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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
群雄時代
222/371

折れた翼

 シュシュヌ教国から更に東の地には小国家群がある。妖精族を保護する小国家フェニス、農業国家グラリオ、鉄の王国エルファ。それらを有する東部に血盟(クラン)自由への飛翔(エルクス)の本拠地はあった。

 無数にある小国の一つに入国したプエル達3人は、主要道から外れた一角で足を止めていた。

 鼻を突く異臭に、プエルは震えそうになる足を前に出す。

「あの、プエルさん……」

 シュシュヌ教国で助けた少年と少女は、結局プエルに付いてこんなところにまで来てしまっていた。

「……ごめんなさい、ルー。何が見えるか教えてくれる?」

 凍えたような声は、認めたくない現実を見えぬ瞼の裏に描いたからか。

 少女は戸惑いながら口を開こうとするが、その惨状に言葉が喉に絡みついてしまう。

「あの、でも……シュレイぃ」

 泣きそうになりながら、困ったように隣にいる幼なじみの少年に視線を向けると、少年は少女に代わって無惨な光景を口にする。

「……焼き討ち、みたいです。酷ぇ……」

 それ以上言葉が出なかった。少年の語彙では目の前の惨状を正確に伝える自信が無かったし、また伝えていいものとも思えなかった。

 少年とて、美しいものだけを見てここまで育ってきた訳ではない。動乱の波は小さな幸せすらも容赦なく奪っていってしまうことぐらい、身に染みて知っていた。

 だが、その彼をして目の前の光景をプエルに伝えて良いものか、迷う程の逡巡がある。

 嘗ては賑わっていたであろう酒場は無残に焼け落ち、所々に未だ消えぬ業火の余韻を残している。裏街の一角にあり、プエルが仲間と酒を飲み交わした思い出の場所は既に跡形も無くなっていた。

 何の復旧も行われていないのだろう。プエルが感じるのは建物と人の焼けた匂い。それが彼女の仲間のものでないと、何故言い切れるだろうか。

 そして、少年と少女の目に映る光景は更に酸鼻を極めていた。

 打ち捨てられた屍に突き立つ槍。

 晒されている生首の数は1つや2つではない。

 少年は焼き討ちと伝えたが、それは正確ではない。はっきり言えば虐殺だ。世話になった尊敬できる人が盲目で良かったと、少年は不幸中の幸いを神に感謝する。

「どうして、こんな……」

 町中でこんなことが許されるのだろうかと少年は考え、思い至って周囲に視線を向ける。周囲で様子を窺っていた者達は慌てて視線を伏せた。

 怯えているのだ。

 街中でこんな無法が罷り通る程、この所業をしでかした者達の力は強大だということか。

「トゥーリ……、リュターニュ……」

 座り込んでしまいそうになる自分自身を奮い立たせ、プエルは気持ちを落ち着かせる。無理にでも頭を回さねば、前に進めそうになかった。

 自由への飛翔が赤の王との抗争に敗れたとしても、ここまで……本拠地を焼き討ちされるなどということはない筈だ。

 血盟同士の先駆け争いは、主に魔窟の開拓の主導権などを巡って行われるものだ。

 だが、相手の血盟を崩壊に追い込むようなものではない。それは既に先駆け争いなどではなく、小規模な戦争と言っていいだろう。

 自由への飛翔は中小の血盟の中でも、かなりの規模を誇っていた。

 全員が死んだとは考え辛い。ならば生き残りが居る筈と、プエルは無理矢理思考を切り替える。

 気を付けなければならないのは、自由への飛翔が未だに赤の王と抗争状態だった場合だ。一方的に負けているとは思えないが、奇襲を受けてしまったのなら一時退避している可能性もある。

