勇者の影
1月23日誤字脱字修正
古めかしく歴史を感じさせる太い柱が一部の狂いもなく縦横に並ぶ王城の間には、中央に玉座に続く赤い絨毯が敷かれていた。そこを歩むのは一人の青年。
黒い髪と鳶色の瞳に、平均よりも頭2つ程高い身長。しなやかな筋肉に包まれた肉体は輝くばかりの高貴な気配を宿していた。秀麗な表情には慈愛の笑みを浮かべ、見る者全てを魅了する。そして人々の目からして彼をより輝かせて見せたのは、その業績である。
不可能と思われた海洋国家ヤーマの攻略。しかも味方の被害を殆ど出さない中という奇跡のような業績を上げた彼を、人々は畏敬と憧憬を込めて“勇者”と呼んだ。
喝采鳴り響く城下を抜けて凱旋した彼の姿は、民衆には希望の光に映る。
内戦により流された血を無駄にしない為の希望。閉塞した時代を切り開いてくれる希望。或いは、西から迫り来る危機に立ち向かってくれる希望。
50代の半ばを過ぎようとしている聖王国アルサスの国王は気力も衰え、彼に玉座を譲る意志を固めていた。年若い王女は、近隣に鳴り響く美貌とそれに劣らぬ優しさを併せ持っている。
愛娘を任せるのに、これ程の適任者は居ない。
王がそう決心をするのに時間は掛からなかった。
貴族達は何かと反発するだろうが、王の意志が固いことを見て取れば口を閉じるだろう。
王の前まで来ると、彼は立ったまま礼をした。本来なら無礼と咎められる行為だったが、怒りの気持ちすら起こらない。逆に、その優雅な所作に目を奪われてしまう。
どうしたことか、人間の世界で最も古い王国を統べる彼ら王侯貴族から見ても、彼の挙動の一つ一つが洗練され高貴に見える。世界で最も高貴なのは自分達であると、半ば本気で考えている彼らがである。
「よく来てくれた」
王の言葉に、勇者は薄く微笑んで頷いた。
「海洋国家ヤーマの攻略、先ずは見事。まさかこうも容易く成し遂げてしまうとは、流石は勇者殿」
「いいえ、他の者の力添えがあったればこそ」
流し目で周囲に視線を向ければ、それだけで幾人かの者達が歓喜に震えているのが分かる。
「その謙虚さ、見習いたいものだ。どうだろう、我が娘エスリナを其方に差し上げようと思うのだが」
「ありがたき幸せ。ですが、エスリナ様のご意思はいかがなのでしょう?」
「あれが拒むものか! あれは其方に心を奪われておる」
苦笑した王に、勇者は微笑んで頷いた。
「分かりました。それが陛下のご意志ならば、受けぬ訳にはいきません」
「おお、受けてくれるか! これで王国の治世も安泰だ。何も心配することはない」
満足そうに頷く王は、心の底から安心しきっていた。
「陛下、一つ献策をさせて頂いて宜しいでしょうか?」
「おお、なんなりと申してくれ!」
「今、この大陸は西から押し寄せる魔物の群れに蹂躙されようとしています。これに対抗する為、我が国も軍事力を強化せねばならないでしょう」
「尤もだな」
「我が国の北西に広がる渓谷には飛竜が住むと聞きます。それを従え、飛竜騎士団を創設したいと思いますが、裁可を頂けますでしょうか?」
その場に居た者達が顔を見合わせる。飛竜が住むのは山脈の麓に広がる大峡谷である。そして、勇者は其れ等を従えるというのだ。
「確かに、それが叶えば頼もしい戦力になるだろうが……」
その性、残忍にして凶暴。それが飛竜の特性である。それを従えるとなれば、並大抵の難事ではない。
「……分かった。勇者殿が出来ると言うなら、その言葉を信じよう」
「有り難い幸せ」
勇者が北西にある飛竜の渓谷へ出発したのは、1日後だった。
◆◇◆
ゴブリンの王の帰還と前後して、黒き太陽の王国はその攻勢を一層強化した。小国家群が広がる大陸中央から東部に関して、落とした小国の数は実に10を数える。
ギ・ガー・ラークスが率いる虎獣と槍の軍が3つ。
ギ・グー・ベルベナ率いる斧と剣の軍が3つ。
