クロムシュトックの会戦
後に陣営地の会戦と呼ばれる戦いは、ゲルミオン王国側が陣営地に到着してから三日目に両軍が対峙するという形で幕を開けた。
毎夜襲撃して来るゴブリンに対して、王太子直属の近衛は良く防御をし、王太子も眠らず任務に当たった。その分、2人の聖騎士ヴァルドーとジゼ、更には貴族軍の士気は弥が上にも高まっている。王太子が自ら得るところの少ない汚れ役を買って出たのだ。これで活躍できねば王太子に顔向け出来ないばかりでなく、無事に国に帰ったとしても親族に合わせる顔がない。
「良いか! ここで奴らを討ち果たせねば、我らは親兄弟に会わせる顔がないッ!」
貴族軍の年配の士官が軍を鼓舞する声に応じて、鬨の声が上がる。
「王太子殿下の献身に対して、少しでも報いる心があるのなら、ゴブリンを殲滅することこそ第一! それなくして何が貴族ぞ!」
ゲルミオン王国側の陣形は両翼に足の速い貴族軍の騎兵を据え、中央には二人の聖騎士が率いる歩兵軍が配置されている。更にその後ろには国王直属の魔法兵団が控え、近衛軍は三列目にて王太子の安全を確保すべく布陣していた。
典型的な三列横隊の陣形だが、それ故に隙が少ない。
隣接する貴族軍の士気の高さを確認して、ヴァルドーは兜の奥から自身の軍に向かって声を張り上げる。
「魔物を駆逐し、王国に安寧を齎すのだ! 誇りと忠誠をッ!」
『誇りと忠誠を!』
ヴァルドーの檄に答えて、後ろに居並ぶ歩兵達が声を上げる。ヴァルドーの率いる歩兵軍は長槍が主流だった西域軍とは様相が異なる。身を隠せる程の長方形の大盾と長剣を装備した彼らは、東部の精鋭部隊であった。
「両隣とも盛り上がっているのである」
ジゼは気勢を挙げる東部軍と貴族軍を横目に己が愛刀を抜くと、麾下の軍勢に向けて声を張り上げた。
「敵の首魁の首を上げたものには報奨を弾む! その他にも高位のゴブリンを仕留めた者には相応の報酬を弾もうぞ! 手柄が欲しい者は命を惜しむな!」
己の武一つで今の地位にいるジゼの言葉は、武功を立てることで手に入る地位と名誉を何よりも雄弁に物語っていた。
「武功をッ!」
『武功を!!』
それぞれの部隊が独自に士気を高揚させると、彼らは一様に目の前の敵を睨んだ。
「……だが、本当にあれがシーヴァラ殿を退けたゴブリンであるか?」
隻眼のジゼは片方しか無い目を眇めてゴブリン達の陣形を眺める。漫然と集まっているという風にしか見えない敵の陣形は、ゲルミオン王国側が軍を進めれば一息に揉み潰せるのではないかと錯覚する。
現に貴族軍の陣からは、進軍を催促する伝令が後衛の王太子イシュタールの元へと走っている。
「油断は禁物であるが……あれが陣として何の意味がある?」
陣形を組むに際して、冒してはならない禁というものがある。整わない陣形と整った陣形で戦えば、当然陣形が整った方が有利であるのは論を待たない。ジゼの目にはゴブリン達の陣形は陣営地から出撃しようとして止まっているようにしか見えなかった。
陣形を組む際の悪手である。
決して時間が無い訳ではない。だが、ゴブリン達はそこから動かないのだ。
「意思疎通が上手くいかないのか、素人なのか。だが、どちらにしても……」
一抹の不安が拭い切れないのは、彼自身がシーヴァラから聞いたゴブリンの強さが原因であった。先日も貴族軍を返り討ちにしたゴブリン達が弱い筈がない。自ら負けを呼び込むような陣形を組むのは、どう考えても不自然である。
