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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
王の帰還
20/371

灰色狼Ⅱ

【種族】ゴブリン

【レベル】12

【階級】デューク・群れの主

【保有スキル】《群れの統率者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B-》《果て無き強欲》《孤高の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死

【従属魔】コボルト(Lv9)

【状態異常】《聖女の魅了》




 体長は2m近くあるだろうか、間違いなく俺よりも大きな体つき。毛並みは灰色がかって所々に傷跡が見受けられる。弱点というよりも経験豊富な印象を強く与えるその佇まい。

 眷属として従える狼は、小柄ながらも茶色い毛並みに20匹をくだらない。

 森林地帯といっても、全ての地域が鬱蒼とした森が広がっているわけではない。所々には、木々の密度が薄くなり、あるいは平原のようになっていることもあるのだ。

 灰色狼達が仕掛けてきたのはちょうど周囲に木々がない地域だった。

 ギ・グー達が前線を突破して集落へ逃げ道を確保するまで、灰色狼の追撃を引き受けねばならない。

 目の間に迫る脅威に、口元をゆがめる。

 歩み寄る姿を見ただけで分かる強大な存在。

 ──だが、こんなところで死ぬわけにはいかない。

「最後尾は俺が持つ、さあ走れ!」

 群れの最後尾を叱咤すると、ゴブリンどもを護衛につけて走り出させる。

 目の前に迫る狼の群れ。

 一列になって迫り、さまざまな角度から噛み付いてくる眷属の狼。

我が身は不可侵にて(シールド)

 噛み付かれるのは覚悟の上だ。シールドを使ってそのダメージを最小限に減らす。とても全ての攻撃を避けて、なおかつ反撃など出来るものではない。

 一匹が右下から俺の足を狙い、逆から俺の腕を封じようと牙をむき、背後から首を筋を狙って一匹が飛び掛ってくる。

 噛み付いてきた狼を殴り飛ばし、蹴り飛ばす。

 鋼鉄の大剣(アイアン・セカンド)をもってしては追いきれない速度。小さい的に、振り回すのが目的の大剣では不利に過ぎる。

 だが、それをあえて振り回す。

 強風を生み出すほどの威力で、目の前の眷属を一刀両断。

 さらに怯んだ狼を、返す刀で空中まで吹き飛ばす。

 【スキル】《剣技B-》の効果による補正。

「グルゥゥルアア!」

 【スキル】《威圧の咆哮》により動きを封じる。

 ──さあ、どうする。

 目の前で悠然と構える灰色狼を見る。

 眷族に狩りを任せて自身は動かないつもりだったのだろうが、そうはいかない。無論、俺だけで眷属を全て殺し尽くすことは可能だ。

 だが、今ここで最も危惧しなければならないのは、俺を無視して眷属たちが本隊に迫ること。

 そして非戦闘員から順々にやられていくというのが最悪のシナリオだ。

 だから敢えて、俺がここで踏みとどまり力を示す。

 この獲物は、自身でなければ倒せないということを誇示してやれば、群れの主としては前に出てこざるを得ない。さらに灰色狼を守るように眷族もその場に残らねばならない。

 あくまで悠然と灰色狼が率いていた群れから一歩出る。

 ──やる気、だな。

 眷属の狼であれほど早い動きをするのだ。主たる灰色狼ならばどれほどだろうと、慎重に間合いを計ろうとし。

「ウォォォウウォォウゥ!」

 遠吠えが聞こえた瞬間、灰色狼の巨体が霞んで見えた。

 気づけば俺は横に飛ばされ、宙を舞っている。

 ──見えなかった。

 地面に叩き付けられるも、幸いにして展開していたシールドの効果で致命的なダメージはない。だが、同時にわずかばかりあるだろうと思っていた勝機が、遠く霞んで見えた。

 目視できないほどの速度にどう立ち向かう?