 先ずは生き残りを探さなければ。……そして。

「……シュレイ、ルー。今までありがとうございました」

「え?」

「でも、プエルさん」

 優しい二人は、ここでプエルを一人にするのが良くないことだと思っていた。だが、プエルの拒絶の意思を感じ取って、それを言い出していいのか迷ってしまう。

 だからこそ、プエルは彼らに背を向けて歩み出す。今まで一緒に旅をして来たが、最悪彼らを巻き込んでしまう。

「これから先は私の仲間の為の戦いになります。貴方達には関係ありません」

 いつもの柔らかな声色からは程遠い冷たい声で、プエルは別れを告げる。

 二人が歩き出す彼女の背を追うか迷っている内に、プエルの姿は雑踏の中に消えてしまった。


◇◇◆


 ゲルミオン王国の王の間には、普段居並ぶ高位の文武の官は誰も居ない。

 玉座のアシュタール王と、頭を垂れる聖騎士ガランドの姿があるだけだ。

「……西での敗北、聞き及んでいるぞ」

「処罰は我が身をもって。ですが、部下には寛大な処置を」

 悔しげに頭を下げるガランドは、絨毯についた拳を握り締める。

「西の脅威は未だ取り除かれておらん。誰かがこれを鎮めねばな」

「はっ」

 西方を守っていたゴーウェン・ラニードは既に亡く、次代の騎士と期待されたジェネ・マーロンもまた、西方の森で死んだ。

 聖女奪還に加わった者で生き残っているのは、ガランドだけになってしまったのだ。

 アシュタール王は落ち窪んだ眼窩でガランドを見つめる。その視線の意味を理解しているガランドは断れる筈もなかった。今回の敗北は、今まで築き上げてきたガランドの地位を揺るがすものだ。敗戦の将として処罰されても何ら不思議ではない。

「必ず、西の災いを取り除いてみせます」

「期待している」

 王の間から退出したガランドは自身の為に与えられた部屋に戻ると、思い切り壁を殴り付けた。

「……くそったれ!」

 北方から西方への配置換え。それは後一歩で完成を見る北方の戦いの功績を、リィリィに譲らねばならないということと同義だった。

 ゲルミオン王国では聖騎士が軍を率いて東西南北を固める。ゲルミオン王国の聖騎士の地位とは軍の最高戦力であると同時に、巨大な領地の統治者と同義だった。

 自身に与えられた領地を自らの兵で勝ち取っていく。だから領地の経営には心を配るし、率いる兵士にも細心の注意を払う。集め方はその聖騎士の自由なので王から借り受けることも可能だが、殆どは募兵になる。

 現地の少年を兵士として採用したゴーウェン。冒険者時代の伝手で優秀な冒険者や傭兵を引き込んだガランド。自身の持つ領地から兵を連れてきているシーヴァラ。それぞれに自身の裁量と能力に応じて兵士を率い、領地拡大の為に彼らは戦うのだ。

 それがゲルミオン王国を強国たらしめている軍事制度だった。

 現に王国の大貴族と呼ばれる者達は、一世代前の聖騎士に端を発している者が多い。

 だが、一つ落とし穴がある。重大な過失を犯したり、王に実力不足と判断され担当区域を変更させられる場合には、功績として与えられる筈の領地が貰えない場合があるのだ。

 ゲルミオン王国は大陸西方の巨大国家である。

 支配している地域は、大陸中央部の雄たるシュシュヌ教国に勝るとも劣らない。だが、支配地域が広大になれば、それだけ地域によって差が出てくるのも当然だった。

 ゲルミオン王国において辺境と大都市は、その比率に大きな偏りがある。

 魔物に苦しむ西方と蛮族の居座る北方は辺境であり、シュシュヌ教国との交易が盛んな東方と自由都市群との交易がある南方は大都市の比率が多い。

 辺境での討伐を終え、南部や東部に領地を貰えるのならガランドも悔しがりはしないだろう。交易に対する税収や人自体が多いことから商業の発達も見込めるだろうし、収入は多く見積もれるからだ。

