ザイルドゥークの進撃
双頭の獣と斧を掲げるギ・ギーは、忍び寄る刃のギ・ジー・アルシルと軍を率いるギ・ヂー・ユーブを補佐につけ、その陣容に厚みを増していた。魔獣軍がゴブリンだけで凡そ300。その内、レア級以上が20匹程。ギ・ジー・アルシルの暗殺部隊が100で、レア級以上は居ない。ギ・ヂー・ユーブのレギオルが500で、レア級以上のゴブリンは40程である。
「人間との同盟、利用しない手はない」
元々仲の良いギ・ジーとギ・ギーの間でそのような会話がなされたのは、ギ・ジーが前々からオークとの協調を主張しており、今回はそれを人間との同盟に当てはめてみようと考えたからである。ギ・ヂーにしても人間と共闘すれば彼らの戦術を学べるので、その決定に否はなかった。
「人間の戦術。我が君ともプエル殿とも違ったものなのでしょう……! 楽しみです」
ギ・ヂー・ユーブのレギオルを先頭としたゴブリン達は、ファティナ方面攻略を前にクルディティアンへと使者を出していた。
同盟には、幾つかの段階がある。
お互いの領土に攻め入らないという相互不可侵同盟や攻守を共同する攻守同盟など。当然ながら前者の方が互いの依存度は低く、攻守同盟になれば一蓮托生と言っても良い間柄だ。ゴブリンの王と女皇ミラ・ヴィ・バーネンとの間で結ばれたのは、相互不可侵同盟である。
だが、そんな細かなことがギ・ギー達には判る筈もない。
ゴブリンの王もクシャイン教徒とは同盟関係になったと簡単に言ってのけ、詳細について語らなかったので、彼らにばかり非がある訳でもなかったが。
その為、共同で攻めようと持ちかけられたクシャイン教徒側は頭を痛める事になる。ゴブリン側からの共闘の申し出である。落ちぶれた赤の王の残党相手なら、クシャイン教徒だけでも倒せぬことはないのだ。だが、如何に若く才気溢れるヴィラン・ド・ズールといえども、相応の損害を覚悟せねばならない相手でもあった。
ファティナは元々クシャイン教徒の領土であり、赤の王に奪われたという過去の経緯もある。クシャイン教徒側の内実は、ミラの内政の手腕と包囲が解かれたことによる防衛の負担の減少で、やっと余裕が産まれて来たところだった。
次に戦を仕掛けるならファティナであると、軍内部で密かに議論が進められていたところにゴブリン側からの打診である。渡りに船とはこの事であった。それでも二の足を踏むのは、ゴブリンの王と約した筈の同盟の内容を変更する必要があったからだった。
ゴブリン側からの共同出兵にどう応じるか? クシャイン教徒側にとって非常に難しい問題だった。何より、未だ軍事力はゴブリン側の方がかなり大きい。そこからの出兵要請を簡単に断ってしまっていいのだろうかという問題も在る。
反ゴブリン側の人間は、やはりゴブリンには同盟の意義さえ分かっておらんと息巻き、逆に親ゴブリン側の人間は、勢いを衰えさせること無く勢力拡大に励むべきだと主張する。
喧々囂々の議論の末に、ミラは出兵の結論を下す。
「あくまでも特例として、ゴブリン側に貸しを作っておきましょう」
強かな政治家の顔を覗かせた少女は、悠然と微笑んで自身の最高の手札を切る。
つまり軍師ヴィラン・ド・ズールに同盟軍を率いさせて向かわせたのだ。その手勢は歩兵3000に少数の騎兵部隊。彼らの役割はゴブリン軍の補助とファティナの奪還である。
ファティナの穀倉地帯は、南方の胃袋を満たす重要な土地である。
これが手元に有れば、ゴブリン側に対して大きく優位に立つことが出来る。その為には、この戦で確実に戦果を得なければならない。
ミラはゴブリンの王へと使者を走らせ、戦果の分配についての確約を取るべく動いていた。寝室に戻るとヴィランを呼び寄せ、枕を抱き寄せながら質問する。
「ねえ、ヴィル。やっぱり英雄って必要だと思わない?」
「はぁ?」