疑問を拭えないままに敵陣を睨むジゼに、ゴブリン側の陣が動くのが見えた。
◇◆◆
「敵は気合充分と言ったところだな」
敵の陣形の隙の無さと整然と風にたなびく戦旗の群れ、更には彼らの挙げる気勢を遠目に確認して、弓と矢の軍のラ・ギルミ・フィシガは目を細めた。
「それじゃあ、ちょっと突っ掛けてみようかね」
ギルミの隣に並んだシュメアは、飄々と笑って声を張り上げる。
「一の矢! 出陣!」
ゲルミオン側が整然と陣形を整えているのに対して、ゴブリン側は陣営地の前に陣取っているだけであった。一息に揉み潰せると考えたジゼは流石に一軍を率いる歴戦の将である。隙だらけに見えるのは至極尤もで、ギルミらは布陣すらしていなかったのだ。ガンラ氏族などは陣すら構えていない。陣営地の中に居残ったままである。
シュメアの声に応じて、足の速い亜人の両族長が左右に走り出す。左に牙の一族、右に人馬の一族。彼らは鋒矢の如く疾走する。まるで両羽を広げる鶴のような陣形は鶴翼の陣と呼ばれるもの。
だが、それも中途半端である。本来なら敵を囲い込み、包囲下に置くことを目的とする陣形である筈なのに、突出するのは亜人のみであった。
敵の攻勢を受け止めるべく中央はそのまま動かず、亜人の両翼のみが半円を描きながらゲルミオン王国側に迫っていくのである。
敵が迫って来ている以上、対処をしなければならない。ゲルミオン王国側はゴブリン側の動きに疑問を覚えながらも、至極常識的かつ的確に動いた。三列横陣に構えた両端の騎馬隊を亜人の迎撃に向かわせたのだ。
迫る両軍の翼同士が距離を詰める。貴族を主体として構成されたゲルミオン王国の騎馬隊は、その装備の質において大きくゴブリン側を上回っていた。上質な鉄製の武具と、その重量に耐えられる屈強な騎馬。軍馬として育成されたそれらは、草原の国シュシュヌ教国から買い求めたものである。
対して、亜人の装備は狩猟用の弓と矢。牙の一族に至っては素手である。
人馬の一族の放つ矢を丸盾で防ぎ止めると、勢いを殺さぬままに突撃槍を構える。ゲルミオン王国の貴族は、総じて勇敢な者が多い。武の国として近隣にその名を鳴り響かせるゲルミオン王国は聖騎士という突出した存在ばかりが目立っているが、軍事力の根底を支えているのは名も無き兵士であり、自ら軍務に志願する貴族達であった。
また、騎馬兵を育てるには相応の時間と金が掛かる。嘗て西域の領主であったゴーウェン・ラニードは平民出身のコルセオを自らの片腕とし騎馬隊を率いさせていたが、それは例外的なものである。基本的に幼少の頃から騎馬兵の訓練を受けることの出来る身分の者達の中で、更に騎馬兵となる装備を購入できる経済的な余裕のある者が騎馬兵となり、戦場に投入されるのが常だった。
よって、必然的にゲルミオン王国で騎馬兵となるのは貴族出身の者達なのである。
「突撃態勢!」
軍馬の馬蹄が大地を踏み締める。濛々と上がる土煙を蹴散らし、一塊になってゲルミオン王国の若手貴族達は亜人達に向けて突撃態勢をとる。
「反転! 反転だ!!」
あわや軍勢同士がぶつかり合うかと思われた瞬間、亜人達が反転。急速に騎馬兵から離れようとしていた。息を詰めて成り行きを見守っていたゲルミオン王国側は、突然の反転に疑問の声を漏らす。だが、ゲルミオン王国側が有利になったのは事実である。
