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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
群雄時代
210/371

雨の中の戦い

 ピエーナ平原において人間の軍を破ったゴブリン側は、負傷者の手当をすると進路を東に取った。敗走する人間達を追って一挙に西都を落とし、周辺の覇権を確立したいゴブリンの王の考えを色濃く反映させた行動だった。

 その数凡そ900。

 先の激突で怪我をした者、その護衛、或いは治療をする為に残った者を差し引いた数だった。怪我をした者達の護衛は自身も重い負傷を抱えるギ・グーに任せ、王率いる軍勢は東へ進路を取る。

「息のある人間は捕えよ。抵抗するようなら殺しても構わぬ」

 王の命令で追撃に参加した者達に、特に徹底させられたのは人間の捕獲だった。人間の残していった補給部隊の荷車を奪い取り、妖精族の指導の下で運用していたゴブリン側には捕虜を取る余裕が出てきていたのだ。

 この機に乗じて西都を一気に陥落させたいゴブリンの王だったが、直ぐにそれは難しいと判断せざるを得なくなる。

 空から遠距離を監視する翼有る者(ハルピュレア)が、北側から西へ向かう軍勢を発見した為だ。その報告を受けたゴブリンの王は、自身の見通しの甘さを痛感せねばならなかった。

 先の激突で王国側の主戦力は粗方打ち破ったと思っていた為だ。もし仮に援軍が来るとしても、時間的な余裕はあるだろうと考えていた為、自身の考えを修正する必要に迫られていた。

 実際は、西都の戦力は先の激突でほぼ打ち破っている。

 北側から現れたのはガランド率いる援軍であった。だが、その実態はゴブリンの王の持つ情報では判別出来なかった為、ゴーウェンが別働隊として植民都市に派遣した戦力ではないかと誤認したのだ。

「西、植民都市か」

 唸るように天を仰ぐと、距離と敵の人数を確認する。

 未だこちらに気が付いていないのか、約500の軍勢は半日程の距離を置いて、西に向かっている途中だという。

 現在包囲している植民都市に援軍が入った場合、包囲は蹴散らされる可能性がある。そうでなくとも、最早落とすことは不可能だろう。

 更に悪いことに、西都が堅牢なる都市だった場合、背後から急襲される恐れがある。

 このまますれ違えば無駄に戦力を削ることはない。西都さえ落としてしまえば、この周辺はゴブリン側の物になるのだ。また、早期に決着をつけなければ王都から援軍が再度やってくるという見通しもあった。

「喉に引っかかる魚の小骨のようだな……。いや待て」

 本当に西都を落としただけで、この周辺が自分達に靡くのかとゴブリンの王は再考する。仮に西都を落とし、周辺を手に入れられたとして、その状態を維持出来るのかという問題もある。

 500もの軍勢を北側から援軍に回せるのだ。クシャイン教徒が混乱を助長させた南からも援軍が来ると考えた方が良い。それがもし、健在な植民都市に入ったなら。そう考えれば一概に西都を落としたからと言って、周辺が手に入るとは考え辛い状況だった。

 ここに来て植民都市の存在がゴブリンの王の意識の中で大きくなってきていた。当初はゴーウェンの率いる主力を撃破すれば士気が弱まり崩壊するだろうと考えていたが、仮に援軍が次々に植民都市を目指すようなら、その考えは甘かったと言わざるを得ない。

 ゴブリンと人間側の兵力差が、ゴブリンの王の脳裏に大きくのしかかってきていた。

 愚痴を言っても始まらないと意識を切り替え、ゴブリンの王は命令を下す。

「距離を保ちつつ、北側の軍勢を追尾! 西都は後だ! 全軍反転せよ!」

 植民都市を落とさねばならない。

 あの都市がある限り、ゴブリン側が万全の態勢で西都に攻め入るのは難しかった。

「ギ・ジー! お前の部隊の半数を以って東方の偵察をせよ! 特に都市の防備の状況を優先的に探って来い! 他の者は北側の敵の偵察だ!」

「御意!」

 ギ・ジーは頷くと、自身が先頭となって本体から離れていく。

 ピエーナ平原から東には、西都とそれに連なる各町村がある。王は、それらの防備の状況をギ・ジーに確認させようとしていた。北側に現れた援軍を一蹴した後、一気に軍を東に向けるか、植民都市を攻略するのか。その判断材料が欲しかったのだ。