彼女の瞳は夢見る少女のようである。その瞳の妖しい輝きに、ヴィランは過去の無理難題とトラウマになりかねない所業の数々を思い出し、背中に冷や汗をかいた。
「気のない返事ね。ほら、聖女の隣に並ぶのは英雄とかじゃないと釣り合いが取れないと思うのよ」
「姫様、何のお話でしょうか……?」
「というわけでね、ちょっと英雄になってきてくれないかな?」
「む、無茶を仰らないで下さい!? そもそも英雄とは、成ろうと思って成れるものでは……!」
「ヴィル。立場は人を作る。これは古くから伝わる至言だと聞いたわ」
「それを言った人は、そんな意味で言ったのではないと思いますが……」
「ま、取り敢えず名将辺りから始めましょ。今度交渉に行く時にゴブリン達へ吹き込んでおくから、しっかりね!」
「は、はぁ……」
過去の体験から、ミラが人の話を聞かない時はどう足掻いても無駄だと学習しているヴィランは、黙って頭を垂れた。
敗戦には英雄が必要である。
ゴブリンとの同盟やミラの巧みな演出によってクシャイン教徒達は気付いていないが、今回の南方争覇戦、クシャイン教徒の戦歴は殆どが敗戦であった。聖戦という禁忌まで冒して奪い取ったファティナは赤の王に奪われ、手を伸ばしていた辺境領域はゴブリン達に掻っ攫われた。
領土を失い、周辺諸国からの信用は無いに等しい。
唯一の戦果は勝利者となりつつあるゴブリンとの同盟だが、それもゴブリンの王が同盟を組む価値無しと断ずれば、すぐさま決裂するだろう薄氷の関係である。
その状況を少しでも挽回すべく、ミラは英雄を欲していた。そして、その白羽の矢が彼女の最も信頼する武官に突き立つのは当然と言えば当然だった。
エルレーン王国軍を撃破し、敗れはしたものの南方を席巻した赤の王の軍師と渡り合い、更には長きに渡る籠城戦を戦い抜いた若者。そして彼は聖女の信頼厚い軍師でもあるという。
英雄や名将という偶像の下地としては十分過ぎる経歴だった。
その存在が軍の士気を上げる。その名が民の敗戦の傷跡を癒し、誇りを取り戻させる。
ゴブリン側から持ちかけられた共同戦線。これは敗戦からの復興を必要とするクシャイン教徒軍にとって、喉から手が出る程欲しかった復活の機会である。
本来ここまでヴィランに話す筈だったが、乙女特有の茶目っ気が彼女の政治家の部分と少女の部分を曖昧にしてしまった結果、ヴィランの困る顔が見たいという欲望だけが頭を擡げてしまった。結果として、先のような会話となる。
それでもミラは、ヴィランなら何とかしてくれるという甘えを自覚しつつも、その心地良さに酔いしれるのだった。
◆◆◆
対する赤の王側だったが、その旗頭となったのはギ・バーを討ち取ったサーディンである。赤の王生え抜きの冒険者達を引き連れてメルギオンから撤退し、更にエルレーン王国からの撤退でも断固としてファティナに戻ることを主張して今に至っている。
「兵数はどれ程残ってる?」
嘗てはブランディカが座っていた玉座に腰掛けたサーディンは、不機嫌そうに副官に確認する。
「精々3000程……ですかね」
サーディンは鼻を鳴らして腕を組む。当初ファティナに逃げ込んだ赤の王勢力だったが、日増しに悪くなる状況に逃亡者が相次ぐことになる。サーディンもそれを止めようとしなかった為、一時は5000程も居た兵力は3000にまで減っていた。
「盟主の偉大さが判るってもんだな?」
「そりゃあ、まぁ……」
口元を歪めて苦笑する副官に、サーディンは表情を改める。今、玉座の間には往時の何十分の一かに減ってしまったとはいえ、古くから赤の王に参加していた血盟の盟主や軍の指揮官などが集まっていた。
「いよいよ年貢の納め時ってやつなんだろうが、生憎と俺は往生際が悪くてな」
玉座から立ち上がると、腰の長剣の柄頭に手を置く。
「俺はこんな所で死ぬ気は毛頭ねえ。お前らはどうだ?」
誰もが不敵な面構えをした彼らは、生きることを諦めている様子など微塵も無かった。
