表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
王の帰還
14/371

逆撃

【種族】ゴブリン

【レベル】99

【階級】ノーブル・群れの主

【保有スキル】《群れの統率者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技C+》《強欲》《孤高の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死




◆◆◆


 ギ・ガーは目の前で繰る広げられる主の苦戦の様子に焦りを感じていた。

 だが、自分には命じられた仕事がある。

 ちらりと、背後を振り返るとニンゲンの女もまた表情の読み取れぬ面持ちで主の戦いを見守っていた。

 この女を守れ、という主の命令。

 だが、今すぐにでも飛び出さねば主はオークどもの餌食になってしまうのではないか。

 主は孤高を好む。

 危険な場所には必ず自身で出向き、手下どもには決して無理をさせない。

 ギ・ガーにとってその主の行動は異様ですらあった。

 ただのゴブリンであった頃、ギ・ガーの群れを支配していたゴブリンは、今の自分と同じような赤い肌をした奴だった。

 毎日餌を取りに行かされ、僅かばかりの収獲は年嵩のゴブリンが収奪していく。

 ──力こそが全て。

 それがゴブリンというものだ。

 不思議とは思わなかった。

 自分が上に立ってもそうするであろう。だが、やはり不満は募る。

 何より不満だったのは、群れのボスが雌との交尾を独占していたことだ。それには、群れのかなりの部分が不満を持っていた。

 だがそれでも、ただのゴブリンであるギ・ガーなどには逆らうこともできない。

 ある日現れた離反者のゴブリンについて行ったのも、雌をあてがってくれそうだったし、食い物も今よりはマシだろうと思ったからだ。

 そいつについていったのは、若いゴブリンが多かったと思う。

 自分と同じような境遇の若いゴブリン。

 だが、新しく居着いた場所にはオークが住み着いていた。

 新しいリーダーはそれを追い払うという。

 30匹からのゴブリンを集め、オーク3匹を囲い込もうとして失敗した。

 気づけば包囲網は食い破られ、ギ・ガーは跳ね飛ばされて気絶していた。

 目を覚ましたときそこにたっていたのは、リーダーとは違う見たことの無い赤いゴブリンだ。

 なし崩し的に、ソイツがリーダーとして群れをまとめることになった。

 ──ああ、また繰り返されるのか。

 この森は、ゴブリンがただ生きていくのには厳しすぎる環境だ。

 半ば諦めに近い感情を抱きながら、新しいリーダーについていく。

 ワナというものを使って獲物を動かなくしてから獲る方法は、ギ・ガーにとって鮮烈だった。

 自分の目を疑い、これを考えるリーダーに瞠目する。

「やっテみろ」

 主の言葉におそるおそるワナを使ってみると、今までが嘘のように獲物が取れる。

 ──このリーダーは良いリーダーだ。

 ギ・ガーが認識を改めるまで時間はかからなかった。

 ギ・ガーは不思議だった。

 獲った獲物は全員で分け与えて食べる。

 雌を独占したりもしない。

 名前もくれる。

 何よりも、ギ・ガーがオークの叫び声に混乱して飛び出したときに助けてくれた。

 ──何なのだろう、このゴブリンは。

 疑問とは裏腹に、ゴブリン・レアに進化したギ・ガーはゴブリンのときとは段違いに思考のはかどる頭で、考えた。

 そうして出した結論。

 ──王なのだ。このゴブリンは俺たちを救ってくれる王なのだ。

 ゴブリン・レアとなったギ・ガーは主の前に首を垂れる。

 歓喜と、絶対の忠誠を持って目の前の主に服従を誓った。

「我ガ主……グゥゥ」

 だがその主が、あの憎きオークどもに苦戦を強いられている。

 主は自分達を危険に晒したりはしない。

 だが、もし主がいなかったら自分達はどうしたらいいのだ。

 助けなければならない。

 なんとしても。

「オンナ……俺、いク。隠れテろ!」

「あなたは私の護衛を命じられているのでは?」

「我ガ主、のタめ、俺、いク! 王、助ケル! お前、隠れル!」

 喋っている内に体の内に篭った炎が、全身に燃え広がるようだった。

 忽然と沸いた感情。

 ギ・ガーの知らない感情。

 だが、心地よい。

 四肢には力が沸いて来る! 命をかけるには十分な理由だった。

「グルウァアアア!」

 ギ・ガーは、茂みから飛び出して鉄槍をオークに突き出した!