◆◆◇


 一方、ゴブリンの王の判断を狂わせたとは知らないガランドは、一路植民都市を目指していた。

「ゴーウェンが敵を迎え撃つとするなら……」

 未だゴブリン側に平原での会戦で敗れたことを知らないガランドは、聖騎士としてのゴーウェンの実力を見越した上で作戦を立てていた。

 つまり、もし彼がゴーウェンなら植民都市に籠っての迎撃戦を展開し、ゴブリン側が疲労した頃合いを狙っての会戦が最上である。植民都市を使っての籠城戦なら、守勢を得意とするゴーウェンの独壇場だ。

 万が一にも負けられない戦いになるのだから、ゴーウェンなら植民都市の最も有効的な使い方を選択するだろうと考え、西都ではなく植民都市を目指していた。

「ふん、平和なもんだ」

 北から西側へと至る経路に殆ど魔獣は存在せず、盗賊の影すら見えない。ゴーウェンの統治が行き届いている証拠だろう。

 未だに蛮族と相対している北側とは違い過ぎると苦笑して、ガランドは進軍する。

 火の神(ロドゥ)の胴体が既に中天を過ぎて、西に傾きつつある。

「ちっ、あまり進めなかったな。おい! 野営の準備だ、急げよ!」

 ガランド率いる北方軍は、ゴーウェン率いる西方領主軍よりも個々の兵士の質は落ちる。こと戦いに関してのみ、彼らは西方領主軍よりも秀でているが、それ以外の面ではガランド自身もその質の低さを認めざるを得なかった。