「だが、ここまで来た以上、戦の流れってやつは簡単には覆らんだろう。だから、俺達は一度負けなきゃならん。負けて奴らの目を眩ます必要がある」
ブランディカに夢を見た者。カーリオンに理想を見出した者。血盟員達の力強さに惹かれた者。そのような者達が去り、今の赤の王はサーディンと共に生きることを選択した者達しか残っていない。
ブランディカ亡き後、サーディンは暫し呆然自失となったが、それでも立ち直れたのは生来のしぶとさ故だった。最早彼の上には誰も存在せず、彼自身が盟主として血盟を率いねばならなかった。
「ファティナを落ち延びるってことですね?」
「ああ。一度東部に逃げる。そこで再起を図ることになるな」
小国家が乱立する東部なら赤の王が生き残る活路があると見たサーディンは、南部を見限った。それはブランディカとカーリオンの描いた夢の終焉である。赤の王が再起を図るとしても、それは東部を中心としてのものになる。
だが、このままファティナをゴブリン達に渡すのは何とも気分が悪かった。
「城内に引き込んで奴らの面に一撃を加える。その後に離脱する」
野戦でのゴブリン達の強さは嫌という程味わった。狭い区域に引き込んでの市街地戦なら、工夫次第で幾らでもゴブリンを苦しめられる。
「態々危険を冒すんで?」
「ふん、このまま逃げ出したんじゃ気分が悪いからな! ゴブリン共に文明人の戦い方ってのを教えてやるぜ!」
元盗賊のサーディンの軽口に、玉座の間に集まった者達が笑う。
「撤退目標は鉄の国エルファのハルアンセだ! 分かったか野郎ども!」
「応!」
会議を終了した彼らは、荷造りと戦の準備を進めていく。
サーディン自身も部屋に戻ると、そこで待っていた人物に声を掛ける。
「聞こえてただろう? 俺は逃げる。お前はどうすんだ?」
「……ふん。私に、最早戦う理由は無いからな」
剣舞士セーレ。カーリオンの遺体を故郷へ届けた後、彼女はサーディンがファティナに戻っていると聞いて訪ねて来ていた。
「好きにすりゃいい。赤の王は盟主とカーリオンがいてこそだった。俺には荷が勝ち過ぎるし、他の誰でもそうだろうよ」
「……そう、だな」
「そうか……。それとな、母親の面した奴が戦場なんぞに出てくるんじゃねえ」
「……っ、知っていたのか?」
「俺も木の股から生まれてきた訳じゃねえからな」
互いに沈黙が降りる。サーディンは誰の子かとは聞かなかったし、セーレも敢えて口に出そうとはしなかった。
「そろそろ行く」
沈黙を破ったのはセーレだった。
「ああ。……金庫番の野郎を覚えてるか? 後で俺からも言っとくから、顔出して幾らか持ってけ。餞別だ」
「……感謝する」
去っていくセーレの背中を見送ると、サーディンは軽く頭を振る。
「ったく、こういう時、俺って奴はどうも意気地が無くていけねえぜ」
サーディンは迎撃の準備を整えながら、独り呟いた。
◇◆◆
ファティナの城壁は高く厚い。嘗てカーリオンが攻城戦を嫌ったように、並大抵のことで崩せる城壁ではなかった。更に言えば最盛期よりも減ったとはいえ、人口は30万を数える。その人数が丸々全て入る城壁の長さたるや、小さな山を一つ囲い込むが如き様相だった。
だが、それでも防衛側にも欠点はある。
防衛する為の人数が圧倒的に足りないのだ。ファティナを防衛する為には最低限でも一万程度の兵力が必要であり、それらを前提とした防衛機能が備わっていた。
つまり、このままでは防衛機能は殆ど使えない。民衆を徴兵するという案もあったが、サーディンはそれを一蹴した。
「邪魔なだけだ。足手纏いを抱えながらじゃあ、逃げられるもんも逃げられねえぜ」
普通なら城壁の上に兵を並ばせて投石や弓矢を使って敵を迎撃するものだが、サーディンはそれらを一切せず斥候兵だけを置いた。敵がどの方向から攻めてくるか、それさえ分かれば良いのだ。
