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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
王の帰還
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新たなる力

【種族】ゴブリン

【レベル】10

【階級】デューク・群れの主

【保有スキル】《群れの統率者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B-》《果て無き強欲》《孤高の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死



 湖の湖面を渡る風が肌に心地よい。

 湖面に映る自分の姿は、ゴブリン・ノーブルとはまったく別のものだった。

 まず肌の色が茶色く変質している。体の大きさは人間の成人男性程度にはなり、腕には赤い蛇の螺旋模様が巻きつく。額からは天を突き刺すような一本角が生え、頭から腰にかけて(たてがみ)のような艶やかな黒い毛がふさふさとしていた。

 ついでに指は五本に増えていた。懐かしい感触だ。

 ゴブリンなのか、これは。

 と疑問を覚えることもあったが、手下どもは以前よりも従順になっているし、たいした問題はない。

 面構えも微妙に変わってきている。

 以前は憎悪に歪んでいるとしか思えなかったゴブリン特有の表情だったが、今は老成した亀のような表情だ。なんだか爬虫類じみた凡庸さがある。

 湖面に向けて、にっと笑いかけてみる。

 ……恐ろしく凶悪な面がそこにあった。もはや何も言うまい。

 何が、造形は魂の形だ……。

 最近は、捕まえた冒険者のリィリィに縫わせた腰布を使っている。

 ついこの間まで全裸だったのに、なんだか最近妙に羞恥心が芽生えているのだ。

 平坦になっていた感情が、人間と話すことによって繊細さを取り戻しているのだろうか。


◆◇◇


 集落を襲ったオーク・リーダーを撃退した後、俺は【階級】を上がるとき特有の不快感を経験した後、ギ・グーの支援のため村の外にある狩猟区域に向かった。

 肩に担いだ鋼鉄の大剣(アイアン・セカンド)の重みはほとんど感じない。

 新しいからだの試運転には、程よい相手だったと思う。

 罠にかかって動けないオークたちを文字通り一撃で倒していった。以前より力をこめなくともオークの体を切り裂き、その骨を砕くことが容易となっている。

 とりあえずはそれだけ確認できればいい。

 村で倒れていたリィリィは、無事だった。

 俺としては無事でなくとも良かったのだが、オークは女よりも食事を優先していたらしい。気絶していただけのリィリィを収容すると、集落中に響く《威圧の咆哮》で生き残ったゴブリンに集合を命じる。

