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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
群雄時代
322/371

開戦

 ゴブリンの王は先頭に立って敵軍との距離を詰めた。士気旺盛なのはゴブリン側も聖女側も共にだった。

 鶴翼の陣を取るゴブリン側に対して、魚鱗の陣を組む小国連合。

 囲い込むようにして展開するのは、最左翼にギ・グー・ベルベナの剣と斧の軍(フェルドゥーク)、左翼中段にギ・ガー・ラークスの虎獣と槍の軍(アランサイン)、ギ・ザー・ザークエンドの率いるドルイド部隊を挟んで王の騎馬隊である。

 最右翼にギ・ギー・オルドの双頭獣と斧(ザイルドゥーク)、右翼中段にギ・ズー・ルオの千鬼兵(サザンオウガ)とギ・ヂー・ユーブの(レギオル)が連なり、王の騎馬隊へと繋がる。

 ゴブリンの王は、その距離まで猛烈な加速を保って距離を詰め、猛り立つ獣を抑えるように軍を止めてみせた。

「王、何を?」

 傍らに妖精族の戦士を率いて控えていたプエルは、王の行動に不審の目を向ける。

「戦を始める前に勧告をせねばな」

 一騎のみで騒めく両軍の間に立つと、大きく息を吸い込んで人間側に吠えた。

「レシア・フェル・ジールを返せ! 皆殺しにするぞ!!」

 ゴブリンの王の声は天地を圧する咆哮となって騒めきを抑え付け、正面からその威圧を食らった最前線の兵士は腰を抜かしてへたり込む。

 烈火の如く吹き出したゴブリンの王の咆哮は、敵対する人間達をして恐怖と嫌悪で縛り付けられる程の衝撃を伴って迎え入れられた。

 まるで凪のような静寂の中、プエルの顔が苦笑と共に僅かに引き攣る。

「……これは予想外でした」

 軍を進めるべきか、判断の難しい所だ。まさか王が単騎で敵の全軍の前に立ち塞がるとは思いもしなかった。順当にぶつかれば勝てる戦だが、未だにあの王を見誤っていたのだと反省する。

 表面だけを見れば、敵は王の威風に恐れをなして意気消沈しているように見える。だが、聖女という信仰の対象を渡せる訳がない。

 王の凄まじい怒りの源泉は、或いはこのまま相手を圧倒してしまいそうですらある。

 上位のゴブリン達は王の意志に逆らうことなど考えもせず、事態の推移を見守っている。だが、軍全体が発する殺気は、王の命令があれば今すぐにでも人間達に襲い掛からんとばかりに膨らんでいた。