 だが、それが開拓も半ばの辺境ともなれば、今までガランドが費やしてきた労力は全て後任者の功績になる。特に今回、ガランドは北方から西方へと配置変えを命令された。

 ゴーウェンが切り開いた領地は、今や魔物の巣窟である。

 ガランドは一から募兵をし、西方を奪い返さねばならなかった。

 幸いなことに、西方から流れ込んできた者の中にはゴーウェン指揮下で戦った精鋭も居ると聞く。ガランドに従う荒くれ者と西方からの逃亡者。それぞれの領地からやって来た、戦い方も考え方も違う者達。

 彼らを纏め上げ、新たな西方軍を創らねばならない。

「こんなことで俺は負けん。ゴブリンめ……必ず殺してやるぞ!」

 ガランドは、ゴブリンの王に更なる敵意を燃やしていた。


◆◇◆


 ゴブリンの王が支配する領域とゲルミオン王国の境界は明確にされていない。敢えてどこに国境線を引くのかといえば、ゲルミオン王国側の砦群が築かれているシンクタァ丘陵だろう。

 王都へと続く街道を守るように設置された砦の数は8を数え、小さな砦を複数組み合わせることにより相互に支援が可能なように作られていた。

 だが、その監視網とて穴が無い訳ではない。

 大きく北側に迂回すれば、案外容易に国境を抜けることは可能である。ゴブリン達の支配する地域とゲルミオン王国の国境線全てに兵士を張り付けておく訳にはいかない以上、どこかしらを重点的に守ることになる。

 その警戒を突破して、二人組の人影がゲルミオン王国側からゴブリンの支配地域へ侵入していった。

「……やれやれ、やっと抜けたな」

 夜の森から遠くに砦群の篝火を眺めて、男は不敵に笑った。男にしては高い声で、どこか軽薄な感じを受ける。

「油断はしないことだ。生きていたければな」

 低く錆びたような声で、もう一人の男が答える。

 フードを被った二人組の人影は軽快に森の中を進み、遠目に蠢く魔獣を確認すると目を細めた。

「人間の領域を抜けた途端、これだ」

「……無駄な争いは好まないが」

 軽口を叩く男に、もう一人の男は魔獣の様子を窺う。気付かれていないようなら無視して通り抜けてしまうのも、一つの手ではある。

 息を殺し、慎重に魔獣との間合いを取って、二人組は森を抜けていく。

「やっと西都が見える位置まで来たが……こいつは、拙くないか?」

「……」

 森を抜けて更に進めば平原部分に出る。背の低い草が生い茂る程度で隠れる場所が何もない。故に彼らが危機に陥るのは当然と言えた。

「貴様ら、人間だな?」

 侵入者二人は背を合わせるようにして死角を消しているが、取り囲むゴブリン達も短剣を構え、彼我の距離を詰めていた。

 青い肌のゴブリンの質問に、彼らは懐に仕込んだ武器を手にする。

「抵抗するなら、容赦せぬ」

 どうすると小声で話しかける高い声の男。それを無視して低い声の男が口を開く。

「一つ、質問したい」

 その問い掛けは、簡潔にして明確だった。

「お前達の長には、我々の話を聞く度量はあるか?」

 今にも襲い掛かろうとしていたゴブリン達の長である暗殺のギ・ジー・アルシルは、包囲しているゴブリン達を止めて侵入者の様子を窺う。

 今は夜の神の支配する時刻である。並の人間が相手なら決して負けない自信がギ・ジーにはあった。それ故に、これだけの数のゴブリンに囲まれた状態で獲物が何を言い出すのか、純粋に興味を惹かれたのだ。

「我が王に度量を問うか。それが何であれ、貴様ら人間に出来て我らの王に出来ぬことなど、ありはせぬ」

 黙り込む低い声の男とは対照的に、相方の男は焦った声で両手を上げる。

「待ってくれ! 俺達は交渉に来たんだ!」

「交渉だと?」

 ギ・ジーは自分達の有利を確信しているからこそ、彼らの話を聞く。それはギ・ジーが情報収集を命ぜられる機会が多い為だった。ゴブリンの軍勢の尖兵となり、周辺の敵の様子を探る事が多いギ・ジーは、前々から人間の言動に興味を持っていた。

