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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
楽園は遠く
168/371

シルフ統一戦争Ⅷ

【種族】ゴブリン

【レベル】57

【階級】キング・統べる者

【保有スキル】《混沌の子鬼の支配者》《叛逆の魂》《天地を喰らう咆哮》《剣技A−》《覇道の主》《王者の魂》《王者の心得Ⅲ》《神々の眷属》《王は死線で踊る》《一つ目蛇の魔眼》《魔力操作》《猛る覇者の魂》《三度の詠唱》《戦人の直感》《冥府の女神の祝福》《導かれし者》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死

【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv77)灰色狼ガストラ(Lv20)灰色狼シンシア(Lv1)オークキング《ブイ》(Lv82)

【状態】《一つ目蛇の祝福》《双頭の蛇の守護》




 




 大剣を地に突き立て、眼前に広がる光景を目に焼き付ける。

 今まさに後退する配下のゴブリン達を妖精族が追撃していた。逃げる背を斬りつけられるゴブリンが悲鳴を上げて崩れ落ち、その背中を更に突き刺されて絶命する。

 ──だが、未だだ。

「王! 申シ訳あリマせん」

 見開く瞳のギ・ヂーが俺の前に膝を突き、頭を垂れる。

「行け」

 それを手で制し、短く言葉を発すると大剣を引き抜く。

 銘は、黒炎揺らめく大剣(フランベルジュ)。身の丈程もあるそれを肩に担ぎ、後ろに控える逆撃部隊を振り返って檄を飛ばす。

「我らは混沌の子鬼(ゴブリン)の戦士……恐れるのは、自身の怯懦のみだ! 吼えよ!」

 瞬間、俺の背を押すように雄叫びが上がる。

 俺もその声を打ち消すように声を張り上げる。目の前に迫る敵に向けて、地を蹴った。

「突撃!」

 地を埋め尽くすが如き、目の前に広がる敵達。溜めに溜めた気炎を吐き出すように細く息を吐き出し、前傾姿勢になり敵を睨み上げる。

「グルゥオォオォアァア!」

 後ろから雄叫びが続く。

 見る間に縮まる距離を目測で計ると、担いだままの大剣に魔素を通す。

我は刃に為りゆく(エンチャント)!」

 瞬時に揺らめく刀身から魔素が吹き上がる。魔素を流したままにしている大剣を振りかぶると、既に射程内に敵がいた。

 その敵に向かい大剣を振り下ろす。

 受けようとする敵の長剣ごと力任せに両断し、地面に届く寸前に切っ先を横に飛翔させる。妖精族の血を払い飛ばした剣先が、再び宙を舞う。俺に両断された妖精族の横にいた敵に向かって、再びその牙を突きたてたのだ。

 防ぎに来た楯ごとその体を吹き飛ばし、僅かばかりだが敵の隊列に罅を入れる。

 更に一歩進んで、再び大上段に振り上げた大剣を密集隊形を崩さず突撃してくる敵に向かって振るう。暴れる俺の後ろで、(かね)(かね)のぶつかり合う音がする。

 追い付いてきたゴブリンと妖精族が、命を懸けてぶつかり合っているのだ。

 今回俺の後ろに続いているのは青銀鉄(スリラナ)製の武具を身に着けてはいるが、ノーマル級のゴブリン達だった。ガイドガには体格で劣り、パラドゥアでは機動力で劣り、ガンラにはその技術で劣る。そんなノーマル級ゴブリンらが、必死で俺の後を追う。

 先ほどギ・ヂー率いる主力を破り、勢いに乗って追撃してくる妖精族を真正面から抑えているのだ。

 槍先を揃え、互いに庇い合い、傷付いた者をすぐさま後ろに下げて必死に戦うゴブリン達。目の前にいる妖精族もまた、必死だった。

 ここはシンフォルとシェーングの間に幾つかある中継地点。その中で、一番シンフォルに近い場所だった。

 大小無数の戦いの果てに、俺たちは後退を重ねていた。

 巧みな敵の戦術に対し、被害を抑える戦略を取る俺の方針を忠実に守れば、どうしても積極策は取りにくい。中継地点を保持し続けるよりはこちらの被害を減らし、時間を稼ぐのを第一としたのだ。

 指揮官たるべきゴブリンを育てるために、俺は敢えて逆撃部隊を率い、後退を重ねる味方の背を守る。そして勢いに乗る敵を食い止める役目を自らに課していた。

 敵も俺の意図に気が付いているのか、その攻撃は苛烈さを増していた。

 ──だが、な。

 ぎりり、と歯を噛み締める。 

俺が視界に捉えるのは、先ほど助けられなかった戦士の屍。速過ぎるあのタイミングで飛び出せば十全に逆撃の役割を果たせない。充分に引き付け、一気に押し出すからこそ相手の勢いを止められる。

 それでこそ逆撃となるのだ。

 分かってはいても胸に湧き上がるのは憤怒の炎だった。

 縦横無尽に大剣を振るい、近づく者全てを薙ぎ払う。

 俺の部下を殺すのは、俺の手足を奪うのに等しい。

 ──許せるものかッ!