 比較的冷静なのは妖精族だった。

 プエルの近くで控える彼らはどうするのかとプエルに視線で指示を仰ぐが、プエルも王がここまでのことをしてのけるとは思いもよらなかった。

「煽てが過ぎましたか」

 兎も角、直ぐにでも動けるように待機させるしか無い。彼女がそう判断して妖精族達に伝令の準備をさせていると、敵陣の中に動きがある。

「貴様が、ゴブリンの王であるか」

 白髪長身の男が軍の中を掻き分けるようにして出てきたのだ。年齢を感じさせない欲深い目と威風堂々とした体躯は、魔法使いというよりも歴戦の戦士と言った方が相応しい。

 その男の姿を認めた時、プエルは己の本能が警鐘を鳴らすのが聞こえた。

 北方の最高戦力。生ける伝説オーローン。

 だが、ゴブリンの王はオーローンの呼びかけに視線だけを転じて、すぐさま興味を失ったように軍勢の方に視線を向け直す。

「くははは! 流石は魔物。不愉快である!」

 その態度を笑ったオーローンだったが、その瞳だけは殺意を秘めてゴブリンの王を睨む。

槍よ(スピアー)!」

我は刃に為り往く(エンチャント )!」

 オーローンの声に反応するように生み出された炎が槍の形を取り、王に殺到する。王は即座に黒炎揺れる大剣(フランベルジュ)に冥府の炎を宿して迎撃する。

 三本を数える長大な槍は王の一振りによって振り払われ、辺りにはその衝撃のみが響き渡る。

「それが貴様らの答えか!」

「ははは、是非もなし! 死ねい魔物よ!」

 更に三槍繰り出される炎の槍。血のような赤い瞳でオーローンに視線を移したゴブリンの王は、嚇怒の声を上げた。

「突撃だ! 全軍、敵を蹂躙せよ!」

 迫り来る槍を振り払うと、推と名付けた愛馬の腹を蹴る。恐ろしげな咆哮を上げつつ、真っ先に敵陣に向かって駆ける。

「行かせると思うてか!」

 六槍にまで増えた炎の槍がゴブリンの王に襲い掛かるが、それは王に到達する前に風の槍と黒光の衝撃にぶつかって消滅する。

「我が王の行く道に邪魔立てはさせん」

 ギ・ザー・ザークエンド、ギ・ドー・ブルガ、更にはラーシュカがオーローンの前に立ち塞がっていた。

「ふはっはっは! 雑魚共がっ!」

 笑うオーローンは王の背中を狙うのを諦め、群がるゴブリン達に対処せねばならなかった。


◇◆◆


 王が怒りに任せて単騎で敵軍に向かっていくのを見咎めたプエルは、すぐさま全軍に前進の伝令を発する。だが、彼女が命令するまでもなく左右両翼は猛烈な突撃を開始していた。

「我が王に続けッ! 前衛前進!」

 最左翼を率いるギ・グー・ベルベナの号令に従って、その手足となるグー・ナガ、グー・ビグ、グー・タフらのノーブル級ゴブリン達が前に出る。中級指揮官たる彼らは最前線で他のゴブリンを纏め上げる将である。千匹程度の軍を任せられた彼らは、ギ・グーの薫陶厚くこれまでの歴戦の積み重ねを遺憾なく発揮して戦線を進めていく。

 盾を構えた長槍兵が最前線を固める直ぐ後ろでは、投擲隊による石と細身の槍が雨霰とばかりに人間の兵士の頭上に降り注ぐ。

「進め、進め!」

 ゴブリンの兵士が進むと投擲は一層密度と量を増して降り注ぎ、人間側の戦列を突き崩す。あまりの激しさに盾を頭上に掲げた人間側の兵士に、長槍を構えた最前線のゴブリン達が槍ごと体当たりしていく。

 その衝撃は全身鎧を着た兵士の突撃に匹敵する程であり、人間側の長槍兵では耐えることが難しかった。

「左翼を伸ばせ! 奴らを囲い込むのだ!」

 最前線で三兄弟の奮戦を確認したギ・グーは、更に直率の部隊で最左翼を伸ばすように軍を展開させた。押し包むように強力な圧力をかけていくフェルドゥークの力は、ゴブリンの王に気を飲まれていた人間側の右翼を開始早々にして浮足立たせていた。

 戦況有利と見たギ・グーは戦功を競う隣の軍を僅かに見た。

 あくまで速度を重視するギ・ガー・ラークスのアランサインは、大きな動きは見せていないようだった。

「流石はギ・ガー。冷静だな!」

 左から万力で締め上げるような圧力を加えながら、ゴブリンの軍勢は敵を徐々に圧迫している。その中で突出して強い圧力をかけているのはギ・グー率いるフェルドゥークだった。

 ギ・ズー・ルオ辺りの戦意溢れる戦士ならギ・グーに対抗して更なる強硬な攻撃に打って出るだろう。だが、歴戦のギ・ガーは敢えて静かに機会を待っていた。

 強過ぎる左からの圧力に、敵の右翼が崩れるのをだ。

 フェルドゥークを利用したと言えなくもないが、ギ・グーもギ・ガーもそうは考えなかった。元々最左翼は速度を重視し、機動を発揮できるギ・ガーのアランサインこそが相応しい。だが、プエルが指し示したその戦略を、ギ・ガーは敢えてギ・グーに譲ったのだ。

 最左翼はこの戦の帰趨を決める最重要の位置。最も攻撃力の高いフェルドゥークこそ、その位置に相応しいと言ったギ・ガー。彼らは得物を叩き合い、この戦を脳裏に描いたのだ。

