シルフ統一戦争Ⅱ
【種族】ゴブリン
【レベル】53
【階級】キング・統べる者
【保有スキル】《混沌の子鬼の支配者》《叛逆の魂》《天地を喰らう咆哮》《剣技A−》《覇道の主》《王者の魂》《王者の心得Ⅲ》《神々の眷属》《王は死線で踊る》《一つ目蛇の魔眼》《魔力操作》《猛る覇者の魂》《三度の詠唱》《戦人の直感》《冥府の女神の祝福》《導かれし者》
【加護】冥府の女神
【属性】闇、死
【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv77)灰色狼(Lv20)灰色狼(Lv1)オークキング《ブイ》(Lv82)
【状態】《一つ目蛇の祝福》《双頭の蛇の守護》
「剣兵、前へ!」
シューレの号令と共に、接近戦を想定した兵士達が前に進む。妖精族は遠距離からの狙撃、或いは弓の集中による攻撃をすると思っていたのだが、俺の予想を裏切り、彼らは大きめの楯と長剣を装備した妖精族の戦士を前面に出して集落を守る為の防柵を乗り越える。
殆ど抵抗もないまま静寂の森に入り込むと、集落のあちらこちらから散発的な矢が降り注ぐ。だがそれも、400名からなる集団を止める程の威力はない。
「目指すのはプリエナの身柄のみだ! 雑魚に構うな!」
全員が徒歩である。一番外側に妖精族、その内側にゴブリン、そしてゴブリン達の中心に俺とシューレが並走している。シューレの号令の下に、剣兵を中心として族長の邸宅に押し入る
同時に主要施設を抑えるように指示を飛ばすシューレの手並みは卓越したものがあった。事前に集落の情報をある程度抑えていたのだろう。
どこに何があって、どの程度の兵力があるかなどの詳細な情報を得ていなければ、ここまで迅速に集落を占領はできなかった筈だ。
「族長プリエナ・シンフォル、50人を従えて逃走!」
「方角は?」
「南へ向かっている由!」
打てば響くとはこのことだろうか、勝ち戦に彩りを添えるなら、手土産は族長の首辺りが頃合いか。
「我らで追おう」
「頼もう」
頷くシューレの言葉を聞いて、俺はゴブリン達に命令を下す。
「パラドゥア騎獣兵、先行して敵の足を止めよ! ガンラ弓兵はル・ロウの指示により騎獣兵の援護を。ギ・ヂーは後続40を率いて、シューレに随伴せよ。他の者は我に続け!」
一息にそこまで言うと、足に魔素を込めて加速する。
腰に差した剣を握ったまま、俺はプリエナを追った。
◆◆◇
集落の区域を抜け、南へ続く街道を一路駆ける。
平らに均されてはいるが、整備の仕切れていない道を先頭となって走る。先行させた騎獣兵が戦闘に入ったとの知らせが、ガンラ弓兵を通じて齎されていた。
耳に魔素を集中させ聴力を高めてみれば、確かに先で悲鳴と怒声が聞こえる。
「者ども、遅れるな!」
腰の剣を抜き放ち、地面を踏み砕く勢いで蹴りつけて加速する。
「王、この先に!」
先行していたル・ロウからの言葉を加速の合間に聞き流しつつ、妖精族の集団の背後に向かって跳躍する。
「我は刃に成りゆく!」
鍔元から吹き出す黒い炎が刀身を覆い、重力に任せて落ちる自身の体重と合わせて、眼下にいる妖精族の一人に思い切り剣を叩き付けた。
悲鳴すら上げずに倒れる妖精族。
その周囲の妖精族はあまりのことに声もないようだった。だが、そんなことを斟酌してやるつもりはない。
「グルウゥォオオアァオオ!」
天地を喰らう咆哮を上げるとともに、長剣を振るって周囲を薙ぎ払う。
首が落ち、手首が刎ね飛び、血が噴き出す。
一瞬にして周囲を制圧した俺に、やっと現実が追いついてきたのか一人が悲鳴を上げる。
「ゴブリンだ! 殺せぇぇ!」
遅いぞ!
