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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
群雄時代
312/371

黒き太陽の国

 ──クシャイン教徒、シュシュヌ教国に対して宣戦布告。

 この報告は、シュシュヌ教国の宮廷ではそう大きく捉えられなかった。何せブランシェ自ら戦乙女の短剣(ヴァルキュリア)を率いてクシャイン教徒の領内に攻め入っているのだ。彼らからすれば何を今更と言ったところだったのだが、当の戦姫は事の重大さに気付いていた。

 クシャイン教徒という同盟国がやる気になったのなら、ゴブリン側も黙っている筈がない。

 彼女がクシャイン教徒側へ攻め入ったのは、ゴブリン側とさえ同盟を結んでしまえば彼らは泣き寝入りするしかないと読んでの事だ。だが、それが全て悪い方向へと回ってしまった。

 三度殺しても飽きたらないとばかりに外交使節として赴いた者達に怒りを向けたが、今更取り返しがつく訳でもない。

 女皇ミラは政治家である。それも極めて優秀な部類の指導者だ。

 彼女が勝算も無しにシュシュヌへ宣戦布告などする筈がない。とすれば、ゴブリン側との密約は為されていると見ていい。即ち、ゴブリン側は既に態勢を立て直した。

 その戦慄すべき事態に気が付いているのは、戦姫ただ1人である。

 敗戦から僅か1ヶ月で態勢を立て直すなど、シュシュヌ教国でもほぼ不可能である。長らく小国同士の小競り合いか、それの鎮圧くらいしか経験のなかった小国家群とシュシュヌ教国には思いもよらぬ速度であった。

「不愉快な事実に目を瞑ることが出来れば、どれ程良いかのう」

 有り得ないと反論する者達を彼女はそう言って説き伏せ、再び軍備の増強に乗り出す。今度は調略など回りくどい手を使ってくるとは思えない。

 先の戦での引き込んでの殲滅戦。言葉で言えば簡単だが、それを完成させるのにどれだけの準備をせねばならないか。専門外の者達はその苦難を分かろうともしない。

 先の戦では同盟諸国を酷使して歩兵4000と弓兵1000を供出させたが、今度も同じ数を出させねばならない。少なくとも、ゴブリン達が同じ数で攻めてきてくれるなら、だが。

「あろう筈もないのう」

 敵が態々此方に合わせて戦術の妙を競わせに出てくる筈もない。今度は此方に倍する兵力を持って攻めて来ると考えるのが普通だ。時間を稼いだと思っていたが、予想以上の相手の懐の深さにブランシェは歯噛みする思いであった。

 だが、そうは言っても彼女は大国の武門の頂点に立つ女傑である。

 冒険者を傭兵として雇い入れ、訓練を施し、農民を徴兵して兵士として活用せねばならない。相手の兵数が増えるなら、此方も増やさねばどうしようもないのだ。

 ある程度の兵数差は戦術や戦略で埋めることが出来る。

 だが、絶対的な兵数の前ではそれらは無力だ。彼女は小国を威圧する中で物量差による恐怖を覚えていた。

「やはり使わざるを得ないかのう」

 東部の男衆を奴隷として連れ去った彼女は、それでも彼らを使うのに戸惑いを覚えていたが、軽く溜息を吐きながら彼らの使い道を再考せねばならなかった。


◆◇◆


 夏の茹だるような闇の中、街灯の明かりすら届かぬ裏通りに蠢く者達がいる。

 シュシュヌ教国の王都リシューは、昼の猥雑さとは違った面を見せていた。法の国とは言っても万能である筈もなく、法を破るからこそ利益を得ることが出来る者達が居るのも、また事実。

 彼らは夜の住人として、リシューの闇に潜んでいる。

 その住人達にも住人達なりの法がある。表の法とは全く異なる、裏の法。

 それ即ち、力こそが正義である、と。

 その界隈一帯を仕切っているのは麻薬と武器の密売で富を築いたガラロテなる老人だった。でっぷりと肥えた身体に人を信じることをやめた昏い目。金に任せて雇った護衛は達人揃い、という噂だ。

