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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
王の帰還
27/371

灰色狼Ⅲ

【種族】ゴブリン

【レベル】26

【階級】デューク・群れの主

【保有スキル】《群れの統率者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B−》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》《三度の詠唱》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死

【従属魔】コボルト(Lv9)

【状態異常】《聖女の魅了》



 ドルイドを交えた三匹一組(スリーマンセル)の戦い方を、群れ全体に慣らして行き、同時に俺は灰色狼に勝つ術を探すべく、ギ・ザーに魔法のイロハについて教わっていた。

 レシアについては、だいぶ懲りた。

 しばらく姿を見せないと思ったら、ふらふらと戻ってきたコボルトに目をつける。

 乾燥させた肉を取り出すと、コボルトの前で振ってやる。

 尻尾を千切れんばかりに振って興味を示すそれを、レシアの牢屋めがけて投げてやれば、コボルトはまっすぐそれを追ってレシアの牢屋の中に突っ込んでいく。

 ふっ……寝不足のお礼だ。受け取れ。

 リィリィの悲鳴なんかが聞こえてくるが無視だ無視。

「大人げないな」

 ギ・ザーに冷やかされても無視だ。

 昨日一晩を思えばこれぐらいは許されるはずだ。

「それよりも、魔法だ」

「ふむ」

 頷いてギ・ザーに魔法の講義らしきものを受ける。

「分かっていると思うが……」

「ああ。簡単に、なるべく手短にな」

 確かめて置くと頷いて魔法の講義を聴く。

 簡単に言うと、魔力とは神の恩恵らしい。

 魔力とは元来生物の中に備わっている魔素というものを消費して発揮されるものなのだそうだ。

 人間はマナといい、他は魔素というらしい。

 それを消費して、ギ・ザーなら風の刃やら竜巻やらを発生させる。

 魔素は体内にめぐっているもので、空気や水に触れたりすればすぐさま拡散分解されるそうだ。

 そうして再び体内で魔素が蓄えられ、ある一定以上になれば魔法が発現すると。

 制限というなら、その魔素の拡散速度だろうか。

 魔素自体が体外に発生した時点からすぐさま拡散分解が始まるため、力を溜める、強大な魔法を練り上げると言うのは並大抵のことではないらしい。

「つまり、魔素は体内で使うのが一般的ということか?」

 俺の質問に、ギ・ザーは首を振る。

「いや、そうとも限らない」

 なんでも体内で使うには魔素とはかなり扱いづらいものらしい。

 例えば、筋肉を強化したいとして、体内に魔素を流し込む。その魔素は自身の体内をめぐっていた魔素にある一定の方向性を与えてやり、尚且つ自分の発揮したい所まで調整せねばならないのだ。