「大将! 奴ら南から攻めてくるようです」
「数は?」
「確認出来るだけで4000程かと」
「くれぐれも、丁重に歓迎してやれ!」
「応!」
街の至る所に防御柵を作り、迎え撃つ構えのサーディンらファティナ軍。対してゴブリンとクルディティアンの共同軍は、堅実な手段を以ってファティナを攻め落とそうとしていた。
即ち、攻城兵器の大量使用である。
「おお! これが噂に聞く人間の兵器か!」
ギ・ヂーは興味深そうに投石機の周りをグルグルと歩きながら、その巨大な兵器を眺める。
「ゴブリン殿は兵器に興味があるのですか」
急遽クルディティアンから大型の荷馬車を作成して資材を大量に運んだヴィランは組み立てた技師達を労いながら、その合間を縫ってギ・ヂーに声を掛けた。
「貴方がクルディティアンの名将、ヴィラン殿ですな!? ギ・ヂー・ユーブと申します。以後、お見知り置きを!」
手を握らんばかりに詰め寄ってくるギ・ヂーに、ヴィランは困惑気味に頷いた。
「え、ええ。宜しくお願いします……。しかし、名将などと。僕はしがない武官に過ぎません」
「ご謙遜を。それよりも、この兵器はどのように動かすのでしょう?」
玩具を見つけた子供のようにヴィランよりも余程迫力のあるゴブリンが迫ってくるのは、彼の心臓に良くなかった。つい半年前まで敵対していた仲である。
「このハンドルを回し、綱の反動によって石を城壁にぶつけるのを主目的とするものです」
「では、あれは!?」
ギ・ヂーの指差す方向に視線を向けたヴィランは頷く。
「ああ、あれは破城槌です。あの屋根で頭上からの攻撃を防ぎ、あの大きな杖を突くことによって敵の城壁を破るものですね」
「ふむ……。何とも想像がつかない兵器だ。ガンラの氏族達で作れぬものだろうか?」
アリエスを触りながら独り言ちるギ・ヂーの様子に、当初は気を張っていたヴィランも、徐々に緊張が解れていくのを感じていた。
その隙を見計らった訳ではないだろうが、突如ヴィランの後ろに巨大な影が二つ差す。
「流石は人間の軍師殿」
「見事なものだ。これは是非、活躍してもらわねば」
「え、え!?」
ヴィランが口を開く前にギ・ギーとギ・ジーはヴィランの両脇を抱えると、驚く彼を他所に会議を行うの為の幕舎へ入っていく。ヴィランの身体を確と掴むその力は、とても人間が対抗出来る類いのものではなかった。
「ギ・ヂー! 兵器の見物はその辺にしておけ! 会議をするぞ!」
「え!?」
「了解しました、ギ・ギー殿にギ・ジー殿! ヴィラン殿! 名将と名高い貴方の策、学ばせて頂きます!」
駆け寄ってくるギ・ヂー。
「さあ、ヴィラン殿! 一緒にあの街を落としましょうぞ!」
「いや、僕らは援軍で……」
「何々、ご謙遜なさらず!」
「いえ、あの、そういう訳ではなく!」
「はっはっはっは」
ギ・ギーの笑い声に、ヴィランの背中に嫌な汗が伝う。
「はっはっはっは」
ギ・ジーの笑い声に、ヴィランの悪寒は増していくばかりだった。
結局、ギ・ヂーの期待の眼差しに晒されたヴィランは大規模な作戦を立てざるを得ず、ギ・ギーとギ・ジーに利用されるという形で指揮を任せられてしまった。
◆◆◆
投石機から射出された石塊が城壁に激突する度、地震のような衝撃が都市を揺らす。その援護の下、ゴブリン達がアリエスを突き出して城門の破壊に勤しんでいた。
「……反撃がありませんね」
「そのようですな」
ヴィランがその様子を不審げに眺めて呟くと、ギ・ギーはさして考えもせず同意の頷きを返す。
「敵は何を考えているのか」
「まぁ、分からんことを考えても仕方あるまい。おお、そろそろ城門が壊れるな」
ギ・ジーの言葉に、ヴィランは溜息をつきながら確かにそうだと思い直す。攻めているのは此方で、攻撃は順調そのもの。だが、先の戦でカーリオンに手痛い反撃を食らっているヴィランは、敵が何か特別な策を弄してくるのではないかと疑ってしまうのだ。