 だが、その屋敷に深夜たった一人で訪う者がいた。

 闇夜から浮き出るような艶のある黒髪。蜂蜜色の肌と露出の多い服は屋敷の明かりに照らされて妖艶に映る。腰に差した細身の曲刀は王都リシューで買い求めたもの。切れ長の瞳は決して笑わず目の前の獲物を狙い、赤い舌は悪魔の囁きを以って甘言を弄ぶ。

「て、てめえ……こんな事をして──」

 ガラロテの前に折り重なるようにして倒れているのは、達人と評判の護衛達だった。

「──あはっ!」

 何が面白かったのか、ヴィネは身を捩るようにして笑う。

 手に下げた刃は人の血と脂に塗れて妖しく光り、まだまだ吸い足りないとばかりに赤い雫が滴る。

「良いかい。よく聞け耄碌爺(もうろくじじい)。アタシはね、提案してるんじゃない。命令してんだ」

 塵を見るよな視線でガラロテを見下ろすと、ヴィネは口元だけを笑みの形にした。

「金ェ、出しなァ!」

 突き付ける刃は既にガラロテの肩口に食い込んでいる。悲鳴を押し殺すガラロテに、ヴィネは押し込んだ刃を左右に動かし尚も笑った。

「我慢しなくて良いんだぜェ? 来た奴は全員仲良く、冥府の女神(アルテーシア)様にお目通りさせてやるからなァ」

 先日シュシュヌ教国の王都リシューに潜入した赫月とソフィアは、早急に塒を見つける必要に迫られていた。心配するソフィアに軽い調子でヴィネは提案する。塵溜めで良いなら当てがあると。

「ヴィネさん?」

 遅れてやって来たソフィアが、当惑したような声を出す。それはそうだろう。

 ちょっと交渉に行ってくる。そう言って出掛けていった結果が、血の海なのだ。

 傷口を抑えて呻き声を上げる老人を足蹴にし、ヴィネは返り血を浴びた顔をソフィアに向ける。

「ああ、嬢ちゃん。来ちゃったのかい」

「ええっと、あの、交渉は?」

「現在真っ最中さ。ねえ、ガラロテェ?」

 足に刃を突き刺され、耳元でヴィネに囁かれた老人は今度こそ悲鳴を上げた。囁く声は艶を含んで妖しく、咽るような血の匂いを含ませていた。

「分かった! た、たすけてくれ! 幾らでも出す!」

 悲鳴を上げて一歩でもヴィネから遠ざかろうとする老人を無視して、ヴィネはソフィアに向き直った。

「ね?」

「……はあ」

 結局、ソフィアの提案で赫月をガラロテの護衛という形で住み込ませ、彼の地盤を拠点として彼らは活動していくことになる。その日から王都リシューでは、奴隷商への強盗事件が頻発することになる。

