された椅子に腰掛けると、勝手に瓶の蓋を開けて葡萄酒を飲み始める。男二人の部屋には、それを責める者は居なかった。

 瓶の口から直接葡萄酒を呑んだアルドゥールは口元を拭うと、ガランドにそれを差し出す。

「……頂く」

 遠慮無くそれを受け取ると、ガランドもそれを目一杯飲んで口元を拭った。

「……奴らは強いな」

 暫くそうして葡萄酒を飲んでいた2人だったが、アルドゥールがぽつりと漏らした。

「……ああ」

 アルドゥールの酩酊に揺れる視線は、今なおゴブリンが暴虐を振るう戦場の様を思い出していた。ガランドは表情に漣すら起こさずに頷く。

 そんなガランドを見て、アルドゥールは苦笑する。

「流石に英雄殿は違うな。敵が強い程燃えるとか、そういう奴か?」

 酔いの回ったアルドゥールの口から皮肉とも言える言葉が出るが、ガランドは目を閉じて黙ってそれを聞いた。受け取った葡萄酒を飲み干すと、酒臭い息と共に嘆息する。

「俺は誰も何も守れなかった。最愛の妻も、忠誠を誓った国も、慕ってくれた部下達も。そして、こんな俺に友誼を向けてくれた友すらだ」

 吐き出す言葉は重く、アルドゥールは目を見開いた。

「俺が生きているのはな、だからこそ簡単に死ぬ訳にはいかないからだ」

 二人きりの部屋に響く声は静かに、だが確かに燃え滾るような執念の響きを持っていた。

「例え奴らが地上を制覇する程強かろうが、俺は死ぬまで奴らに抗わねばならん」

 それは、生きながらにして死んでいる亡者の宣誓だった。

 ゴブリンは強い、残る国の総力を結集しても恐らく勝てないだろう。幾人もの優秀な指揮官と、それを支える強兵。そればかりでなく、後方の充実は圧倒的な大国として全てを飲み込まずにはおかない。

 だが、それでも尚……死ぬと分かっていても立ち向かわねばならないと、目の前の男は宣言したのだ。

「盛大に後ろ向きな考えだな」

 愚痴っぽく言うアルドゥールに、ガランドは初めて苦笑した。

「まぁな」

「俺はな、この戦が終わったら猟師に戻って、気ままな暮らしをするつもりだ」

「ほう」

「罠を仕掛けて灰色兎(グーリーズ)を捕り、角鹿(ディアラ)を狩って街に売りに行く。そうだ、その時はお前にディアラの煮込みをご馳走するよ。あれは旨いし酒に合うからな」

 暫く他愛もない話を続けるが、酒が切れた頃、アルドゥールは糸が切れたように項垂れた。

「……本国から使者が来た」

「……降伏か」

「ああ、すまん」

「……いや」

 ガランドは椅子に腰掛けたまま天井を見上げ、アルドゥールは震える声を押し殺しながら目を伏せた。

「兵を連れて東へ行け。3日は稼ぐ」

「ここの兵士はお前を慕って集まった者達だ。俺では率いるのは難しい」

「英雄とは思えない台詞だな。彼らは俺が説得する」

「神聖王国アーティガンドは飛竜騎士団を結成させたそうだ。三国同盟が崩壊した後、もうゴブリン共の侵攻を阻める力があるのは、あそこしかない」

「……分かった。司令官殿」

「もう俺は司令官じゃない。ただのアルドゥールだ」

「そうか。なら友として忠告だ。逃げろ、アルドゥール」

 ガランドの言葉に、アルドゥールは泣きそうな笑みを浮かべて首を振った。

「それは……できない」

 死にたくないから戦ってきた男が責任に雁字搦めにされた後、それでも矜持を持って首を横に振った。

「死ぬぞ」

 国は、ゴブリン達への忠誠の証としてアルドゥールの首を差し出す。ここにきて降伏するということは、何らかの手土産を約束してのことだ。

 そんなことはガランドでも容易に想像がつくし、明敏なアルドゥールが気付かない筈がない。

「俺が逃げれば、俺の下の者が身代わりになる」

 僅かにガランドが顔を顰めた。

「悪辣なる三枚舌の名が泣くぞ」

「……悪いな。何もかもお前に託して」

「チッ……分かったよ」

 友の願いを聞き届けたガランドは、翌朝兵を率いて城塞を脱出。飛竜騎士と連絡を取りつつ、神聖王国アーティガンドへ合流を果たす。

 そしてガランドの予想通り、不死身のアルドゥールはゴブリン達に降伏した国の差し金により暗殺されることとなる。

 神聖王国へと到着した後、ガランドはアルドゥール死去の報を聞いた。その日、ガランドは西の空を睨んだまま、暗くなるまで動かなかった。

 王暦4年の厳冬期。三国同盟の英傑アルドゥール・マリネクが死去。それに伴って僅かに燻っていた三国同盟の抵抗は完全に鎮火された。

 勢いを押し留めていた防波堤の決壊は、アルロデナの更なる攻勢を呼び込む。

 シュメアが西へ戻った後もフェルドゥーク・ザイルドゥーク・混成軍の東征は止まらず、それを防ぎ止められる力を持った国も東の大国アーティガンドのみとなっていた。


挿絵(By みてみん)


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