◆◆◇


 ──まずい。よけきれないっ!

「グルウァアアア!」

 そう考えた俺の視界の隅に、映る黒い影と響き渡る咆哮。

 藪の中に隠れていたはずのギ・ガーがその鉄槍を持って、長剣を振りかぶるオークに向かっていった。

 あいつにはレシアの護衛を任せたはずだ!?

「王、助ケる! 俺、王助ケル!」

 錆の入った鉄槍だったが、ギ・ガーの獣じみた突進の前にオークの肉を刺し貫く。

 その勢いのまま同時に倒れこむオークとギ・ガー。

 ──くそっ!

 鋼鉄の大剣(アイアン・セカンド)を握りなおすと、ギ・ガーを助けようと体を起こし──。

「ピュグァァアア!」

 怒り狂ったオーク・リーダーの長槍が横薙ぎに振るわれたのを全力で防御した。

 くっ!?

「プビゥウゥアア!」

「グルゥウアア!」

 ギ・ガーとオークの争う声を背中で聞きながら、目の前に迫る長槍を全力で回避する。

 当たれば即致命傷になりえる長大な武器。

 取り巻きのオークを引き剥がせば何とかなると思ったが、目算が狂ってしまった。

 ──このオークは間違いなく強いっ!

 認めざるを得ない。

「ギ・ガーの加勢だ! 投げろ!」

 威圧の咆哮で手下のゴブリンに投擲を命じる。

 俺の助勢に回せるほどの余裕はない。俺の方が俺の背後で戦っているギ・ガーとオークの戦いよりは勝算があると言っていいからだ。

 【スキル】剣技C+の発動によって豪風を伴って振り下ろされる槍を受け流す。

 と同時に足を前に進める。

 俺の間合いへ、長槍の間合いの更に奥へ!

 神経をすり減らすような一撃を、細心の注意を払って受け流す。

 後三歩で大剣の届く位置にまで来る。

 そう思ったとき色気が出てしまった。

 わずかに頭上から降ってきた槍の柄を受け損ね、足を直撃される。

「ぐ、ゥゥアァ」

 声にならない悲鳴を上げる俺に、座り込む時間は与えられない。足を砕いた長槍は地を這う蛇の如き動きを見せると、更に反転。

 逆袈裟から迫ってくる長槍を大剣を盾にして防ぐ。

 が、痛んだ足ではその衝撃を殺しきれるはずもない。弾き飛ばされて茂みの中にまで吹き飛ばされる。幸い藪がクッションになり、背中から落ちずに済んだが、吹き飛ばされた目の前で起こった光景に我を忘れた。

「ピュブゥゥアア!」

「ピュグウゥアァアア!」

 俺の相手をしていたオーク・リーダーは、あろうことか目標を吹き飛んだ俺ではなくて、ギ・ガーに変えやがった!

 ──なんなんだ。ゴブリンなんてものは、俺の命令に従ってさえいればいいんだ。俺が決めた通りに動けば、それでっ!

 ──俺を、助けるためになんて、動いてんじゃねえよ!

 そんなものは認められない。

 もし、そんなものを認めてしまったら、俺はこの先こいつらの命をすり潰すのに、平静でいられる自信がない。

 取り巻きオークの長剣が、ギ・ガーの腕を切り裂き、オーク・リーダーの長槍が横凪の一閃で鉄槍ごとギ・ガーを弾き飛ばした。

 あらぬ方向に曲がる腕、血反吐を吐きながらのた打ち回るギ・ガーの姿。

 俺の中で何かが燃え上がった。

「グルゥルゥウウアアア!!」

 威圧の咆哮を叫ぶと同時に、ギ・ガーに止めを刺そうとしているオークどもに向かう。

 不用意に間合いに近づいた俺にオークの長剣が降り注ぐ。力任せに袈裟掛けに振るわれる長剣の軌道を読んで敢えて、その間合いの中へ。

 焼け付く肩、深く傷つけられた傷口から飛び散る青い血。

 だが、これでいい。

 許せるものか!

「グルゥルウゥ!」

「プギュゥウアア!」

 食い込んだ刃を更に食い込ませようとするオーク。その刃を握る。


 【スキル】《死線に踊る》が発動する。


 ──筋力と敏捷性が20%UP。


 だが、足りないっ!

