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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
楽園は遠く
164/371

シルフ統一戦争Ⅴ

【種族】ゴブリン

【レベル】55

【階級】キング・統べる者

【保有スキル】《混沌の子鬼の支配者》《叛逆の魂》《天地を喰らう咆哮》《剣技A−》《覇道の主》《王者の魂》《王者の心得Ⅲ》《神々の眷属》《王は死線で踊る》《一つ目蛇の魔眼》《魔力操作》《猛る覇者の魂》《三度の詠唱》《戦人の直感》《冥府の女神の祝福》《導かれし者》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死

【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv77)灰色狼ガストラ(Lv20)灰色狼シンシア(Lv1)オークキング《ブイ》(Lv82)

【状態】《一つ目蛇の祝福》《双頭の蛇の守護》





 シュナリアを始めとした輸送隊の壊滅の報告を受けて、俺とシューレは直ちに軍を派遣した。顔色を失くすシューレを筆頭に妖精族とゴブリンの連合軍を50程輸送隊の救援に向かわせると同時に、残る300程の兵士を俺が率いてジラドの森からシェーングの森へと押し出す。

 即座に動かねば、また補給線を切られるようなことに為りかねない。

「フェイ、妖精族を任せる。警戒と遠距離からの攻撃を頼むぞ」

「分かりました」

 生き残りのガイドガ氏族、ギの集落出身のゴブリンを中心に前衛を組む。周囲の目を引き付ける為にも、派手に行動せねばならない。

 敵と出会ったのはシェーングの森とジラドの森のちょうど中間だった。

「敵、150を確認! 前から来ます、距離1里」

 斥候から齎されたその情報に基づいて、俺は戦闘態勢を取らせる。

「槍と楯を取り出せ! 突撃態勢!」

 俺の号令にギ・ヂーが隊形の細かい指示を出す。

 徐々に近付く敵を感じながら、隊形を整えて加速していく。先頭を行くのは、前回の失敗を巻き返そうと意気込むガイドガのダーシュカ。左右にパラドゥア氏族の騎獣兵を伴って、万全の備えだ。

 見えた150を数える敵。僅かに動揺しているらしく、隊形を整え切れていない。未だ移動を繰り返す敵勢に向けて、俺は剣を振る。

「突撃だ、進めェ!!」

 ダーシュカが先頭となって妖精族に襲い掛かる。だが、ガイドガゴブリンの卓越した腕力をもってしても、彼らの装甲を貫くのは不可能らしかった。力任せに棍棒を振り抜き、弾き飛ばすのが精々だ。奴らの前衛は全身鎧に楯、そして長剣で装備を固めている。

 厄介な!

 今は突撃の勢いのままにこちらが押している。だがそれもいつまで続くか分からない。こちらの主力はノーマル級ゴブリンなのだ。ダーシュカを先頭に体力の続く内は良いだろう。だが、それが尽きれば一方的に狩られることに為りかねない。

「ギ・ザー・ザークエンド!」

「任せろ。敵の前線を崩す」

「頼むぞ!」

 呪術師ギ・ザーが俺の声に応えて、ドルイドを率いて前線へと移動していく。

「斉射!」

 調整された魔法の一撃が、前線を支える妖精族に降り注ぐ。

「ぬ……」

 だが、一部にはその魔法すらも弾く者が存在する。青銀鉄(スリラナ)か、或いは玉鋼鉄(オレイカルコス)だろうか。厄介なものを持ち込んでくれる。

 数はこちらが多いのだ。包囲態勢にまで持っていければ、決して勝機がないわけではない。

「ル・ロウ、フェイ、奴らの目を潰す。ル・ロウはフェイの指揮に従って敵の後衛を突け!」

「承知!」

「分かりました」

 ル・ロウが膝を折って俺に首を垂れると、フェイの後に続いてガンラ氏族を率いて駆けていく。前線に目を転じれば、魔法の援護を受けたダーシュカ達前衛を、ギ・ヂー達中衛が良く支えている。