「陣営地に撤退しろ!」
中途半端な位置に布陣していたゴブリンの軍勢は陣営地に退いている。戦わずして陣営地に撤退するゴブリン達に、ゲルミオン王国側は戸惑いを覚える者と復讐の念を燃やす者とに分かれた。
前者は経験豊富な聖騎士達と旗下の兵であり、後者は先の戦で敗北を味わった貴族達である。背中を見せるゴブリン達に、今こそ追撃の機会であると王太子の指示を待たずに前進する。
「……逸ったか」
苦々しく吐き捨てた聖騎士ヴァルドーだったが、さりとてそのまま動かない訳にもいかない。全体の大勢を見れば、撤退中のゴブリン側とそれを陣形も崩さず追撃出来るゲルミオン王国側という図式なのだ。確かに好機ではある。
「うぬ……行くしか無いであるな」
貴族軍とヴァルドー軍が動き始めるのと同時に、隻眼のジゼの軍勢も動き出す。両隣が動いているのだから、呼吸を合わせてゴブリンを追撃すべきだと判断を下したのだ。続いて魔法兵団と王太子を守る近衛も動き出す。
小走りで戦列を整えつつ、追撃態勢に移ったゲルミオン王国軍。
それを脇目に、騎馬兵達は亜人達の背中を追っていた。突然目の前で反転した亜人達の背中に突撃槍を突き立てようと、彼らは軍馬を駆る。亜人達にとって幸運だったのは、騎馬兵を構成しているのが年若い貴族の子弟だったことだろう。
貴族の子弟を補佐する為に熟練の騎馬兵も混じってはいるが、あくまで少数である。武功を立てることに躍起になった若い騎馬兵達は我武者羅に亜人の背を追う。
気がつけば彼らは主力から大きく引き離され、陣営地の前にまで迫っていた。
「このまま奴らの陣営地を抜くぞ! 遅れるな!」
先頭を走る騎馬兵の突撃槍が最後尾の亜人の背中を捉えようとしたまさにその時、彼の軍馬が悲鳴を上げて倒れる。
「ぬ、あ!?」
突如乱れる軍馬の脚。眉間に突き立つ一本の矢。
勢い余って前方に投げ出された騎馬兵の目が、回転する視界に降り注ぐ矢の雨を捉えた。
「射殺せ! 鉱石の末達を殺させるな!」
自ら弓を取るガンラの英雄ギルミに、氏族のゴブリン達が続く。所々に柵が設けてあり、ほぼ一直線にしか進めない道を亜人と騎馬兵は殆ど離れずに走ってくる。そこへガンラの弓兵達が、弓の腕を競うかのように矢の雨を放ったのだ。
「怯むなッ!」
だが、混乱を来たすと思われたゲルミオンの騎馬兵は蛮勇を発揮して矢の雨の中を突き進む。亜人達の誘導経路がほぼ直線であった為に、意図せず騎馬兵達の選択肢を捨て身の突撃に限定してしまったのだ。熟練の騎馬兵達は逃げ道が無いことを瞬時に悟り、貴族の子弟達は目の前の獲物を追いかけるのに必死である。
彼らの生きる道は亜人に追い付き、その背中に突撃槍を突き入れつつ陣営地を突破するしか無いのだ。
「騎馬兵が離れませんよ!?」
ブイの悲鳴じみた声に、シュメアは毅然と指示を下す。
「門を閉めるな! 開け放っちまいな!」
騎馬兵を引き付ける囮となった亜人達の収容の為に、陣営地の門は開け放たれている。本来ならもっと距離を開けて騎馬兵を誘導する筈だったのだ。
開け放たれた門に亜人達が入り、続いて門を閉める間も無く騎馬兵達が雪崩れ込む。
「ギ・ズー殿!」
射撃に集中していたギルミが、陣営地の中に入った騎馬兵を認める。目の前の敵兵に矢を射かけながら、後ろも見ずにギ・ズーを呼ぶ。
「任せろ! 行くぞ、野郎ども!」