 あの修道士が使っていたように炎の玉を生み出し、投げ付けるのとは根本的に違う。

 その加減を間違えれば、炎の玉なら拡散して終わるだけだが、体内に流し込めば、最悪強化しようとしたところをずたずたに引き裂き、さらに体内の魔素が消費されてしまう。

「だが、やってみなければわかるまい?」

「実戦の最中でか?」

 そう言われれば言葉に詰まるが。

 精神の不安定な俺では扱うのは困難か。

「では、加速する術はないのか? お前の使っていたアクセルというのはどうだ」

 灰色狼戦でもっとも警戒しなければならないのは、あの速度だ。あれさえとめてしまえば、最悪でも相打ちには持ち込める。

「あれは体の周りに放った魔素に一定の方向性を与えればいい。ただし、その衝撃は慣れるまでかなり厳しいぞ」 つまり、一方向へのジェット噴射か。

 だがそれにしてはずいぶんと繰り返していたような。

「もちろん、俺の場合は風の神の加護があるからな。体の前に障壁を張るのは、ほぼ魔力がある限り続くことになる」

 加護にそんな効果があるのか。

 だが、俺のは当てにならんな。

「よし、少し付き合え。やってみよう」

「今からか?」

 少し驚いたギ・ザーを見返す。

「勿論。実戦で使えるかどうかは、お前の指導次第というところだろう? 頼むぞ先生」

「……先生か、悪くない響きだ」

 一人悦に入るギ・ザーを引っ張って俺は加速の魔法の習得に集落を離れた。


◆◇◇


 俺が魔法の特訓に入ってから9日が経った。

 なんとかアクセルをものにして、実戦で使えるレベルまでに引き上げることに成功する。

 随分と時間がかかってしまったが、やっとだ。

「ギ・ザー。灰色狼を知っているか?」

「うむ。かなりの強敵だが」

「その(つがい)を狩る。お前ならどの程度ゴブリンを連れて行く?」

 腕を組んで考えた後、口元をゆがめて答える。

「俺の手下だけで狩る、な」

 普通のゴブリンでは相手にもならないと、そういいたいのだろう。

「その認識を訂正させてやろう」

 鋼鉄の大剣を肩に背負って俺は魔法の特訓を終える。

 集落に戻った俺は、レア級以上のゴブリンの声をかけて集合を命じる。

「ギ・ガー、ギ・ゴー、ギ・ザー、ギ・ギー。それぞれ10匹を率いて狩りの支度をしろ……灰色狼を狩るぞ!」

「我ガ、命に代エマシても!」

 ギ・ゴーにとっては守りきれなかった手下の弔いの戦いだ。

「御意」

 ギ・ガーが膝を突いて礼をする。

 それぞれ俺に頷いて、10匹を選ぶと蓄えてある食糧を携えて、集落の北西へ向かう。

 ギ・ギーに先頭を走らせ獣を先頭に立たせる。

 今回ギ・ギーが捕まえてきたのは、ダブルヘッドだった。双頭の駝鳥。その巨躯はゴブリン一匹を軽々と担ぎ上げ、なおその速度を落とさない。

 ギ・ギーはダブルヘッドの背中に乗りながら、手下の獣遣い達に指示を出していた。

 ギ・ガーは最後尾を守りながら本体である俺を追ってくる。

 ギ・ゴーとギ・ザーには本体の側面を守らせて警戒に当たらせる。

 ──静か過ぎるな。

 いつもならこれほどの数のゴブリンが移動している時点で、鳥やウサギの類がいてもいいはずなのだが、姿どころか気配すらない。

 まさかと思う。

 まさか、灰色狼の一党はこの付近の獲物を狩り尽くしてしまったのか?

 だとしたら、苦労をせずに奴等は俺の前に現れることになる。

 ──目の前にこんな美味しそうな餌がぶら下がっているんだ。来ないわけがねえよなァ。

 俺の思考を読んだように、前衛を任せたギ・ギー率いる一隊が急停止。

 ──来たか!?

「来るぞ!」

 あらかじめ示しておいた通り、俺が前に出る。後方を守るのは、ギ・ガーの役目だ。ある程度はなれた位置を走っていた側衛のギ・ゴー、ギ・ザーの部隊も本隊と合流させる。

 お(あつら)え向きに、うっそうとした森が切れて草原地帯と呼んでもいい地帯が目の前に広がり──いた。

 眷属を20匹ほども引き連れた灰色狼が、獲物を狙う目で俺を見ていた。

 その威容に、魂が震える!

 口元に笑みが浮かんでくる!

 鋼鉄の大剣を振るう腕に、土を踏みしめる指先に、腕に巻きつく赤蛇から、臓腑を巡り肌の下を流れる血の一滴までも、俺の力を感じさせてくれる。

「グルゥゥゥオオオォォウォォオアアォ!」

 狂える魂そのままに、咆哮する。

 【スキル】《威圧の咆哮》が発動して、眷属狼どもが動けなくなる。

「ウウゥゥォオオゥゥゥオオ!」

 負けじと吼え猛る灰色狼の咆哮に、俺の手下の何匹かが苦しそうに膝を突く。

「ギ・ガー分かっているな!?」

「御意のままに!」

 最後尾にいるギ・ガーに指揮を任せる。

「ギ・ザー援護は任せるぞ!」

「任せろ!」

「ギ・ゴー、逸るなよ!」

「心得テ、候」

 手にした湾曲刀を抜き放つ。

「ギ・ギー、今度はお前の獣死なせぬぞ」

「はイ。主……」

 逸る気持ちを抑えなければならないのは、俺か!