 左翼からの強過ぎる圧力に、必ず敵陣は動揺し、隙を見せる。

 王の突撃の号令に対しても己の信ずるところを貫くギ・ガーの姿勢は、ギ・グーをして認めざるを得ないものだった。

 ゴブリンの軍勢の左翼がギ・グーの攻勢とギ・ガーの待機で推移していく内に、右翼ではギ・ギー・オルドの魔獣軍がその牙を剥いていた。

突撃(トート)突撃(トート)!」

 ギ・ギーは魔獣達をその特性に応じた順番で解き放ちつつ、要所に獣士を配置して濁流の如き魔獣軍を操ろうとしていた。荒れ地を埋め尽くす勢いで展開した魔獣達は、体毛を土の色に変えた見えず猿(ミラージュ)四ツ腕猿(フォーアームズ)らが荒れ地の石を拾って敵軍に投げるところから始まった。

 小さな石であるが故に、盾を構える兵士には殆ど効果が無い。

 続いて放たれた棘犬(トーンドッグ)が、彼らの足元を襲うべく全速力で走り出す。

「迎撃せよ! 魔法兵、弓隊援護射撃!」

 降り注ぐ矢と炎弾の中を潜り抜けて兵士達の足元に辿り着いた刺犬は、堅い体毛を武器にして彼らの足元を傷付け、軍勢の中に紛れていく。

 その後に続くのは重量級の竜亀(ドラゴン・タートル)である。全長5メートルにもなる成体が一斉に動き出す戦列は地響きを上げ、それだけで恐怖を煽る。

 大角駝鳥(トリプルヘッド)に乗ったギ・ギー・オルドは自軍が徐々に人間側を押し込んでいく様を確認しながら、全軍突撃の機会を窺う。ギ・ズー・ルオが猛烈に攻め立てるのを横目で見ながら機会を待っていた。

「ギ・ギー!」

 名前を呼ばれて振り返れば、そこには忍び寄る刃のギ・ジー・アルシル。攻め寄せる軍勢に紛れて配下の暗殺部隊を敵陣に送り込んでいたギ・ギーの親友である。

「動いたぞ」

 敵陣の奥から戦列を交代させようと兵が動くのを知らせてくれたギ・ジーに頷いて、全面的な攻勢の声を上げる。

「全軍、突撃させろ! 王に逆らう愚か者共を一人たりとも生かしておくな!」

 解き放たれる大角泥牛(ヒュルド)大角沼牛(ヌルー)三角猪(トリプルボーア)などの突進力に優れた巨大な魔獣達。

 それに合わせて小型の魔獣達も突撃の列に加えると、自身も獣士達を率いて更に前に進む。

 悲鳴と怒号が響き合う戦場に殴り込みをかけるが如く情熱的に敵陣に突進したのは、ギ・ズー・ルオのサザンオルガである。千匹のゴブリンからなるその部隊は、ギ・ズー・ルオに心酔する武闘派のゴブリン達で構成されている。

「野郎ども! オヤジに遅れを取るんじゃねえ!」

 ズー・ヴェドが気勢を上げると、部下達が負けじと怒声を上げて応える。

「王に遅れを取るな! 俺達が道を切り拓くんだ! 進め!」

 ロード級にまで進化した大柄なギ・ズー・ルオを先頭にして一丸となって敵に向かっていく。同時に彼らの横を進むのはギ・ヂー・ユーブのレギオルである。

「我が君を敵の刃に晒し、我らが後ろに隠れていたなど一生の恥辱だ! 前進せよ!」

 ゴブリンの軍勢の中で最も練度が高い密集陣形を作り上げると、長槍の穂先を揃えながら突進する。進むも退くも自由自在と王に評された程に高い練度を誇るレギオルは、槍先の叩き合いで徐々に敵の軍勢を引き出すという器用な戦い方をしていた。

