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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
群雄時代
226/371

復讐者達

 背後から迫る矢の音に身を屈める。頭上を通り過ぎたと思った瞬間、真上から敵が飛び降りてくる気配に地を蹴る。

 小型の弓を構えるが、矢を放つ暇もなく再び敵の矢が放たれる。

 悔し紛れに舌打ちすると、狭い路地から身を翻して逃げるしかなかった。

「追え!」

 追走してくる敵に、振り返りざま矢を射る。狙いを付ける余裕もなく射た矢は敵を減らすことには成功するが、徐々に迫る足音に背筋に冷たいものが走る。

 プエルは唯一人、暗殺者達との戦いの中にいた。

 ベルトから短剣を抜き取ると振り向きもせず投擲。僅かにくぐもった悲鳴を聞くと、足を止めて反転。敵が動揺する気配の中に、引き抜いた短剣を持って切り込む。

 真横から切り払われる双剣を潜り抜け、すり抜けざまに敵の首を薙ぐ。ほぼ同時に足元に襲いかかる長剣を跳躍して避ける。手にしていた短剣を投擲して、新たな短剣を抜き取る。

 振るった短剣が硬質な音を立てて跳ね返される。

「くっ!?」

 思わず苦悶の声が漏れるプエルに、相手は無言のまま更に剣を振るう。防ぎに回ったプエルの短剣に叩き付けられる鋼の感触。直後に襲ってくる肌を裂き肉を貫く感触に、プエルは苦鳴を噛み殺して飛び退いた。

 受け止めた短剣は一振り。相手も一人の筈だった。

 いくら盲目のプエルが超人的な聴力を有していようとも、見えないことには分からないこともある。敵の砂を踏む音に、プエルは思考の海から立ち戻る。

 距離を取ろうと僅かに後退るプエルに、敵は無言のまま距離を詰めてきた。

 隙を見せず距離を僅かに詰めてくる敵は、間違いなく手練れだった。今までプエルが倒してきた敵など物の数ではない。

 背を見せればやられる。肌に感じる圧力で彼女は悟る。さりとて、真剣勝負で勝てるかどうか。

 随分と逃げたが、風の音から判断すれば彼女達が戦っている場所は貧民窟(スラム)から抜け出しては居ないだろう。助けは期待できないと判断し、彼女は半歩だけ後退る。

 敵が前に出る音が、彼女の鼓膜を叩く。

 より一層強まった敵の圧力に、プエルは短剣を構え直す。腕を流れた血が指の間を濡らした為だ。

 その一瞬を敵は見逃さなかった。踏み込みは峻烈に、だが極限まで音を殺したその動作は紛れも無く一流の暗殺者の技だった。

 突き出される敵の短剣を避けるように、体を捻る。

 直後、プエルの耳が捕らえたのはカチャリと鳴る奇妙な機械音。そして避けた筈の刃がプエルの深く被ったフードを切り裂き、纏めていた髪がばらける。

 敵の暗殺者は再び短剣を振るう彼女から距離を取り、武器を構えた。

妖精族(エルフ)か」

 髪の間から見えた長い耳に反応して暗殺者が小さく口を開くが、それ以上は何も言わなかった。そしてプエルにも感じられる程に殺意を膨らませる。

 狭い裏路地での戦い。そして接近戦という状況では、暗殺者の相手をするのは手に余るとプエルは判断する。ならば、生き延びることを最優先に考えを巡らせる。

 暗殺血盟“ウェブルスの短剣”に、彼女は今単身で挑んでいると言っても過言ではないのだ。目の前の戦いに勝てないからといって、簡単に生命を投げ出す気はなかった。

 彼女は、更に一歩下がる。

 相手は当然、一歩距離を詰める。プエルにフェルビー並みの剣才が無い限り、この状況を逆転するのは難しい。

 もしプエルに魔法が使えなかったとしたら、ではあるが。

 プエルは口の中で唱える呪文を悟られないよう、口元を隠すように短剣を構える。更に相手を誘う為、もう一歩下がる。敵は僅かに距離を詰めると同時に飛び込んできた。

 それを狙い打つように手にした短剣を投擲。

風よ、我に力を(ウィンド・ショット)!」

 威力こそ低いものの、武器に風を纏わせて投擲の速度と威力を引き上げる魔法を詠唱する。寸前で躱そうとしていた敵は一気に加速した短剣に驚愕し、避けきれないと判断して飛び退く。

