従属魔
【種族】ゴブリン
【レベル】11
【階級】デューク・群れの主
【保有スキル】《群れの統率者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B-》《果て無き強欲》《孤高の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》
【加護】冥府の女神
【属性】闇、死
【スキル】《狂戦士の魂》の発動。
目の前が真っ赤に染まる。
迫りくる槍をなんなくかわし、懐に入ると同時エンチャントされた鋼鉄の大剣がオークの腹を突き刺し──。
「グルゥアアアア!」
そのまま俺はオークの腹に刺したままの大剣を思い切り振り上げて、その身を引き裂いた。
天にばら撒かれる血と臓腑。
文字通り血の雨を降らせて、俺は笑っていた。
──なんでこんなにハイなんだ!?
怯むオークの姿に、嗜虐の笑みが浮かぶ。
──クハハハハハ! 死ね、死ねェ、死ねェェェ!
背を見せるオークの背中に向かって、大剣を振り下ろし、悲鳴を上げるオークの背をえぐる。踏みつけてオークの頭を潰すと最後の一匹を追う。
すぐさま追いついた獲物の足を殺ぐ。
肩を刎ね飛ばす。
最後に残った頭を握りつぶして咆哮を上げる。
内なる声の命ずるままに、俺は殺戮を繰り広げていた。
──違うっ! 何をしているんだ俺は!?
【スキル】《反逆の意志》が発動。
《狂戦士の魂》からの精神侵蝕を緩和します。
◆◇◇
辺りを見渡せば、ひどい有様だった。
無様すぎる。
少しの力を手にした途端、このざまだ。
あまりの醜態に俺は舌打ちした。
発達した聴力を使って水辺を探す。屍は、このままがいいだろう。オークの肉から必要な分だけを切り取って回収しておく。
少し見てみたいこともある。
小さな──といっても俺が一人入るには十分なのだが──滝を発見すると俺は早速その中に潜った。滝壺の中で頭まで漬かって沸騰した頭を冷やし、こびり付いた血を落とす。
一通りオークの血肉の臭いが落ちた所で先程の現場に戻った。
自分がやったとはいえ、ひどい惨状だった。だが、それでもやってしまったことは最大限利用すべきだった。屍を漁るべく集まる獲物を見張ること数時間。
茂みに隠れ息を殺し続けているのもそろそろ無駄かと思えて来た時、それはやってきた。
獣の頭に猫背で、手には獣の牙を持っているだけの姿である。二本足歩行に尻尾、背丈はゴブリンよりもさらに小さい。茶色い毛並みは、どこかで見たことがあるような……自身の肌の色を見て、気のせいだと思い直す。
その数5匹。
コボルトと言われるゴブリンよりも更に下位種とされるものたちだ。
獣の屍を漁って生きている種族。もちろん老ゴブリンの話だが。
こいつらにも知性があるらしい。
隠れていた茂みから飛び出し、そのうちの一匹を捕まえる。一匹を捕まえると四散して逃げ散ってしまう他のコボルト。
「お前、話はできるか?」
首根っこを捕まえて俺の顔の前まで持ってくるが、牙を剥こうしてばかりで話にならない。
知性なさそうじゃないか。
オークの屍から肉を剥ぎ取ってコボルトの口に突っ込んでみる。噛まれたらくだらない。
無駄足だったかとコボルトを投げ捨てると、探索を再開させるべく歩み始めた。
少し歩いて後ろを振り返ると、さっきのコボルトがついてきている。
「ウゥ~ぅ」
なんだか凄いものほしそうな顔をしている。牙を剥いていたはずの犬の頭は腹を空かしていますといわんばかりに涎をたらし、尻尾を振り振り俺を見上げる。
警戒心と餌をくれるんじゃないかと言う期待が半々に篭った視線。
「ウゥ~ぅ」
さっきから唸っているのは、俺じゃない。念のため。
追い払ってもよかったのだが、面倒になった俺はオークの肉を投げてやる。
訓練された犬を連想させる動きでぴんと耳を立てるとコボルトは、投げられた肉に向かって一直線に走り、手に持って俺のそばに帰ってくる。
帰ってきてどうする。
面倒だったので手でしっしと追い払っておく。
それをどう勘違いしたのか、しっかりと頷いてコボルトは肉を頬張り出した。これ以上付きまとわれても面倒なので、俺はそのまま探索を続ける。
だが、コボルトを誘い出す為にオークの屍の近くで待っていたのが響いて時刻は既に夕刻だ。
帰る時間を考えれば、そろそろ限界。
足を集落に向ける。
しばらく歩いて俺のほかの足音がするのに気がつく。
後ろを振り返ると、見上げるコボルトの姿。俺が振り返ったのが気になったのか一緒になって後ろを振り返っている。いや、お前だ。
「なぜ、ついてきている」
首をかしげるコボルト。なぜお前が不思議そうな顔をする。
「ツヨイ」
俺を指差すコボルト。
「ツイテク」
自分を指差すコボルト。
精神的に疲れていた俺は、何もかももう面倒になって何も言わずそのまま集落へ戻った。
俺の後をひょこひょことついてくるコボルトに、集落のもの達が奇異の視線を向けたのは言うまでも無いが、何も聞かれなかったのが救いといえば救いだった。
「随分と面白いものをつれてますね」
唯一レシアだけが、何やら不満げな視線を俺の足元で尻尾を振っているコボルトに向ける。
「知らん」
経緯を説明するのも面倒だった。
「ペットなら私もほしいのですが」
俺の心底嫌なそうな顔に、レシアはどう思ったのか。
「違うのですか?」
そうか? そう見えてしまうのか。
「お前らの中ではコボルトはどんな位置づけなんだ」
そうしていつもの雑談が始まった。
モンスターと俺は一概に考えているが、レシア達人間の捉えるモンスター像との差異。あるいは認識というべきか。それを話の種として、時々俺が質問を交えながら小一時間ほど続いた。
その間コボルトは、俺の足元で欠伸をしながらくつろいでやがった。
この野郎、居座るつもりか!?
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コボルトが従属しました。
レベルがあがります。
11⇒12
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