 前線で殺られた者の穴をすぐさま埋める手腕、隙を見つけるや新たな戦力を投入するタイミング。ギ・ヂーは手馴れているな。

 少しなら、俺が前線に出ても問題ないだろう。

「10組付いて来い!」

 周囲の三匹一組のゴブリンを率いて、俺は前線に向かった。


◆◆◇


 敵の思わぬ強力な攻撃に、プエルは後方で指揮を執りながら顔を顰めた。

「思ったより、圧力が凄い」

 前衛を固める重装備の妖精族の戦士達でさえ、勢いに勝るゴブリンの突撃に攻勢に転じることが出来ないでいる。いや、それどころか防御で手一杯といったところだ。

 ゴブリンと一口に言っても、その多様な生態は見ていて驚かされる。前衛を構成しているのは一際体の大きなゴブリン。棍棒を振り回し、こちらの前衛を押し戻している。

 そしてその後ろを構成しているのが槍で武装した小柄なゴブリン達だ。前衛を構成しているゴブリンに比べればその体は小さいと言うしかないが、森で見られる一般的なゴブリンよりも一回り大きな体つきをしている。

 主力を構成しているこれらのゴブリンの他に、獣に乗ったゴブリンが森を迂回しようとするこちらの前衛を押し留め、向こうの後衛からは、魔法がこちらの前衛に降り注ぐ。

 更にこちらの弓兵を牽制するように、彼らの後方から大量の矢が降り注いでくる。これでは援護もままならない。

 こちらの前衛に注がれる膨大な攻撃力は、如何に青銀鉄製の武具を身に纏った前衛でも耐えるのに苦労する程だ。

 だが、向こうの攻勢はそろそろ限界の筈。今まで温存していた中衛の軽装歩兵を投入して、彼らを一気に瓦解へ導く。

 それが駄目でも、別働隊での迂回により彼らの退路を断つ。どちらにしてもこの地で戦を始めた以上、彼らの勝機は薄い筈だ。

 だが、それにしてもゴブリンが良く統率されている。

 プエルの知るゴブリンの群れとは一線を画するその統率された動き。粘り強さすら感じさせる群れとしての行動に、僅かに目を見開く。

「強い……! だけど、私も負けるわけにはいかない」

 負ければセレナを取り戻すことはできず、妖精族はゴブリンと彼らと手を組んだシューレ・フォルニに蹂躙されてしまうだろう。

 同朋を守るために、負けることなど許される筈がない。

「合図を。中衛戦力を投入します。右から迂回して敵の前衛を崩してください!」

 特殊な矢羽根を着けた矢がプエルの弓から放たれる。

 前衛の後ろを守っていた軽装歩兵が動き出す。前衛が持ち堪えている間に、右からゴブリン達を挟み込むべく動きを見せた。

「グルウゥォォォオアア!」

 これで勝てると思ったプエルの耳に届いたのは、天地を割るような咆哮だった。

 視線を転じれば、ゴブリン軍の最前線に一際巨躯の黒いゴブリンが躍り出ている。手にしているのは玉鋼鉄の長剣。黒き炎を鎧のように体に巻きつかせた威容は、何とか耐えていた前線を崩すのに十分だった。

「っ! ここにきて!」

 崩れ始めた前線を立て直すべくプエルは再び矢を手に取る。後衛として後詰をしていた遠距離攻撃の妖精族に合図を出す為だ。今のままでは敵の矢に牽制されて満足に矢を放てない彼らに、“散開”の合図を出し、続いて、“我に続け”の2矢を空に放つ。

 あのゴブリンの居る前線に綻びが見え始めていた。これを放置すればその綻びが前線を崩壊させ、撤退するしかなくなってしまう。

「狙いを、あのゴブリンに!」

 今までは敵の前衛を牽制するために射られていた矢を一点に集中する。あのゴブリンが前線を突き破る矛先ならば、それをへし折ってしまえば彼らに反撃の力はない。

 動揺する中衛にそのまま進めと指示を出し、自身も矢を番え黒いゴブリンを狙う。

風よ、我に力を(ウィンド・ショット)!」

 彼女の放った矢に続き、視界を埋める程の矢がゴブリンの王に殺到した。


◆◆◇


 玉鋼鉄製の長剣を振り回し、敵の前衛と切り結ぶ。以前の鉄製の武器では切り合うたびに刃毀れをしたものだが、これは具合が良い。3合切り結んで敵の腕を刎ね飛ばし、更に踏み込んで胴を薙ぐ。

「押し切るぞっ!」

 このまま一気に押し切って敵を殲滅する!

