逆撃
【種族】ゴブリン
【レベル】99
【階級】ノーブル・群れの主
【保有スキル】《群れの統率者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技C+》《強欲》《孤高の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》
【加護】冥府の女神
【属性】闇、死
◆◆◆
ギ・ガーは、目の前で繰り広げられる主の苦戦に焦りを感じていた。
だが、自分には命じられた仕事がある。
僅かに背後を振り返ると、ニンゲンの女もまた表情の読み取れぬ面持ちで主の戦いを見守っていた。
この女を守れという、主の命令。
だが、今すぐにでも飛び出さねば、主はオーク共の餌食になってしまうのではないだろうか?
主は孤高を好む。
危険な場所には必ず自身で出向き、手下達には決して無理をさせない。
ギ・ガーにとって、その主の行動は異様ですらあった。
まだギ・ガーの肌が緑色であった頃、群れを支配していたのは、今の自分と同じような赤い肌をしたゴブリンだった。
毎日餌を取りに行かされ、僅かばかりの収獲は年嵩のゴブリンが収奪していく。
──力こそが全て。
それがゴブリンというものだ。
不思議とは思わなかった。
自分が上に立ってもそうするであろう。だが、やはり不満は募る。
何より不満だったのは、群れのリーダーが雌との交尾を独占していたことだ。これには、群れのかなりの部分が不満を持っていた。
だがそれでも、ただのゴブリンであるギ・ガーには逆らうことも出来ない。
ある日現れた離反者のゴブリンに付いて行ったのも、雌を当てがってくれそうだったし、食い物も今よりはマシだろうと思ったからだ。
そいつに付いて行ったのは、若いゴブリンが多かったと思う。
自分と同じような境遇の若いゴブリン。
だが、新しく居着いた場所にはオークが住み着いていた。
新しいリーダーは、それを追い払うという。
30匹からのゴブリンを集め、オーク3匹を囲い込もうとして、失敗した。
気付けば包囲網は食い破られ、ギ・ガーは跳ね飛ばされて気絶していた。
目を覚ました時、そこに立っていたのはリーダーとは違う見たことの無い赤いゴブリンだった。
なし崩し的に、ソイツが新しいリーダーとして群れを纏めることになった。
──ああ、また繰り返されるのか。
この森は、ゴブリンが生きていくのには厳し過ぎる環境だ。
半ば諦めに近い感情を抱きながら、新しいリーダーに付いて行く
ワナというものを使って獲物を動けなくしてから獲る方法は、ギ・ガーにとって鮮烈だった。
自分の目を疑い、これを考えるリーダーに瞠目する。
「やっテみろ」
主の言葉に恐る恐るワナを使ってみると、今までが嘘のように獲物が獲れる。
──このリーダーは、良いリーダーだ。
ギ・ガーが認識を改めるまで時間はかからなかった。
ギ・ガーは不思議だった。
獲った獲物は全員で分け与えて食べる。
雌を独占したりもしない。
名前もくれる。
何より、ギ・ガーがオークの叫び声に混乱して飛び出した時には助けてくれた。
──何なのだろう、このゴブリンは。
疑問とは裏腹に、ゴブリン・レアに進化したギ・ガーは、今までとは段違いに思考の捗る頭で考えた。
そして、出した結論。
──王なのだ。このゴブリンは、俺達を救ってくれる王なのだ。
ゴブリン・レアとなったギ・ガーは、主の前に首を垂れる。
歓喜と絶対の忠誠を持って、目の前の主に服従を誓った。
「我ガ主……グゥゥ」
だがその主が、あの憎きオーク共に苦戦を強いられている。
主は自分達を危険に晒したりはしない。
だが、もし主が居なくなったら、自分達はどうしたらいいのだ。
助けなければならない。
何としても。
「オンナ……俺、いク。隠れテろ!」
「貴方は私の護衛を命じられているのでは?」
「我ガ主、のタめ、俺、いク! 王、助ケル! お前、隠れル!」
喋っている内に体の中に灯った炎が、全身に燃え広がるようだった。
忽然と沸いた感情。
ギ・ガーの知らない感情。
だが、心地良い。
四肢に力が沸いて来る。命を懸けるには十分な理由だった。
「グルウァアアア!」
ギ・ガーは茂みから飛び出し、鉄槍をオークに突き出した。
◆◆◇
──拙い! 避けきれないっ!
「グルウァアアア!」
そう考えた俺の視界の隅に映る、黒い影と響き渡る咆哮。
藪の中に隠れていた筈のギ・ガーが錆びた鉄槍を持って、長剣を振りかぶるオークに向かっていった。
あいつには、レシアの護衛を任せた筈だぞ!?
「王、助ケる! 俺、王助ケル!」
錆の入った鉄槍だったが、ギ・ガーの獣じみた突進でオークの肉を刺し貫く。
その勢いのまま、同時に倒れこむオークとギ・ガー。
──くそっ!
鋼鉄の大剣を握り直すと、ギ・ガーを助けようと体を起こし──。
「ピュグァァアア!」
怒り狂ったオーク・リーダーの長槍が横薙ぎに振るわれたのを、全力で防御した。
くっ!?
「プビゥウゥアア!」
「グルゥウアア!」
ギ・ガーとオークの争う声を背中で聞きながら、目の前に迫る長槍を全力で回避する。
当たれば致命傷になり得る長大な武器。
取り巻きのオークを引き剥がせば何とかなると思っていたが、目算が狂ってしまった。
──このオークは間違いなく強いっ!