 治安を預かる衛士達の必死の捜索が行われたが犯人も奪われた商品も杳として行方が知れず、リシューの治安に深刻な不安を投げかける事案となった。


◆◇◆


 戦力の再編を急ぐのはゴブリン側もシュシュヌ教国側も同じだったが、シュシュヌ教国の戦姫の元に不穏な情報が齎される。

「ディスミナとラーマナが兵力供給を拒否?」

 シュシュヌ教国の傘下にある小国からの通達に、彼女は眉を顰める。

「はっ、今度の戦に参戦は出来ぬと」

「……ふむ。足元を見られている、という訳かのう?」

 突然の出兵拒否の報告に、ブランシェは首を傾げる。小国の王を始め主要な者達には根回しをしていた筈だ。考えられるのは新たな後ろ盾が出来た可能性だが……。

「恐れながら、象牙の塔が暗躍している由」

 優男の副官の言葉に、ブランシェは片眉を上げる。

「ほう?」

「官僚達に確認を取ったところ、象牙の塔を中心とした小国の連合を呼びかけているようです」

「規模は?」

「鉄の国や森の国を始め、北方の小国などはかなり靡いているようですね」

 ディスミナとラーマナも北方にある小国だ。十中八九、象牙の塔の影響だろう。

「妾の報復から連合が守ってくれると?」

 目付きが鋭くなるブランシェだったが、副官の言葉に再び考え直さねばならなかった。

「彼らは盟主に聖女を押し立てているようです」

「癒しの女神の加護篤き、聖女レシア・フェル・ジールだったかの?」

「御意」

「第二のクシャイン教など、笑い話にもならぬのう」

 大規模な軍事行動はゴブリンという危険な隣人の為に冒せない。となれば搦め手を使うことになるが、北方に蔓延する象牙の塔への信頼と聖女信仰は一朝一夕でどうにかなるものではない。象牙の塔が新たな盟主として周辺国を巻き込み、シュシュヌに対抗してくる可能性をブランシェは考えずにはいられなかった。

 小国への影響力の行使を競うなど、あまり面白い展開ではない。

 ただでさえ西にはゴブリンがいるのだ。下手な謀略の失敗は、彼らに付け込まれるだけの隙を生み出すことになる。象牙の塔の三塔会議の主催者達を取り込む道も考えたが、彼らの目的が聖女を使っての戦となればシュシュヌが主導するという訳にはいかないだろう。

 結果として主導権を握られる。

 彼らの主張を顧みれば、聖女を頂点とした神権政治にしか見えない。そして聖女を操って音頭を取るのは、象牙の塔の長老達だ。

 下らない。心中で吐き捨てたブランシェは、象牙の塔の考えを読む。

 神の名を騙る輩には不自由しないが、まさか東方最大の“教会”の総大主教を務める者までが更なる権力を求めて俗世に手を伸ばすとは。人の欲とはつくづく際限が無いらしい。

 彼らが聖女信仰を利用して周辺国に連合を持ちかけているのはゴブリンが原因であろう。ただ、狙いは恐らくシュシュヌ教国からの独立を企図したものである筈だ。

 暫く考えた後、ブランシェは小さく呟く。

「……殺してしまうかのう?」

 口元には薄く笑みを浮かべるが、目付きは鋭い。

「金で片がつく者達を当たらせてみますか?」

 軽く手を上げて任せるという意を示すブランシェに頭を下げ、副官は背を向けた。

「さて、肝心の聖女を失って、彼らは何と言ってシュシュヌに対抗するかのう?」

 彼女の命を受け、すぐさま北方の国オルフェンに闇手が差し向けられた。その数3名。たった一人の聖女を暗殺するのにそれ以上は必要ないと考えてのことだ。

 放たれた闇手は日に夜を継いでオルフェンに入り込み、協力者の案内の元、聖女レシアが集まっている軍を慰問している中で襲撃することを決定する。

 小国の鎧姿に身を隠し、隙を伺う闇手達。

 そうして彼女が現れた。

 蒼穹を思わせる髪の色は腰の長さにまで伸びていた。紫紺の宝玉(アメジスト)を思わせる瞳の色はまるで誰か特定の者を映すことがないように全体を見渡す。神の調律を思わせる鼻と口元。

 闇手達であろうと一瞬息を呑む非人間的な美しさを持った女がそこに居た。額に付けた宝冠(ティアラ)は、象牙の塔が唯一認めた聖女としての証でもある。

 ローブの袖から出る腕は、目に焼き付く程に白かった。

 無防備に姿を現す聖女を射程圏内に捉えた途端、彼らは走り出した。その数2人。毒を塗った短剣を手にした闇手達は声を上げる護衛を斬り伏せ、あっという間に聖女に迫る。

 あわや彼女の身に毒の短剣が突き刺さろうかという間際、細身の剣がその行く手を遮る。闇手は驚愕に目を見開き、その剣が守る人物に目を向けた。

 否。細身の剣が中空に浮揚しつつ彼女の身を守っていたのだ。そしてもう一人迫った闇手の前には短剣が浮かび、彼女の周囲を守っていた。誰の手にも寄らないその光景は、何も知らない兵士達からすれば神に祝福された者にしか見えなかっただろう。

