王者の魂
【種族】ゴブリン
【レベル】14
【階級】デューク・群れの主
【保有スキル】《群れの統率者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B−》《果て無き強欲》《孤高の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》
【加護】冥府の女神
【属性】闇、死
【従属魔】コボルト(Lv9)
【状態異常】《聖女の魅了》
ギ・ゴーらが俺の集落に来てから、早くも3日が経った。
新しく加わったもの達を、三匹一組に組み込む。最初は戸惑った新参者のゴブリン達も、罠の効果に目を見張り集団で獲物を追い込むことで、より多くの獲物を得ることを理解しつつあるようだった。
揉め事がないことが、その証左だろう。
俺は、東と南の狩猟区を中心とするよう命じると同時に、コボルトには手を出さないよう言い含める。
あまり派手に狩りすぎると、人間に対する防波堤がなくなってしまう。
西から流れてくるオークや偶に出会う巨大蜘蛛からは逃げろと命じるのを忘れない。
まぁ、命じることもなく逃げ出すだろうが、念のためだ。ギ・ガー辺りが最近強い獲物と戦いたがっているから、無茶をしないように釘を刺す。
上手く集落が回り始めたのを確認して、俺は老ゴブリンの元へ向かう。
要件はもちろん次なるゴブリンの集落の情報収集だ。近場から落とす方針は変わらない。
「近くに居ないことはないですが、危険な者です」
苦渋に満ちた言葉に、俺は口の端を歪めて笑った。
「俺は強者をこそ求める」
俺の群れを襲った灰色狼に、その報いを受けさせる。その為には弱者よりも強者を群れに引き入れなければならない。
「湖の反対側を縄張りとするゴブリンの集落で、祭司の一団です」
つまり、魔法を使うものが支配していると言うことか。
老ゴブリンの話によれば、随分気難しくドルイド以外のゴブリンを見下しているらしい。
「ドルイド、か」
未だ俺の集落には居ないタイプのゴブリンだ。一団と言うからには、複数匹存在するのだろう。一匹でも支配下に加えれば、戦力増強は飛躍的に加速するだろう。
「次の獲物が決まったな」
彼らが縄張りとしている地域まで、1日と少し。渋る老ゴブリンに先導させるのは良いとして、安全の確保は俺自身でやっておきたい。
出来れば地図がほしいところだが、贅沢は言えないだろう。
ここは人間など入り込めない暗黒の森らしいからな。
歩いて覚えるのが早いか。
ギ・ギーは先頃新しい使役魔獣を捕まえて来たので手が離せないだろう。
居残り決定。
ギ・ゴーとギ・グーに関しては新しいゴブリン達を狩りに慣れさせるのに忙しい。やはり、元々のリーダーをそのままに指図したほうが何かと回りやすい。
「ギ・ガー!」
オークの襲撃以来貪欲に戦う事を希望するようになっていたギ・ガーに同行を命じる。
「仰せノマまニ!」
声を弾ませるギ・ガーを連れて俺は偵察に出掛けた。
◆◇◇
湖周辺までは槍鹿の群れを狩る機会も多いため、比較的迷うこともなかった。
湖の淵をぐるりと回る形で、経路を確認しつつ歩みを進める。大人数で移動出来る経路はあるか、危険なモンスターが存在しないか、逆に食糧になりそうな獲物はいないか……。
戦う為の地形は、やはり森の中の方が有利だろうか?
ドルイドの魔法と言う新たな脅威に不安と期待が否応なく高まり、気分は高揚していた。
「主」
呼びかけられて視線を向ければ、ギ・ガーが槍の穂先で示す方向に見たことのないモンスターの姿。
目を凝らせば、浮かび上がる【ステータス】。【スキル】《赤蛇の眼》が発動。
【種族】リザードマン
【レベル】10
【階級】幼生
【保有スキル】《水中活動》《剣技D+》《友を呼ぶ声》
【加護】なし
【属性】なし
水辺に生きるモンスターの存在に、警戒心が湧く。
「主、戦う、俺ヤル!」
今すぐにでも飛び出して行きそうなギ・ガーを止めると、魚鱗人を観察する。
「なぜだ?」
なぜそこまでやる気になっているのか、正直俺はギ・ガーの気持ちがわからない。
「俺、主、力なル!」
その言葉に、俺は目を見開いて魚鱗人から視線をギ・ガーに向ける。
興奮気味のギ・ガーの様子。
嘘をつくような頭が回るやつらではない。
では、本心から?
