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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
王の帰還
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聖女の魅了

【種族】ゴブリン

【レベル】12

【階級】デューク・群れの主

【保有スキル】《群れの統率者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B-》《果て無き強欲》《孤高の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死

【従属魔】コボルト(Lv9)



 知性があるはずのコボルトを捕まえて、非主戦力として活用できないかと考えた俺の考えは大きく外れた。足元で毛並みを繕っているこのコボルトに、戦力としての価値はないだろう。

 どっちかというと愛玩動物みたいなものだ。

 手に持った牙で頭をかきながら欠伸をする。お前はどこのおっさんなのかと突っ込みを入れたい。

 ゴブリンの足でおおよそ半日の距離。これは往復をするためだが、集落から東西南北に渡って未踏破区域を探索していた俺は、おおむねその探索を終えたといっていい。

 結果としてこの集落の周辺に住み着いている魔物で、俺達の脅威になりそうなものはなかった。

 さらに大まかな分布でいえば、集落の東側──日が昇る側を基準として──にはコボルトが住み着き、北側には槍鹿がグループを作っている。その東と北の中間には湖が広がり、南にはダブルヘッドやトリプルボーアなどが住み着く。

 さて、問題は西だった。

 レシア達人間の認識では、この森名称は暗黒の森と呼ばれるらしい。人間の生息区域は森の東から、北側。南と西については全くの手付かず。

 南に関しては特に問題は無い。強大な生物が住むような洞穴や、集落跡などはない。俺の調査でも手下のゴブリンを使っての狩りでも特に危険なものがいる気配はなかった。

 俺が西が問題だと考えているのは、オークの群れの流れてくる方向がほとんど西側からなのだ。オークは通常小さなもので3匹から大きなもので8匹ほどの群れを組み、定住地を持たないで移動して生活する。

 ある一定期間住み着いた区域の獲物を食い荒らした後、次の区域に移動して同じことを繰り返す。まるでイナゴの群れか何かだが、ここの種の生活体系の善悪にまで口を出すつもりは無い。それはそういうものなのだと認識すれば足りる。

 問題は、なぜ奴等は西からしか来ないのか。

 人間達の認識ではこの森の奥に行けば行くほど強大な魔物が住むという。あるいは強大な何かに圧迫されて追い出されているのか。それとも大規模なオークの集落が存在するのか。