 ──いや、今は時間を稼ぐことが第一。無理に戦う必要は──。

 直後再び襲い来る突進。

 再び宙を舞う俺に、悠然と灰色狼は間合いを詰める。

 ──負ける。このままでは負ける。

 狩る者と狩られる者、明確にして単純な力の差を見せ付けられる。

 ぎり、とかみ締めた奥歯がなった。


◆◆◆


 目の前の茶色狼を長剣で叩き斬ると、ギ・グーは後方を振り返った。

 彼の畏敬する主はまだ来ない。

 初めてその主を見たとき、彼は既に自分よりも強かった。見上げるばかりの青い体。

 その記憶は恐怖とともにいまだに彼を支配する。

 ギ・グーが群れを率いることになったのは前任者達が死んだからだ。

 偶々転がってきた地位。

 ゴブリン・レアも他にいなかった。

 運がいいと思った。それに前任者達のように失敗ばかりはしないとも思っていた。

 事実、ギ・グーが群れの主となってから群れの食糧事情は改善しつつあった。そして人間を捕まえることにも成功する。

 自分達の敵。

 それをあの主は簡単に殺してしまった。

 そうしてまた新たに捕まえてきた。自分のときよりも多く。

 食糧事情についてもそうだ。あの主が来てから食糧事情は劇的に改善した。おそらくもうあの集落で飢餓に苦しむことはないだろう。

 初めて食べたダブルヘッドの肉の味が忘れられない。

 他の集落を自分のものにしようなどという、恐ろしいほどの大きな野望。

 自分もまた、ああなりたい。

 主を見ていると、自身の心にも火が宿るのだ。

 この感情を忠誠と呼ぶのか、あるいは嫉妬と呼ぶのかは知らない。

 だが、主がいなくなってしまうのは困る。

 それだけはわかるのだ。

 ……主はまだ来ない。

「ギ・ゴー」

 新しく加わったゴブリン・レアを呼ぶ。

 狼に悪戦苦闘しながら前に進むゴブリン達。

「そノマま進メ!」

 自身の率いる手下には反転を命じる。

「主ヲ救ワねバ!」


◆◆◆


 安易に噛み付かず、体当たりでこちらの消耗を待つ灰色狼。

 計算高いその戦い方を続ける限り、俺は手も足も出なかった。

 噛み付いてくれれば、動きを止めることさえ出来ればまだ勝機はある。

 だがその動きをとめることをしないのが目の前の灰色狼だ。

 悠然と構えているのは、俺の間合いの外。跳躍一度では届かない間合いの外から、目にも留まらない速度で突進を繰り返す。

 そのたびに俺は宙を舞い、地面に叩きつけられる。

「ぐ、ルゥゥゥ」

 大剣を杖にして立ち上がる。

 消耗させられているのが分かっていても、シールドを解除すれば周囲の狼達に噛み千切られてしまうだろう。シールドを張り続け、なおかつ敵を倒さねばならない。

 ジリ貧だ。

 だがいい手は思いつかない。

 そのとき後方が騒がしくなる。

「主、お戻リヲ」

 俺を囲んでいた眷族の狼を蹴散らし、ギ・グーが増援に駆けつけたらしかった。

 正直ありがたかった。

 だが──目の前の敵をどうする。

「分かった。このまま、下がる。狼どもをけん制しろ」

 囲まれないように退路を確保しつつ、じりじりと後ろに下がっていく。

 森と森の切れ目、気の密度が薄く足場のよい林の地帯を選んだのは、おそらくその戦い方ゆえにだろう。ならば、このまま木々の密度の高い鬱蒼とした森の中に入り込めば、勝機を見出せないか?

「ウォォォウゥウウゥ!」

 灰色狼の遠吠えで、取り巻いていた眷族狼がその包囲の輪を広げる。

「ギ・グー、森に入って前を警戒しろ」

 大剣を前に構えたまま、俺は視線を灰色狼に固定する。じりじりと下がる俺をなお悠然と灰色狼は間合いを詰めてきていた。

 このまま、森林地帯に入れば逃げ切れる。

 頭を掠めるその僅かな気の緩みが、目の前の狼の攻撃に一瞬だけ対処するのが遅れた。

 足場のよい平原地帯からそろそろ鬱蒼とした森林に入ろうとするとき、灰色狼が一気に仕掛けてくる。

「ウォォォウウゥン!」

 地を震わせる大音響。背には密集した木々があり、前には目にも止まらない速さで仕掛けてくる灰色狼、同時に周囲からは茶色狼がその距離を縮めてきていた。

「ギ・グー走って包──」

 指示を出すまもなく突進を受けて弾き飛ばされる。背中に控えていた木々に体をぶつけ、シールド越しに伝わってくる木を圧し折る破砕音が全身に響く。

 二度、三度バウンドしてから立ち上がる。

「グ、クッ……」

 だが、覚悟していた追撃はなかった。

 それどころかギ・グーを包囲しようとしていた眷属の狼までもが、姿を消している。

 ──見逃された?

 ふらつく頭で、思考し最悪の結論が脳裏をよぎる。

 ──まさか……。

「ギ・グー本隊へ向かうぞ!」

 言うことを聞かない足に殴って活を入れると全力で走り始める。

解除(リリース)

 全身を覆う闇を取り払うと、俺は前方へ駆け出した。


◆◇◇◆◆◇◇◆


灰色狼を退けたことによりレベルが上がります。

12⇒14


◆◇◇◆◆◇◇◆

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