「俺、力つケル。主、助ケる」
「俺はそんなに頼りないか?」
ぶんぶんと頭を横に振るギ・ガーの様子を見て、ため息をつく。
どうやら好かれているらしい。
くそ、くすぐったいじゃねえか!
だが……そうか。俺に、ついて来るか──。
再び視線を魚鱗人に向ける。
ワニと同じように、浜辺で日光を浴びている様子は愛嬌があるかもしれないが、手に持った得物は切れ味鋭そうな曲刀だった。片方の手には鋭い爪を伸ばしている。
ふと、俺の目に留まったのはそのリザードマンの鱗だ。
硬く刃も受け付けない物だと考えていたが、水で濡れているためだろうかふやけている部分が見える。そんなことがあるのだろうかという疑問。
「主!」
急き立てるギ・ガーを見ると鼻息荒く槍を担いでいる。
「無理は、するな」
ぶんぶんと音がするほどに首を上下させる。
「それと、俺は手を出さないぞ」
ギ・ガーの目が戦意に燃える。
自分の望んだ戦いだ。どんな結末になろうとも、自身で決着をつけろと言い含める。厳しいようだが、そうでなくてはならない。
ゴブリン達が俺の元でただの家畜と化すのか、それとも戦士として育つのか。
家畜に成り下がるのなら、それも良い。
お前らの命は食膳に供される豚と同列だ。
だが、もしお前らが戦士の矜持を持ち合わせるというのなら……俺は覚悟を決められる。
──お前らの誰一人として無駄に死なせはしない。
俺の国にも昔いた戦士たちの姿を、一度も見ることが叶わなかったその面影を、少しでも感じさせてくれるのなら、俺はお前らを誇ろう。
化け物の王と言われようと、矮小なる王だと蔑まれようと、決してお前らを見捨てはしない。
俺はお前らを率いて、必ず王国を打ち立ててみせる!
ギ・ガーが俺についてくるというのなら、それは常に自分より格上の相手との戦いを強要され続ける道となる。
「行け!」
脱兎のごとく駆け出すギ・ガーを見守る。
少しの寄り道だ。
だが、必要な寄り道だろう。
自分自身に言い聞かせると、鋼鉄の大剣を握る片手に力をこめる。
気になったのは魚鱗人のスキル《友を呼ぶ声》。あれがもし同族を呼び寄せるものなら、俺が体を張ってやらねばならない。
◆◇◆
ギ・ガーの槍がリザードマンの鱗を掠めて緑色の血を流させる。
だが本来、ゴブリン・レアよりも上位種である魚鱗人はまったくそれにひるまない。手にした曲刀をたたきつけるように、ギ・ガーに切りかかる。
突きに行った槍を手元に戻して、曲刀の一撃を防ぐ。
本来、槍と剣では間合いの取り合いの勝負になるはず。しかし、ギ・ガーは有り余る闘志をむき出しにして接近戦を挑んでいる。
まずいな、と思う俺をよそに戦況は動く。
間合いを詰めた魚鱗人が手数でギ・ガーを追い詰めていく。一撃防がれても二撃目をすぐさま切り返す。本来曲刀とは、物を切りやすいように設計されている武器なのだ。
刃に逆らわず、上下左右から小さな一撃を繰り出す魚鱗人。
上位種というだけでなく、自分の利点をよく知って居やがる。
ぎり、と噛み締めた奥歯の音。
だが俺は手を出すつもりはなかった。
ギ・ガーに宣言したとおり、これは奴が望んだ戦いだ。
なら、俺は見守る。
たとえ……ギ・ガーが死ぬことになってもだ。