ギ・ギー・オルド率いる双頭獣と斧の軍が2つ。
属国及び同盟国、更にはギ・ヂー・ユーブの軍とギ・ズー・ルオの千鬼兵からなる混成軍は2つの国を陥落させた。
ランセーグ地方と呼ばれる小国家群の乱立する地方の大半を攻略したアルロデナだったが、ここでその進軍は鈍ることになる。それは軍事的な問題と政治的な問題の2つが急浮上したからである。
一つは、突如として海洋国家ヤーマを陥落させた旧聖王国アルサスの問題である。現在は神聖王国アーティガンドを名乗る彼の国を、軍師プエルは本能的に警戒していたからに他ならない。
これまでの経験から、彼女は不意の事態における神々の干渉を警戒し過ぎてもし過ぎることはないと考えていた。今までは小国相手に各軍を自由に行動させていたが、それではアーティガンドに破られる可能性があると踏んだ為だ。
ゴブリンの王が復帰したことと合わせて、全軍を以って一気にアーティガンド攻略の為の軍を起こす必要がある。軍師プエルの戦略を、龍の協力を得たゴブリンの王もまた是とした。
また、政務の中心であるアルロデナ首都の王の座す都と、彼ら最前線との間の距離が徐々に開いてきたことによる連絡手段の確保の問題もある。一挙に占領地域を増やしたアルロデナは、再びそれらの地域の統治に力を入れねばならない時期に来ていたのだ。
ただ、プエルはその期間は短いものになるだろうと予想していた。
アルロデナの統治機構は最初期に比して十分に整ってきている。人材の面でも西都の総督であるヨーシュ・ファガルミアを筆頭に、エルレーン王国宰相エルバータ・ノイエン、麗しき沈黙ヘルエン・ミーア、失言多き天才ことガノン・ラトッシュなどの才人達が揃った。
文官だけでも十分な層の厚さを備えるアルロデナは、占領地の統治にも十分に対応していける筈である。プエルはそう予想し、事実その予想は正しかった。
アルロデナの攻勢が一段落した王暦4年の夏から秋にかけての3ヶ月の間、占領した地域の統治は順調な滑り出しを見せていたのだ。
統治は侵略よりもなお難し。その言葉が物語るように、過去ゲルミオン王国や交易国家プエナを陥落せしめた後の統治に梃子摺ったアルロデナからすれば、今回の占領地の統治は順調に過ぎるものだった。
だが、アルロデナの圧倒的な攻勢は人間側の抵抗を呼び起こさずにはいられなかった。王暦4年の盛夏の頃、ランセーグ地方の東の三国による同盟締結がその際たる例である。
軍事的な問題として浮上した三国同盟。
小国フェニスを中心とした同盟は、今までの遺恨を水に流し、三国が強固な攻守同盟を結ぶことによって成立したものだった。ザイルドゥークだけでは攻略は難しく、ギ・ギー・オルドは応援を要請。それに応えるようにしてゴブリンの王が勇躍して戦場へ出陣しようとした所に、軍師プエルから制止が掛かった。
「ご出陣なさるのは結構ですが、その前に不在間の決済をお願いします」
氷と称されるプエルの視線に王は顰め面をしたが、それでプエルの意見が翻る訳もない。
「ではどうするのだ? 4将軍はそれぞれに同格であろう。混成軍を向かわせるとしても、ギ・ギーでは大軍の指揮に向いているとは思えぬ」
「ご尤もです。ですので、軍の統帥権を一時的に他の者に与えて頂きたいのです」
「……俺の亡き後を考えれば、それも必要か」
「……ご理解が早くて、結構なことです」
ゴブリンの王亡き後の体制を考慮すれば、ゴブリンの王が不在であっても軍が動ける体制を作っておかねばならない。そして、もし派遣するとなれば可能ならゴブリン以外の者が望ましい。
ギ・ガー・ラークスやギ・グー・ベルベナらの優秀なゴブリン達の亡き後、国が存続しているかどうかはさておき、ゴブリンの兵達が上位のゴブリンの命令しか聞かないというのは拙い。今は王に対する不動の忠誠心を誇る彼らだが、王亡き後にその忠誠を向ける相手が各将軍では困るのだ。