「王!」

 ギ・ザーの声に呼ばれて顔を上げれば、背中を焦がす感覚。思わず一歩後ろに下がる。俺に向かって、一閃の矢が風を纏って向かってきていた。

 玉鋼鉄の長剣で弾き飛ばすも、後続の矢が視界に入る。

「くっ……我が身は不可侵にて(シールド)!」

 鏃に使われているのは青銀鉄か!

 魔素を展開した側から拡散させられてしまう。可能な限り払い落とすが、それでも幾本かの矢が俺の体を貫く。一瞬だけ挙げた視線の端に映るのは、恐らく最初の矢を射た妖精族の女だろう。その手から再び空に向けて音の鳴る矢が放たれる。

 あれが、指導者か!

「ぐっ!?」

「王を救エ!」

 ギ・ヂーの指揮の下に、俺に続いてきたゴブリン達が壁を作る。だが、前に出るゴブリンらが集中する矢の雨に打たれハリネズミのようになってしまう。

 くそっ!

「大事ない! 俺の前に出る必要はない!」

 俺が前に出ようとノーマル達の隙間を縫うように足を進めると、横から悲鳴と共にノーマルがぶつかる。見れば右から妖精族が襲い掛かってきている。その所為で前だけに集中できず、徐々に前線が崩壊し始めていた。

 ──不味い。頭を高速で回転させる。このまま押しても容易に敵の前衛は崩れる気配を見せない。その間に横から包囲を始めた新たな敵の一団がこちらの前衛を崩してしまう。

 こちらも2正面を覚悟で右の敵に当たらせるか?

 いや、愚策だ。こちらのほぼ全力でもって相手の前衛を何とか押しているこの状況で2正面など、それこそ相手の圧力で即座に潰されかねない。

 では、他の部隊は?

 視線を後ろのギ・ザー率いるドルイドと妖精族に移す。ギ・ザーの部隊は、常に魔法を消費している状態だった。右から迫る前線にも魔法の援護をしているのが今の状態だ。回復の合間が与えられない今の状況では、すぐさま魔素が枯渇しかねない。

 フェイ率いる長距離の弓隊とル・ロウ達に目を移す。俺の命じた敵の弓兵への牽制は良くやっている。敵を集中させず、満足に部隊行動を執らせていないように見える。

 しかし異常な程、彼らの矢の集中は保たれている。

 だが、残念ながら謎解きをしている暇はない。

「奴ら、森の中に散っているな」

 これでは牽制の効果が薄い──。

 ならばここを起点として戦局を覆すしかあるまい。

「弓兵敵の迂回部隊に攻撃を集中! 足止めをせよ!」

 ここまできて守るのは下策。今まで攻めてきた疲労が一気に吹き出る恐れがある。ならば、攻めて攻め続けるしかない。

 ──正面の均衡を保ちつつ、右の部隊を崩す!

 幸い右から来ている部隊の装甲は薄い。ならば、隙間を突けば十分にゴブリンでも対応できる筈だ。

「ギ・ヂー、ダーシュカ、ギ・ザー! 正面を任せるぞ!」

 それぞれに返事をする彼らに正面を任せると、今の戦闘で減ってしまった俺の直属の指揮下のゴブリンを率いて右の敵に向かう。俺の背後でギ・ヂーが声を張り上げて俺の抜けた穴を埋める指示を出しているのが聞こえる。

 ダーシュカが咆哮を上げて棍棒を振るい、ギ・ザーの合図で魔法の攻撃が降り注ぐ。

「ハールー、部隊を集結させろ! 右の敵を討つ!」

 体の傷を厭うている場合ではない。このままでは負ける。

 だが、対処をするだけで精一杯のこの状況。主導権は完全に向こう側にある。

 逆転の目はあるか? 正面の前線が持ち堪えている間に右の敵を殲滅できれば、或いは……。

 時間との勝負になる。ギ・ザー達の魔素が尽きる前に右の部隊を崩すか、正面を突破できねば退却も考えねばなるまい。

 ──こんなものが策か! くそっ!

