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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
楽園は遠く
166/371

シルフ統一戦争Ⅵ

【種族】ゴブリン

【レベル】57

【階級】キング・統べる者

【保有スキル】《混沌の子鬼の支配者》《叛逆の魂》《天地を喰らう咆哮》《剣技A−》《覇道の主》《王者の魂》《王者の心得Ⅲ》《神々の眷属》《王は死線で踊る》《一つ目蛇の魔眼》《魔力操作》《猛る覇者の魂》《三度の詠唱》《戦人の直感》《冥府の女神の祝福》《導かれし者》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死

【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv77)灰色狼ガストラ(Lv20)灰色狼シンシア(Lv1)オークキング《ブイ》(Lv82)

【状態】《一つ目蛇の祝福》《双頭の蛇の守護》





 押し合うこちらの前衛と次々に襲い掛かってくる妖精族の兵士を見比べて、撤退の時期を図る。対処はできる。だが、敵に勝つ為の方策が思い付けないでいた。

 ただ悪戯にこの戦いを長引かせれば、配下に消耗を強いてしまう。補給の難しい妖精族と本拠地を遠く離れて戦うゴブリン。こんな所で使い潰してしまっては、人間の攻略など夢のまた夢だ。

「フェイ、ギ・ヂー、撤退するぞ!」

 頷くフェイと目を見開くギ・ヂー。だがどちらも迅速に俺の意図を理解したようだった。

「フェイ、ル・ロウを連れて後方の森に散開! ギ・ヂー、正面の部隊を後退させろ!」

 敵を薙ぎ払いながら指示を出していく。

「殿は俺が引き受ける!」

 俺の率いていた3匹一組には消耗を強いるが、被害を抑える為には仕方ない。玉鋼鉄(オレイカルコス)製の長剣を振るい、魔素を刃に纏わせる。正面の前衛を退がらせながら、敵から受ける圧力を、徐々に俺に集中させていく。

 森から矢の雨が俺の前に降り注ぐ。

 フェイか、ル・ロウか。どちらにしても有り難い。

「ギ・ザー、援護だ!」

「応!」

 周囲に風の竜巻が発生し、草木を巻き上げる。俺の背後に迫ろうとしていた正面の重装歩兵の足を止めつつ、更に後退。

 それでも突出する敵兵には森の中から幾本もの矢が集中し、追撃の速度を鈍らせる。

「今だ、転進! 走れ!」

 俺の背後で戦っていたゴブリンの前衛達を退がらせ、ジラドの森方向に走らせる。

 俺もその背を追い、最後尾で振り返りながら撤退を開始した。

 くそ、負けた!

 装備の差、地形の把握、用兵術など反省すべき点は多々ある……いや、今は味方を多く逃がすことが優先だ。俺はへたり込みそうになる気持ちを抑えながら、ただ足を動かした。


◆◆◇


「……あれは?」

 少数で撤退の為の露払いをしていたフェイは、折り重なるように積み上げられた木々が道を塞いでいるのを発見する。切り倒された木々は蔦を利用してしっかりと固定されており、容易に崩せそうにない。

 もうすぐジラドの森に辿り着くというときに一体誰が、という疑問が頭を過り、不意に背筋を寒気が襲う。

「警戒を、厳に!」

 配下の同朋に命じて周囲の索敵を行わせる。

 こんな真似をするのは敵しかいない。ならば、敵はこちらを待ち構えていたということだ。

 フェイの脳裏を最悪の予感が駆け抜ける。その時、彼らの頭上に矢が降り注いだ。

「天恵の風よ!」

 頭上に展開する暴風に、降り注ぐ矢の目標がずれる。

「やはり敵!? 回り込まれていたのか?」

 後ろから迫っていた筈の敵が、目の前に堰まで築いて道を塞いでいる事実。

 目の前に突き付けられて尚、信じ難い。

 森の中に奔る道の両側は、妖精族といえども深く足を踏み入れてしまえば機動力を削がれる程深い森の海。生い茂る草木に蔦が複雑に絡み合い、視界すら満足に得られない場所だ。

 前に進めない以上後退するしかない。

 目の前の敵を攻略するには人数が足りないし、森の中に分け入るのは、後ろから来るゴブリン達を見捨てることにもなる。堰のようになった道を塞ぐ木々の後ろから、数人の妖精族が姿を現す。