 オークの長剣を、その手に握る刃を更に深く。


 【スキル】《死線に踊る》第二段階が発動。


 ──筋力と機敏性30%UP──まだだっ!!


 両手で扱うはずの鋼鉄の大剣(アイアン・セカンド)を片手で振り上げる。

「プビュウルゥ!?」

 戸惑ったようなオークの頭上に、煮えたぎる怒りと共に大剣を振り下ろす。

 頭を潰し、胸の半ばまで両断されたオークを蹴り飛ばす。

「プビュルルアァア!」

 オークを蹴り飛ばした先に、オーク・リーダーが怒声と共に長槍を繰り出してきていた。

 横凪に振り払われる一撃は取り巻きオークの長剣を握っていた左腕をやすやすと砕く。


 【スキル】《死線に踊る》第三段階が発動。


 ──筋力と機敏性40%UP!


「オオオアアオォォオ!」

 軋みを上げる体、怒りで朦朧とさえする意識、それらを無視して前に出る。

 踏み出すと同時、片腕だけで大剣を振るう。

 オーク・リーダーの持っていた長槍を弾き飛ばす。本来腕力では決して負けるはずのないオークが、腕力で負けている事実。

 長剣を握ったままだらりと、垂れ下がる左腕をそのままに、振りかぶった鋼鉄の大剣(アイアン・セカンド)が戸惑うオーク・リーダーめがけて振り下ろされる。

「ブギュルゥ!?」

 大上段に振り上げた大剣は一直線にオーク・リーダーの頭に降り注ぐ。だが相手も群れを率いるだけのオークである。ただ呆然と見上げているわけではなかった。

 振り下ろされる一撃に、両手を交差させてそのまま俺の間合いに突っ込んでくる。

 こちらは片腕で振るう大剣だ。肉は切れても骨までは砕けないとの判断だろう。

 まして間合いを近づければそれだけ、受けるダメージも少なくなる。

 ──いい判断だ。

 振り下ろした大剣が半ばでオークの両手とぶつかり。

 ──だが、この一撃は。

 振り下ろした右腕の筋肉が異常なまでに膨張する。

 ──この怒りの大きさは、その程度じゃ止められない!

 そのままオークの頭を叩き潰した。

 血しぶきを吹き上げて崩れ落ちるオークを尻目に、俺は大剣をその場に突き刺す。

「レシア! レシア・フェル・ジール!」

 その名を呼ぶと同時にギ・ガーを助け起こす。

 茂みを掻き分けて出てきた彼女に、ギ・ガーを差し出す。

「こいつの傷を癒せ」

 いつもの無表情がわずかに疑問の表情が浮かぶ。

「貴方も重傷ですが?」

「こいつが先だ! 早くしろ!」

 じりじりと身を焼くような焦燥感、内側から湧き上がる内臓を食い破るような感覚をなんとか耐える。

「……わかりました」

 納得しがたい様子のレシアがギ・ガーに向けて治癒の魔法を唱えると同時、俺は膝をついた。

 体の内側から俺自身を変える何か。肌の下を這い回る悪寒とも言うべきものが、内側から俺を作り変えていく。

 ──熱い。

 体のそれぞれの部分から湯気が立ち上がる。

「──っ!?」

 驚愕に息を呑む声が聞こえたが、この際無視だ。

 そうして俺は目を閉じた。

 “姿かたちは魂のカタチ”

 忌々しい母なる女神の言葉が、思い出されたのは何の因果か。




◇◇◆◆◇◇◆◆


 【レベル】が100を突破したため【階級】があがります。

 【階級】ノーブル・群れの主から【階級】デューク・群れの主へとなります。

 それに伴い【レベル】が1に戻ります。


 ゴブリン・デュークになった為、各能力値が上昇します。

 【スキル】《剣技C+》が《剣技B-》へと進化します。《強欲》が《果て無き強欲》へと進化します。

 

 オーク・リーダーを倒したことにより【レベル】があがります。

 1から10へとあがります。


 【加護】冥府の女神(アルテーシア)により贈られた、一つ目の赤蛇が体内で変質します。

 【スキル】《魔力操作》を習得しました。


 アイテム:長槍、長剣、牙の首飾りを獲得。


◇◇◆◆◇◇◆◆



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