決闘Ⅱ
【種族】ゴブリン
【レベル】22
【階級】デューク・群れの主
【保有スキル】《群れの統率者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B−》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》
【加護】冥府の女神
【属性】闇、死
【従属魔】コボルト(Lv9)
【状態異常】《聖女の魅了》
地面を蹴りつける足に満身の力を込めて加速する。
地面を割る一歩が巨大な加速をもたらす。同時に振り上げる鋼鉄の大剣が、ゴブリン・レアの矮躯を一刀両断にしようと唸りを上げて振り下ろされる。 俺の加速に驚いたのか、距離を取ろうと後ろに下がるゴブリン・レア。
だが、甘い。
その程度の速度で追いつけないと思っているのかっ!
地面を砕く一撃、その反動を利用して大剣を振り上げるように切り付ける。
《剣技B-》の補正を元に相手に迫る大剣の刃。
脚力の劣るゴブリン・レアでは避けきれない一撃を俺は確信し。
「我が身は風を纏う」
静かに呟かれた呪文により、ゴブリン・レアの身は俺の目の前から掻き消える。
風を切り裂くような手ごたえの無さ。
「なかなかの剣技だが」
後ろから聞こえた声に、俺は獰猛に笑う。
「……逃げ足は速いな!」
振り返りざまに一閃。俺に向かっていた風の刃を打ち消した。
両手で大剣を握りなおし、相手をよく観察する。
やはり一筋縄ではいかない。
【スキル】《青蛇の眼》を発動する。
相手よりも人数が多い場合に限り、相手の弱点を見破るスキル。
そのスキル発動により、相手の弱点を割を出す。
頭、心臓、杖……。
同じゴブリン種だというのに杖が弱点になるか。
「ぼんやりしていては、埒が明かないな!」
そういうやゴブリン・レアは地面に杖を突き立てた。
「我が心は風に乗る」
空気が揺れる。ゴブリン・レアの周囲に現れたのは小さな竜巻が、4つ。
──かき消せるかっ!?
「我は刃に為りゆく!」
迫り来る四つの竜巻を真正面から叩き伏せるべく、刃に闇の炎を纏わせる。
「グルゥゥアアア!」
気合一閃、竜巻を大剣で叩き潰す。
足元に熱。
殺しきれなかった竜巻の一つが、鋭利な刃物を思わせる傷跡を俺の足に刻んでいた。
「お前も、魔法を使うのかっ!」
喜声を上げるゴブリン・レアが更なる攻撃を加えるべく呪文を紡ぐ。
「風よ、我が翼と──くっ、我が身は風を纏う!」
だがそんなものを許すはずが無い。
刃に纏わせた闇の炎そのままに、突進。
大剣を脇に抱えるように刺突の構え。一気に最高速に跳ね上がる加速をものともせず、強引に風を貫く突きを繰り出す。
だが、敵のほうがまだ早い。
アクセルの力によりその場から掻き消えるがごとく加速。一瞬見失った後、俺は振り返ると同時に剣を背後に向けて振りぬいた。
──軽い手ごたえ、はずしたかっ!?
「豪風の如く旋風の如く」
土煙を巻き上げた刃二つが、目にも留まらぬ速度で疾駆する。
その背後では既に次の呪文を紡ぐ敵の姿。
──これをよけてはっ!
「グルウゥウアア!」
地面ごと抉れるほどに足に力を込めて踏ん張る。
脇に構えた大剣で力任せに迫り来る刃を掻き消す。
掻き消すと同時に急加速、振り上げたままの大剣で敵を両断しようと一気に踏み込む。
距離を取るかと思われた敵は、俺の予想に反して前にでる。
――ちくしょう、いい判断だ!
だが、遅い!
大剣の振るい場所のない俺の懐を狙う判断は的確な判断力とそれを信じられる勇気。
だか、それでも俺の大剣を打ち下ろす速度が速い。ゴブリン・レアの頭上に岩すら砕く一撃を振り下ろす――。
「風神の名の下に」
突如敵の周囲に現れる風の膜が俺の一撃をずらしていく。だが相手の突進は止まらない。
振りかぶられる杖に、直感が危険を告げる。
「我が身は不可侵にて」
「風鳥の鎌が啼く」
刃から引き戻した黒き闇が体を覆うのと、敵の杖から迸る風の鎌が俺の胴体を打つのは同時だった。
そのあまりの威力に弾き飛ばされるが、なんとか立ち上がる。当然来るべき追撃の代わりに、敵は声をかけてくる。
「やるじゃないか」
心底楽しそうに笑う様子は、揺るがぬ自信故か?
「お前も、な」
短く息を吐き出すと、再び距離を詰めるべく駆け出す。相手のペースに乗ってやるつもりはない。
そんな余裕などないといった方が良いのか。強がりの合間に見せた僅かに震える相手の足。
ゴブリン・デュークにまでならなくては分からなかっただろう視力によって見えた相手の疲労。
付け入らせてもらう!