「愚かなフォルニの民よ! ゴブリンなどと手を組んだ貴様らの悪徳を恨め!」

 その声と共に再び矢が降り注ぐ。

「後退……後退だ!」

 背丈を越える程に積み重なった道を塞ぐ木々を睨み、フェイは後退を指示した。

 フェイ自身は知らないことだったが、簡易のバリケードともいうべきこれらを作り出したのは、プエルの別働隊として動いていたフェルビーだった。戦場を大きく迂回したフェルビー隊は、ゴブリン・フォルニ連合軍の背後に回り、道を封鎖。

 プエルの合図があり次第、彼らを挟撃する予定だったのだ。

「敵は引いたか」

 積み重ねた木々の上に上がり、フェルビーは逃げていくフェイ達を目で追った。

「……予定通り、ジラドの森へ向かうぞ!」

 

◆◆◇


 撤退の為の露払いに先行していたフェイから、悲鳴ともつかない報告が来たのは、やっと後方の敵を振り切ったかに見えた時だった。

 ──前方に敵。

 急いで駆け戻ってきたフェイの言葉に、俺は決断を下さねばならなかった。

 後方の敵と今一度戦うか? それとも前方の敵を撃破するのか? どちらにしても挟撃は避けられそうにない。では、どうする?

 前方の敵と戦う間に背後から、どちらかの敵が忍び寄りこちらの後衛を潰される。考えただけでもぞっとしない。周囲は道から外れれば、鬱蒼とした深い森だ。移動するのにも苦労しそうなその中を、補給の物資までを持って移動するなど不可能だろう。

 それに前衛戦力の問題もある。俺が一人でいくら踏ん張ってみても、戦場全体のどこにでも出現できるわけではない。俺が戦う場所は一個正面しか支えられない。

 戦い通しのガイドガやノーマル級ゴブリンはそろそろ体力も尽きてくるころだ。

「フェイ……ここからシンフォルの森まで抜けられる経路はあるか?」

「っ!?」

 思わず絶句してしまうフェイに、俺は努めて平静を装う。

「……可能です。細い道になってしまいますが、ここからなら未だ間に合います」

 俯いて敗北の現実を噛み締めるフェイに、俺は言い放つ。

「ならば、シンフォルへ向かう。挟撃を避けて一度態勢を整えねば、どうにもなるまい」

「……分かりました」

 再び走り出すフェイの背を見つめて、俺は小さく呟かざるを得なかった。

「……高くついたな。この敗戦は」

 胸を焦がす焦燥を息を深く吐き出すことで抑えると、再び号令を下す。

「シンフォルへ向かう! 全軍駆け抜けよ!」

 輸送隊の捜索に向かったシューレの無事を祈りながら、俺は軍の最後尾を走り出した。


◆◆◇


「世話になった」

 当初オークを毛嫌いしていた頃からは想像もできない言葉に、ブイは苦笑して手を振った。

「いいえ。僕らは助け合うのが当然ですから」

 人間の砦に侵入しようとして果たせず、怪我を負ったギ・ジー・アルシルだったが、その傷も癒えるとオークの集落を後にしようとしていた。

 母なる大樹の根元に作られたオークの居住地。そこに住み暮らすオークの生活は、深淵の砦を現在の住処とする前、ギの集落で暮らしていた頃の懐かしい思い出をギ・ジーに呼び起こす。

「これからゴブリンの集落に戻られるのですか?」

「そうしようと思う……やることも出来た」

「……人間の砦を単独で打ち破るのは困難だと思います」

 ギ・ジーは腕を組んで頷いた。傷の回復を待つ間、ギ・ジーには考える時間が沢山あった。高く積み上げられた石の城壁。それは長大で、ギ・ジー単独で見て回るには時間が掛かりそうだ。

 そしてその後ろにある大規模な人間の食料畑と、常に警戒をしている人間の兵士。探りを入れるのもかなりの危険を伴うことになるだろう。

 深淵の砦を守るギ・ガー・ラークスからの依頼。

 森の外側にいる人間側を探るという役目を果たせそうにないのだ。

「僕達は協力できると思います」

「俺の一存では分からない。王に裁可を、少なくともギ・ガー殿に聞いてみる」

 ギ・ジーが怪我で動けない間、人間の砦を探ってきていたのはオーク達だった。ブイがその情報を纏め、ギ・ジーに聞かせていたのだ。その精度は高く、ギ・ジーの驚きはそのまま、オークへの認識の見直しとなった。

