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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
王の帰還
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灰色狼Ⅰ

【種族】ゴブリン

【レベル】12

【階級】デューク・群れの主

【保有スキル】《群れの統率者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B-》《果て無き強欲》《孤高の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死

【従属魔】コボルト(Lv9)

【状態異常】《聖女の魅了》



 俺の集落から徒歩で、まる一日。北西へ行った所にその洞窟はあった。

 固い岩盤の隙間にあるようなその洞窟は、細い入り口とは対照的に内部は広いらしかった。

「ギ、ギィ!?」

 洞窟の入り口でたむろしていたゴブリンたちは、俺達の襲来に成すすべも無かった。

「ギ・グー、ギ・ギー」

 傅く二人に命令する。

「中に出向き、群れの主を引きずり出して来い」

「「はイ」」

 重なる二匹の声を確認すると、率いてきたゴブリンの内8匹を向かわせる。他の2匹に関しては、周辺を警戒させるとともに餌をとりに向かわせる。

 なぜ率先して向かわなかったかといえば、その入り口の小ささだ。

 あの大きさでは、ゴブリン・レアが通るのが精々である。一回り大きなゴブリン・ノーブルであっても通り抜けるのはかなり困難を要する。

 いわんや、俺など岩盤自体を削らねばならない。

 そんな不毛な作業をするよりも、2匹でもって群れの主を連れてきた方が効率的だろう。

 今回ギ・ギーが【スキル】《獣士》により連れて来た魔獣は、トリプルボーアだった。

 まさか、ギ・ギーの限界がそのまま最適の選択になるとは思っていなかった。この狭い洞窟内では、トリプルボーアの突進を避けるのは難しいだろう。

 あまり心配もせずに待っていれば、獲物をとってきた二匹と前後して洞窟から怒声に近い声が聞こえてくる。

「来たようです」

 老ゴブリンの言葉で、視線を向ければ、ギ・グーとギ・ギーの間に挟まれたゴブリン・レアの姿がある。

「お前が、この群れの主か」

 なるべく威厳を漂わせるように偉そうに見下ろす。

「膝ヲ、つケ!」

 ギ・ギーが無理やりそのゴブリン・レアを()(つくば)らせる。

 そのゴブリン・レアを見れば体の隅々には傷跡が見受けられた。

 新しいものから古いもの。

 今さっきついたようなものまである。

「王ノ質問ニ答えヨ!」

 ギ・グーがせっつく。

「そうダ」

 敢然と俺を見上げる視線は、硬骨な意志の強さを感じさせた。

 あまりないことなのだが、俺はこのゴブリン・レアに興味が沸いた。直前までさっさと首を撥ねてしまおうと思っていたのだが、そこで老ゴブリンに尋ねる。

「この群れの主はどんなゴブリンだ?」

「我らが先々代の時代より親交を結びしゴブリンでございます。性格は温厚で、情誼に厚く、ゴブリンの中でも……」

「つまり」

 長くなりそうな老ゴブリンの話を遮ると結論だけを下す。

 つまり、このゴブリン・レアを老ゴブリンは殺したくないのだろう。

「この者は、優秀であり有能であると」

「その通りでございます」

 改めて俺はゴブリン・レアに視線を向ける。

「我が配下になれ」

 余計な言葉はいらない。

 応と答えるか、否と断るか。それだけで十分だ。

「手下ノ命救ウ。そレ条件」

 項垂れるゴブリン・レアに俺は頷く。

 見ればこのゴブリン・レアの手下はやせ衰えていた。このゴブリン・レアにしてもそうだ。

「食い物を与えろ」

 俺の命令に従って一昨日作っておいた燻製や、途中で狩り獲った獲物などをゴブリン・レアとその一党の前に出す。