 風を纏った短剣が肩を掠め、思わず舌打ちして視線でプエルを追いかけるが、彼女は既に背を向けて逃走へ移っていた。

 応急処置も出来ないまま傷口を抑えて走るプエルの危機は、未だ続いていた。

「いたぞ!」

 前方からの足音と共に、4人の敵。

 怪我による集中力の低下が、彼女の敵を察知する能力を下げていた。肩で息をしながら短剣を構えるが、時間が経てば経つ程彼女は不利になっていく。

 ここまでかと覚悟を決めた彼女の耳に、悲鳴と怒声が聞こえる。

「プエルさんっ!」

「ちょっとシュレイ、早くしないとっ!」

「何だ、このガキども!?」

 駆け出し冒険者(ルーキー)の少年シュレイと、癒やしの女神(ゼノビア)の信徒である少女ルー。彼らが武器を振るって、プエルを助ける為に参戦してきたのだ。

 二人は敵の隙を付いてプエルの元まで駆け寄る。

我が名の下に癒やしを(ヒール)

 ルーの唱える呪文と共に暖かな光が彼女を包み、腕の傷を癒していく。

「何故……」

「なぜって、お世話になった人を放ってはおけません!」

「僕達、短い間だったけど仲間だったじゃないですか! 仲間を見捨てるなんて、プエルさんならしない筈でしょう!」

 恐怖を紛らわす為に努めて明るく振る舞う二人の気持ちに、プエルが気付かない筈がなかった。プエルが二人を突き放したのも、このような事態に巻き込まない為だったのに。

 だが、それでも心の何処かで暖かなものを感じているのを、プエルは自覚していた。

「……で? ガキども、死ぬ準備はもう良いんだな?」

 シュレイとルーが確認すれば目の前の敵の人数は先程より5名は増えていた。そして尚も後ろから続々と増え続けている。

「ぶっ殺せ!」

 怒声とともに襲い掛かってくる敵を前に、シュレイは勇気を奮って進もうとし。

「今度は何だ!?」

 敵の後ろから上がる悲鳴に、助けが来たことを悟った。

「おい、餓鬼ども! どこへ行った!?」

 どこか暢気なその声は低く、辺り一帯を震わせる。振るう剣一つ取ってみても、シュレイなどとは比べ物にならない経験と実力の差を感じさせる。

岩よ、敵を撃ち抜け(アース・バレット)!」

 長剣を振るっても魔法を使っても卒なくこなすのは風の妖精族(シルフ)の戦士長フェルビーを連想させるが、助けに入ってきた人物が使う魔法から大地の神(ンマロゥ)の加護を受けていることを強く感じる。

 小麦色の肌に銀色の髪、その髪の間から覗く長い耳は妖精族の血を色濃く継いでいる証。返り血を全く気にせず、目の前の有象無象を蹴散らす様子は神に選ばれた戦士のようだった。

「居たか、餓鬼ども。……それに、そっちは同胞(エルフ)か」

 瞬く間に周囲を制圧し呻き声を漏らす敵を見下ろすと、プエルの前まで来る。プエルを見下ろす男は、妖精族に伝わる古風な名乗りを上げた。

北の友(ノイザーン・アラタ)よ。お初にお目にかかる。我が名は土の妖精族(ノーム)のベルク・アルセン・ロイオーン。故あって、旅をしている」

渡り鳥(ロイオーン)? 敵討ですか」

 妖精族の4つの種族であるシルフ、ノーム、ウィンディ、サラマンドル。何れも排他的な種族ではあるが、様々な理由で集落から出る者もいる。

 その中でも、特にノーム達の古い風習では親類縁者の仇を討つ為に集落を出た者は、それが為されるまで集落に戻らぬ誓いを立てることがある。彼らは、自らの名と共に“渡り鳥”や“宿無し”等の古代語を名乗り、その身分を明らかにすることがあるのだ。