「我が身は不可侵にて!」
近接戦では弓矢は不利と見たのか、短剣を手にする妖精族。
迫る刃をシールドの効果で弾き返す。四方から向かってきた順に切り捨てる。妖精族たちの顔が驚愕に歪む。だが、俺のシールドを見ても動じずに前に出てくる者もいる。
「舐めるな、化け物が!!」
瞬時の判断で、その剣を避ける。
黒き炎のシールドを切り裂く一撃が薄皮を裂いていく。青銀鉄、或いは玉鋼鉄か? 妖精族のみに精製方法が伝わるという、特殊な金属の武器。一瞬にして頭を掠めるその知識。
あれに切られてはシールドの意味がない!
突き出される短剣に、直接刃を合わせる。だが、弾き飛ばせるとタカを括ったのが間違いの元だったのか、激突した筈の短剣は俺の長剣に食い込んだ。
異常な程の切れ味だ。
勝利を確信したような妖精族の顔が見える。
だがな、半ばまで食い込んだその刃でどうやって俺の攻撃を避ける!?
長剣を手放すと、その妖精族の顔に向かって思いっきり拳を叩き込む。骨の折れる鈍い音を残して吹き飛ぶ妖精族。その間に、俺は腰から長剣を抜き放って構え直す。
「きょ、距離を──」
逃げ腰で距離を取れと叫ぶ一人に狙いを定める。背を向けて逃げ出そうとするその背中に長剣を叩き付ける。だが俺の手で始末をつけられるのはその一人。素早く散開する敵が木々の枝に飛び乗り、また茂みの中から弓を構える。
流石に森を友とする妖精族だった。だが、遅い。今まで戦を知らずに過ごしてきた影響だろうか、群れとしての行動が、一瞬遅いのだ。
「あのゴブリンを止めろ!」
声を上げる者が居れば、それに応じて俺を狙う鏃の群れ。狩人としての優秀さは比類ないものだろう。更に射かけられる矢は得物を射殺すのに十分な速度と威力がある。
「放──がっ!?」
俺に向かって一斉に放たれようとしていた妖精族の攻撃の合間に、パラドゥアを援護していたガンラの矢が降り注ぐ。
「王から離れた者を狙え!」
ガンラの若き指揮官ル・ロウの声に、優れた狩人であるガンラの弓兵が応じる。木の枝の上に飛び乗ったことが妖精族の命運を決めた。今までは俺が近くにいた為に射撃を控えていたガンラの矢が、容赦なく死を運ぶ一矢となって彼らに降り注ぐ。
そして俺が知らず引き離してしまったゴブリン達の先頭集団が突進してくる。ガイドガの強猛なるゴブリン達が、妖精族の胴体ほどもある棍棒を振り上げて襲い掛かり、深淵の砦で訓練されたノーマル級ゴブリン達は“見開く瞳”のギ・ヂーの指揮の下、穂先を揃えて突進してくる。
「に、逃げろ!」
悲鳴を上げる妖精族の声に、勝利を確信する。
組織立って逃げるからこそ死傷率を下げることが可能だろうに。これでは殺してくれと言ってるようなものだった。
「追撃だ! 討ち取って首を挙げろ!」
俺の声に呼応して、ゴブリン達が雄叫びを上げる。
結局その日、逃げた50の妖精族の内、40を討ち取って追撃は終わった。
残念ながらその中に族長であるプリエナの首は無かった
◇◆◇
シューレによる静寂の森侵攻が為されている頃、フォルニの族長であるフェニトの屋敷の中では思わぬ死闘が始まって終わった。
シューレと危機感を共にする同志たちがフェニトを襲ったのだ。周囲にいた護衛達も、まさかシューレの共謀者がいるとは思わず、フェニト襲撃を許してしまう。かなりの数の戦士団の隊長達がシューレと思想を共にしていたのだ。
突然牙を剥いたシューレ派の妖精族達に一気に劣勢に追い込まれる護衛とフェニトだったが、運が彼らに味方した。突然の事態に怒り狂ったフェニトの放った魔法が屋敷の屋根を吹き飛ばし、異常を見て取ったプエルら戦士団が屋敷に突入したのだ。
そうなれば戦力は再び逆転する。
劣勢に追い込まれたのは、寧ろシューレ派の妖精族達だった。
降伏を呼びかけるプエルら他の戦士達を無視し、彼らは最後の一人になるまで戦い続け、そして全員が戦死した。
「最早一刻の猶予もならん! 或いはシルバのところにも私と同様の魔の手が迫っているやもしれん!」