ギ・ズー・ルオ配下の武闘派ゴブリン達が、号令に合わせて吠える。各々が得物を振りかざし、陣営地に入り込んで来た騎馬兵達に襲い掛かった。
陣営地の中は、一瞬にして血飛沫と怒号の飛び交う戦場と化した。
騎馬兵の誘導に成功したゴブリン側であったが、大勢は未だ五分五分である。騎馬兵が引き込まれた事を悟った聖騎士ヴァルドーが、東部の最精鋭たる自身の歩兵に突撃を命じたのだ。
「続け! 味方を見殺しにするな!」
先頭に立つヴァルドーの両手には由来となった双剣が握られている。軽装で歩兵と共に走るヴァルドーの勇姿は、自然と軍の士気を上げた。更に、それに引き摺られるように貴族軍と隻眼のジゼの南方軍も速度を上げる。
「進めェ! ゴブリンどもを駆逐しろ!」
勇猛な騎士が先頭に立ち、歩兵の士気を上げるが、シュメアとギルミはそれをこそ待っていた。
「出たぞ、アレだ!」
彼らが今回の戦で最も危惧していた展開。
聖騎士を先頭に立てた突撃である。並みの兵士では聖騎士相手に1合も交えられず斬り伏せられ、そのまま陣形ごと切り裂かれる。ギルミやシュメアやギ・ズー。この中の誰が立ち塞がっても、結果は大して変わらないだろう。そう判断した彼らは、聖騎士への対策を極めて重点的に施していた。
「俺の矢に続け! 集中射撃!」
ガンラの英雄ギルミの声と共に矢が空を駆け、先頭に立つヴァルドーに集中する。だが、聖騎士は矢で射られて倒れるような凡百の存在ではない。降り注ぐ矢の雨を物ともせず、自身の体に触れそうになるものだけ叩き落としていく。聖騎士の実力の一端を見せつけるヴァルドーの進軍は止まらない。
若干速度を落としながらも、ヴァルドー率いる東部軍は着実に陣営地に迫っていた。また、そうなれば当然他の歩兵軍が先行する形になる。
隻眼のジゼ率いる南方軍と貴族軍が、東部軍を追い越すように前に出る。
「化け物め! 矢の雨を凌いでいる」
ギルミが忌々しそうに舌打ちするが、敵には若干の焦りがある。
「シュメア殿!」
「分かってるって! 全軍後退だ! 後退!」
陣営地に引き込んだ騎馬兵を軍としての行動が不可能な程に損耗を与えると、ゴブリンの軍勢はすぐさま後退を開始する。
「くそっ! 俺が相手してやるぜ!」
「ヴェド! 退くぞ!」
ギ・ズー配下のノーブル級ゴブリン、ズー・ヴェドがいきり立って後退を不服とするが、近くに居たギ・ズーはそれを許さず、ヴェドの首根を掴んで後退させる。
「……此方も退くぞ!」
シュメアがゴブリンの軍勢の主力を率いて後退していくのを見届けると、ギルミもまた後退を始める。中空で吹き荒れる風の魔法が矢の軌道を狂わせ、真面に命中しないのだ。更に、接近してきた魔法兵団の攻撃が陣営地に向かって降り注いでくる。
いくらか巻き添えになったガンラ氏族のゴブリン達を確認すると、ギルミはすぐさま後退を指示した。先行する南方軍と貴族軍が陣営地の外側に迫るが、彼らの前にはギルミ達によって日に夜を継いで作られた罠の群れが立ち塞がる。
「おのれぇ! 小癪な!」
落とし穴を飛び越えながら貴族達が唸るが、どうしても突撃の速度は落ちてしまう。
「……成程。敵は此方を引き込みたいのであるな」
罠を素早く避けながら、ジゼはゴブリン側の意図を正確に読み取っていた。
「ならば!」
一気に速度を上げる。
「付いてこれない者は、罠を避けながら進め!」