 未だ若いであろうプエルに、その知識があると知ったベルクは整った眉を僅かに跳ね上げた。

「その通り。知っているのなら話が早い。早速だが、問いに答えてもらいたい」

 プエルを見下ろすベルクの視線が、巌のように固く尖ったものに変わる。

「我が一族の宿敵、土の妖精族(ノーム)剣舞士(ソードダンサー)セーレ・ベオークを知っているか?」


◆◇◆


 ゲルミオン王国の王都で西都の民を掌握した聖騎士ガランド・リフェニンは、副官であるユアンと共に王城に来ていた。

 呼ばれたのは王都の治安を預かる衛士団の団長室。

「来たか。聖騎士ガランド・リフェニン」

 ユアンを外で待たせると、ガランドは一人その部屋の中に入る。

「忙しい中来てやったんだ。下らねえ用事だったら容赦しねえぞ」

 早速悪態をつくガランドに、衛士団の長を務める壮年の武官は露骨に顔を顰めた。

「言葉を慎め。貴様は出頭を命ぜられたのだぞ」

「で、俺が何で出頭を命ぜられなきゃならないんだ? 理由を聞かせてもらおうか」

 衛士団長は伝統的に高位の貴族がその地位を得る事が多い。王直轄の兵力である王国軍と並んで、王が持つ数少ない兵力であった。

「今は未だ警告だがな、如何わしい連中と関わってるそうじゃないか。聖騎士なら、もう少し……おい! ガランド!」

「俺は昔っから説教が大嫌いなんだ。用事がそれだけなら帰るぞ」

 背を向けるガランドに、団長が舌打ちしながら本題を切り出す。

「訴状が上がっている。お前を告訴するとな」

「……ほぅ?」

 振り返ったガランドの物騒な目に、衛士団長は背中に冷たいものを感じる。

「今回は根も葉もない出鱈目な訴状だったが、積み重なれば本格的な調査に乗り出さざるをえない。儂の言ってる意味が分かるな?」

「ふん、お優しい団長様に感謝しておくか」

「国王陛下も心配しておいでだ」

「……要件がそれだけなら帰るぞ。さっきも言ったが、俺は忙しいんだ」

「分かっているのか、ガランド!?」

 怒声を上げる団長を無視して、ガランドは部屋を出る。

「いやはや、英雄殿にも困ったものですな」

 ガランドが居なくなってから現れたのはでっぷりと太った文官。力無く首を振る団長の隣に立つと、心にもない阿諛追従を並べる。

「己の権勢を傘に来て傍若無人な振る舞いとは。王国の功臣たる団長殿にもう少し敬意を払うべきだと思いますが」

「しかし、奴が紛れも無い王国の戦力であることは事実だ。陛下は西方の敗戦の痛手を気にしておられる」

「だからといって、法の尊厳を踏み躙られては王国に対して薬どころか毒にも成り得ましょう」

「分かっている! だからこそ、こうしてガランドに対して叱責と勧告をしているのではないか!」

 文官は大袈裟に溜息をついて眉間を抑えると、呟くように言葉を漏らす。

「全くです。英雄殿も、もう少し団長殿の苦労を分かってくれても良さそうなものですが……」

 西方が陥落し、ガランドが必死に軍を再建している間、国王を頂点とした宮廷では微妙な力関係の変化が起きつつあった。

 ゴーウェン・ラニードの死に伴う、国王自身の発言力の低下である。国王の右腕であり、長年王国を支えてきた聖騎士の敗死は派遣した王国軍の敗北と併せて王の権威を傷付けた。

