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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
楽園は遠く
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シルフ統一戦争Ⅸ

【種族】ゴブリン

【レベル】59

【階級】キング・統べる者

【保有スキル】《混沌の子鬼の支配者》《叛逆の魂》《天地を喰らう咆哮》《剣技A−》《覇道の主》《王者の魂》《王者の心得Ⅲ》《神々の眷属》《王は死線で踊る》《一つ目蛇の魔眼》《魔力操作》《猛る覇者の魂》《三度の詠唱》《戦人の直感》《冥府の女神の祝福》《導かれし者》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死

【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv77)灰色狼ガストラ(Lv20)灰色狼シンシア(Lv1)オークキング《ブイ》(Lv82)

【状態】《一つ目蛇の祝福》《双頭の蛇の守護》





「王よ!」

 深淵の砦から遥々やってきた暗殺のギ・ジー・アルシルが雄叫びを上げ、俺と初めて相対するゴブリン達が狂ったように手にした武器を天に突き上げる。

 妖精族にジラドの森で敗北を喫してから34日。本拠地からの援軍を迎え、反撃の準備は整った。

 ゴブリンの総数は240を数え、妖精族らは150の戦力を揃える。更には亜人達から70程の参戦があった。

「良いのか? 対人間の為の同盟だが」

「構うかよ。俺らァ、てめえじゃなくて妖精族の為に戦いに来たんだからよォ」

 ミドの言葉に、ニケーアも頷く。

「ゴブリンの王よ。今回も期待させてもらう」

 相変わらず礼儀正しい。

 また、質的な方面からも充実を見せている。ノーブル級としてギ・ジー・アルシル、氏族からもデューク級ゴブリンであるラーシュカ。

「久々に暴れられるな」

 豪快に笑うラーシュカに、俺は苦笑する。留守番等させられていて、だいぶ鬱憤が溜まっているようだった。

 亜人の共同体である八旗からは、(ウェア・ウォルフ)のミドがその同朋40と、更には灰色狼が同数。蜘蛛脚人(アラーネア)からはニケーア自ら30の戦士達を率いて参戦していた。

「我が君、編成整いました」

 流麗な言葉と共に跪いたのは、最近ノーブル級に進化を遂げた一匹のゴブリンである。

 数々の戦を経験したギ・ヂーは、先の戦の後に進化を果たしていた。


【個体名】ギ・ヂー・ユーブ

【種族】ゴブリン

【レベル】1

【階級】ノーブル

【保有スキル】《死線を潜りし者》《戦鬼》《万能の遣い手》《副官の心得》《剣技C+》

【加護】なし

【属性】なし


 ──《死線を潜りし者》死地においても冷静さを保てます。混乱・状態異常に対する耐性(中)

 ──《戦鬼》群れ及び軍の指揮に補正。

 ──《万能の遣い手》あらゆる武器に対してC-までの補正。

 ──《副官の心得》群れの主と共に戦うことにより、防御力上昇(低)。クリティカル発動率上昇(低)。


 更にノーマル級ゴブリンからもレア級ゴブリンが2匹、ドルイド級が1匹程進化している。


【個体名】ギ・アー

【種族】ゴブリン

【レベル】1

【階級】レア

【保有スキル】《神域を侵す者》《剣技C-》《血を啜る者》《威圧の咆哮》

【加護】夜の神(ヤ・ジャンス)

【属性】闇

 

 ──《神域を侵す者》結界に侵入することが出来ます。成功率は結界のレベルにより(低~中)

 ──《血を啜る者》妖精族及び亜人の血を飲むことにより、全能力上昇。


【個体名】ギ・イー

【種族】ゴブリン

【レベル】1

【階級】レア

【保有スキル】《統率D-》《剣技C-》《遠征者》《威圧の咆哮》

【加護】なし

【属性】なし


 ──《遠征者》移動力が上昇。


【個体名】ギ・ウー

【種族】ゴブリン

【レベル】1

【階級】ドルイド

【保有スキル】《統率D-》《知への探究者》《副官の心得》《魔素操作》《水術操作》

【加護】水の神(イレン)

【属性】水


 ──《知への探求者》知恵の神の恩恵を受けて、知能の成長速度が増加します。


 これで量と質の充実は図れた。彼らに装備させる武具についても、鉄製武具を亜人の集落から運ばせている。それを担うのは、新たに人馬族の族長の地位についたティアノスだ。

 やはり青銀鉄製の武具は増産は難しいようだ。少数の兵士になら装備させることが出来るようだが、これだけの数を整えるのはかなりの時間を要するし、材料の方も不足気味ということだった。