 それがどんなものであれ、その挙動から得られる情報をこそ、王は求めているのだと教えられたからだ。

「そうだ! 俺達はアンタらの長と交渉しに来た。だから攻撃するのはやめてくれ!」

「何の交渉だ?」

「……それはお前達の王に会ってから話そう」

 低い声の男の言葉に、ギ・ジーは頷く。

「いいだろう。ならば貴様らを拘束し、我が王の前に引き出すとしよう」

「おいおい!」

「捕らえよ!」

 焦った様子を隠そうともしない片方を無視して、ギ・ジーの命令に従ったゴブリンの一匹が武器を取り上げるべく近寄る。

「構わん。持っていけ」

 一方、低く錆びた声の男は躊躇なくゴブリンに武器を手渡す。

「分かった、渡すよ! 大事なもんなんだ。大切に扱ってくれよな!」

 相方のその様子に、渋々ながらも片方も従う。

 ギ・ジー・アルシルの暗殺部隊に囲まれて、二人の侵入者は王の下へと連れて行かれた。


◆◇◆


 ゲルミオン王国南方にある自由都市群は、現在内戦の最中にある。

 宗教的に見ればクシャイン教を中心に纏まる北部と、熱砂(アシュナサン)の神を中心に纏まる南部。生活様式の違いから見れば砂漠を渡る通商を中心に発展した南部と、農業を中心に発展した北部。

 元々経済の基盤が違う彼らが結束していたのは、北方にあるゲルミオン王国の脅威に備える為だった。建国当初から強力な軍事力で台頭してきたゲルミオン王国は、西の魔物を駆逐し、北の蛮族を追い払い、南の自由都市群の幾つかを陥落させ、勢力を拡大させてきた。

 危機感を募らせた諸都市と中小の王国は、互いに同盟を結び現在の自由都市群という形を取ることになる。

 その中心となったのは、3つの都市国家と2つの王国である。

 南部砂漠と緑地の境目にあり、交易と農業の両方を主産業とするエルレーン王国。

 南部砂漠のオアシスを中心に交易で財を成した、都市国家プエナ。

 同じく南部砂漠の辺境にある、迷宮都市トートウキ。

 北部クシャイン教徒の本拠地、都市国家クルティディアン。

 北部ゲルミオン王国と境を接するファティナ。

 内戦の一方の主役であるクシャイン教徒はクルティディアンとファティナを掌中に収めている。どちらも人口30万を抱える大都市であり、従える他の集落まで含めれば人口100万とも言われている。

 擁する兵力は20万とも言われ、教皇ベネム・ネムシュは虎視眈々と南と北の隙を窺う。

 一方の南部では、エルレーン王国は内部に抱えるクシャイン教徒とアシュナサンの信徒との諍いで力を消耗し混乱の渦中にある。迷宮都市トートウキは、元々が冒険者を中心に利便性を追求する国家である為、財力はあっても南部を糾合する力には欠ける。

 残る都市国家プエナは老王亡き後、年若い王女が立ったばかりだ。

 糾合出来る者を欠いた南部は当初、北部クシャイン教徒の侵攻を一方的に受けることになる。クシャイン教徒の圧倒的な兵力の前に、南部の小さな都市は戦わずに降伏した。

 降伏した都市は重税を科され、その富を搾り取られる悲惨さを味わったが、抵抗した都市は灰も残さず徹底的に壊滅させられるという更に悲惨な状況を呈した。

 逃れてきた者達から状況を聞いた南部諸都市は驚きに目を見開いて、各国の代表達による緊急会議を招集することになる。

 北にゲルミオン王国という脅威がある中で、本気で内戦を引き起こすなど各国の誰もが予想だにしなかったのだ。

 クシャイン教徒に対抗する為に同盟の再編成を行い、アシュナサン同盟と号した彼らは中心となる勢力が欠けたまま北部のクシャイン教徒に対抗すべく出兵を決意する。

 エルレーン王国にあって、クシャイン教徒を駆逐することに成功した血盟(クラン)赤の王(レッドキング)は弱体化したエルレーン王国の武力の一翼を担う形で、アシュナサン同盟に参加していた。