忠誠は王の残した国に向けてもらわねばならない。最大の軍事力たる彼らがサボタージュを決め込めば、国の戦力は半減どころの話ではなくなってしまう。
その前例として、プエルは国から派遣された将軍に指揮権を委ねることを具申しているのだった。
「よし。シュメアに我が軍旗を持たせ、援軍を任せよう」
「良きご判断かと。副官にメラン・ル・クード殿、ゴブリン兵はギ・アー殿に率いさせて、凡そ2000ほど用意致します」
「メラン・ル・クード?」
「戦姫の元副官です。属国のシュシュヌ教国の人間ですが、優秀な部類の人間であることに変わりはありません」
王の質問に澱みなく答えると、プエルは提案を持ち出す。
各方面の戦況で攻勢を一時的に緩めるなら、補充の為の兵をギ・ギー・オルドの方面に向けることが出来る。その提案をゴブリンの王は是として、裁可を下す。
押し広げた最前線と首都王の座す都の間に横たわる距離が、王の胸に僅かな不安を抱かせたのだ。戦姫との戦を通じて、戦線の後方で策動される危険を改めて認識したゴブリンの王は、万全の態勢を整えてから東への大攻勢へと転じるべきだと考えていた。
「混成軍も救援に向かわせようと思いますが」
「良いだろう。三国同盟を崩すのに十分だと思われる戦力を注ぎ込め」
「御意に」
だが、この三国同盟はゴブリンの王とプエルの思惑を越えてアルロデナの攻勢をよく凌ぐことになる。一つにはプエルの指揮する諜報部隊の情報収集の糸を神聖王国アーティガンドと統治の為に内治に向けていたことが挙げられる。
広大なアルロデナの領域全てを網羅する程、彼女の操る諜報の糸は多くも長くもなかったのだ。如何にプエルの神算鬼謀をもってしても、全ての事象を操ることは出来ない。
そしてもう一つ、三国同盟がゴブリン達の攻勢に良く耐えることが出来たのには一人の英傑の姿があったからだった。
その名を、アルドゥール・マリスク。
ただ只管に守勢に強いこの男の働きによって、アルロデナの攻勢は一時的にせよ防ぎ止められることになる。
◆◇◆
アルドゥール・マリスク。
敵からは悪辣なる三枚舌、味方からは不死身のアルドゥールと呼ばれる三国同盟の英傑は小国フェニスの出身であり、王族でも貴族でもなく、況してや騎士でも兵士でもない只の猟師の息子であった。
そんな彼が三国同盟の英傑とまで讃えられるに至ったのは、ギ・ギー・オルド率いるザイルドゥークの進行を三度防ぎ切り、混成軍の攻勢を撥ね退け、更にはギ・グー・ベルベナ率いるフェルドゥークの進撃すらも退けたという偉業を為したからだった。
アルロデナの攻勢に良く抗し得たのは、何も彼が神がかった武威や神算鬼謀を持っていたからではない。猟師の息子であり、周辺の地理に明るい彼は徹底的にゴブリンとの正面対決を避け、遊撃と奇襲に全力を挙げたのだ。
更に、彼はゴブリン達が最も苦手とする虚実を織り交ぜた交渉を行いながら戦いを繰り広げた。ザイルドゥークに対しては魔獣を引き寄せる罠を活用し、着実に損害を与えていった。いくら攻めても全く成果の上がらない国盗りの戦に、ギ・ギーはそれ以上の損害を嫌って軍を退けた。
如何に数の多い魔獣を使役するとはいえ、最近では魔獣をある程度調教してから前線に投入しているギ・ギーにとって、無視出来る損害ではなかった為だ。
混成軍に対しては、アルドゥールは和議を持ちかけつつ交戦に入るという騙し討ちの形を取った。しかも和議を持ちかける相手は個別に条件を変えるという芸の細かさである。
レギオルを率いるギ・ヂーに対しては遜った文面で全面降伏を誓い、サザンオルガを率いる血気盛んなギ・ズーに対しては高圧的な態度で条件付きの降伏を申し出る。更に、同盟国の軍師ヴィランに対しては装飾過多の文句で降伏を願った。
元々性質が純朴なゴブリンにとって、これは足並みを乱すのには十分だった。更に混成軍という弱みがここで噴出する羽目になる。誰が主導でこの戦を進め、決定権は誰にあるのかという問題である。