 有る物で切り抜けるしかないということだろう。

「数の有利は間違いないな」

 これからの作戦を練る為の会議の席で、シューレの言葉に頷く。

 シンフォルまで押し込まれているとはいえ、決してこちらが不利なわけではない。

「だが、敵は未だ健在であることに変わりはない。確か……プエル・シンフォルアとフェルビーだったか」

 俺の意見に、シューレが頷く。

「捕虜から話を聞けたのが幸いだったな。まさか人間の領域からの援軍だとは思わなかったが……」

 プエル・シンフォルア──南の大集落シンフォルアの族長フェニトの従姉にして、人間の世界でつい最近まで冒険者として活躍していたらしい。

 何故そのような者が今更戻ってきたのかは分からないが。

「プエル……?」

 その名前に反応したのは、いつもは会議の席でうたた寝を決め込むシュメアだった。

「何だ、有名なのか?」

 俺の質問に、シュメアはゆっくりと首を振る。

「いや……そうじゃないけど、どこかで聞いたような……」

 しばらく唸っていたシュメアだったが、突然声を上げると立ち上がった。

「……思い出した! セレナの探し人だッ!」

 セレナの?

 そういえば確かに以前、聞いたことがあるような気がしないでもないが。

「そういうことなら、セレナに説得させてみるのも一興か?」

 難しい顔をして考え込むシュメアが、腕を組んで唸る。

「言っちゃあ悪いけど、そんな余裕あるのかい? 旦那……確かに数はこっちが多いけど、油断は禁物だよ」

 流石に分かってしまうか。苦笑する俺に、彼女は苦い顔を向けたまま視線を外さなかった。

 確かに兵数なら相手を上回る。だが、シンフォルまで後退させられた俺達には、その兵力を展開させる土地が残されていなかった。

 仮にそんな土地があったとして、敵がそこに来てくれるとも限らない。

「ならば講ずる策は……」

「消耗戦だな」

 シューレの言葉を俺が引き継ぐ。疑問の表情を浮かべる参加者を見渡して、再び苦い答えを吐き出す。

「敵に出血を強いる。兵力の差を活かして、間断無く、な」

 決して負けはしない。狭い森林内の街道を舞台にした戦いなら、最終的には数に勝る俺達が勝つだろう。

 夥しい数の敵味方の屍を積み重ねての勝利。だがそれは、本当に必要な犠牲だろうか。

 もっと犠牲を抑えて勝利する方法がどこかにあるのではないか。常に頭に浮かぶその考えを振り払うべく、俺は参加者達を見渡した。

 或いは、更にこの森に敵を引き込むという方法もあるが、賭けの要素が強過ぎる。

 被害が大きくとも、確実に勝てるのだ。勝ちを拾うという意味では、こちらの方が真っ当な戦略だろう。

「だが王よ、被害が大きくなり過ぎないか?」

 呪術師ギ・ザー・ザークエンドの言葉に、俺は眉を顰める。

「……では、お前には何か良い策があるとでも?」

 唸るギ・ザーから視線を外すと、一匹のゴブリンが進み出る。

 先にノーブル級に進化を遂げた戦鬼ギ・ヂー・ユーブだった。

「恐れながら、我が君……敵をこのシンフォルに引き込んではいかがでしょう?」

「俺も考えぬではなかったが、賭けの要素が強過ぎる。奴らが俺達より早くにこの集落の防備を固めてしまっては、かえって拠点をくれてやることになりかねん」

 元々この集落は俺達のものではないのだ。

 相手の方が勝手を知っている。その分防備を固める要所を知っている筈だ。

「……ならば、その策に確実性を加えてみせよう」

 そういって扉を開けたのは初老の妖精族だった。

先生(シフォン)!」

 思わず立ち上がったのはシューレだった。

「お初にお目にかかる。ファルオン・ガスティアと申す。お歴々の方々」

 気品を湛えて一礼する姿は、まるで絵画のように様になっている。

「お聞きになっていたのですか……」

「集落を纏めるのに時間が掛かってしまった。君の家族が大変な目に遭っているときに助けてやれなくて済まんな、シューレ」

「いえ、滅相もない」

 二人のやり取りから、なんとなく彼ら二人の関係を窺い知ることが出来る。

「さて、挨拶はこれぐらいにしよう」

 信用できるのかとシューレに視線を向ければ、大丈夫だと頷きで返してくる。

「……で、策とは?」

 俺の問いかけに、少し声を潜めてファルオンが応えた。


◆◆◇


「そう、ですか……ゴブリンに増援が」

 各地に放った斥候からの情報を分析していたプエルの下に決定的な報せが齎されたのは、ギ・ジー率いる増援の到着から2日後のことだった。

 シンフォルの森まであと少し。

 ここに至るまでの拠点の尽くを占領して来た妖精族の軍は、今や400を数える。シェーング・およびジラドからの戦士の参加でここまで戦力を増加することが出来た。

 それは良い。

 だが、シンフォルアからの援軍は一向に現れなかった。

 プエルとフェルビーの率いる兵士達の割合が最初はシンフォルア一辺倒だったのが、シンフォルを除く3集落からの出身者で固められていくにつれて、シェーングとジラドの森の発言力は高まっていく。より多くの血を流した者に発言権が与えられるのは人間も妖精族も変わらない。

