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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
楽園は遠く
157/371

幕間◇ギ・ギーの百鬼夜行Ⅰ

ゴブリンの王国連載開始より一周年です。

ここまで来れたのも読者皆様のおかげ、ありがとうございました。

以前より要望のあった、他の方面のゴブリンの活躍をご覧ください。何度かに分けて掲載予定です。



【固体名】ギ・ギー・オルド

【種族】ゴブリン

【レベル】14

【階級】ノーブル

【保有スキル】《追尾》《投擲》《斧技C-》《雑食》《怒声》《以心伝心》《古獣士》《調教師》《連携》《群れの仲間》《蟲喰らい》

【加護】なし

【属性】なし

【使役魔獣】大角駝鳥(トリプルヘッド)






 王と離れて以来、古獣士ギ・ギー・オルドは自由気ままに周辺を散策しながら進んでいた。変わった魔獣がいれば捕まえ、使役可能だとみればそれを引き連れて移動をする。

 また使役に向かないようであれば、《以心伝心》の効果を持ってゴブリンに敵対しないように丸め込み、放ってやる。そうこうしているうちに、大角駝鳥(トリプルヘッド)に乗ったギ・ギーの後ろには魔獣の行列が出来始めていた。

 棘犬(トーンドッグ)という、茨のような体毛を持つ犬型の魔獣。大目鳥(ビッグアイ)という、羽に目玉のような模様のある極彩色の鳥。森の中の景色に溶け込むようにして生きている見えず猿(ミラージュ)

 危機を感じると針のような体毛を仰け反らせて身を守る針狐(トントフォックス)。今は未だ1m程だが、成長すれば5mを越えるといわれる硬い甲羅を背負った、竜亀(ドラゴンタートル)の幼生。

 百鬼夜行の様相を呈するギ・ギー一行は、沼地へと差し掛かっていた。

 遥か遠くに聳える雪のユグラシルの山脈は、これから厳しい冬になるのだろう。徐々に白い断面が山の裾へ進行している。

 南から吹き付ける湿気を含んだ雲が巨大な雪の神の山脈へ当たり、その麓へ雨を降らせる。その雨が地下に染み込み、或いは地上を伝って大きな流れとなり、川となって下流に暗黒の森を形成しているのだった。

 豊富な雨量と温暖な気候は何千年もの間に大森林を形成し、そこを住処とした魔獣や魔物は多様な変化を遂げていた。王と別れたギ・ギーは、進路を北にとっていた。

 ここから先は湿気が多くなり、沼地やそこに住まう魔獣の住処なのだろう。

 ギ・ギーの胸の内が自然と沸き立つ。王の言葉を思い返すと、今でも胸が震える思いだ。

『ゴブリン全体の為に戦力の増強を図らねばならん。ギ・ギー・オルドよ。お前は北へ向かい、自由に配下を増やしてくるのだ』

 王の言葉を反芻して、ギ・ギーはにんまりと笑い周囲を見る。

「全く王は偉大だ。何せ自由にしていいというのだから」

 配下を見つけてこい、という王の言葉を、ギ・ギーは自分の配下の魔獣を増やせと言う風に解釈した。愉しみながら使役魔獣を増やせとは王も心が広い。

 勿論、王の意図は配下のゴブリンを増やせという意味だったのだが、ギ・ギーは気付く様子もなく鼻歌交じりに探索を続けていた。

 彼の使役魔獣である大角駝鳥は、背中に乗るゴブリンの様子に三つの頭でひそひそと意見を交換していた。

 どう思う? と一番左の頭が問えば、真ん中の頭は溜息交じりに、王様の意図と違うと答え、右の頭は取り敢えず何か食べないか、と辺りを物色する。

 まぁ、俺たちに被害はないかという結論に、左と真ん中が落ち着き、右は相変わらず獲物を探していた。

「ぬ、あれは……」

 ギ・ギーの声で、全ての頭がそれを目撃する。

 周囲は既に沼地である。踏みしめる草には水気が滴り、腐りかけの木には、苔がしている。日の光を殆ど遮る木々の枝からは蔦が垂れ下がり、その蔦が更に別の木々と絡まり視界を塞いでいる。そんな場所で見えたその不思議な光景に、ギ・ギーを含めた一行は目を見張った。

 沼地にクラゲが浮いている。しかも数はそれなりに多く、あちらこちらに漂っている。

 吹く風に漂いながら、ふわり、ふわりと、沼地の上を浮いているのだ。

 観察するギ・ギーの視線は真剣そのもの。珍しく真剣なギ・ギーの様子に、後ろに並ぶ使役魔獣達も周囲を警戒しつつ息を殺す。

 ギ・ギーはクラゲなど見たことも無かった為に、何やらふわふわとしたものが浮いている程度の認識だったが、その珍しさに目が釘付けだった。

 先ず体が半ば透けている。それだけでも珍しいのに、そのクラゲの浮いている真下には草のようなものが繁っているのだ。それも沼地の真ん中にである。

 しばらくするとそのクラゲはふわりふわりと移動し、また別の場所へ漂っていく。そしてその真下に急速に草が繁っていく。

「進めるのか?」

 大角駝鳥を進ませようとするが、三つの頭が拒絶する。いつもは食欲ばかりに目が行く右の頭までもが全力で拒否を示しているのだ。これ以上進むのは沼地に嵌り込む危険があると、魔獣達でさえもわかっているらしい。