 迷いの中、俺は次なる前線に向かった。


◆◆◇


「未だ、粘るっ……!」

 プエルが思わず口に出してしまう程の敵の粘りには、正直驚かされた。一度崩れかけた敵の前線が、あの黒いゴブリンの力で持ち直し始めている。正面からの攻防は相変わらずこちらが押され気味。敵の右側からの迂回に回した中衛部隊は、暴れる黒いゴブリンと敵弓兵の攻撃で満足に動けていない。

 敵の崩されそうになるところに必ずあの黒いゴブリンが出てきて、崩壊を防いでしまうのだ。

 ──危険だ。

 プエルの経験が、ああいう手合いを放置しておくことの危険性を脳裏に囁く。

 未だあの黒いゴブリンが攻めに転じないからこちらの被害は少ないが、もし被害を顧みずこちらを攻めてくるようなら、相応の被害を覚悟せねばならない。

「中衛の援護を!」

 中衛に無理をさせる必要はない。彼らは敵の側面を突くだけで、半ば役割を果たしている。森の中に散った弓兵達に合図を出そうと矢筒に手をやる。それを見計らったかのように、プエルの周辺に矢が降り注ぐ。

 取るものも取らず、回避。転がりながらも矢を抜き取ると、空に向けて放つ。

 再度の一点集中で、あの黒いゴブリンを葬る。

 この戦局を決定付ける一矢を!

風よ、貴方の恩寵を(バレル・ショット)!」

 先ほどの一矢と比べれば、その込められた魔素は2倍にも相当する。それ故に消耗の激しい攻撃だったが、あのゴブリンさえ葬ればそれも報われる。

「この争いに、終止符を!」

 プエルの手から放たれた矢がゴブリンの王に向かって疾り、続いて大量の矢がその後に続く。

 黒い炎が一瞬膨れ上がったように見えた。

 刃に移った黒い炎がプエルの放った矢を弾き、続いて降り注ぐ矢の雨を払っていく。

 直後、プエルの周辺にまたしても降り注ぐ矢の雨。

 狙われている。自身が指揮官だということは既に敵にばれている。これからはなお一層、攻撃が厳しくなるだろう。

 それを覚悟し、再び合図の矢を手に取ったプエルは、目の前の光景に一瞬だけ思考が止まる。

 後衛を形成していた妖精族とゴブリンの弓兵が散開。

 黒いゴブリンが右の前線を補いながら正面に向かい、敵の正面は徐々に引いている。

「これは……撤退?」

 恐らく黒いゴブリンが殿を務めつつ、このまま彼らは後退するつもりだろう。

 何の為に?

 いや、今はゴブリン・フォルニ連合軍が撤退しているというその事実だけを見据えるべきだ。

 追撃は可能か?

 敵の前衛が下がったところを追うこちらの前衛。だが突出したところに、森に散った敵後衛から矢の射撃が降り注ぐ。

 悔しいが、上手い。

 これでは迂闊に前に出れない。

「……ですが、簡単に逃げられるとは思わないでください」

 敵は叩ける時に叩かねばならない。ゴブリンは繁殖力が凄まじい。このまま妖精族とゴブリンが戦いを続けるなら、いつか必ずゴブリンの本拠地を叩かねばならない。

 いや、先ずは追撃だ。ここで引くということは、相手は次の戦を考えている筈。

 なるべく多くの損害を相手に与えねば。

 空に向けて、矢を放つ。

 “重装歩兵を先頭に追撃戦を”

「別働隊に連絡を。こちらは勝利しました。手負いの獣を追います。目指すはジラドの森」

 フェルビー率いる別働隊に連絡を取る。

 


──人間との再戦まであと303日。


◇◆◆◇◇◆◆◇


レベルが上がります。

55⇒57


◇◆◆◇◇◆◆◇


次の更新は3月2日になります。

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