困った彼らは一旦レヴェア・スーへと使いを送り、決定を待つという選択をするが、これは悪手であった。ヴィランにしても軍の動きと計算は出来ても、心理的な駆け引きにはそれ程長じている訳ではない。
人間の心理を読み合いなら彼の上司である女皇ミラなどが上手いのだが、残念ながら彼女はその場に居なかった。
足の止まったゴブリン軍に対して、アルドゥール率いる三国同盟軍は攻勢に出る。
驚いたゴブリン達だったが、彼らも百戦錬磨の戦士の集団である。すぐさま態勢を立て直すと、襲いかかってきた敵に対して反撃に出る。
「敵が思い上がって打って出て来るなら話が早い! 叩き潰すのみだ!」
勇躍して手下を鼓舞するギ・ズーの檄と共に、サザンオルガのゴブリン達が攻勢をかけてきた敵に正面から激突するという荒業を見せ、戦況を逆転させる。
やはり、戦えばゴブリン達が強かった。
思わぬ奇襲に不意を突かれ、当初は防御に回ったゴブリン達だったが、サザンオルガの突撃に勇気付けられ、徐々にその本領たる攻撃に移り始める。
それに引き摺られるようにしてレギオルも徐々に敵の圧迫を跳ね返していく。それから一線程遅れるが、ヴィランの赤備えや同盟軍からの軍勢も態勢を立て直していた。
奇襲が失敗と知ると、敵はすぐさま後退に移った。
逃散という言葉の通り、三々五々に違う方向に退いていく敵軍の姿を見たゴブリン達が勝利を思い描いたのは寧ろ当然だった。それ程までにアルドゥールの後退は見事であったし、事実半分程の兵士は本気で逃げていた。
アルドゥールはそれすらも勘定に入れて後退を繰り返し、ゴブリン達を罠を張り巡らせた一帯に引き込むことに成功する。並大抵の度胸で出来ることではないが、彼はやってのけた。
それこそがアルドゥールが味方から不死者と呼ばれる所以であるが、彼は殿を引き受けつつ敵を誘引し、罠に嵌めての撃退までもやってのけたのだ。ゴブリン達に負かされるばかりだった人間側からすれば、正しく希望の星であった。
小国フェニスは国土の大部分が森林に属する国である。以前は妖精族の保護を売りにしていたが、彼らがアルロデナを頼ってからは森の恵みと隣国との貿易で食い繋ぐ小国である。
時期は既に秋に差し掛かり、木々は乾燥し、地面には落ち葉が降り積もっていた。そこに兼ねてから張り巡らせていた落とし穴や罠線、獲物を狩る為の様々な罠が無数に仕掛けた一帯にゴブリン達は引き込まれた。
そして風向きまでもが、アルドゥールに味方した。
風の中に漂う油の匂いにギ・ヂーやヴィランが気付いた時には既に遅かった。燃え広がる火は瞬く間に紅蓮の炎となって周囲を包み込む。不幸にも燃える材料には事欠かないその一帯で、火炎は文字通り命取りであった。
「撤退だ! 焼け死ぬぞ!」
軍師ヴィラン・ド・ズールの率いる赤備えが反転するのと、ギ・ヂーが炎に遮られて立ち往生するギ・ズーに追い付いたのは、ほぼ同時だった。
「おのれ! 後一歩だというのに!」
地団駄を踏んで悔しがるギ・ズーに、ギ・ヂーは即座の後退を促す。
「ギ・ズー殿、グズグズしている暇はないぞ!」
「分かっている! 普段なら突破するところだが、この罠の数では!」
多少の炎の壁なら突破するつもりであったギ・ズーの蛮勇であったが、周囲に張り巡らせられた無数の罠の存在に、焼け死ぬ可能性の方が高いと判断する。
炎の恐ろしさは、その熱と共に迫る黒煙である。
その黒煙に巻かれないように逃げていくゴブリン達の先々に、三国同盟の兵士による射撃や伏撃が無数に待ち受けていた。
結局、その戦で混成軍は大打撃を受け、次の進攻までにかなりの時間を要することになるのだった。
◆◇◇
混成軍の敗北という事態は、レヴェア・スーに届くより前に順調な進軍を続けるギ・グー・ベルベナの下に届いていた。王暦3年冬から開始された熱狂的なアルロデナの攻勢の進行方向は、その実かなり大雑把であった。