「プエル様! ここは一気にシンフォルの森を攻めましょう!」

 何の策もなくとも妖精族であれば勝てると思い込んでしまう程、プエルの指揮した妖精族は連戦連勝を重ねていた。

 このような発言が平然と罷り通ってしまう彼らの増長は、目を覆うばかりだった。

「いえ……ここは一旦退くべきです」

 シンフォルの集落を目の前にしての撤退。

 指揮官として勇気を必要とする決断だったが、プエルにはプエルなりの考えがあった。

 こと戦術においてなら、未だゴブリンは彼女の敵ではなかった。情報収集の巧みさ、戦力を投入する判断、集中の度合い、虚々実々の駆け引き……そのどれもが、今は未だ彼女に分がある。

 故に、妖精族が取るべき戦術は再び中継地点を利用して、優位を積み重ねることだ。

 ゴブリンは今後も際限なく湧き出すだろう。

 ゴブリンを相手にする場合、冒険者としての経験から、彼らの本拠地を叩くか、或いは群れの主を討たない限り根本的な解決は望めないとプエルは考えていた。ゴブリンの本拠地がどこにあるかは今のところ分かっていない。また、解っていたとしてもシンフォルの森を通過せねばフォルニ以北へは行けないのだ。

 だから彼女は、占領した中継地点を一旦放棄すべきだと主張する。

 狙うべきはゴブリンの群れの主である、あの黒いゴブリンだ。

「何を! 折角奪った中継地点をむざむざ敵に返すなど、何の為に我らが血を流したのか!?」

「決して無駄ではありません。ですが……」

 ゴブリン・フォルニ連合軍に負けたのは、内部の反乱分子が原因だったのだ。決して自分たちが劣っていたからではない。そう思い込もうとしているかのように、シェーングとジラドの兵達の発言は頑なだった。

 嘗てはその弱点を突いてシューレ・フォルニを敗退させたプエルだったが、ここに来て彼女自身がその難しさに頭を抱えていた。混成軍故の統率の困難さは、常に彼女を悩ました。

「今優先すべきは──」

「──伝令!」

 叫びながら、会議の場に走ってきた妖精族の一人が荒い息の間から告げる3つの報告に、その会議に参加していた者達は沸き立った。

 ファルオン・ガスティアの降伏。

 ゴブリンと妖精族、亜人の離反。

 そしてシンフォルの森放棄の報せである。

 その報せを聞いた瞬間、プエルは頭を殴られたような衝撃を受ける。

「好機だ! 今こそシンフォルの森を取り戻そ──」

「いけません! 罠です!」

 普段は声も荒げない彼女の焦りを含んだ声に、その場にいた全員が静まり返った。


◆◆◇


「プエル姉さんが……シンフォルアに?」

 会議の後、一人セレナは俯いていた。どうしたらいいのだろうという考えがずっと頭の中をぐるぐると回り続ける。

「どう、しよう」

 彼女の目的は、シンフォルに帰ってプエルと再会することだ。ゴブリンの王様が約束してくれた。シューレ・フォルニ族長も、そう約束してくれた。シューレ族長とゴブリンの王様が、妖精族の森から争いをなくしてくれると言ったのだ。

 皆んな皆んな、約束してくれたのだ。

 なのに。

「どうしよう……」

 手を伸ばせば、すぐ近くにプエルがいるという現実にセレナの心は揺れ動く。

 自分はこのままここにいて良いのか。

 目頭が熱くなる。その時、後ろから首筋に腕が回される。

「うぅっ……」

 驚いて思わず動こうとし、首が締まってセレナは噎せる。

「なぁに、メソメソしてんのさ」

「シュメア、さん」

 その湿った声にシュメアは軽く溜息を吐きながら、後ろから抱き締める腕に力を込める。

「どうせ、ろくでもないこと考えてたんだろう?」

「そんなこと」

「あたしも、あのゴブリンの旦那も、あんたの同朋だってシューレの兄さんだって、皆んなあんたのことを心配してる。どんなに恩義のある人だって、自分自身よりも大切なものなんて無いんだ」

 俯くセレナに、シュメアは尚も言葉を続ける。

「良いね。誰かの為に自分を犠牲にしようなんて、そんな考えは駄目だよ。もし頭を使うなら、自分にとって一番良い結果を引き出す為に使いな」

「一番、良い……」

「そう!……なんて言ったかね。昔馴染みの言葉だけど、“あたしらは幸せの結末を目指すのさ。じゃなきゃぁ……生きてる意味がない”ってね」

 シュメアの暖かい言葉に、セレナは涙が溢れるのを感じた。


 ──人間との再戦まで、後264日。



次回の更新は、21日になります。


また日曜日が消えてましたね。仕事は増えてもお給料は増えないという(ry



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