「グルゥルォォオァアァアァッ!」

 激情のままに俺の口から迸るのは、《天地を喰らう咆哮》。周囲一帯を制するその威圧に、遠距離から矢が降り注ぐ。

 ──いつもより反応が速い。敵も本気ということだ。

 集中する俺への攻撃に、大剣を楯にして矢の雨を防ぐ。だが、全ての矢を薙ぎ払うには届かない。普通に射られた矢に交じって、魔素を纏った矢が無数にある。

 風、水、火……無数にあるそれらが俺へと降り注ぐ。それと合わせ、左右からは敵の剣兵が迫る。味方の矢の精度に絶対の自信を持つが故の攻撃方法だった。

我が身は不可侵にて(シールド)!」

 シールドを発動しつつ、被害を最小限に抑える。同時に襲い掛かってくる左右からの攻撃を弾き飛ばし、更に敵の隊列を食い破る。

 だが、さすがに後続が続かない。

 ──潮時か。

「退け! 右だッ!」

 大剣を右に向けながら指示を出す。右に迂回しながらゴブリンを引かせ、その最後尾に立つと、細い小道に辿り着くまで、全力でゴブリン達を走らせる。

 道の左右の樹海から俺の背後に向かって、矢が射られる。

 援護の為に潜んでいたフォルニの弓兵達だった。

 俺達はそのまま、シンフォルアの森への退却に成功した。


◆◆◇


 深淵の砦を出た暗殺のギ・ジー・アルシルは、亜人の集落から妖精族の森へと向かっていた。数日前に到着した王からの使者の言葉によれば、王は妖精族との戦いで苦境に陥ってるという。

