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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
王の帰還
24/371

決闘Ⅰ

【種族】ゴブリン

【レベル】22

【階級】デューク・群れの主

【保有スキル】《群れの統率者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B−》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死

【従属魔】コボルト(Lv9)

【状態異常】《聖女の魅了》



 北方への遠征は順調に進んでいる。

 工程1日半の道のりは、強いモンスターに出会うことも無く適当な獣を時々狩りながら湖の淵を北上していった。

 多少予定外だったのはレシアの足のことを考えていなかったことだろうか。

 先導をしているとはいえ、未開の森林を歩くのは人間にはなかなかつらそうだ。

 このままでは、予定より遅くなってしまうと判断した俺は、レシアをひょいと抱え上げる。

 抗議の声を上げるレシアを無視し、行軍速度を上げる。

「昼までには着くぞ」

 風啼く荒涼地帯。魔法的なものの影響なのか、それとも縄張りを示す示威行為なのか。

 その地帯に俺は踏み込んだ。

 ここからは慎重に行く必要がある。

 老ゴブリンの先導の元、レシアを放り出して警戒態勢をとらせたまま全軍を進軍させる。

祭司(ドルイド)達の住処はこの辺りなのか?」

 先導する老ゴブリンに聞く。

「さようです。この先に周囲一帯の栄養を吸い取る巨木……天穿つ大樹と呼ばれる木がありまして、そこを住処にしているはずです」

 巨木の根元に開いた空洞を掘り進め、そこを根城にしているらしい。

「あれか」

 遠くに見えていた天高く聳え立つ巨木。次第に近づくとその全容が明らかになってくる。その巨木の周辺にだけ、苔が生え緑のじゅうたんを敷き詰めたようになっている。地面から生えた巨木の根が、周囲の岩を抱き込み、巨木の新しい木をその周囲一帯に生やしていた。

 まるでその光景は単独種で森を作ろうとするかのような異様な風景。

 周囲30メートルに渡って作られる緑の侵略だった。

 森の中の小さな森と表現してもいいその場所から、一匹のゴブリンが出てくる。

 こちらを確認すると、中に慌てて駆けて行き、仲間を呼び集める声がした。

「手間が省けた、か」

 降伏の勧告をしようと思っていた俺は、その場で全軍を展開させる。

 どうせなら効率的に相手の恐怖を煽ってやろう。

 ギ・ゴーの率いる10匹を右に進ませ、ギ・ギーの率いる魔獣達を左に進ませる。

 ギ・ガーの率いる10匹は後方を警戒させると、俺自身が前にでる。巨木の小さな森を囲むように、配置した。

 さて、どうでるかと思っていた俺のところに、老ゴブリンが進み出る。

「王よ、どうか……お願いが」

「なんだ」 降伏が受け入れられない時、この森をどう攻略したものか考えていた俺は巨木から視線をはずさず問い返す。

「どうか、降伏勧告を私に行かせてください」

「なに?」

 老ゴブリンの積極性に俺は首をかしげた。

 どちらかといえば、このドルイドの集落に来ることさえ嫌がっていた老ゴブリンの態度の急変。

「なぜだ?」

「言いにくいことですが……祭司(ドルイド)を率いているのは恐らく、私の息子」

「家族だとでも?」

 ゴブリンが親子の情を持っているなど聞いたことも無い。

 生まれてすぐ自力で餌を取らねばならないゴブリンに親子の情など、あるはずもない。

 人間のように生まれてからしばらくの間、保護者を必要とするから情などというものが出来上がるのだ。生れ落ちてすぐに自身で狩りをしなければならないゴブリンが、なぜ親子の情などを持ち出す。

「……ですが、誰かは行かねばならぬはず」

 俺の不快な声に怯まず、老ゴブリンが食い下がる。

 俺自身でも老ゴブリンの提案の何がそんなに不愉快なのかわからぬまま、冷たくなっていく視線で老ゴブリンを眺める。

「良いだろう」

 一人巨木の森に入る老ゴブリンを見送る。その寂しげな背中に……。

 ──違う。何を惑わされている!?