「せっかちだな!」
軽口を止めない相手に敬意を評しながら、再び斬撃を見舞う。
「我は刃に為りゆく!」
纏わせる黒き炎の一撃。身体能力ではこちらに分がある。それを利用し、相手の魔力を削り取る。
一撃で仕留められるだけの斬撃を繰り返し放つことにより、相手の疲労を誘う。
「我が身は風を纏う」
消耗戦になれば、勝つのは俺だ。それは恐らく相手も承知している。だから、相手としてはどこかで賭けに出なければならない。
俺の体力を一気に削る何かを仕掛けてくるはず。
その兆候を見逃さず叩く。だが、相手にそれを使わせてやるほど俺はお人好しではない。
だせないならそのまま押し切ってやろう。
そんなことを考えながら、消えた相手を再び追い詰める。
休む間を与えないよう連続した剣撃を次々繰り出す。
「どうした!? 動きが鈍っているぞ!」
振るう斬撃の合間に挑発する。皮肉げにゆがむ相手の口元に、まだ余裕があるのを確かめる。
──まだ油断は禁物かっ!?
「豪風の如く疾風の如く」
再び唱えられる風の刃の魔法を、半身だけずらして避ける。同時に加速に入った敵が。
「我が身は風を纏う」
視界から消えうせるが──。
後方に向けて大剣を一閃。距離をとらせて、俺の背中を狙った一撃を回避する。
振り向いて様子を伺えば、肩で息をする敵の姿。
「降るか?」
鋼鉄の大剣を両手でしっかりと構えながら、問いかける。
答えはにやりと笑った口元と、俺に向かい掲げられる杖。
──引かないか……なら、とことんやってやるっ!
掲げた杖を叩き切るべく、足裏に力をこめる。大地を割る気持ちで一歩踏み出すと同時に、身体能力のみの加速。
ローブの中に手を入れる敵の姿に──まずい!
直感が危険を告げていた。
取り出したのは白銀に光る宝石──。
「御名は尊く、我は呼ぶ」
踏み出しかけた足に過剰な負担とわかりつつも制動をかける。と同時に横に飛ぶ。
それでも目を離さなかったゴブリン・レアが大地に杖を突き立てる。
「その名は風神!」
直後、ゴブリン・レアを中心として半径4メートルから見上げるばかりの竜巻が吹き上がる。
何もない地面からそびえたつその竜巻が、蛇の形……いや竜か!?
見る間に膨れ上がった膨大な風の竜が、一度上空でくだをまき、俺を見下ろした。
その威容に、息を呑む。
上空から迫るそれを見上げて、背中に冷や汗を感じる。
だが、口元だけはどうしようもなく笑っていた。
腕の赤蛇から迸る魔力が、俺の全身を満たし、吼えろと──あれにむかって吼えて見せろと急き立てる。
「嗚呼、打ち破ってやる」
たかが風如き、打ち破ってやろうじゃねえかっ!!
八双に構えた鋼鉄の大剣にありったけの魔力をこめる!
俺を飲み込もうと頭を狙ってくる風の竜。
「我は刃に為りゆく!」
三度唱えたその呪文。今までとは比較にならない魔力が、大剣に宿る。
「オオォオオォォアオオォォオ!」
迫り来る風の竜に向かって、ただ一閃。
思い切り大剣を振り切った。
吹き荒れる暴風が視界を覆い転がっていた岩を巻き上げる。 振り絞った魔力の大きさと、荒れ狂う風のうねりに俺は膝をついてその場で耐えるしかなかった。
風が収まり土煙があたりに立ち込める。
俺はそれを確認すると立ち上がり、大剣を一閃して煙を払おうと大剣を胸の前に持ってくる。
と同時に。
「風鳥の鎌が啼く」
渾身の力をこめた敵の一撃が、大剣ごと俺を襲う。
驚愕に目を見開く敵。大剣で受けたため、そのダメージのほとんどは大剣により受け流されていた。
流れた大剣を力任せに引き戻し、振るう。
もはやゴブリン・レアには避ける力もなく、宙を舞って地面に叩き付けられた。
最後まで油断のならない奴だった。
ゴブリン・レアは空を見上げて倒れていた。
その首筋に剣を当てる。
「まさか、最後のを読みきるとは、な」
「運が良かっただけだ」
「ふん、運か」
「それで納得できなければ、求めるものの差だろう」
「求めるもの」
「野望と言い換えてもいい」
「野望、だと?」
苦しげにこちらを見上げるゴブリン・レアに──そして恐らく周囲で耳をそばだてているであろうこの集落の祭司達に宣言する。
「俺は国を作る。全てのゴブリンを纏め上げた強大な国だ。ついて来い! 俺にはお前たちの力が必要だ!」
息をするのも苦しげに、だがこれ以上楽しいことはないという風に、ゴブリン・レアは笑っていた。
「ゴブリンの国だと? クックック……なるほど、負けるわけだ」
静かに目を閉じると、ゴブリン・レアは息を深く吐き出した。
「良いだろう。俺の全てを持って行け」
血を流し力なく横たわるゴブリン・レアを担ぎ上げる。
戸惑ったような痛みの声を無視して、レシアの元へ運ぶ。
「こいつの怪我を癒せ」
頬を膨らませるレシアを意図的に無視するが、彼女はゴブリン・レアに両手を掲げてヒールをかけていた。
「なぜ、俺を助ける?」
苦しげな声を上げるゴブリン・レアに、俺は宣言する。
「お前の全てには、おまえ自身も含まれるだろう?」
一瞬ぽかんとした後、ゴブリン・レアは盛大に笑い出した。
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魔力操作が上達します。
三度の詠唱を習得します。
レベルが上昇します。
22⇒26
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