 エルレーン王国と、その隣国ウィンズダムのクシャイン教徒を払拭した赤の王は、傭兵としての実力の高さを証明した形になる。

 盟主ブランディカを筆頭とするその勢力は、最早南部の中で無視出来ないものになっていた。

「どうも煙たがられてますね」

「まぁ、国の上層部なんてもんはどこもそう変わらんだろう」

 砂漠の民の衣装を纏った青年の言葉に、ブランディカは頷く。

 豊かな赤い髪を総髪に撫で上げた巨躯の男が、テーブルを挟んだ青年と酒を酌み交わしている。

 全身から漂う雰囲気は緊張感の欠片もなく、強い酒を一気に呷る様子は只の酔っ払いにも見えなくもない。着ている服も清潔感が保たれてはいるが、特段豪華なわけではない。使い込まれた胸当てやブーツだけを見れば、熟練の冒険者として通用するかもしれない装い。

 周囲を囲むのは、常のように赤の王の血盟の者達。

「まぁ、悪い連中じゃねえんだがな」

 ブランディカが思い出すのはアシュナサン同盟の会議の様子だった。どこの国も戦力の消耗と多大な出費を嫌がり、終始会議とは名ばかりの愚痴の言い合いでしかなかった。思い出すだけで酒が不味くなる。

「私は貴方以外を主と仰ぐつもりはないですからね」

 学者然とした白い肌の青年は、強い意思を感じさせる口調で言い放つ。

「そこまで王佐の才に見込まれるとは、嬉しい限りだな」

 苦笑するブランディカに、青年は目付きを険しくして反論する。

「過分な評価ですね。私にはカーリオン・クイン・カークスという姓も名前もありますので」

「まぁ、そういうことにしとこうか。……それで、カーリオン。俺達が進む道は、このままで良いのか?」

「ええ、勿論。エルレーン王国で力を持っている者にはこちらから使者を送っていますし、今は静観に徹すべきだと思いますね。トートウキの目ぼしい血盟にも送っていますし」

「エルレーンの将軍カナッシュからは、色良い返事が貰えた」

 音も無く天井から降りてきた見目麗しい土の妖精族(ノーム)の女戦士は、それだけ言うと一礼する。

「おう、セーレか」

 ふむ、と腕を組んでブランディカは酒場の天井をを見上げる。視線の先に描かれるのは掴むべき未来か。或いは血に濡れた戦場か。

「一人、会議で気になる奴がいたな」

「プエナの姫君ですね。御年19だとか。見所があるとすれば、あの人位でしょうか」

「両脇に控えてた若い騎士達も、結構良い面構えしてたしな」

 獅子のような笑みを見せるブランディカに、土の妖精族(ノーム)のセーレは畏怖に近い感情を覚える。

 自国の利益ばかりを主張する各国を纏めようと、冷静に会議を見渡していた態度。何より、一本芯の通った気位の高さを感じさせる横顔は美しかった。

「……ところでカーリオン」

 いつになく真剣な表情で、ブランディカはカーリオンに向き直る。

「何でしょう?」

 姿勢を正すカーリオンに、ブランディカは本当に珍しく言い澱む。

「……あのお姫さんは、着痩せするタイプだと思うか?」

「……私の目が正しければ、かなり」

「……」

「王佐の才の目利きだ。信じよう!」

 目を輝かせるブランディカに、見目麗しい土の妖精族(ノーム)の女戦士の蹴りが命中した。セーレの塵虫を見るような視線の先では、威厳の欠片も無い滑稽な格好で床に転がった大男の姿があった。



次回更新は10月13日予定。

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