 聖騎士とは武の頂点である。それ故に嫉妬や羨望とは無縁では居られない。特に自身の家柄を主張することしか出来ない宮廷貴族からのそれは、凄まじいものがある。

 苛つくガランドが足音荒く城を退出しようとする中、見知った顔を見つけてその足を止める。

「やぁ、英雄殿」

 気の抜けたような顔で笑う、両断の騎士シーヴァラ・バンディエ。

「何だ、お前も説教か?」

「何だいそれは?」

 不機嫌な顔をするガランドに、それを恐れず笑いかけるシーヴァラ。

「南方戦力の増強の許可を貰おうと思ってね。何でも自由都市群側では、魔獣の被害が激増しているらしいし……」

「ああ、確かに西側からの魔獣は増えてるな。兵士の良い訓練相手になってるが」

「相変わらずだなぁ」

 それじゃあね、と手を振って別れるシーヴァラを見送って、ガランドは城を出る。

「俺は少し寄る所がある。先に帰ってろ」

「先程注意されたばかりでしょう? 副官としては上官を信頼したいものですが」

「……付いて来ても面白くねえぞ」

 シーヴァラといい、このユアンといい、いつの間にかガランドの周囲にはこちらに対して明確な意見を言ってくる者達が集まっていた。それを少しだけくすぐったく感じて、ガランドは鼻を鳴らす。

 彼が向かったのは、商業区にある奴隷商の屋敷。

「ここは?」

 疑問の視線を向けるユアンを無視して、ガランドは屋敷の門を潜る。

「主人は居るな。ガランドが会いに来たと言え」

 扉を開けて屋敷の中に入った途端、いつになく高圧的なガランドの様子に、ユアンは疑問を飲み込み沈黙を守る。

「しゅ、主人は不在だと……」

 出てきた使用人の胸ぐらを掴み、ガランドはドスの利いた声で繰り返す。

「次はねえぞ。ガランドが来たと主人に伝えろ」

 悲鳴を上げながら駆け去る使用人を見送り、ガランドは不満そうな顔をしているユアンを振り返った。

「何だ?」

「私は上官を脅迫罪で訴えたくはないのですが」

「心配するな」

 だといいですねと内心で溜息を付いたユアンは腹を括った。最悪の場合、西都の民を路頭に迷わせることになる。そのような事態は断固として回避しなければならない。

 目の前のこの男を訴えて監獄に放り込み、自分が西都の民を率いねばと。

「こ、こここれは、ガランド様!」

 転がるように奥から出てきたのは、いつかの日にレシアに絡んでいた新興の成り上がり商人。

「よお、儲かってるみたいだな。……随分良い屋敷だ」

「そそそれは、ももちろん。ガランド閣下のおかげをもちまして」

 明らかに挙動不審な商人に、ガランドは獰猛な笑みを浮かべると強引に部屋に案内させる。

「ほ、本日はど、どういったご用件でしょう」

 明らかに怯えていた商人に、ガランドは傲岸不遜にソファに座ると足を組む。

「金だ」

 この男を上官と呼ぶ日も残り少ないかもしれないとユアンが天を仰いだ時、ガランドが言葉を継ぎ足す。

「何も寄越せなんて言わねぇよ。貸せ」

「……い、いかほど」

 怯えの中に商人特有の小狡い目の輝きを浮かばせたのを、ガランドは見逃さなかった。

「金貨で500枚。……そうだなぁ、利子は年に5厘ってところか?」

 逞しい顎を撫でながら、底冷えのする瞳で商人を見下ろすガランド。

「そ、そんなご無体なっ!?」

 ガランドは立ち上がると、悲鳴を上げる商人に近付く。

「出せる筈だ。暗殺者まで雇える財力があるんだからなァ……。てめえの親父はシュシュヌ教国で手広く商売やってるそうじゃねぇか。あァ?」

 もう殆ど恫喝であったが、護衛の為とはいえ王城に許可無く暗殺者を入れたのは商人自身である。レシアの件で弱みを握られているのもあり、ガランドの要求を呑まざるを得ない立場にあった。