ジゼは超人的な身体能力で加速する。一足で歩兵の十歩もの距離を飛び越え、単身で駆けていく。その姿に、ギルミは声を枯らして後退を叫ぶ。
「温いわ!」
前を塞ぐ柵を一撃で切り裂き、開け放たれた門を突破する。目の前には先程の戦いで死屍累々の騎馬兵達の姿。それに一瞥をくれると、すぐさま敵を求めて陣営地を突き進む。逃げ遅れたゴブリンや傷を負った人間や亜人。彼の前に立ち塞がる者は全て一刀の下に斬り捨て、ジゼは敵の首魁を探し求めた。
幾つかの門を突破した後、ジゼは広場のような空間に出る。
そして、そこで巨大な魔物の姿を認めた。
「ぬ、敵はゴブリンと聞いたが」
「ブルゥゥオオオオォォオオォアァァ!!!」
禁断の果実を口にし、蛮勇の王と化したブイが咆哮を上げる。手にしているのは人間では扱えない、柱の如き大鉄槍。空気を押し潰しながら振るわれる大槍がジゼに襲い掛かるが、その一撃は地面に突き刺さるに留まった。
「──やはりゴブリンも居るか!」
躱しざまにブイの首を狙って斬撃を放とうとしたジゼに向かって、ギルミの正確無比な一矢が放たれていた。ギルミの矢を払い落とし、悠々とブイの大鉄槍を避ける。
「魔物が連携とは恐れ入る。だが、拙者を殺すには些か足りぬな」
隻眼の聖騎士の顔には闘争を楽しむ獰猛な笑みが浮かんでいた。ジゼは己の位置と矢の放たれた方向から、大体のギルミの位置を推測する。この広場全体を狙える場所は無数にあるが、姿を見せずに狙うという条件が付くなら当て嵌まる場所は意外と少ない。
再び振るわれるブイの大鉄槍。
土煙を巻き上げ、触れる物全てを打ち壊す脅威的な一撃をジゼは悠々と避けた。ギルミが潜んでいると思われる方向に視線を注ぎつつ、ブイの体を盾にするように立ち回る。
「如何に破壊力があろうと、当たらなければ意味は無い!」
一閃。
ジゼの刃がブイの腕を傷付ける。手から肩に掛けての斬撃は、一拍の間を置いてブイの極太の腕から血飛沫を吹き出させる。だが、ブイはそれを意に介さず再び大鉄槍を振るう。
「うぬ、並のオークならば動けぬ程の一撃だった筈であるが……」
筋肉の鎧を纏ったブイの体は、ジゼをして一撃で勝負を決めることが困難なまでに頑強であった。
「長引けば不利か」
ジゼは魔物の身体能力を甘く見てはいない。嘗てゲルミオン王国ではオークの狂化によって大きな被害が出たことは知っている。首を斬られ、頭を失って尚走り続けるオーク達への恐怖が、当時の人々の記録と共に残っている。
「ゴブリンには及ばぬものの、それなりの報奨にはなろう!」
ブイの大鉄槍を難なく避け、胴体を切り裂く。
「これでも、未だ浅いか」
噴き出る血潮を冷然と観察し、ジゼは更に斬撃を見舞う。肩口から胸に掛けて刻まれた傷は、ブイの纏う筋肉の鎧によって強引に塞がれ、血を止められる。
「やはり、首か?」
獲物を隙を窺う狩人の視線で、ジゼがブイの首を狙う。瞬きする間に三閃。ブイを血達磨にしたジゼは、動きの鈍ってきたブイの様子を油断なく眺める。ゆらりと音も無く動き出そうとしたジゼに向かって、再び矢が放たれる。
「煩わしい」
一旦距離を開けたジゼの視界に、巨躯のゴブリンが姿を見せる。
「間に合ったか!」
ブイには及ぶべくもないが、太い鉄槍をぐるりと回し、ギ・ズー・ルオは猛々しく笑う。
「……ふむ。三匹目か。どいつもこいつも、全て我が手柄首としてくれん!」
隻眼の聖騎士が、悪鬼もかくやという壮絶な笑みを浮かべた。