人間でもモンスターでも、男が戦うと決めたなら、決して逃げてはいけない。
少なくとも、俺はそう思う。
魚鱗人の刃が、徐々にギ・ガーの体に傷を作り始める。飛び散る赤い血。
今なら人を睨み殺せる自信がある。
鋼鉄の大剣を握る手が汗をかく。
ギ・ガーが槍を引き戻す。
そこに振るわれる魚鱗人の曲刀。
慌てて距離をとる、ギ・ガーの姿に安堵する。
そうだ。離れて距離を保てば決して勝てない敵ではない。
見たところ、相手もギ・ガーの槍捌きに手を焼いている様子だ。決して技術で劣っているわけではない。
だが、壁になるのはその圧倒的な身体能力。
離れたギ・ガーにすぐさま魚鱗人が追いすがる。
防戦一方になるギ・ガーの様子に、俺の我慢は限界に近い。
ギ・ガーの足を下から切り上げる魚鱗人の一撃。ギ・ガーの足から赤い血しぶきが舞い、曲刀は円を描くように振りかぶられる。
それにもかかわらず、ギ・ガーは槍を手元に引き戻す。
同時に魚鱗人の振りかぶった曲刀が振り下ろされ──。
──危ない!
間に合わないとわかっていながら、俺は駆け出していた。
だが。
その間合いの中へ、ギ・ガーが一歩を踏み出す!?
降り注ぐ曲刀はギ・ガーの肩を切り裂いて、赤い血が飛び散る。
「くっ!」
死ぬな、ギ・ガー!
駆け出す俺の耳に突如響く咆哮。
「グルウアアア!」
引き戻した槍をギ・ガーが渾身の力を込めて突き出した。
驚く俺と、驚愕に目を見開く魚鱗人。
突き出した槍は、魚鱗人の胸を貫き足元には吹き出す血で血溜りを作っていた。
その場に片膝をつくギ・ガー。
呆然と自身の受けた槍を見下ろす魚隣人。
「ギュ、ギュアアェアアァ!」
耳を劈く絶叫をあげると、魚鱗人は息絶えた。
「ギ・ガー!」
「主、俺、勝っタ……」
「ああ。見事な勝利だった!」
力なく頷くとその場に崩れ落ちる。
「ギ・ガー!」
慌てて駆け寄ると、豪快に寝息を立てていた。
その様子に心底ほっとする。
「まったく、俺の気も知らないで」
「ギュアアー!」
ギ・ガーを抱き起こすのと、その叫びが聞こえるのは同時。
水辺からギ・ガーを離して寝かせておくと俺は振り返った。
見れば、水辺から這い上がる魚鱗人の群れ。
その数5匹。
「……来るか」
口元を笑みの形に歪ませる。
鋼鉄の大剣を肩に担ぐ。
負けるわけがない。たとえ相手がノーブル並みの力を持った魚鱗人5匹だろうと。
胸には俺の為に強くなると言った男の勇姿が焼き付いている。
俺はこいつらの王なのだ。
誇るべき化け物どもの王だ!
冥府の女神だろうと、癒しの女神だろうと、決して邪魔などさせるものかっ!
「我は刃に為りゆく!!」
刃に纏うは、深淵の如き闇の炎。
俺の燃え滾る心のように、エンチャントの炎は猛っていた。
◆◇◇◆◇◇
【レベル】があがります。
14→22
【スキル】《孤高の魂》が変化します。
【スキル】《王者の魂》に変化します。
群れの中に【信奉者】を持つことにより、魔力をUP。【信奉者】を得るたびに魔力量があがります。
ただし、魔力が増大するたびに冥府の女神からの支配を受けやすくなります。
支配下にあるモンスターからの忠誠心UP。
◆◇◇◆◇◇