 怪我を癒されたギ・ガー、傷を負いながらも俺の命令を忠実に守ったギ・グー。その他手下を集めてみると、その数はだいぶ減少していた。

 以前は50匹程度だった群れはそのうち10匹を失っていた。

 戦闘員として数えることができるのは30匹ほど。

 怪我で動けないゴブリンが7匹ほどになっていた。怪我はレシアに治療させるとして、狩りに使える手下が減少したのは痛い。

 幼生だった者で生き残った個体も、雌も戦闘員として数えてこの程度なのだから、オークの襲撃がいかに被害が大きかったがわかる。

 そして物量を整える為の雌が6匹。

 せっかく妊娠していた雌の一匹がオークにやられたらしい。身重の体で逃げ切れなかったのだろう。

 今後こんなことがないように、率先して逃がすよう躾をせねばならない。

 捕虜である人間は全員無事だった。皮肉なことに、王の財物であるという事実が、ゴブリン達に同族の身重の雌よりも、俺の財宝を守るほうを優先させたらしい。

 やはりケダモノはケダモノでしかない。

 そんなことを聞かされて俺が喜ぶとでも思っているのだから、老ゴブリンといえど知性が知れている。

 だが、種族ごとに価値観などというものは違うのだ。そんなことを言い立てても始まらない。

 捕虜の人間に関しては、オークの襲撃以来随分おとなしい。特に、女剣士のリィリィなどは、以前はあんなに噛み付いて来たのが嘘のように従順だった。

 むしろ厄介なのは、レシアのほうだ。

 俺の階級進化(レベルアップ)を目の前で見たからだろう。顔を合わせるたびに色々な質問をぶつけてくる。厄介なことだ。

 話をすればするほどに、この女の魅力に惹きつけられていくようだ。

 【スキル】《反逆の意思》によって抑え付けられているが、その快感は抗いがたい。

 一度醜い俺が恐ろしくはないのかと問いただしたことがあったが、きょとんとしたまま首をかしげ、熟考に入ってしまったのだから始末に終えない。

 人間の男どもとリィリィには裁縫をやらせ、レシアには怪我をしたゴブリンの治療を担当させてこのまま行くしかないだろう。

 いまだ人間の世界と接触を持つには、力が足りない。

 ならばしばらくこのまま力を蓄える必要があるだろう。


◇◆◇


 後は獲得したスキルの確認だ。


 【スキル】《果て無き強欲》

 ──率いられる群れの数大幅増加。

 ──同種族に対する魅了効果追加。


 意識を集中して新たな【スキル】を確認する。

 同種族に対する魅了効果の追加……ゴブリンに対してのみ有効な魅了効果。使い方さえ間違えなければ有用そうなスキルだ。

 いまだにゴブリンの雌に発情しない俺にとって使い方を間違えると諸刃の剣かもしれないが。


 【スキル】剣技《B-》

 五本指になったからだろうか。以前よりも剣の繊細な動きが可能になっていた。

 やっぱり慣れ親しんだ五本指のほうが何かと便利である。

 力任せに叩き付けるから、斬る動作へと動きが可能になったと考えてもいい。


 【スキル】《魔力操作》

 ──属性に応じた魔力の操作が可能。

 魔法を使う、というのはある意味ファンタジーな世界の醍醐味ではないだろうか。


◇◇◆


 レシアに会いたくない俺は、老ゴブリンに魔法を使い方を教えろと言ってみたが、如何に長く生きている長老であろうと、所詮ゴブリンはゴブリン。そんなもの知らないと突っぱねられた。

 ──くそう。

 仕方ないのでレシアの元に足を運んで教えを請う。

「魔法の使い方を教えろ」

 そう俺が発言したときのレシアの表情は、まるで犬が喋りだしたのを見るように驚きに満ちていた。もちろん本人は巧妙に隠しているつもりなのだろうが、小さな表情の変化から俺はそれを読み取れるまでになっていた。

 重症だな。くそ!

「魔法とは世界、即ち神々と置き換えても構いません。その契約による奇跡の具現です」

 恐ろしく抽象的な話になってきた。

 いささか得意げに延々と話を続けるレシアに、俺は結論だけをせっつく。

「つまり、どうやれば使えるんだ」

 む、と解説を中断されたレシアは不機嫌そうに眉を寄せる。

「言霊の詠唱と後はイメージですよ、文言についてはご自由に、自身が思うままがよろしいかと」

 最初からそういえばいいものを、何をもったいぶっているんだ。

 イメージ……。

 思い浮かぶのは修道士の使っていた炎弾。と周囲を守る膜。

 だが、属性とは関係ないのだろうか。

我が身は不可侵にて(シールド)

 自身の全体を包む闇。輪郭をぼやけさせ相手の攻撃を受け止める闇の鎧。

「おぉ?」

 驚いた、本当にできやがった。

「な、な……っ!?」

 一方軽く驚いた俺とは対照的に、いつものポーカーフェイスさえ忘れて驚愕に顔を歪ませるレシア。その隣ではリィリィも口をあけて唖然としていた。

「なんで、できるのですか……!?」

 ムキになって詰め寄るレシア。

 お前が教えたんだろうがっ! という突っ込みはさておき。

「これの解除はどうするんだ?」

 俺のその問いに、忌々しいとばかりに口を尖らせる。

「解除の言霊を自身で唱えればいいのです。文言についてはご自由に!」

「ふむ」

 言われた通りに言霊を唱える。

解除(リリース)

 霧散する闇の鎧に、俺は満足した。

 効果の方はこれから試せばいいだろう。

「契約の内容に違反ではないですか?」

 なに?

「私がするのは、治癒と雑談だけだったはず」

「何が望みだ?」

「水浴びを」

 あん?

 俺が相当な間抜け面をしていたのだろう。

「水浴びをさせてくださいと言ったのです」

 怒ったような声に、面倒なことだと思う。

 俺はギ・ガーを呼ぶと、護衛につける。

 やらなければならないことは無数にあるのだ。


◆◇◇◆◆◇◇◆


 【レベル】が上がります。

 10から11となります。


 魔法の使用が解除されました。


◆◇◇◆◆◇◇◆



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