「名を与える」

 呆然とその食料を見ていたゴブリン・レアに言葉をかけると、驚きとともに見上げてくる視線に応えるように口を開いた。

「ギ・ゴーとする。以後、洞窟を捨て我が集落へ移住せよ」

 手足を投げ出して平伏するギ・ゴーを確認すると、俺はそのまま洞窟の周囲の散策に出かけようとする。

「あ、主。オ、待ちヲ」

 追いすがるギ・ゴーを振り返れば、畏まった様子でこの地域の危険を語る。

 曰く、凶悪な魔獣が住み着いているらしい。

 灰色狼(グレイ・ウルフ)。幾多の眷属を従える森の狩人らしい。老ゴブリン談。

 群れを維持するだけの食料を灰色狼が食い荒らし、更には自分たちまでもが餌にされるところだったとその恐怖を語るギ・ゴー。

 むしろ俺達がここまで出会わなかったのが不思議なほどの凶暴な魔獣だということらしい。

 だが、結局その脅威を迂回しては集落に戻れないのではないか?

 俺の与えた食糧はただの一時しのぎにしかならない。

その魔獣をどうにかするか、あるいはこの場から逃げなくては魔獣の脅威を解決したことにはならない。

「ならば、魔獣を殺して押し通るのみ」

 宣言すると、ギ・ゴーに命じて戦力として数えられるゴブリンの数を挙げさせる。同時に俺の率いてきたギ・グー、ギ・ギーには周囲の警戒を命じる。

 ギ・ゴーから挙がった戦えるゴブリンの数は、28。俺の率いてきたゴブリンと合わせて、38にのぼる。

 続いて、非戦闘の人数が20を数える。これらを魔獣の襲撃から守りながらの移動となるのだ。

 少し考えた後、俺は群れを4つの部隊に分けた。

 本体を率いるのはギ・ゴー。非戦闘要員を守りながら、俺たちの集落に撤退する。この役目は群れに対する責任が最も重い者に任せた。

 本体を護衛する部隊として脇を固めるのがギ・グーの部隊とする。もともと俺の集落出身のゴブリンを配して投擲から援護までをこなす。

 もし本気で灰色狼が襲ってくるなら、こいつらが戦っている間に非戦闘員を先に逃がすことになる。

 そしてギ・ギーを中心として獣士のグループに先頭を任せる。

 鼻が利く獣を先頭に立てて、敵の接近を事前に察知させるべく一番先頭を進ませる。

 そうして4つ目の部隊は直接俺が率いることにした。

 最悪灰色狼を直接抑える役割になる。

 各部隊に人数を割り振ると、俺はギ・ゴーに命じてさっさと群れの全員の支度をさせた。

 一匹として無駄にはできないのだ。


◆◇◆


 ゴブリンの洞穴から俺たちの集落までにかかる時間は、徒歩にて一日。

 人間と違ってほとんど持つべき財産もない奴らなら、戦闘員と非戦闘員の区別なく一日で到達できる距離だった。

 余計な食料さえも持たない強行軍。

 先頭を進むのはギ・ギーを中心とした獣士の部隊。

 トリプルボーア、野犬を進ませ安全を確認する。それら使役される獣のつけた道を、ギ・ゴーを中心とした本隊が押し広げていく。

 脇を固めるギ・グー達は、周囲の警戒と適当な食料の確保を同時に行っていた。

 自由に行動させている割に律儀な所のあるギ・グーは、本隊に必ず取れた獲物を届けさせた。

 俺自身はといえば、最後尾を警戒しながらその群れにいた。

 俺の周囲を固めるゴブリンは5匹でしかないが、最悪そいつらには、ウルフの追撃の阻止のためにその身を犠牲にしてもらわねばならない。

 道程も半ばまで来た時先頭を進むギ・ギーから連絡が入る。

 獣が怯えてこれ以上進めないらしい。

 ──来るか。

「ギ・ゴー本隊を引き連れて前進しろ!」

 前方が騒がしくなる。

 今攻撃は前方に集中している。

「ギ・グー本隊の援護だ!」

 だが、俺の読みが正しければ──。

「ウォォォゥウ!」

 後方から聞こえた遠吠え。

 鋼鉄の大剣(アイアン・セカンド)を握りなおす。

 幾多の眷属を引き連れた灰色狼がその姿を現した。



 

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