「魔獣を都市の中に入れて尖兵とするか」
「だが、それでは兵以外も襲ってしまうだろう?」
「その時はその時だ。戦に被害は付き物」
「まぁ、それもそうか」
ギ・ギーとギ・ジーの間で交わされる会話に、ヴィランは内心で頭を抱えながら提言する。
「待ってください! それは好ましくありません」
「ふむ、何故かな軍師殿?」
そのあまりにも無邪気な問いに、若き軍師は頭痛を覚えた。
「今後の統治に影響を及ぼすからです」
「そんなものか?」
「さあ?」
互いに顔を見合わせて首を傾げるギ・ギーとギ・ジー。彼ら2匹は、統治に関しては全く興味を抱けないでいた。そんな面倒は、それこそ人間か妖精族にでも任せてしまえばいいとすら考えている。
「ギ・ヂー殿のレギオルと僕らの軍勢で都市内を制圧します」
「ふむ、軍師殿がどうしてもと言うのなら」
「どうしてもと言うのなら、仕方がないな」
困惑しつつも頷く2匹の様子にヴィランは若干気が遠くなりかけたが、強引に彼らを説得して指揮を執るべく最前線に向かう。
「だが、そうなると魔獣軍を使う機会が無いな」
「何、敵が籠っているなら逃げ出す筈だ。その時が出番だろう」
気楽に言うギ・ジーの言葉に、ギ・ギーは深く頷いた。
「流石は、我が友!」
「そうだろう!? はははは!」
笑い合う2匹の悪魔の声を聞きながら、ヴィランは都市内部の戦に向かった。
◇◆◆
結局のところ、市街地戦は篭もるサーディン達の頑強な抵抗と損害を嫌うヴィランの堅実な攻めにより10日も掛かってしまう。だがそれでも、被害を最小限に減らした戦い方はファティナの民と彼の部下であるクシャイン教徒達から賞賛をもって迎えられることとなった。
逃げ出した赤の王を追撃する為、ギ・ギーの魔獣軍とギ・ジーの暗殺部隊が繰り出され、僅か半日の追撃戦で10日掛かった市街地戦と同程度の戦果を挙げた。
悪魔のようなゴブリン2匹が笑い合う様にヴィランは引き攣った笑みを浮かべるが、彼の献身は思わぬ所で報われることになる。
ファティナの戦の詳細を聞いたゴブリンの王は、顔を顰めながらファティナの統治をクシャイン教徒に任せると宣言したのだ。ただし、そこで生産される食糧及び税金を優先的にゴブリン側に流す事を条件にして。更に補給の為の基地の建設や攻城兵器などの技師の派遣など、幾つかの条件は付けたもののファティナ自体はクシャイン教徒へ投げ渡したと言って良い。
これはギ・ヂー・ユーブの証言を元に作成した戦果報告書を読んだゴブリンの王が、ギ・ギーに人間の大都市の統治を任せるのは未だ早いと判断した結果である。
その情報はヴィランの預かり知らぬ内にミラの元に届けられ、彼女を始めとしたクシャイン教徒上層部を狂喜乱舞させる。最悪でも何かしらの利権を取れれば御の字と考えていた予想の更に上を行く戦果を齎したヴィランの大活躍。
それにも況して部下の被害を殆ど出さなかった彼の戦術は、クルディティアンへと戻った彼に絶賛の嵐という衝撃となって襲い掛かってきた。
クルディティアンの城門まで出迎えた女皇ミラの歓待に始まり、その頬に口付けを受けるという快挙まで成し遂げた彼は、作られた虚名に見合う実力を付ける為、邁進していくことになる。
そしてミラは、ヴィランに更なる無理難題を課そうと虎視眈々と機会を伺っていた。
一方、ファティナの統治権を人間に奪われたギ・ギーだったが、面倒が無くて良いとギ・ジーと共に笑い合った。
「流石は我らの王だ! 我らの望むことを、言わんでも理解してくれている!」
「その通り! 偉大なるかな、我らが王よ!」
ファティナの領主館には、クシャイン教徒の旗と並び双頭の獣と斧が翻っていた。
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