 行軍速度や規律、或いは野営地の準備など、西方領主軍がゴーウェンの薫陶篤くゴブリンに付け入る隙を与えなかったのとは対照的に、必要最低限のことしか出来ない。

 個々の兵士の資質ならともかく、軍として見た場合の精強さにおいて、北方軍は西方領主軍に一歩及ばないだろう。

 闇の女神(ウェルドナ)の翼が辺りを包み込み、天には赤の双子姉妹月(エルヴィー・ナヴィー)が輝き、雲間に欠けた横顔を見せていた。

 頬に当たる風が強くなってきたことに、ガランドは顔を曇らせる。

「こりゃあ、一雨来るか」

 南から北へ流れる雲は、遥かに雪の神(ユグラシル)の山脈にぶつかっている。間もなく、星々と煌々と輝く月を隠して雨を降らせるだろう。

「見張りの人数を多めにしろ! 雨が降り出した夜中は特にな!」

 ゴーウェンなら長年の勘から夜間の見張りの増強を主張しただろうが、ガランドは野生の嗅覚ともいうべきもので、雨の降り出した夜の見回りを強化させる。

 そのまま天幕の中に入って目を閉じるが、雨音が聞こえてきた頃に目が覚める。

「くそ、降ってきやがったか」

 思わず悪態をつくと、天幕の幕を跳ね上げ外に出る。

 未だ強くは降り出していないが、時間と共に勢いを増しそうな分厚い雲に舌打ちする。

「あん?」

 雨の音に混じって、金属の音が聞こえた様な気がした。ガランドは、降りしきる雨も構わず陣中を歩く。短く切り揃えた髪は直ぐに雨に濡れ、滴る雫がやけに冷たい。

 手にした青雷の大剣を肩に担ぐと、雨が目に入らないように目を細めて闇の女神(ウェルドナ)の翼が一層濃い場所へと視線を向ける。

 音もなく闇から滲み出てきた影を、一閃。

「ふん!」

「ギッ!?」

 短剣を持ったゴブリンを一撃の下に葬ると、ガランドは声を張り上げた。

「野郎ども、起きろッ! 敵襲だッ!!」

 一斉に跳ね上がる天幕。未だ武装も整わない者が大半だが、武器のみを携行して明かりを焚く。

 その時、暗闇の向こうから一斉に鬨の声が上がる。

「ゴブリン共の夜襲だッ! 皆殺しにしてやれッ!」

 青雷の大剣を担ぎ直すと、荒くれ者を纏めるに相応しい獰猛な笑みを顔に張り付けて声を上げる。

『応ッ!』

 ガランドの意気に呼応するように、兵士達も声を上げた。

「ちっ、暗いな!」

「天幕に火を付けて明かりにしちまえ!」

 そこかしこで、兵士達が臨機応変に闇夜での戦いを進めていく。

「グルゥゥゥアアァァアア!!」

 闇を震わせる獰猛な咆哮と共に、天幕を燃やした明かりの外から悲鳴が響く。

 見上げれば、吹き飛ばされた兵士がガランドの目の前に堕ちてきた。

「どこの、どいつか知らねえがッ!」

 降りしきる雨すら蒸発するような怒りに大剣を握り締め、燃える天幕を切り裂き姿を現したのは巨躯を誇る黒いゴブリン。

「ッ!」

 そのゴブリンとガランドが互いを認識すると同時に、お互い駆け出していた。

「オオオオォォオォオオアア!」

「グルウゥゥウウオオオオオア!」

 疾風の如き速度で加速すると、お互いの大剣を振り下ろす。必殺の威力を込めた大剣同士が、互いを食い合うようにぶつかり合い、降り注ぐ雨粒が衝撃で弾け飛ぶ。

「あの、時のッ!」

「貴様はァ!」

 互いに退かぬ鍔迫り合いの中、両者の威圧が乱れ飛ぶ。

嵐と雷の支配者(アシュトレト)!」

我は刃に為り往く(エンチャント)!」

 雷の力が青雷の大剣に宿り、周囲の雨粒ごと焼いて四方に拡散する。だが、対するゴブリンの王の大剣には黒き炎が揺らめき、雷を削ぎ落そうとその炎を猛らせる。

 拮抗する二つの力が、それを振るう二人を中心に放射線状に拡散する。戦に慣れた荒くれ者達でさえ悲鳴を上げて飛び退く程に、その力は強大なものであった。


◆◆◇


 王の夜襲に呼応して、闇の中をゴブリン達は己の手勢を率いて人間に襲い掛かる。

「我が君は、一騎打ち……。見守るべきなのか……」

 目を細め、軍を動かすかどうか迷うギ・ヂー・ユーブに、近くに居たギ・ザーが声を掛ける。

「軍を動かせば良い。王が手を離せないなら、他の者が動かすべきだ」

「ですが、それでは……」

 王の御意志に逆らうのではないかと、喉に出かけた言葉をギ・ザーが遮る。

「やらぬのなら、俺がやるまで」

 ギ・ザーの態度に不満を覚えるギ・ヂーは、視線を王の近衛を率いるギ・ガー・ラークスに向ける。だがギ・ガーは、無言でギ・ザーの行動を見守るだけだった。

 仕方なくギ・ヂーは槍を振るって声を上げる。

「夜の奇襲では、我らが有利ッ! 攻め掛かれ!」

 ギ・ヂーの声に合わせて、ゴブリン達が槍先を揃えて陣地に籠る人間達に襲い掛かる。武装を整え、整然と列を組んで進むゴブリンの集団に、個々に夜襲に対応していた荒くれ者達は逃げ惑うのが精々だった。