 聖女レシア・フェル・ジール。

 非人間じみた美貌の女は、瞬きもしないままにその光景を眺めていた。まるで道を歩む蟻の列を眺めるが如く。必殺の短剣を防がれた闇手は直ぐに態勢を立て直すが、その時には既に彼の胸に深々と細身の長剣が突き刺さっていた。

 彼女の身を守る1対の長剣と短剣。

 血を吹いて倒れる闇手に目をくれることもなく、レシアは天に手を翳す。

母よ、慈しみを(ヒール・オール)

 彼女の周りに浮かぶ魔素が紅玉の煌きを放って地面を染める。

 毒の短剣に切り裂かれた者達が、その苦しみから解放されていく。解毒と治癒の双方を行った彼女は、傷口に触れもせずに傷付いた者達を癒やしたのだ。

 兵士達からは、羨望とも崇拝ともつかない溜息が漏れた。

 ──聖女レシア・フェル・ジールの元に結集すべし! 人間の世界を守る為に!

 北の大地に、聖女レシアを中心とした新たな戦雲が巻き起ころうとしていた。


◆◆◇


 旧ゲルミオン王国歴で233年の夏から秋。戦姫戦役の後、ゴブリンの王は西都総督ヨーシュからの提言という形で国名の制定と首都の決定を行った。

「国としての形が曖昧過ぎです」

「ふむ?」

 ゴブリンの王もプエルも首を傾げることだったが、圧倒的大多数の人間からすればゴブリンの支配が税も安くどうやら安全であると聞いても、今一つ実感が沸かない原因であったのだ。

「どうしても必要か?」

「民を戦に駆り出さない心がけは立派ですが、この国の民であるという意識が有るのと無いのとでは、治安維持の観点からも大きく違います」

「そういうものか?」

 傍らのプエルに問いかけてみても、彼女もこのような人間の心の機微については疎い所がある。戦場での動きは読めても、政治となると苦手な部類であった。

「さて……」

「国名と首都。後は最低限……暦程度は定めていただかないと!」

 どうやら王はこの問題に乗り気ではないらしいと感じたヨーシュは、外堀から埋めることにした。

「プエル殿。今、内政上最大の問題は何だとお考えでしょう?」

「……暴徒達による荒廃からの復興です」

「その通り。特にプエナ・エルレーン・ゲルミオン州区に至っては、その被害も甚大です。彼らの再びの暴徒化を抑え、治安を回復させることこそが急務。その為の第一歩なのです!」

「国名と首都と暦が役に立つと?」

 半信半疑のプエルの質問にも、ヨーシュは胸を張って応える。

「はい。地に足を付けた国作りをする上でも、必ず必要です。民一人一人にこの国の民であるという誇りを持たせる。それが巡り巡って国内の安定を生み出すのです!」

「……確かに、妖精族も誇りを大切にします。己の集落を裏切ることは、余程の事情がない限りありません」

「うむ……」

 不承不承ながら頷いた王は、ヨーシュに押し切られる形で国名を定めねばならなかった。

 内心脂汗を浮かべながらどうしたものかと頭を捻る。勿論、表向きは余裕ある態度を取り繕いながらだが。

「……黒き太陽の国(アルロデナ)で、どうだ?」

「宜しいでしょう。では暦を定めて頂きます」

「う、うむ」

 嘗てゴブリンの王がこれ程までに心を乱したことがあっただろうか? そう思わせる程の動揺ぶりであった。この問題に関しては誰に助けを求める訳にもいかない。

 ゴブリンの名前を付けるのとは違うのだ。いい加減な名を付ける訳にはいかないし、自分のセンスが人とは隔絶しているらしいと薄々気付いているゴブリンの王にしてみれば、拷問に等しい時間であった。

