奇形
【種族】ゴブリン
【レベル】22
【階級】デューク・群れの主
【保有スキル】《群れの統率者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B−》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》
【加護】冥府の女神
【属性】闇、死
【従属魔】コボルト(Lv9)
【状態異常】《聖女の魅了》
魚鱗人を一掃した俺は、眠ったままのギ・ガーを抱えて集落に戻る。
祭司の村までの探索は途中で中断にせざるを得なかったが、それ以上の収穫を得たと思っていいだろう。
集落に戻り一夜経つと、ギ・ガーが階級を上げていた。【スキル】《赤蛇の眼》で確かめてみれば、俺とは若干違っているその階級と……。
【種族】ゴブリン
【レベル】1
【階級】ノーブル・ガーディアン
【保有スキル】《槍技C+》《威圧の咆哮》《雑食》《必殺の一撃》《王の信奉者》《投槍》《武士の魂》
【加護】なし
【属性】なし
俺にはないスキルがいくつかある。ステータスではだいぶ懲りた俺が、詳しく知るために意識を集中させれば、その詳細が浮かび上がってくる。
【スキル】《必殺の一撃》敵の急所を狙い討ちます。
【スキル】《王の信奉者》王の近くで戦うと筋力、機敏性、戦意、10%上昇。
【スキル】《投槍》遠距離から槍を投げることができます。
【スキル】《武士の魂》一対一で戦うことで持久力、スキルの発動率10%上昇。
投槍、などは技術系……剣技などと同じようなスキルなのだろう。
俺の近くで一対一で最も力を発揮する。単純に考えればそういう風なスキル群だ。
使いどころを間違わなければこれは大きな力になるかもしれない。
特に、灰色狼との再戦に向けては大きな前進といっていい。
ギ・ガーの周りに人だかりができている。
それは何も、ノーブルにまで進化するゴブリンが珍しいだけではない。
青黒いその色はともかくも、腕が俺のときとは明らかに違っている。地面につくほどの長さ。一回りデュークよりも小さな体格ではあるが、腕の長さだけなら俺よりも長いのではなかろうか。
「これは、奇形ですな」
うんうんと唸っている老ゴブリンの言葉を一蹴する。
「なに、まずはめでたいだろう」
肩を叩いてギ・ガーを祝福すると、オークからもぎ取った長槍を与える。
これで祭司達への牽制になるかもしれないな。
「受け取れ。ギ・ガー」
畏まって槍を受け取るギ・ガー。
「我が槍に誓って、王に絶対の忠節を」
随分言葉が滑らかになっている。これも階級を上げることの恩恵か。
それを確認すると、俺は再び湖の経路探索に出向く。
湖の淵を回って北上すると、魚鱗人の領域を越え、湖北にたどり着く。
そこは異様な雰囲気の場所だった。
絶え間なく鳴く風の音、ごつごつとした岩が奏でる風の音が周囲いったいを支配している。大森林の中であるにもかかわらず、その一帯だけは木々がほとんど生えていなかった。
生えていたとしてもまるきり、背の低い木々。
どうやら、着いたようだ。
さて、引き上げるか──。
慎重に祭司の縄張りを引き上げると、作戦を練るべく帰り道を急いだ。
◆◇◇
ギ・グー、ギ・ゴーの率いる群れはうまくまとまってきていた。
わずか3日の間だが、着実に成果はでつつある。
今のままでは連携や統率に多少の不安が残るのは、仕方ない。時期尚早と思わなくもない、が。
最速で祭司を下し、返す刀で灰色狼に戦いを挑む。
方向はこれでいく。
おそらく、今のままでも灰色狼を討ち取れることはできるはずだ。
だがそれには群れの大半を犠牲にすることを覚悟せねばならない。
せっかく増え始めた軍勢をこんなところで減らしてしまうのは、上策とは呼べないだろう。
そうして祭司たちに対抗する作戦だが、大きくは数で押す。
圧倒的な数の威圧で、彼らを恐慌に落としいれそのまま群れとして編入する。
老ゴブリンの言葉を思い出す。