 時折挑み掛かって来る者が居たが、それらは槍の穂先を揃えた刺突で瞬く間に殺され、地面に横たわる。

「ギ・ヂー、後方は空けておけ」

「何故にです? 包囲した方が奴らを完全に倒せると思いますが」

「逃げる敵は殺し易い。そうだろう?」

 にやりと笑うギ・ザーに、ギ・ヂーは鼻白んだ。

「人間達を甘く見るのは如何なものかと思いますが」

 だがその反論にも、ギ・ザーは笑って答えた。

「人間相手に油断をしないのは大事なことだ。だが、恐れていては勝機を逃す!」

 ギ・ザーは、黒虎に乗って戦場を見渡すギ・ガーに声を掛ける。

「正面はギ・ヂーに任せ、左右から圧力を掛ける」

「……良いだろう。だが、氏族は納得するのか?」

 ギの集落出身のゴブリンと氏族出身のゴブリンの力関係は、非常に曖昧だ。王の前では全て平等。だが、それでは王が一騎打ちをしている際に命令が下せない。

「責任なら俺が持つ。ガイドガが要求するなら、首でも何でも差し出そう」

 ギ・ザーは言い切り、ギ・ガーを見つめる。

「分かった。その覚悟を買おう! ギ・ヂー、夜目の利かない妖精族と亜人達は後方で待機だ」

「は、はっ!」

「ハールー殿には追撃の指揮を取ってもらおう。俺から伝える」

 ギ・ガーは黒虎を御しながら、ギ・ザーに言い放つ。

「俺はガイドガに左を攻めろと伝える」

「ならば、俺は右だ!」

 部下と共に駆け出すギ・ガーを見送り、ギ・ザーもまた、配下達を連れて動き出す。

「……妖精族と亜人に待機の命令を送れ!」

 正面から人間を圧迫する役割のギ・ヂーは、鉄槍を強く握り締め戦線を睨む。

「俺はまだ、彼の者達には及ばぬのか」

 果たして自分は、王無き時に自信を以って己の判断を下せるのだろうかとギ・ヂーは自問自答する。己の首を賭けると平然と言ってのけたギ・ザーの胆力に、ギ・ヂーは呑まれていたのだ。

 自身で群れを率いたことのある第一世代のゴブリン達に対して、その背中を追ってきた第二世代のギ・ヂー。

 戦は未だ続き、雨は降りしきる。その中にあって、ギ・ヂーは己の無力に打ちひしがれていた。


◆◆◇


「グルゥゥオオア!」

 人間など一刀両断にしてしまえるだけの威力を持った大剣が、頭上から振り下ろされる。

 刹那の合間、真正面から受ければ押し潰されると判断したガランドは、掬い上げるようにしてその大剣を弾く。上手く力を逃した筈が、凄まじいまでの痺れが両手に走る感覚に、口元が獰猛に歪む。ゴブリンの王の大剣が地面を叩く。相手の攻撃を振り上げざまにいなしたガランドは、丁度大剣を振りかぶる形になっていた。

「オラァァ!」

 今度はこちらの番とばかりに、必殺の威力を以って大剣を振り下ろす。速度も間合いも、確実に敵を真っ二つに出来るであろう一撃を、だがゴブリンの王は真っ向から受け止める。

 ゴブリンの王の足元で跳ねる泥濘に、威力は申し分なかった筈だとガランドは確認する。舌打ちする間もなく力での鍔迫り合いが始まり、火花を散らし拮抗する両者の魔素が泥濘む足元を僅かに照らす。

「ふッ!」

 押し合ったのも一瞬、ガランドは満身の力を込めて相手の大剣を押し返す。ほぼ同時にゴブリンの王が押し返してくるのに合わせ、体を捻る。

「ぬっ!?」

 僅かに聞こえた驚愕の声に内心ほくそ笑みながら、遠心力に合わせて離れ際に一撃。右手だけで振るった一撃は、ゴブリンの王の喉首を掻き斬る軌道を描く。一瞬の間、背を見せる形になったガランドの後ろでゴブリンの王の声が聞こえた。

我が命は砂塵の如く(アクセル)!」

 直後、ガランドの体が宙を舞う。

「ごっ!?」

 思わず漏れた苦痛の声。

 手元に走った衝撃で一撃は加えられた筈だと宙に舞う間に疑問を振り払い、空中で姿勢を立て直し、水飛沫を上げながら地上へ着地。

 燃え上がる天幕の明かりの中にゴブリンの王を確認すれば、肩口に切り傷がある。大きく裂けた傷からは血が流れているが、相手は少しも戦意を失っているようには見えない。

「……そういうことか、化け物め!」

 ゴブリンの王が取った行動を理解したガランドは、口内の血反吐を吐き捨てて青雷の大剣を握り直す。

 ゴブリンの王はガランドの一撃を避けられないと悟って、斬撃を肩で受けるべく自ら当たりに行ったのだ。遠心力を利用し喉首を狙うということは、相手の喉首で最高の威力を発揮するということだ。