突如の襲撃を受けながら、尚意気軒高なフェニトが声高に叫ぶ。
「これはシューレの魔の手から……いや、ゴブリンと手を組み妖精族を貶めようとする者から森を守る為の戦いである! 聖戦である!」
言い放つフェニトがプエルに向き直ると、鋭い視線を向ける。
「従姉上、この聖戦に身内だからとて区別をつけるつもりはありません! フェルビーを隊長としたシェーング救援軍に加わって貰います!」
「それは望むところだけど……」
フェニトの剣幕に押されるプエルだったが、彼女本来の目的とは違わない。
「ならば直ちに出発して頂きたい!」
「分かりました……」
こと開戦に至ったなら、セレナを救う手立ては早期の決着のみだ。
そう思い込んで、プエルは戦場へ向かった。
「宜しいのですか?」
護衛の一人に聞かれて、フェニトは顔を怒りに染めた。
「今回の騒動……裏には誰がいると思う? 本当にシューレが影響を及ぼしたと思うか?」
「は、はぁ?」
要領を得ない護衛の反応に、更にフェニトは言葉を続ける。
「集落の中には私ではなく、プエルを族長に望む声もある!」
つまりフェニトは、今回の反乱を仕組んだのはプエルだと考えていたのだ。
「で、ですが……現にプエル様は真っ先に駆けつけて来たではありませんか?」
「真っ先に私の屍を確認したかったのかもしれないだろうが!」
「で、では?」
「そうだ。プエルにはこの戦で死んでもらわねばならん」
◆◆◇
戻ってきたリーダー級のグーイからの報告に、ブイは眉を顰めながら頷いていた。
「森の直ぐ傍に人間の街が……」
ブイは胡坐をかいて腕を組む。
「少し考えたい」
そう言って彼が来たのは、母なる大樹ドラリアの下だった。
ブイが何かを考えるときはいつもここで考える。
「人間と正面切って戦っても被害が増すばかり……。でも人間の街が出来上がってしまえば、彼らの力は抑えようがない。また住処を移動する? でも……ここより良い場所なんて」
南には豊富な食料のある狩場があり、西にはこの森で最大の力を誇るゴブリン達がいる。今は未だ友好的な関係を築けている彼らは、この際問題ではない。当面東にさえ注意を払えばこの集落はかなり安全な部類に入る。
もし活路があるとするなら、北側だろうか。
南の開発に集中し過ぎていて、北側の探索は殆ど行っていない。
今集落にいるのは150程の戦士と70程の雌や子供達。これだけ大きな集落を養っていける程の場所は、他にはないのではないか。
人間の力が増しているのは後背地の確かさにある。数が多いのは余裕がある故のことだ。安全な土地があるからこそ、前線に力を送り込める。
ゴブリン達も、していることは大して変わらない。
広大な森を根拠地として安全な後背地を確保する為に、西へ移動してオークを東の前線に張り付けている。オークの安全な後背地はゴブリン達に塞がれた形だ。
ならば、オークとして取り得る選択肢はそう多くはない。
後背地……つまり安全を確保する為にはどうしたらいいのか。
『どうしたのブイ?』
「ああ、ドラリア」
今の状況を口に出しながら、整理していくブイ。その言葉を、ドラリアは黙って最後まで聞いていた。
『この集落を守りたいのね』
「うん、そう……そうなんだ」
ドラリアに背を預けるブイは、日差しを遮るドラリアの梢を見上げる。
「勢いが強いなら……」
弱めてしまえばいい。
「……うん。うん、成程……いや、でも」
また思考に没頭するブイを、静かにドラリアは見守っていた。
翌日、ブイは自身の集落から2匹のオークを筆頭に東に集落を作らせた。
小さな集落を人間勢力との間に作ることにより、人間達からの防波堤を作ろうとしたのだ。集落の交流を盛んにしつつ、現在の集落を護る為の護衛村を作ろうとしたのだ。
ブイの施策がどう出るかは未だ未知数ではあったが、オークの勢力は徐々に拡大しつつあった。
──人間との再戦まで314日。
◇◆◆◇◇◆◆◇
レベルが上がります。
53⇒54
◇◆◆◇◇◆◆◇