「ゆくぞ!!」 俺を先頭に、一塊になって狼の群れに向かって突き進む。

 虚を突かれた狼が、一瞬だけ行動が遅れる。

「ウォォゥウォォゥ!」

 灰色狼の咆哮の元に、眷属狼たちが散会していく。

 だが、それこそ俺の狙いだ。

 大剣を脇に抱えるように構えて固定する。

 一気に行くぞ!

我が命は砂塵の如く(アクセル)!」

 自身の後方に集めた魔素を、爆発させる要領で一気に推進力を得る。加速していると言うよりも、吹き飛ばされると表現したくなるような加速の中、刃に魔素を集中させる。

我は刃に為りゆく!(エンチャント)

 未だ30歩はあろうかと言う距離をゼロにまで縮める脅威の加速。その圧力がいかに凶悪なものか、空気の壁に全身を押し付けられ息すらままならない。

 だがそれでも、やるだけの価値はあるっ!

「ウォォォウウォオ!」

 灰色狼の咆哮があたりに響いたようだが、耳はすでに馬鹿になっていて何も聞こえない。視界に映るのはただ灰色の巨躯のみ。

 ──っ!

 歯を食いしばって衝突の衝撃に耐える。

 灰色狼の体をかすって若干威力を弱めたものの、そのまま地面を転がる。

 勢いを殺してすぐさま立ち上がる。

 ──どこだ!?

「ガアァォオォアア!」

 ──真横に唸り声!?

 【スキル】《剣技B−》の力を持って勘に任せて剣を振りぬけば、大木を殴ったかのような手応え。直後に来る圧倒的な圧力。 押し込まれ視線を向ければ牙をむいた灰色狼の巨体!

 押し込んでくる狼の巨体を全力を持って押し返す。

 間近で見るその牙の鋭さに、爪の巨大さに、背中を寒いものが走る。

 いや、違うはずだ。

 俺は求めていた。求めていたはずだっ!!

 強敵を! あの屈辱を雪ぐ機会を!

 【スキル】《青蛇の眼》を発動。相手の弱点を探る。

 目、牙……心臓が背中の近くにあるのか!?

 【スキル】《狂戦士の魂》を発動!

 初めて自身の意志で解き放つ凶暴なる魂の躍動。

「グルウゥオアァォオオォォォ!」

 衝動を抑え込め、力を引き出せ!

 【スキル】《反逆の意志》を《狂戦士の魂》と同時に発動!!

 大剣で止めていた腕に、体を支える足に、力がみなぎる。

 体を巡る魔力が、血液が沸騰する。

 擦れあう大剣と灰色狼の牙が火花を立てる。

 地面にめり込む足にさらに力をこめる。灰色狼の圧し掛かる圧力に正面から勝負を挑む!

「グルウゥォアア!」

 泡立つ細胞、体内を巡る血は魔力は燃え滾る炎のように熱い。

我は刃に為りゆく!!(エンチャント)

 燃え立つ刃そのままに、灰色狼の牙を爪を押し込む。

 そのまま力任せに振り切った。

 ──くっ!?

 最後の最後で、逃した。

 俺の大剣が振り切られる直前、後ろに下がった反射神経は流石に野生の狼と言うところなのか。

 見れば灰色狼は右足と左首筋から血を流している。

 アクセルとエンチャントでつけた傷に違いなかった。

 間合いは至近。

「ウォォウウォオォ!」

 遠吠えをあげると、眷属狼達が引き始める。

 その最後尾を守ろうと言うのか、徐々に俺との距離をとろうと後ろに下がる。

「逃がさん」

 静かに決意をこめて、あえて言葉に出す。

「追え!」

 手下のゴブリン達に命じると、眷属狼達の追撃にかからせる。その追撃を、もし遮る様なことがあればその隙を容赦なく突かせてもらう。

 灰色狼がわずかに後ろに下がるたび、俺は間合いをその分だけ詰めて行く。

 恐らく、あの足ではもう先日の加速は使えない。

 なら、相手の取りうる手段は──。

「ウォォォウゥウ!」

 灰色狼の姿が霞んで消えるっ!

 ──なに!?

「ぐ、ハァ」

 シールドも間に合わず吹き飛ばされる。

 だがっ!

 やはり威力が落ちている。勝利は目の前だ!