「宜しくお願いします」

「ああ、やってみる」

 目の前のオークの王は、ギ・ジーの崇める王とは違う。猛々しさはない。常に先頭に立って導き、武威を振るう眩しき王ではない。

 だが、それとは異なる不思議な魅力を持つ王もいるのだと、ギ・ジーは認識する。

 自身の王に対する尊敬が揺らぐわけではない。だが、このような王の姿もあるのかと認識を新たにしていた。

「さらばだ。オークの王」

 ギ・ジーは背を向けて歩き出す。

 彼の胸には、自身の力だけではなく他のゴブリンにも情報を得る術を教える必要を感じていた。


◆◆◇


「ギ・ガー殿、ギ・ジー殿が戻られました!」

 嬉しい悲鳴というやつだろうか、深淵の砦を守るナイト級ゴブリン、ギ・ガー・ラークスの下に暗殺のギ・ジー・アルシル帰還の報が伝えられた。

 伝えに来たゴルドバのイェロも、良かったと安堵の表情を浮かべている。先日ガンラの実力者ラ・ギルミに捜索を頼む為の使者を遣わしたばかりだった為に、それと前後しての帰還だった。

 姿を現したギ・ジーの姿に、ギ・ガーは安堵の息を吐き出す。

「無事で何よりだ。ギ・ジー殿」

「ご心配をおかけした」

 素直に頭を下げるギ・ジーから森の外で蔓延る人間勢力の動きを伝えられ、ギ・ガーは一つしかない腕で顎を撫でる。

「一度、氏族の方々をお呼びして協議した方が良いだろうな」

「それが宜しいかと」

 森の外に築かれつつある人間の砦の存在。そして今の自分たちでは攻略が難しいであろうその規模。氏族の族長達なら何か良い知恵を持っているかもしれない。

 ギ・ガーがそう考えていると、再びギ・ジーが口を開く。

「お願いが……俺に部隊を一つ任せてもらいたい」

「何? 構わぬが……」

 ノーブル級ゴブリンには王から家名と一家を構える権利が与えられている。一家を構える権利を持ったゴブリンは、剣士ギ・ゴーとギ・ガーを例外として、勢力拡大の為に群れを離れている。

 新たな地で得たゴブリンを率いて、一家を成す。

 それでこそ一家の当主として、自分の支配地域を持てるわけだ。彼らは知らなかったが、王の国の中に領地を持つというのは封建制度というものだった。支配地域を王から認められる代わりに、王に忠誠を尽くす。その関係を知らなかったギ・ガーだったが、王から特別に信頼されているというのは分かる。

 だが、ギ・ジーの提案では領地は得られない。

 言い方は悪いが、それらは王からの借り物だ。決して自分の兵士ではない。

「情報を得る術を仕込みたい。今のままでは、王の力になり得ぬ」

 ギ・ジーの話を聞いたギ・ガーは首を傾げる。

 今まででも十分に役に立っているとギ・ガーは思っていたのだ。

「これからは人間との戦いだ。俺一人では手が足りない。もっと人数を増やせば、王が望む報せを取ってこれるだろう」

 成程とギ・ガーは頷く。

「確かに。では先日生まれたばかりのゴブリン達を任せようと思うが……」

「ギ・ガー殿! 深淵の砦に見たこともない者達が!」

 イェロの報告に即座に槍を掴むと配下のゴブリンを伴って愛騎に跨り、外に出る。

「ぬぅ……これは!」

 目の前に並ぶのは鳥か人かも分からぬ女。そして獣に乗った亀のような男、巨大な斧を持った牛だった。

「何者だ! ここは我ら(ゴブリン)の王が統治なさる地! 狼藉なら許さんぞ」

 黒虎に跨ったまま槍を構えるギ・ガーの誰何の言葉。

 それに応えたのは、鳥と人の間の女だった。

「我らは鉱石の末。そちらの王と親交を結びし、西の地に住む者!」

「……俺が出会った者とは別ですが、あれが亜人というやつです」

 ギ・ガーの後ろから付いて来たギ・ジーが、助言をする。

「ふむ……なれば王の客人というわけだな? とりあえず饗さねばなるまい」

 亜人達を深淵の砦に通し、少しずつだが亜人とゴブリンとの交流が始まった。


 ──人間との再戦まであと300日



◇◆◆◇◇◆◆◇

ギ・ヂーのレベルが上がります。

86⇒90

ギ・ドーのレベルが上がります。

71⇒81

ギ・ザー・ザークエンドのレベルが上がります。

51⇒56

ギ・ジー・アルシルのレベルが上がります。

7⇒14

◇◆◆◇◇◆◆◇

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