 とにかく脅威は西にある。

 そこで俺は兼ねてから考えていたことを老ゴブリンに相談する。

 この集落の近くにある同じゴブリンの集落を探し出し、それを併合していくのだ。

 今俺の手元にある駒としては、ゴブリン・レアが3匹戦闘用としての雄ゴブリンが32匹、非戦闘用のゴブリンが9匹ほどだ。

 如何にも心許ない。以前俺がゴブリン・レアに成ったときに王はいるかと、その時のゴブリンに問いかけてみたが、その時の答えを思い返す。

 確か4つ程度のグループはあったはずだ。

 ひとつのグループに30匹はいたとして120。丸々吸収できれば、なかなかの戦力ではないか。

「同じゴブリンの集落を知りたい。できればそこを率いる群れの主もだ」

 老ゴブリンに端的に事情を説明すると、あまり良い顔はされなかった。

「王よ、焦ってはなりませぬ。いまだ東の区域もままならぬ有様です」

 む、と俺は思わず眉をひそめた。痛いところをついてくる。

 確かに、人間に対する対処を忘れてはいけない。奴等がどの程度でこの集落に到着するのか、その時間を正確に知らねば対処を誤ることになる。

 その先に待っているのは、せっかく育てた集落の崩壊だ。

 特に俺の手元にはレシアを始めとした人間がいる。それを取り返すために、部隊を編成することは十分に考えられる。

 だが、それを恐れてはいつまでたっても行動を起こせないだろう。

 人間の行動はいつになるか予想をつけるのが難しい。レシア達が人間側の世界でどの程度の価値を有するのか。今の俺では計りようもないのだ。

 優先順位をつけて対処するしかない。

「おい」

 足元でくつろぐコボルトに声をかける。

「人間が森に入ってきたら知らせろ。わかるか?」

 疑問の表情を浮かべていたコボルトは、ぐわん!と一声鳴くと尻尾を振る。

 オークの肉を差し出すと、それを口にくわえて一目散に駆け去っていく。

「ニンゲンクル。シラセル」

 どの程度あれを信用できるかは未知数だが、ないよりはマシだ。最悪全く当てにならなくても、ゴブリンを使っての警戒を敷いておけばいいだろう。

 これでひとまず東はよしとしよう。後はゴブリン達に東の狩猟区域を多めにすればいい。

「東はこれで良いだろう」

 渋々ながら頷く老ゴブリン。

「では、お話しましょう」

 そういって語り聞かせてくれた内容をまとめると、俺達の集落はゴブリンの集落の中でも最も小さいものだそうだ。

 集落を維持しているのがかなりの幸運の上に成り立っているらしい。

 まぁそれは薄々感じてたが。だからといって他のグループが突き抜けているはずもない。

 そんな個体がいるなら俺のように、周辺を併合して力を増すことを考えるやつがいてもおかしくないはずだ。

 未だにそれが無いということは、どのグループも頭ひとつ抜け出ていないと考えていい。

 最も近いゴブリンのグループは30ほどの戦闘員を抱えるグループであるそうな。

 この集落から歩いてちょうど1日。

 堅固な洞穴に住処を構えているらしい。

 群れの主については、ゴブリン・レアだったそうな。

 情報は老ゴブリンの記憶の中のみというかなり不確かなものだ。三代前の群れの主がゴブリン・レア同士で親交があったために知ってたらしい。

 なるほど。親交か……。

 初めての侵攻にはちょうどいい獲物だろう。

 情報の少なさが気になるが、あまり時間も無いことだしな。

「ギ・グー、ギ・ギーに支度をさせろ。ゴブリン10匹を連れて行く。ギ・ガーが中心となって留守を守れ」

 命令を下すと、老ゴブリンに道案内を命じる。

 渋る老ゴブリンを脅すと、遠征用の食料を用意せねばならなかった。


◇◆◆


 獲って来た生肉を小屋のひとつを使って煙で燻す。

 おぼろげな知識を総動員して、数時間放置する。

 結果、焦げた。

 何が悪かったのか。

「何をしているのですか?」

 隣の小屋で行われていることに興味津々なレシアの様子に気の無い返事を返す。

「保存食を作りたい」

「何のために?」

「他の集落を落とす」

 俺の言葉に何を考えたのか、レシアはぽんと手を叩く。

「食事に果物をつけてください。そうですね、ケジュの実を全員分です」

 どうやらこの女は見た目以上にたくましいらしい。ケジュの実というのは、木に生えている果物で、食べごろになると赤く色付く……まぁりんごのようなものだ。

「良いだろう。今日の昼食からだ」

 ゴブリンは肉食を愛する。【スキル】《雑食》持ちのゴブリンは比較的何でも食べるが、それでも好みというものはある。木の葉でも、木の根でも果物でも大丈夫だが、肉がとにかく食いたくなるのだ。

 だからケジュの実などというものは、あまり集まってこない。

 俺が特に指定しない限り、だが。

「マチスさん」

「はい、なんでしょう聖女様」

「肉を燻製にしたいらしいのですけど、どうしたら良いのか教えてあげてくれませんか?」

「聖女様の頼みとあれば……」

 恐怖の視線を俺に向けつつ、手順を説明する。

 その手順どおりに手下を動かすと、同じように火をつける。

 結果、今度は成功した。

「なぜだ」

 よほど憮然としていたのだろう。マチスと呼ばれた男は、震えていたがなおも執拗に聞くとどうやら火加減が大事らしい。

「むむ」

 熟練の勘とでも言うのか、それ以上の追求を諦め俺は褒美にウサギの肉をマチスにやった。

 その機微をゴブリンが再現できるのかという問題があったからだ。

 ゴブリン・レアあるいはノーブル程度になればなんとかなるのかもしれないが、その為だけに貴重な戦力である彼らを拘束するのは痛すぎる。

 人間ができるなら、そこは任せても構わない。

「約束を忘れないでくださいね」

 ちゃっかりしているレシアの言葉に、頷く。

 俺が考え終わった頃を見計らって言葉をかけるレシア。

 ぎくりとして、振りむく。

 まさか、と思う。

 俺がその食料で人間の村を襲う可能性も考慮した上で、尚且つ今の現状では自分達人間を頼らざるを得ないことまで読んでの行動か?

 いつもの仮面じみた無表情から感じるのは、昼食の改善を要求する年頃の少女のものでなく、もっと強大な聖女としての知性だった。

「昼は過ぎてしまったな。夜からゲジュの実をつけよう」

 面白い、と思う。

 どこまでがレシアでどこまでが聖女なのか。

 俺がどこまでが人間で、どこまでが化け物なのか。

 見極めてやろうという気分にさせる。

 あるいはそれが、魅了の範囲内だったとしても俺は強くその感情を拒絶しなかった。


◆◇◇◆◆◇◇◆


癒しの女神(ゼノビア)の信徒の能力である【スキル】《聖女の魅了》が発現します。


緩やかな精神侵蝕が始まります。


聖女に対して危害を加えることが難しくなります。


◆◇◇◆◆◇◇◆



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