 泣き崩れる寸前の商人を頷かせると、ガランドは意気揚々と屋敷を後にする。

「……訴状が上がったときは、お味方できませんからね」

 釘を刺すユアンだったが、当のガランドは鼻で笑うと虫でも払うようにユアンを追い払う。

「やれやれ……。後ろから刺されないように気をつけてください」

 兵の訓練の時間が迫っている為、ユアンはガランドと別れて西都の民が待つ西方八砦へ向かう。

 ユアンと別れた後、ガランドは王都の中にいくつかある貧民区へと向かう。食い詰め者が集まって出来たその区域は、王都の中でも治安はあまり良くない。

 売春宿も兼ねている小汚い酒場に入ると、目的の人物を見つけて足を進める。その人物は昼間から既に浴びるように酒を飲んでいた。周囲に漂う酒の匂いと男の体臭が交じり合って、非常に臭い。

 何日も洗っていないだろう埃と垢に塗れた服。元の色が分からない程汚れきった革鎧を身に付けた男は、手にした短槍を守るように抱いて壁を背に酒を飲んでいた。

 目の下にある深い隈と、だらしのない無精髭。額から頬にかけての古傷が、その男の面構えを一層凶悪なものにしていた。

「探したぜ。ベルタザル」

「……英雄様が、俺なんぞに何の用だ?」

 男は、何かを吐き捨てるような酷く暗い口調と目付きでガランドを睨む。

「仕事だ」

 言葉少なく用件を切り出し、ベルタザルと呼ばれた中年男の前に銀貨の詰まった袋を投げ渡す。

「……断る」

「お前の娘、確か名前はリーザだったな」

「それが……」

「今、どうしてるんだ?」

 黙り込むベルタザルに、ガランドは要件の続きを話す。

「仕事の内容は簡単だ。西域に入ってゴブリンの首を取って来い。レア級なら金貨1枚。ノーブル級なら金貨5枚。それ以上なら相応に払おう」

 睨み合うガランドとベルタザルだったが、視線を逸らしたのはベルタザルが先だった。

「それは支度金だ。出発は10日後。他の参加者共と一緒だ。勿論、誰にも言うんじゃねえぞ」

 投げられた支度金を黙って見るベルタザルに、ガランドは背を向ける。

「じゃあ、頼むぜ。“豪槍”のベルタザル」

 ガランドは、アシュタール王が当面防御に徹する心積りだということを見抜いていた。しかし、ゴブリン達と二度戦った経験を持つガランドから言わせれば、暢気に防御などしていては再びゴブリンに敗北を喫するのは目に見えていた。

 一つは、ゴブリンの戦力強化の速度が人間側を圧倒していることだ。ゲルミオン王国で練兵に関しては右に出る者が居ないであろうゴーウェンをして、新兵を一人前に育て上げるのに2年を要した。

 だが、ゴブリンは1年程度でその陣容を分厚くしてみせたのだ。このまま亀のように身を縮こまらせていれば延命は可能だろう。だが、そんな消極的な姿勢でゴブリンどもに勝てるとは思えなかった。

 王の命令には逆らえない。

 となれば、ゴブリンがこちらに攻めて来てくれるのが最も望ましい。

 ユアン率いる西方の民を囲い込んだ小砦群は、例え3倍の数のゴブリンに攻められようと、防御に徹すれば1年は保たせることが出来る。

 故に、ガランドは自身の矜恃を捨ててでも、謀略の汚泥に手を染める。

 金で買える生命を使って、ゴブリン共の戦力を擦り減らす。或いはそれに及ばなくとも、挑発行為によってゴブリン共に休ませる暇を与えないようにする。

 今考えると、ゴーウェンが暗黒の森でレシア護衛の任務を自分に任せたのは、人間を戦力として動かせる指揮官役を、一人でも多く欲したが故だったのだろう。

「今更になって、くそっ……」

 ゴブリンという巨大な敵と、国を守らねばならない過大な責任が肩に伸し掛かる。

 失った者のあまりの大きさに、ガランドは歯を噛み締めることしか出来なかった。

 10日後、密かに王都からガランドの依頼を受けた者達が西域へ向けて出発した。


◆◇◆



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