 時間の経過と共に一部だけを突出させることに成功したギ・ヂー。隣を見ればギ・ズーがギ・ヂーの意図に気が付いたところだった。

 ある程度まで敵を押し込んだギ・ズーのサザンオルガだったが、敵の粘りは驚異的とすら言えた。士気の低い敵なら壊走していてもおかしくない程に押したのだが、聖女を頭上に戴く彼らには撤退の意思は見えない。それどころか、魔法弾の射撃が激しくなってすらいる。進む度に激しくなる抵抗を感じていた。

 徐々に疲れが見え始めた自軍に、このまま進むかどうか迷い始めた時、横腹を曝け出す一部の敵を見つけて目を剥いた。

「成程、そうか! ヴェド! 軍を反転させるぞ! 付いて来い!」

「合点でさァ! 野郎ども、こっちだ!」

 すぐさま千匹のゴブリンに伝達されたそれは、ギ・ヂーに引き出されていた人間側の部隊の横腹にギ・ズーの一撃を食らわせることになる。

 今まで槍先の叩き合いを演じていた人間側の部隊は、無防備な脇腹への強烈な突進に組織的な動きが出来ず、崩壊する。ここでギ・ヂーが前進していれば引き出された部隊は全滅も有り得たが、ギ・ヂーはレギオルを移動させてギ・ズーの背後に迫った部隊と交戦に入る。

「全く、ギ・ズー殿は向こう見ずだな!」

 既の所で間に合ったレギオルの救援によって、サザンオルガは後背を襲われずに済んだ。

「よし、このまま押し込むぞ!」

 左右を交代するような形になったギ・ヂーのレギオルは、そのままギ・ギー・オルドのザイルドゥークと隣接しながら敵軍を押し込んでいく。

「おお!? オヤジ、いつの間にかレギオルの奴らが後ろに居やすぜ!」

「ああん!? 何だと!?」

 先頭で敵を葬るギ・ズーにズー・ヴェドが声をかけて初めて事態を把握したが、攻撃の手を緩めること無く崩れた敵を更に追い詰める。

「どうやらギ・ヂー殿に救われたようだな! このまま敵を追い散らしながら進むぞ!」

 半壊した敵の部隊を押し込みながら、サザンオルガは更に敵陣深く食い込んでいく。

 左右両翼の戦線が徐々に敵を押し込んでいくのを確認したプエルは、注意深く戦況を見守っていた。中央で戦うオーローンと特務部隊は今の所は互角の模様だった。

「王の騎馬隊を前に!」

 ならば彼女のすることは決まっている。王を危険から遠ざけねばならない。最大の攻撃力を誇る騎馬隊を王に追い付かせ、その身を守らねばならない。

 黒き太陽の王国(アルロデナ)の紋章旗を掲げたギ・ベー・スレイを筆頭として熱り立つ近衛を左右の戦況を確認した後、解き放つ。

「我らが王の後塵を拝するな! 己が身をもって王をお救いしろ!」

 王によって戦士の生を全うすることが出来る傷モノ達の忠誠心は信仰に近い。王の御前にて死することこそが、彼らの誉である。

 レア級で固められた王の騎馬隊が突進を開始する。

 手綱を口に咥え、片腕に突撃槍を扱くレア級ゴブリン600の突進は戦場の中央で戦うオーローンの脇をすり抜け、一挙に敵の中央に食い込んだ。

 突進力にかけては大陸で最強と呼んで間違いない王の騎馬隊の突進が単騎で敵陣に挑もうとする王の背に追い付いたのは、彼らが敵陣の3分の1程も食い込んでからだった。

 黒炎揺らめく大剣(フランベルジュ)黒緋斑の大剣(ツヴァイハンダー)の二本を暴風の如くに振り回すゴブリンの王は、人間の歩兵達を文字通り吹き飛ばしながら道を作る。

 冥府の炎宿りしフランベルジュが切れ味鋭く鉄製の兜を切り裂き敵兵の命を奪い去れば、交互に振るわれるツヴァイハンダーは、その重量で以って敵を叩き潰す。

 敵の頭蓋骨を兜の上から叩き潰し、背骨の半ばまで叩き切ると、すぐさま横に居た兵士の首を薙ぐ。凄まじい速度と力で振るわれた大剣によって捻切られた首が宙を舞う。首と離れ離れになった胴体から吹き上がる血を浴びながら更に大剣を振るい、目の前に立つ兵士が構えた盾ごと腕をへし折り、返す刀で鉄製の鎧を着た兵士を宙に吹き飛ばす。