「しっかし、ゴブリンってのは多いんだな。この前の大集団にも驚いたが、未だこんなにいるたぁ」

 戦闘をギ・ジーと並んで歩くのは、亜人の共同体『八旗』の内の一つ。

 (ウェア・ウォルフ)のミドだった。類稀な戦闘力と俊敏な動き。更には友たる灰色狼と共に草原を駆け抜ける彼らは、文字通り風となって王からの報せを齎した。

 最もあまり思慮深くはないので、深淵の砦の門前でゴブリンと一悶着あったのは交流の為に来ていた他の亜人達の眉を顰めさせたが。

 ギ・ジー・アルシルの後方を進むのは、深淵の砦を守るナイト級ゴブリンのギ・ガー・ラークスから借り受けた80匹のノーマルゴブリンと、氏族からの義勇兵50匹だった。

「王の為だ。我らは骨身を惜しまぬ」

 未だ見ぬ妖精族との戦場を睨むギ・ジーの視線に、ミドは肩を竦めた。

「まぁ、俺達も大恩ある妖精族に借りが返せるんだ。張り切って行きてぇモンだが……」

 時に噂は、風よりも早く人々の間を駆け抜ける。

 既にジラドの森で行われていた亜人の奴隷化のことはフェイ経由でシューレへ、そしてミドらフォルニの保護する亜人達の下へ伝わっていた。

 凶悪な犬歯を剥きだして笑うミドに、ギ・ジーは視線を向けた。

「鉱石の末、だったか。お前達も王に忠誠を誓っているのか?」

ミドは最初唖然としてその質問に聞き入ったが、直後に吹き出した。

「……くっ! カッカッカ! 俺達がゴブリンなぞに忠誠を誓うわけがねェだろう!」

 そこで言葉を切ると、先ほどの爆笑が嘘だったように笑いを引っ込め、怒りすら内包した視線でギ・ジーを睨む。

「だが、俺ァ義理を欠くような人でなしじゃァねえんだ。友の子を育てたゴブリンの野郎にゃァ……一廉ならねえ義理がある。その為に力を貸そうってだけだ」

 “暴虐”の異名をとる亜人の族長の言葉に、ギ・ジーは黙って頷いた。

「……お前によく似た男を知っている。王より混沌の子鬼(ゴブリン)一の剣士と称賛されながら、王に刃を向けた戦士だ」

「ほほう、気が合いそうじゃねえか」

「強いゴブリンだった。仲間の為に灰色狼と刃を交えることをも厭わぬ、強いゴブリン。だが、強すぎる力が王に刃を向けさせた」

「……そいつは今どうなったんだ?」

 ギ・ジーはその遠い背を振り払うかのように首を振ると、再び前を見る。

「遠くへ行ってしまった。だが、いつかきっと戻ってくる」

 今のギ・ジーでは、かつて憧れたそのゴブリンには遥かに届かない。

「……我らは強くならねばならん。王の背を守るのは、我らでしかない」

 ギ・ジーとミドは八旗の治める集落へ入ると、妖精族の集落に向かうべく準備を整えていた。


◆◆◇


 プエルとフェルビー率いる妖精族の連合軍はシェーング、ジラドの森から支援を受け、その数を400に増やしながらゴブリンらと対峙していた。

 青銀鉄製の武具、そして人員の補給までを済ませた彼らは、ゴブリン・フォルニ連合軍との連戦においてもその強さを十分に発揮した。

 争いの絶えない人間の世界で荒波を乗り越えたプエルの戦術と勇敢なフェルビーの前線指揮に支えられ、彼らは10戦してその悉くに勝利を収めた。

 シェーングとシンフォルの中継地点を奪い合う小さな戦の連続だったが、それでも彼らの実力の高さを証明するには十分だった。

 特にプエルの戦術の冴えは精霊の加護があるとしか思えないほどの的中率を見せる。彼女が勝負を掛ける場面に勝てば、必ずゴブリン・フォルニの連合軍は退却せざるを得なかった。

 陽気な性格で常に前線に立つフェルビーが森の神(チェツェン)の寵児と呼ばれるのに対して、彼女は殆ど笑顔を見せない。だがその妖精族の中でも整った容姿に、軍を動かすために弓を射る姿は弓の神(ザ・ルーガ)の化身と称えられた。

 自然、彼女の人気は否応なく高まる。

 前線で戦う者から支持は当然として、戦う度に勝利を収めるのだから支援するシェーング、ジラドの族長達からの反応も悪い筈がない。

 彼ら族長たちにしてみれば、自分たちの支持する軍隊が勝利を収めるのだ。これ以上ない程の民に対する宣伝だった。族長達のもう一つの思惑、プエルをフェニトの対抗馬とする考えもあって、彼女の支持に回るのは当然だった。

 だが、そんな彼女の様子を見て怒りに身を染めるのはフェニト・シンフォルア。今妖精族の中で最大の力を持っている男だった。

 シェーング、ジラドらと違い独自でシューレ・フォルニの罠から立ち直ったシンフォルアの森は他の森に兵を派遣しつつ、フェニト独自の兵を養っていた。故に、プエルとフェルビーが戦えているのはシェーング、ジラドの森の支援のお陰なのだ。

 でなければ、彼女らの戦いはもっと厳しいものになったはずだ。

 事実、シンフォルアからプエル・フェルビーらに補給は殆ど行われていない。

 フェニトは戦況が有利になるに連れて、ゴブリン・フォルニの連合よりもプエルに脅威を覚えるようになっていった。

「流石、シンフォルアの一族ですな」

「ええ、その通り。フェニト殿も鼻が高いでしょう」

「……無論だ」

 ナッシュとプリエナのプエルを称える言葉に、フェニトは眉を顰めて鼻を鳴らした。

 内心では窮地に落とした筈のプエルの活躍と、その類稀な戦術の冴えに脅威を感じていたのだ。

「……この調子ならゴブリンなど簡単にけりが付きそうだな。私は帰らせてもらう」

 ナッシュやプリエナの止める声も聴かず、フェニトは踵を返す。

 後に、自身の森から派遣した戦士達に一言の労いもなく帰ってしまった彼の態度を知ったシンフォルアの戦士達は不満を募らせるのだが、フェニトには知る由もなかった。

 そんな彼に、一人の妖精族が近寄り耳打ちする。

 一瞬だけ眉間に皺を寄せてその妖精族の女を見ると、鼻を鳴らしてフェニトは歩み去る。その後を妖精族の女が追って行った。


──人間との戦いまであと276日


◆◆◇◇◆◆◇◇


レベルが上がります。

57⇒59


◆◆◇◇◆◆◇◇



次回の更新は3月16日予定です。


あれぇ?


土日に仕事して、また月曜日が始まって……。


あれぇ??



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