 頭に黒い靄がかかったように、思考がはかどらない。

 お前か、冥府の女神(アルテーシア)

 【スキル】《反逆の意志》を発動させる。

『裏切りを疑わないなんて、かわいい子』

 脳裏に響くその声を、頭を振って追い出す。

 一人敵地に向かう老ゴブリンに声を掛ける。

「己の欲することをなせ!」

 それだけ言うと俺は、介入してくる冥府の女神(アルテーシア)の感情を追い払うことに専念する。

 俺に深々と頭を下げると、老ゴブリンは巨木の森に一人入っていった。


◇◆◆


 しばらくして出てきたゴブリンは老ゴブリンともう一匹。

「ほぅ……随分いるじゃないか」

 口元を歪ませて挑戦的に笑う姿が離れていても良くわかる。

 圧倒的な自負から来る自信。ぼろぼろだがローブを身にまとい、杖を手にした姿は異様な迫力がある。ゴブリンよりも人間に近い容姿。

 赤い肌はそのままなのだから、ゴブリン・レアなのだろう。

 肌に感じるこの空気。

 強敵であると、自身の体が告げていた。

「お前が、群れの主か?」

 戦いは避けられないだろう。

 目の前のゴブリンの不敵なその様子が、俺に頭を垂れる意志が無いことを告げている。

 だが、それはそれ。

 勧告はすべきだろう。

「そうだ。俺が祭司(ドルイド)が主」

 間合いは20歩ほどか。さすがに一足で踏み込める間合いではない。

「降伏して俺のものになれ」

「クックックック……不可能だと分かっている事を敢えて口にするか」

 風にはためくローブの裾を払って、ドルイドの主が宣言する。

「だが良かろう。お前が俺を倒せたなら、お前に全てをくれてやる」

 王を名乗るもの同士の一騎打ち。

 なるほど、前時代的だが確かに被害は少なく、勝利したものは得るものが大きい。

「俺が勝利したらお前の全てをもらう。ではお前が勝利したならば何を望む?」

 俺の言葉に、一瞬目の前のドルイドの主はきょとんとして、笑い出す。

「面白い奴だ。死ぬつもりか!?」

「賭けごとは対等であるからこそ、成立するものだ」 俺の口元に浮かぶのは、獲物を前にした獰猛な笑みだ。俺自身こんな気持ちになるとは思っていなかった。これは目の前のゴブリン・レアが人間に近い容姿をしているせいなのかもしれない。

「ならば……そうだな」

「ちょっと、見えないではないですか!」

 緊張感を台無しにする声と共に、居並ぶゴブリンの間から、状況を確認しようと出てきたレシアを見て、目の前のゴブリン・レアの動きが止まった。

「……おい、爺さんあれはなんだ」

 後ろに控える老ゴブリンに、レシアを視線に留めたまま問いかける。

「王の財である人間の娘じゃ」

「慰み者、か」

「いや、王はそのようなことなさらぬ……話を良く聞かれているようじゃが」

「ほぅ……?」

 ゴブリン・レアの目に怪しく光る色がある。

「俺の報酬が決まった。その娘だ!」

 固まるレシア。その様子を横目で眺めて俺は内心で舌打ちしつつ、レシアに皮肉を言ってやる。

「良かったな。お前をご指名だ。随分ともてるらしい」

「な、なんの話ですか!?」

 状況についていけずおろおろと俺とゴブリン・レアを見比べるレシア。

「俺とアレとの決闘の報奨の話だ。俺が勝てば群れをもらう。負ければお前を差し出す」

「な、な、なにを勝手に!」

 どうもこいつは俺の捕虜だという感覚が欠けているらしい。まぁ俺自身そのように扱っていたから仕方ないのだが。

「心配するな、負けるつもりはないしお前を誰かに渡すつもりも無い」

「っ!?」

 手に持った鋼鉄の大剣(アイアン・セカンド)を構えると、目の前の強敵に沸き立つ心を静める。

 ごにょごにょ言ってるレシアの言葉など、耳に入るはずも無い。

 俺の全神経は全て目の前にいる好敵手に向いている。

「さあ、来い!」

 張り詰めた空気を響かせる俺の声が開戦を告げた。



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