“随分気難しくドルイド以外のゴブリンを見下している”という祭司達。他人を見下すという行為は、軽蔑という極めて人間に近い感情を持たなければ、成立しないはずだ。
ということは、祭司達の中に、俺の求める指揮を取れる人材がいるかもしれない。
灰色狼との戦いを通していくつか俺が学んだことは、集団戦は指揮を取れる人数の差が勝敗を左右し兼ねないという結論だった。
今回の敗北の原因。もちろん、俺が相手の動きを予想出来ていなかったこと。そして、灰色狼に対抗するべき人材の不足。など問題を挙げれば切りがないのだが、俺が灰色狼に掛かりきりになっているときに、まともな指揮が出来なかったように、今後そんな展開がないとは限らない。
そして、その間の指揮は一体誰がとるのか俺が負傷で動けないとき、群れを誰が指揮するのか。恐らく灰色狼と戦えば俺も無事では済まないだろう。
今の俺では良くて相打ち程度。
そんな中でも勝利を拾わねばならないのだ。
故に、俺は群れに強者を求めた。ギ・ガーは蛮勇をもってそれに応え、ギ・グー、ギ・ゴーはそれぞれ彼らにしか出来ないことをやっている。ギ・ギーは新たな魔獣を必死に飼いならしていた。
俺がすべき事は、更なる群れの強化。
ここには無い要素の追加だ。それを俺は祭司に求めた。
人間のマチスの指導の下、肉や魚の燻製を作り保存する。
煙だけでなく、日干しでも保存食を作れるらしい。なんでもアーマーラビットの血には微量の塩が含まれているそうで、それを塗りつけて腐敗を防ぐのだそうだ。
知らなかった……。
やはり人間の知恵は侮りがたい。俺の知らないことなどいくらでもある。それを種全体で保有する機会があるのが、人間という生き物だ。本や、口伝や、あるいは物語として伝えられるいくつかは、その当時必要とされた知恵の結晶だろう。
ギ・ガーなどは、マチスの作り出す保存食を魔法と思っているらしい。
どうやったらその魔法は使えるんだと、本気で聞いていた。
技術なんですよ、と応えるマチスに、相当なショックを受けていたようだ。
ゴブリン達の有するスキルはどれも、破壊するものばかりである。何かを作り出すスキルというのは、それだけでギ・ガーに深い感銘を与えたらしい。
チノスという人間の男には、今畑をやらせている。
護衛を付けるという制限はあるが、村の周辺の木々を切り倒し切り株を引っこ抜き耕作地に変えていく。もちろんそれには、ゴブリン達を俺が動員したが。
さして広くも無い土地だが、あるいは何かの足しになるかもしれない。
リィリィに関しては、裁縫をやらせている。狩りで収穫した鎧兎の皮や、シェープアリゲーターの牙や革などを使って、防具を作成させている。
これには冒険者としてどこを重点的に守ればいいのか、その知識があるリィリィが一番いいだろうと判断して作成に当たらせているが、やはりなかなか時間がかかる。
ほとんど個人専用で作らせているための弊害だろうか。
なんとかしたいものだが、現状保留せざるを得ない。
そうしてギ・ゴーが集落に来てから6日目──俺が灰色狼に不覚を取ってから7日目。
俺は集落の主だったものを集めて、北上の指示を出す。
「祭司を我が配下に加える。ギ・ガー、ギ・ギー、ギ・ゴーは支度をせよ。ギ・グー留守を守れ!」
一斉頭をたれる各人に、さらに編成を発表する。
「連れて行くゴブリンは各人10名、俺直属でも10名引き連れていく。ギ・グーもし留守中に、コボルトから連絡が来て人間が来るようなら、すぐさま集落を放棄せよ」
逃げる場所は示してある。
守りを考えれば、ほぼ集落の全力を挙げての遠征となる。
必ず成功させなければならない。
「各人出発は明日、日の出と共に出発する!」
祭司を得るための遠征が始まった。
そうしてこの遠征には、レシアを伴うことにした。
何か思うところがあったのだろう。以前のように契約違反だなんだと、騒がないだけの分別がついてきたということか、彼女が文句を言うことはなかった。