 風の向きが変わったのか、ふわりとその一匹がギ・ギーの近くに漂ってくる。

 手を伸ばせば届きそうではあるが、沼に落ちる可能性もある。じりじりと待つギ・ギーの前で、また風の向きが変わったのか、クラゲは違う場所へ漂って行ってしまう。

「ううむ……」

 思わず唸り声を上げるが、手は届きそうにない。残念だが沼地を渡る術でもなければ捕らえることは難しいだろう。そう考えて立ち去ろうとすると、足元にはクラゲの残した草がある。

 見れば随分と瑞々しい色をしている。薬草にでもなるのだろうかと、ギ・ギーは手を伸ばして薬草を掴み取ると、魔獣達に沼地を迂回させて更に北に進んだ。


◆◆◇


 順調に使役できる魔獣の数を増やして北進を続けるギ・ギーだったが、その間に思わぬ問題が起こりつつあった。

「グエゴォー!」

 鳴き声を上げるのは先日配下に加えた大目鳥(ビッグアイ)だが、その後ろに同じような大目鳥が3羽続いて歩いてきていた。

「「「グエゴォー!」」」

 他の大目鳥よりも目玉の模様が大きな一匹が鳴くと、他の3匹も唱和するようのだ。

「ううむ……おい、何故増えているのだ?」

 一番先に使役していた大目鳥に《以心伝心》の効果で確認すると、困っていた雌達だから一緒に連れて行きたいとのこと。

「俺は独り身なのに、お前は雌を伴っていくのか……。いや、うむ……繁殖する為の番は必要だ。それは分かる……だがな……。何、住処を追い出されて行く所がない? ううむ……」

 大目鳥を説得するギ・ギーだったが、説得している大目鳥の後ろから悲しげに鳴く大目鳥の雌の姿を見ると、ゴブリン達に対する迫力はどこへやら、すっかり弱って結局のところ大目鳥の同伴を認めてしまった。

 更に翌日には、見えず猿(ミラージュ)針狐(トントフォックス)までもが、番を連れて歩いていたのには閉口した。

「これ以上増えては敵わんぞ!」

 そう拒絶の言葉を伝えても。

「キッキッキ!」

「フシュー!」

 見えず猿と針狐は、大目鳥を例に出して彼らにだけ認めるのは不公平だと主張する。しかも大目鳥は3匹である、との主張にギ・ギーも弱ってしまう。

「ううむ……いや、確かにそうだが……ならば同伴するのは3匹までとしよう。これでどうだ?」

 ギ・ギーの目的はあくまで戦力の増強であって、魔獣達の大移動にまで付き合うつもりはないのだ。困った魔獣を助ける旅ではないことを、しっかりと彼らに教え込まねばならない。