 吹き飛ばされて転がされた中を一気に起き上がる。

「くっ!」

 だがそのときはすでに灰色狼は俺に背を向けて逃走にかかっていた。

「逃がさん、と言ったぞ!」

 エンチャントを解除すると、俺は全力で灰色狼を追い始めた。


◇◆◆


 走りながら俺は、戦闘の熱狂で忘れていたあることを思い出して冷や汗をかいていた。

 なぜあの灰色狼は一匹で戦っているのか。

 前は確かに番いであったはずだ。

 ──ならばもう一匹は一体どこへ消えたんだ!?

 最悪の予想が頭をよぎる。

 眷属狼を引かせたのはわざとで、各個に灰色狼の餌食とするためではないのか!?

 だとすれば、俺は二度も獣に嵌められた大間抜けということになるっ!

 ──くそっ!

 とにかく一刻も早く目の前の灰色狼を倒して手下を集めなければ──。

 だが焦るほどに、足は動いてくれず。手負いとはいえ灰色狼の脚力は俺を上回っていた。

 血の跡を辿り、臭いを追跡して草原地帯から鬱蒼とした森の中へ入っていく。

 ──くそ、これじゃ呼び集めるのも至難だ。

 【スキル】《威圧の咆哮》をしてみても走っている俺からでは、集合場所の指定が難しい。それにもし、これが罠でなかったとしたら、灰色狼の一団を壊滅できる絶好の機会なのだ。

 じりじりとした気持ちの中、俺は鬱蒼とした森を抜けようとして──。

「ガルルゥゥ!」

 頭上から襲い掛かってきた眷属狼を切り捨てる。

「ガルウゥゥ!」

 下から、左右からほとんど同時に襲い掛かってくる脅威の連携。

我が身は不可侵にて(シールド)

 咄嗟にシールドを張ると、大剣を振り回して距離をとらせる。

 噛み付いてきた狼は蹴り飛ばし、踏み潰し、大剣の錆にする。

 ──時間を稼いでいるのかっ!?

 何のために、だ?

 あるいは、灰色狼の片割れがここにいないため、その帰りを待っている……?

 狼達では俺には勝てない。

【スキル】《威圧の咆哮》を発動させて、狼たちを萎縮させてその間に全力で鬱蒼とした森を抜ける。

 そこには、洞穴とその前に身を横たえる灰色狼。

 ──死んではいないな。

 血を流しすぎた為か、震える足で立ち上がる。

「ウゥゥオォゥゥウ!」

 油断はしない。

 じりじりと間合いをはかる。

 そのとき──。

 ウゥォオォオォォォン!

 洞窟の中から、声が聞こえた。

 一瞬だけ、俺から視線をそらした灰色狼は、洞窟の暗闇を見つめた。その瞳の色は何かを耐え忍ぶかのように細められ、そうして戻ってきた瞳には明確な怒りの色があった。

 そして今までとは比べ物にならないほど凶悪に毛を逆立てて吠え立てる。

「GaRuAaaアァウウゥゥ!」

 防御も何もない。文字通り体を弾丸に見立てたような体当たり。

 くっ──。

 洞窟の中から声が聞こえた瞬間の豹変。

 何かがあったことは間違いない。

「ガルゥゥ!」

 直後後ろから眷属狼が襲い掛かってくる。

 舌打ちしたい気持ちを堪えて、大剣を後ろに振ろうとし。

「GuURuuusuAAアァ!」

 怒り狂ったとしか思えない灰色狼の体当たりが俺を吹き飛ばす。

 眷属すら巻き込んでふき飛ばすその一撃。

 正気を失っているのか!?

 見れば止め処なく傷口からは赤い血が噴出している。だがそれをものともせず、灰色狼は俺を仕留めようと、距離を詰める。

 ──上等……上等だ、獣がっ!!

我は身は不可侵にて(シールド)!」

「GRRuuuAAaAA!!」

 剣を構えた俺の首筋に噛み付いてくるその牙を受ける。

 その状態で──。

我は刃に為りゆく!(エンチャント)

 俺はシールドと同時にエンチャントを発生させるなど器用な真似はできるはずもない。

 だから必然的に、シールドは消えうせ灰色狼の牙が俺の体に食い込む。

 飛び散る赤い血。

 だがそれを代償にして、【スキル】《三度の詠唱》を発生。

 ──負けられるか!