「……王暦とする。ゲルミオン王国を破った年を王暦元年とし、ゲルミオン王国暦を準用せよ」

「はい。それでは最後に首都ですが」

「うむ」

「これはシュシュヌ教国の王都リシューが良いと思います。ですが、今は未だ手に入れていません」

 嘗てこれ程急速に勃興した国家は無い為に、首都を決めるとなると難しい。そして、ゴブリンの王は今後も更に侵略の手を広げていくのだろう。

「仮、という訳ではありませんが、取り敢えずは旧ゲルミオン王国の王都を首都に定められてはいかがでしょう? シュシュヌ教国を攻略された後に遷都するという形で宜しいかと」

 ヨーシュはゴブリンの王が大陸全土を制覇するのを疑っていない。何より、姉のシュメアが協力しているのだから負けてもらっては困る。

 で、あれば大陸全土を制覇した後に首都として最も相応しい場所を選んでも良いと考えていた。暗黒の森にある深淵の砦は魔物を統治するだけなら良いだろうが、平原にまで進出した亜人や人間を統治するのに最適かと問われれば、疑問を持たざるを得ない。

 距離とは、即ち伝達速度である。

 近ければそれだけ情報の伝達速度は早く、遠ければそれだけ情報の伝達速度は遅くなる。問題が発生した時に取れる対処の幅に影響するのだ。故に大陸全土を統一すると考えるなら、大陸の中央にあるシュシュヌ教国辺りが丁度良い。

 平原に囲まれているとは言っても、充分に発展した王都リシューは首都に相応しいだろう。

「では、そのように取り計らってくれ」

「御意。では、首都の名前をお決めになってください」

臨東(ガルム・スー)

「東を臨む、ですか」

 プエルの言葉に、王は頷く。

「宜しいかと」

 一仕事終えたヨーシュは、ではと区切って更に言葉を重ねる。

「建国記念を祝しまして酒宴をいたしましょう」

「何?」

「当然、首都と決まったガルム・スーにおいて王の名の下に民へ酒を配らねばなりません」

「ぬう……」

 王の唸り声を聞きながら、ヨーシュは平然と言う。

「最後までお聞き下さい。聞けばゴブリン達も酒は飲めるとか。王の為に忠誠を励む者達にも、当然下賜して然るべきです」

「だが、今は戦時下だぞ?」

「シュシュヌ教国からここまで、どう馬を飛ばしても3日以上掛かります。それにプエル殿の諜報網も整いつつあるのでしょう?」

 無言の内に頷くプエルに、ヨーシュは頷く。

「ならばご心配には及びません」

「……時には娯楽も必要ということか」

「ご理解頂きありがとうございます。民は安い税収と安全な暮らしを求めております。それは当然のことですが、それのみで生きている訳ではありません」

「……人はパンのみにて生くるにあらず、か」

 無言の内に頭を下げるヨーシュに、ゴブリンの王は深く頷かざるを得なかった。

 王にも少しは息抜きをしろとヨーシュは言いたかったが、それが上手く通じたようで、彼は安堵の息を吐いた。

「良かろう。建国を祝い、首都の民に酒とパンを振る舞おう」

「王、よろしいのですか? 彼らは暴徒となるかもしれない民です」

「問題あるまい。酒が暴徒の発生に影響するというのなら自重せねばならんが、な」

 王の浮かべた笑みに、プエルも少しだけ笑みを浮かべて頷く。

「分かりました。配布する食料の試算をヨーシュ殿に。更に首都の民に王からの恩寵であると知らしめることが必要です。それもヨーシュ殿に。更に全土に国名と暦、更には首都が制定されたことを知らせねばなりません。それもヨーシュ殿にお願いしましょう」

「プ、プエル殿? 私に何か恨みでもあるのでしょうか?」

 顔色を変えるヨーシュに、プエルはこれ以上ないほど穏やかに微笑む。

「いいえ、何も。……敢えて言えば、最近随分とセレナと仲が良いそうですね?」

 ヨーシュがそれらの仕事を全てやり遂げ、ガルム・スーから逃げるように出ていったのは3日後であった。

 

1月16日修正

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