ギ・ガー・ラークスが北側。ギ・グー・ベルベナが中央。ギ・ギー・オルドが南側。混成軍は最南端という風に、具体的にどこの国を攻略するのかは各将軍達に任されているというのが現状だった。
北のギ・ガー・ラークスが持ち味である進軍速度を取り戻したという報告を聞いたギ・グー・ベルベナは、不敵な笑みを浮かべて頷いた。
「そうだろうよ。そんな所で躓くような男ではあるまい」
遠く北の地で勇躍奮闘する同僚へ小さく賛辞を送った。
そして、彼の目は人間相手に不甲斐ない戦をする南へと向けられる。
「少し発破を掛けてやる必要があるな」
王暦4年の晩夏の頃、ギ・グー・ベルベナ率いるフェルドゥークは3つの国を攻略し、その度に軍の威容を整えた彼の軍はゴブリンの軍勢の中で第一の威勢を誇っていた。
また、大軍を率いる将軍格の中でも先達であるという認識の彼からすれば、人間相手に遅れを取る同胞を放っておくことは出来かねた。
突如として東征の軍を南に向けると、三国同盟へと襲いかかった。
対する三国同盟の英傑アルドゥールは突然の事態に祝勝会の席を放り出し、第一線に駆け戻った。南のフェニスで戦った後は直ぐに北の同盟国での戦である。
身体の休まる暇もない連戦に次ぐ連戦だったが、彼の心が折れることはなかった。
だが、徐々に明らかになるフェルドゥークの陣容に、背中に冷や汗をかかざるを得なかった。
ゴブリンだけで凡そ8000。その他に戦奴隷として駆り立てられた人間が3000を超える。比較的大人しい魔獣に牽引させた攻城兵器の数々と、綺羅びやかな軍装に身を包んだゴブリンの兵士達。
明らかに高位と分かるゴブリンだけでも、かなりの数が存在するフェルドゥークはゴブリンの本隊が現れたと錯覚しても無理はない。
1万を超える大軍勢と、それを補う補給兵站線にまで兵を配備する余力。
急遽集められた三国同盟の兵士の、実に5倍程の兵数である。
アルドゥールは、またしても正面対決を避ける。降伏の使者を出すと共に実際に街を一つゴブリン側に占拠させたのだ。この頃になると、三国同盟以外の官民を問わない義勇兵がアルドゥールの元へと集まってきていた。
元聖騎士ガランドや血盟赤の王のサーディンなど、嘗て敵対した者達の姿も見える中、アルドゥールはフェルドゥークに街を明け渡した。
そして、街を占拠した頃を見計らって一斉に襲撃に出たのだ。
不意を突かれたフェルドゥークだったが、市街地戦はゲルミオン王国で経験済みである。ただ、今回は街そのものを灰燼に帰す勢いで敵が攻撃してきたのが違いだった。
予め住人は避難させているにしても、追い詰められた人間側のなりふり構わない攻撃にギ・グーも少しばかり面食らう。また、数々の戦で従えてきた戦奴隷も市街地戦ではあまり役に立たなかった。広い平原で戦うからこそ逃げ場がなく、ゴブリンの監視下における戦奴隷達だったが、市街地戦では逃げ込む場所が幾らでもある。
戦奴隷の脱走が相次ぎ、ギ・グーは不愉快ながらも戦の立て直しを命じなければならなかった。未だ炎が渦巻く街から撤退するフェルドゥークに、三国同盟側は追撃を命じる。少なくない犠牲を払ってフェルドゥークを追撃するが、これは結果的に虎の尾を踏むことになってしまった。
態勢を立て直したフェルドゥークは追撃に出てきた兵士を尽く撃退。ギ・グーは降伏を餌にした策術に怒りを覚え、非情な命令を下す。
「灰燼に帰せ! 人も、街も、目に入る物全てを我らが恐怖の剣斧で打ち壊し、血祭りに上げろ!」
ギ・グーの怒りは即ち、フェルドゥークの怒りである。
フェルドゥークの通り過ぎた後には、文字通り草木の一本すら残らぬという有り様である。
そのような時、ゴブリンの王から軍旗を預かったシュメアが援軍として戦線に到着したのだった。