 俺の魔素をほとんど吸い尽くす勢いで、大剣に炎が収束していく。

「これでもっ!」

 その大剣を灰色狼の腹に向かって突き刺した。硬い灰色狼の毛並みを易々と貫き、臓腑をえぐったはずの一撃。

「GA,GRRuu!」

 だが脅威の生命力を誇る灰色狼は、俺の首筋から牙を抜こうとはしない。

 あろうことか、さらに俺の体に牙を食い込ませてくる。

 同時に一気に半分を切る俺の体力の条件の下。


《死線に踊る》第一段階も発動する。

 ──筋力、機敏性20%UP。


「グ、ルルゥゥゥウオオォオアァアアァア!」


 突き刺した刃ごと、深く灰色狼の体を刺し貫く。

 灰色狼の口から逆流してきた真っ赤な血液が、肩口から噴き出す俺の血と交じり合いもうどちらの血が流れているのかわからない。

 だが、それでも灰色狼は牙を離さない。

 視線がぶつかり、呪詛と怨嗟が絡み合う。


「なんどでもなアアァァァ!」


 【スキル】《死線に踊る》第二段階が発動。

 ──筋力30%、機敏性30%UP。


 さらに深く刺し貫く灰色狼の背中から、俺の大剣の切っ先が見えた。

「GuRuaAaaAAAA!」

 最後の力を振り絞って吼える灰色狼。

 俺の肩を食い破ろうと血を吐きながら深く深く──。

 狂気と殺意がぶつかり合う。

 出血は大量で、目の前は真紅に染まる。


 ──だが、だがなァアァ!


「オオォォアアァァアアァア!」

 勝つ。

 勝つんだっ!!


 【スキル】《死線に踊る》第三段階が発動、同時に《狂戦士の魂》が重複発動する。

 ──筋力40%、機敏性40%UP。そして脳内を、体を、噴き出る血潮を燃やすような激情が体の奥底から吹き上がる。


 無理な体勢から力を篭めたため、筋肉が破れ、血が噴き出る。いまだ深く牙を食い込ませた灰色狼は俺から牙を抜くつもりはないらしい。


 ──いいじゃねェか。こうなれば、とことん付き合え!


 引き剥がそうとした灰色狼の食い込んだ肩口から血が噴き出る。噛み付かれたまま相手を持ち上げれば、傷口は開くのは道理だ。それでも力を抜くつもりは毛頭なかった。 細切れになりそうな痛みと意識の中から、精神侵略から、()を拾い集める。


 灰色狼を串刺しにしたまま大剣を頭上に振り上げる。異常な筋肉の盛り上がり、灰色狼の口から傷口からあふれる血が俺の全身を濡らす。


「俺はァアアァァアア!」


 そのまま大剣を横になぎ払い。


「オオオア゛ア゛ァあぁあぁあ゛ぁ゛!!」


 ──灰色狼の体を両断した。


 灰色狼は、俺に牙を突き立てたまま息絶えていた。

 全てが静寂の中にあるように音が遠い。

 半死半生の俺の周りには、濃い血の池だけが広がっていた。

 眷属狼どもは周囲には居ない。

「主っ!」 ギ・ガーの息を呑む声が聞こえた。

 ……無事だったようだな。

 大剣を杖代わりにその場にへたり込む。

 手下の前で無様な姿を見せるわけにはいかないと思っていも、血を流しすぎた。

「ギ・ギー、すぐにレシア殿を連れて来い!」

 ギ・ガーの声が聞こえる。

「ギ・ガー」

「主っ!?」

「手下どもの安全を確認しろ。俺は少し、寝るぞ」

 突き立てた大剣にもたれるようにして、俺は意識を手放した。


◆◇◇◆◆◇◇◆


レベルが上がります。


26⇒60


【スキル】《狂戦士の魂》を使いこなしたことにより、その隠された能力が解放されます。


狂戦士の魂による精神侵略の発生。

筋力30%、敏捷性30%、魔力30%がそれぞれ上昇します。

狂戦士の魂以外からの精神侵略の妨害。

一度敗れた敵に対して、戦意高揚。

ダメージの軽減20%


◆◇◇◆◆◇◇◆


2012/3/11

詠唱を一部変更。

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