 翌々日には、とうとう竜亀(ドラゴンタートル)までが3匹に増えていた。これで番を連れていないのは棘犬(トーンドッグ)だけである。

「全くどういうことなのだ……独り身の気持ちを分かってくれるのはお前だけ……」

 溜息をつきつつ棘犬を見たギ・ギーは、いつもなら元気よく返事をする棘犬が不自然に視線を逸らすのに気が付いた。

「まさか……」

「ワォン……」

 申し訳ない、というように尻尾を力なく落とし、耳も垂れ下がった棘犬。全身を覆う棘もまるで萎れた葉っぱのようである。

「良い。できてしまったものは仕方あるまい。呼べば良いだろう」

 もうここまできたらと、ギ・ギーは覚悟を決めていた。魔獣が3匹ぐらい増えようと、大したことではない。

「ワォン……」

「どうした。怒らないから呼べば良かろう。大丈夫だ」

 尚も渋る棘犬だったが、ギ・ギーの声に励まされて一声張り上げる。

 現れた棘犬は、その数10匹。

「俺は3匹までと言った筈……」

 見ればその大半は幼い幼生である。

「まさか……」

「ワォン……」

「やってしまいました、ではない! どうするのだこの幼い子供らは!」

「ワォン!」

 こうします、と鳴いたのは進み出た大柄な棘犬。

 棘犬の雌は大柄である。発達した棘の間に小さな幼生らを乗せて、ギ・ギーの足元に近寄ってくる。

「くぅーん、くぅーん」

「ぐぬぬ……」

 幼生の濡れたような鳴き声が、ギ・ギーを責め立てる。

「ワォン……」

 うち萎れるオスの棘犬。

『すいやせん、大将』

 と尻尾と耳を力なく落とす棘犬の雄。その側に寄り添う雌棘犬が雄の顔を舐める。

『大丈夫よ、あんたの上司に迷惑はかけられないわ。行くあてもない子供らと一緒に、いっそのこと……』

 《以心伝心》の効果によって聞こえてくるその哀切な言葉に、ギ・ギーは今すぐに逃げ出したくなった。

「くぅーん、くぅーん!」

 幼生の鳴き声が更に哀愁を誘って、ギ・ギーを追い詰める。

「ええい、解ったわ! ただし俺が行くのは戦場だぞ! 本当に分かっているんだな?」

 腹を括ったギ・ギーの声に、棘犬は凛々しくも返事をする。

「ワオン!」

『大将!』

「キッキッキ!」

 見えず猿が手を叩いて祝福する。

「「「グェゴォー!」」」

 大目鳥は自慢の羽を振るわせて。

「フシュー!」

 針狐は飛び跳ねて。

「……」

 竜亀は、変わらずのっそり歩き、それぞれに眠たげな目でその一幕を祝福していた。

 だが、ギ・ギーは忘れていた。

 一匹に許せば、それは他の者達にも許さなければならないということを。

 お陰でギ・ギーは、竜亀の甲羅に幼生専用の囲いを作らねばならなくなってしまったのだった。


◆◆◇


 ギ・ギーの引き連れる魔獣の数が増加の一途を辿る中、久しぶりにゴブリンを見つけることができた。ギ・ギーは元々魔獣を増やすことを目的としていたが、王が人間と戦う為に戦力を欲しがっていることも理解していた。

 ゴブリンも多いに越したことはない。

 案の定だが、狩りの為に群れと離れていたゴブリンは、ギ・ギーの姿を見ると一目散に逃げ出した。当然である。その頃になるとギ・ギーの引き連れている魔獣の数は棘犬24匹、大目鳥13匹、竜亀6匹、針狐10匹、見えず猿7匹と、かなりの大所帯となっていた。

 一見するだけでは、魔獣が大挙して押し寄せてきたようにしか見えない。

「追うか」

 大角駝鳥の腹を軽く蹴ってやると、ギ・ギーの愛騎は駆け出し、それに続いて付いてきている魔獣達も駆け出す。それは正しく森を揺るがす百鬼夜行の大行進だった。

 ギ・ギーとしては、先ず一匹捕まえて集落の場所を聞き出し、説得しようという穏当な方法を考えていたのだが、現実問題として追われるゴブリンはそうは考えられなかった。

 後ろから迫ってくる地鳴りに振り返れば、大角駝鳥に跨った巨大なゴブリンが魔獣達を何十匹も従えて追ってくるのである。

 恐慌状態になって逃げ出しても文句は言えない。

「ギ、ギギーー!?」

 悲鳴を上げながら自らの集落に辿り着き、集落のボスであるレア級ゴブリンに敵が来たと知らせる。その悲鳴交じりの声にレア級ゴブリンも表に飛び出してきたが、迫るギ・ギーと魔獣の群れに腰を抜かしてしまう。

「なンだ!?」

 手にした剣を取り落とし、地面に座り込むレア級ゴブリンの前に、魔獣を従える魔王よろしくギ・ギーが立ちはだかった。

 その背後には涎を垂らし、今にも襲い掛かってきそうな棘犬。手に尖った木と大きな石を携えた見えず猿の群れ。更には見たことも無い極彩色の鳥が羽を広げて威嚇をし、針狐は全身の針を逆立てていて見るからに痛そうだ。巨大な竜亀の背中には何故か柵が設けてあり、その中から小さな魔獣達が吠え立てている。

 喰われる!

 レア級ゴブリンが瞬間的に思ったのはそれである。

「俺の配下となれ……さもなくば──」

「なル! どうカ、頼ム、喰ワナいデくれ!」

 悲鳴を上げるレア級ゴブリンの様子に、斧を手に取ろうとしていたギ・ギーは疑問に首を傾げる。

「……抵抗しないのか?」

「しナい! 絶対ニしナい!」

「ふむ」

 まぁこんなこともあるだろうと考え直し、レア級ゴブリンの集落をそのまま占領する。

「魔獣の世話をしろ。その後はこの辺りに他のゴブリンやオークがいるかどうかを知りたい」

 ギ・ギーの遠征は、まだまだ始まったばかりである。


◇◆◆◇◇◆◆◇


ギ・ギー・オルドのレベルが上がります。


14⇒35


《追尾》敵を追尾するときに成功率上昇

《投擲》武器を投げる際に威力上昇

《雑食》毒のある植物でも食べることが出来ます。

《怒声》怒りの咆哮を上げることにより、攻撃力、防御力が上昇。俊敏性低下。

《以心伝心》使役魔獣との意志疎通が容易になる。

《古獣士》魔獣を使役できる数が上昇する。

《調教師》魔獣を獣士でなくとも扱えるように調教することが出来る。

《連携》仲間との連携攻撃の際に補正。

《群れの仲間》獣士と連携して戦うことにより、群れとしての攻撃力上昇。

《蟲喰らい》蟲系のモンスターに対して、攻撃力上昇。


◇◆◆◇◇◆◆◇

次回からまた本編に戻ります。

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