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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
楽園は遠く
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閑話◇ファンファンの絵日記

作品のイメージを崩す恐れがあります。

何せファンファンです。

ご注意を。

【個体名】ファンファン

【種族】土鱗(タルピエタ)

【レベル】81

【階級】族長・最硬爪

【保有スキル】《洞穴の住人》

【加護】月光の女神

【属性】夜




 ゴブリンの王様が西へと旅立って行って数日……ファンファンは八旗の会議に出席している。その席には、隣人代表として呪術師ギ・ザー・ザークエンドという背の高いゴブリンの出席も認められている。

 会議で話し合われていたのは、ゴブリンとの交流についてだ。対人間での同盟を組んだ以上、ゴブリンとの連携は必ず必要になってくる。すぐさま連携が図れるなどと甘い幻想を抱く者は、亜人にもゴブリンの代表にもいなかった。

 現状認識は問題ない。うん、問題ないのだ。

 会議を取り仕切るのは蜘蛛脚人のニケーア。ファンファンは書記だ。書記は偉い。どのくらい偉いかというと、議長の次に偉い。

「では、交流を持つこと自体に反対の者はいないのだな? 次は誰が行くかということだが」

 ニケーアは真面目だ。ファンファンよりも真面目だ。

 会議に、面白みがない。甲羅の一族のルージャーのおじいちゃんなどは舟を漕いでいる。今にも頭が甲羅の中に引っ込みそうだ。

 もっとひどいのは牛頭だ。会議場に響き渡るほどのいびき。でも目は開けている。怖い。

 牙は……ダメだ。いろいろとダメだ。骨をしゃぶってる。下品だ。

 牛人も牙も、誰も咎めないのは言っても無駄だと皆んな分かっているからだろう。あれでいて意外と頼りになったりするから扱いに困るのだ。

 新しく人馬族の長になったティアノスは、最初は怒り、ついで呆れ、最後には泣きそうになっていた。まぁ、慣れだ。ダイゾスよりは辛抱強いと思う。あれは最初からすぐに怒っていた。徹頭徹尾怒りっぱなしだったからな。うん。

 ファンファンが会議を描き写している間に、会議は進んでいた。

 いつの間にか、ニケーアと翼有る者のユーシカがやりあっている。

 最近ユーシカは落ち込んでいたから、鬱憤を晴らす場が必要なのだろう。白い羽を毛繕いしながら、いつものようにニケーアに反論する。

 長尾の一族は、相変わらず影が薄い。そのまま消えてしまえばいいのに。首が二つあるとか、どっちと話せばいいのだ。

 おっと、間違えた。会議録に描いた絵に二重線を引いておく。危ない危ない。真面目にやらないとニケーアから怒られてしまうからな。

 そのうちにゴブリンのギ・ザー殿が立ち上がる。


◆◆◇


 ニケーアに耳打ちすると、会議の場から出て行ってしまう。

 こっそりとニケーアの表情を盗み見て、ファンファンは驚愕した。

 薄らと頬を染めている!?

 ニケーア!? 思わず漏れそうになる悲鳴を、ファンファンは押し殺した。

 偉いぞファンファン! こここ、これは大事件なのではないか。ファンファンは目撃した衝撃の現場を書記として描き移さねばならないだろう。

 でも、ファンファンの記憶が確かなら、ニケーアとゴブリンの王様が良い仲だった筈だ。うん、間違いないぞ。

 と、言うことは……ニケーアを巡っての三角関係!?

 こここ、コケッコッコォォオオ!

 ではない、落ち着くんだファンファン! 月光の女神(ヴァーディナ)様も見ていらっしゃるではないか。嗚呼、取り乱すファンファンをお許しください。

 大丈夫、大丈夫だ。ファンファンは冷静、冷静だ。もう一度状況を整理してみよう。

 ゴブリンの王様と、ニケーアは仲がいい。うん、大丈夫だぞ。ファンファン……落ち着いているぞ。

 ギ・ザー殿とニケーアは仲がいい。うん、だ、大丈夫だぞ。ファンファン……まだ大丈夫だ。

 これを結ぶと?

 三角形が……でき、あが……る。

 こここここ、コボルトォォオォオ!

 違う。ゴブリンだ!

 大変ではないか。すごい発見だ!

 異種族間だけでも燃えるというのに、ニケーアを巡っての三角関係!!!!

 王様の逞しい腕に抱かれるニケーア、でも王様は居ない。その間に怜悧な瞳のギ・ザー殿から言い寄られるニケーア!!

 族長としての立場から逆らえないニケーア!! だがきっと弱みに付け込むような王様ではないな! その立場を理解し、優しく愛を囁くに違いない。なんという策士ぃぃぃ!

 そう、そしてギ・ザー殿はそんな二人の関係を知って、嫉妬に駆られる。

 王は俺のものだっ!

 はっ!?

 これは、これはぁぁあ!

 禁断の、禁断の……触れてはいけない魔の領域。一度立ち入れば決して抜け出せない底なし沼。だめだファンファン、そこに踏み入ってしまっては二度と日の光は浴びれなく……。

 いつのまにか、ギ・ザー殿は席に戻ってきている。

 時折、ニケーアに鋭い視線を飛ばしながら。ニケーアもちらちらと……。

 これは間違いない、何ということだ。間違いないぃぃ。

 脅されるニケーア。普段の真面目な仮面の下に、弱みを握られているのだな!?

 そこを無理矢理だなんて、うらやま……ではなくなんという非道。だがこれ以上なく、高鳴るこの胸の鼓動は!? 許せニケーア、ファンファンは悪い子だ。友の窮地を知って尚、ときめいていてしまう。ファンファンは悪い子だ。悪い子……でもだめだぁあ! 止まらないいぃぃ。

 きっとこの後ギ・ザー殿に迫られてしまうのだな!? 

 王様への一途な思いを、ギ・ザー殿に迫られ、だがギ・ザー殿も本心では王様に対する思いを抱えていて……王様罪作りすぎるぅぅぅ。

 ……。


◆◆◇


 がしりと肩をつかまれる感覚に後ろを振り向くと、青筋を浮かべたニケーアの姿があった。

「何を、描いているのだ……ファンファン殿」

 現実とは厳しいものだ。さっきまでファンファンの中で可憐な乙女だったニケーアが、まるでオーガが仁王立ちしているような迫力をもってファンファンの肩を掴んでいる。

「会議の、結果だ」

「これが?」

 素直に頷く。

「ファンファン殿……誰がお絵かきをしろと頼んだのだ。書記とは文字で書いてもらわねばならん」

 ファンファンの描いたものを見下ろすニケーア。

「妖精族から交易にて手に入れている貴重な紙をこのような……」

 眉をしかめるニケーア。自分の作品が見られるというのは、非常に恥ずかしい。だがニケーアならもしかして喜んでくれるのではないか。ファンファン自信あるし。

「とりあえず、ファンファン殿には新しい紙の準備をしてもらおう。よろしいな?」

「分かった。これは?」

 自信作だが、ニケーアが望むならこれを差し出すのもやぶさかではない。ファンファンは反省しているのだ。

「何を描いているのかさっぱり分からん。とりあえず持って帰ってもらおう」

 ファンファン、傷付いた……。

 会議が終わった後、寝床で一人涙を流したのは秘密だ。

 自信作だったのに……。



◇◆◆◇◇◆◆◇


《洞穴の住人》

 ⇒土の中を自在に掘り進みます。


◇◆◆◇◇◆◆◇

ギ・ザーさんは、真面目にやれと言っただけなんですがね。


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