 つまり、それ以前の段階なら威力は軽減される。

 だが、やろうと思って出来ることではない。目の前のゴブリンが、どれ程の死線を潜り抜けてここまで来たのか、手に取るように理解出来た。

 ガランドは僅かに手元に視線を落とす。

 先程の痺れるような痛みとは別種の、焼けるような痛みが右の手首に走っている。骨折を確認したガランドは、一層強く大剣を握り締めた。

「ぶっ殺すッ!」

 燃える内心を現すかのように、大きく息を吐き出す。

 互いに必殺の気迫と威力を込めた大剣の応酬は、既に20合にも及ぶ。徐々に激しく降り続く雨は二人の闘気を冷ますどころか、益々燃え上がらせていた。

 だが、ゴブリンの王と聖騎士ガランドの1対1との決闘を尻目に事態は推移していく。如何に北方の荒くれ者達が戦いに秀でていようとも、やはり夜襲を仕掛けたゴブリン側の優位は動かず、徐々に人間の悲鳴だけが聞こえるようになって行く。

「ガランド様! もう駄目だッ!」

 悲鳴を上げる部下を一瞥し、ガランドは舌打ちする。

「くそがっ! バラバラに逃げれば追撃を受けるぞ! 野郎どもを北側に集め──!?」

 ガランドが言い終わる前に、ゴブリンの王の一撃が頭上から降り注ぐ。思わず受けに回ってしまったガランドはゴブリンの王の一撃を真面に受け止め、腕まで痺れる一撃に苦悶の声を漏らす。

「グルウゥゥゥアアアア!」

 ここが勝負どころと見たゴブリンの王は、苦しむガランドに立て続けに連撃を見舞う。降り注ぐ大剣が大地を叩き、その反動を使って更に逆袈裟からガランドを狙う。

 下がりながらも何とか大剣を間に合わせるが、威力を殺しきれずに姿勢は崩れ、大剣は明後日の方向に泳ぐ。何とか得物を引き戻した時には、既にゴブリンの王の大剣が目の前にまで迫っていた。

「ぐっ!?」

 体ごと吹き飛ばされるガランドが泥濘の中を転がる。ふらつく身体で立ち上がろうとした時、目の前に冥府の炎揺らめく大剣が突き付けられていた。

「……」 

 雨粒滴る中で見上げるゴブリンの王は、ガランドを睨み殺せしそうな視線を向けていた。

「……レシアをどこへやった?」

「ああ、あの女か」

 僅かに逸れるゴブリンの王の意識に、ガランドは目を細めて隙を伺う。

「今頃、塔の爺共相手に、腰を振って喘いでるだろうさ!」

「貴様ッ!」

 憤怒と共に大剣を振り上げるゴブリンの王。

 だが、怒りに任せて振り上げたその動作こそ、ゴブリンの王の隙である。

嵐と雷の支配者(アシュトレト)!」

「くっ!?」

 三条の雷がゴブリンの王の体を焼き、周囲を昼のように染め上げる。

 体に走る痛みを憤怒で押し殺し、一撃を振るうゴブリンの王だったが、既にそこにはガランドの姿は無かった。

「……おのれぇ! グルウゥォオオアアアア!」

 顔を憤怒の形相に歪めたゴブリンの王の咆哮は、降りしきる雨と闇を震わせた。

 その日、北方軍500はゴブリン側の夜襲を受け、その数を100にまで減らすことになる。対して、ゴブリン側の被害は50。

 ゴブリン側の圧勝ではあったが、聖騎士ガランドは尚も健在であった。



ちなみにレシアさんのことに関しては、完全なるガランドの大嘘。王様の動揺を誘う為の罠ですね。まんまと引っかかった王様。


次回更新は、9月1日頃を予定。

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― 新着の感想 ―
[一言] もう読むのが疲れた。読むけど。聖騎士早く死ねばいいのに。引っ張りすぎでしょ。
[一言] 王様まんまと引っ掛かっちゃった ガラントは性根からの荒くれ者かと思っていたから国を愛してる描写?の時に少し驚きました
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