 周りの兵士を巻き込みながら吹き飛んだ兵士は鎧の胴体部を半ばまで断ち切られ、湯気を上げる腸が覗いていた。

「退かぬ者は死ね!!」

 烈火のような憤怒を振り撒くゴブリンの王の剣先は怒りに染まりこそすれ、その切れ味を鈍らせることはなかった。それどころか立ち塞がる兵士達の血を浴びる度に鋭くすらなり、怒号と共に愛馬が速度を上げる。

「どこだ!? レシア・フェル・ジール!」

 敵の血を全身に浴び、それでも尚進むゴブリンの王の視界に天から降り注ぐ赤い光が地面を奔り、敵軍を覆ったのが見えた。


◆◇◆


 行商人の護衛としてオルフェンに入ったレシア奪還の任務を帯びた冒険者4人だったが、彼らの予想よりもかなり早い段階で戦が始まってしまった。

 プエルの策によって拘束され続けた連合軍首脳部は、精神的にかなりの消耗を強いられていた。それが知らず知らずの内に開戦を急ぐ結果になっていた。

「今から戦場へ行っても間に合わねえだろう? この仕事は失敗だ。さっさと撤退すべきだぜ」

 鷹目のフィックは元からこの仕事に消極的であった為、早々に撤退を主張する。

「うむ……」

 リィリィもフィックの言葉が正論だと感じていた。ゴブリンの王が全軍を率いて対峙するなら、自らの手で決着を付けたいということだろう。それを横から攫っても決して良い印象を持たれない。彼女はレシアに忠誠を誓う騎士であると同時に、北部自由都市を治める領主でもある。

 彼女の庇護下に生きる民を危険に晒すことは全力で避けねばならなかった。

「……反対だ。レシア様が戦場に行ったなら、それを追うまで。依頼は未だ終わっていない」

 公然と反対を主張するのはミール・ドラである。レシアに個人的な拘りを持つ彼女は梃子でも動かないと言わんばかりに、フィックを鋭い視線で睨む。

「おいおい、向かっても間に合わないって言っただろ?」

「……向かってみなければ分からない」

 言い争う彼らを交互に見上げ、レオニスが首を傾げた。

「お姫様は塔に居るんじゃないの?」

 指差す先に聳えるのは象牙の塔。ゴブリンの軍勢を迎え撃つ為に全ての兵を南へ差し向け、手薄になっている塔の姿を見上げた彼らは、皆一様に考え込む。

 確かに軍は南へ向かった。

 だが、戦場に聖女を同行させるだろうか?

 士気を高める役割さえ終えれば彼女は用済み。危険な戦場に晒して万が一ゴブリンの手に掛かれば、それこそ連合軍は崩壊する。現場の指揮は老練な将軍などに任せ、彼女は此方で待機しているのではないだろうか?

 情報を集めたいところだが、彼らが入ったオルフェンの街はまるで人気がなかった。誰も彼も冬の到来を恐れるかのように家々に鍵をかけ、外に出ている者は誰も居なかった。

「……確かに、象牙の塔に居る可能性も否定出来ないが」

 フィックはレオニスの発言を歯切れ悪く認めた。

「……可能性があるなら潰すべきだ」

 目を細めたミールは象牙の塔を睨む。外套の奥では得物である鉤爪を装着している。

「そうだな。何の成果も無く帰るようでは、ヨーシュ殿に合わせる顔がない」

 リィリィも同意し、四人は象牙の塔へ向かう。

 最後尾に立つレオニスは、ふと戦場を振り返る。

 赤い光が一条、天から降り注ぐのを見て表情を引き締めた。

「レオニス! 置いていくぞ!」

 リィリィに呼ばれ、朗らかな笑みを取り戻すと彼は3人の後を追っていった。



4月26日誤字脱字修正

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