認めざるを得ない。今までで一番の強敵だ。
「ギ・ガーの加勢だ! 投げろ!」
威圧の咆哮で手下のゴブリンに投擲を命じる。
俺の助勢に回せる程の余裕はない。背後で戦っているギ・ガーとオークの戦いよりは、俺の方が勝算があるからだ。
【スキル】剣技C+の発動によって、豪風を伴って振り下ろされる槍を受け流す。
同時に足を前に進める。
俺の間合いへ、長槍の間合いの更に奥へ!
神経を擦り減らすような一撃を、細心の注意を払って受け流す。
後三歩で大剣の届く位置にまで来る。
そう思った時、色気が出てしまった。
頭上から降ってきた槍の柄を僅かに受け損ね、足を直撃される。
「ぐ!? ゥゥアァ!」
声にならない悲鳴を上げる俺に、座り込む時間は与えられない。足を砕いた長槍は地を這う蛇の如き動きを見せると、更に反転。
逆袈裟から迫ってくる長槍を大剣を盾にして防ぐ。
だが、痛んだ足ではその衝撃を殺しきれる筈もない。弾き飛ばされ、茂みの中にまで吹き飛ばされる。幸い藪が緩衝材になって背中から落ちずに済んだが、吹き飛ばされた目の前で起こった光景に我を忘れた。
「ピュブゥゥアア!」
「ピュグウゥアァアア!」
俺の相手をしていたオーク・リーダーは、あろうことか標的を吹き飛んだ俺ではなくギ・ガーに変えやがった!
──何なんだ。ゴブリンなんてものは、俺の命令に従ってさえいればいいんだ。俺が決めた通りに動けば、それでっ!
──俺を助ける為になんて、動いてんじゃねえよ!
そんなものは認められない。
もし、そんなものを認めてしまったら、俺はこの先こいつらの命を擦り潰すのに平静でいられる自信がない。
取り巻きオークの長剣がギ・ガーの腕を切り裂き、オーク・リーダーの長槍が横凪の一閃で鉄槍ごとギ・ガーを弾き飛ばした。
あらぬ方向に曲がる腕。血反吐を吐きながら、のたうち回るギ・ガーの姿。
俺の中で何かが燃え上がった。
「グルゥルゥウウアアア!!」
威圧の咆哮を叫ぶと同時に、ギ・ガーに止めを刺そうとしているオーク共に向かう。
不用意に間合いに入った俺に、オークの長剣が降り注ぐ。力任せに袈裟掛けに振るわれる長剣の軌道を読み、敢えてその間合いの中へ。
焼け付く肩。深く傷付けられ、飛び散る青い血。
だが、これでいい。
許せるものか!
「グルゥルウゥ!」
「プギュゥウアア!」
食い込んだ刃を更に押し込もうとするオーク。その刃を握る。
【スキル】《死線に踊る》が発動する。
──筋力と敏捷性が20%UP。
だが、足りないっ!
オークの長剣を、その手に握る刃を更に深く。
【スキル】《死線に踊る》第二段階が発動。
──筋力と機敏性30%UP──まだだっ!!
両手で扱う筈の鋼鉄の大剣を片手で振り上げる。
「プビュウルゥ!?」
戸惑ったようなオークの頭上に、煮え滾る怒りと共に大剣を振り下ろす。
頭を潰し、胸の半ばまで両断されたオークを蹴り飛ばす。
「プビュルルアァア!」
オークを蹴り飛ばした先に、オーク・リーダーが怒声と共に長槍を繰り出してきていた。
横凪に振り払われる一撃は取り巻きオークから奪った長剣を、握っていた左腕ごと易々と砕く。
【スキル】《死線に踊る》第三段階が発動。
──筋力と機敏性40%UP!
「オオオアアオォォオ!」
軋みを上げる体。怒りで朦朧とする意識。それら全てを無視して前に出る。
踏み出すと同時、片腕だけで大剣を振るう。
オーク・リーダーの持っていた長槍を弾き飛ばす。本来、腕力では決して負ける筈のないオークが、その腕力で負けているという事実。
折れた長剣を握ったまま垂れ下がる左腕をそのままに、振りかぶった鋼鉄の大剣が、得物を失って戸惑うオーク・リーダー目掛けて振り下ろされる。
「ブギュルゥ!?」
大上段に振り上げた大剣は一直線にオーク・リーダーの頭に降り下ろされる。だが、相手も群れを率いるオークである。ただ呆然と見上げている訳ではなかった。
振り下ろされる一撃に対して両腕を交差させ、そのまま俺の間合いに突っ込んでくる。
こちらは片腕で振るう大剣だ。肉は切れても骨までは砕けないと判断してのことだろう。
況して間合いに近付けば、それだけ受けるダメージも少なくなる。
──良い判断だ。
振り下ろした大剣が、半ばでオークの両腕とぶつかる。
──だが、この一撃は。
振り下ろした右腕の筋肉が異常なまでに膨張する。
──この怒りの大きさは、その程度じゃ止められない!
そのままオークの頭を叩き潰した。
血飛沫を噴き上げて崩れ落ちるオークを尻目に、俺は大剣をその場に突き刺す。
「レシア! レシア・フェル・ジール!」
その名を呼ぶと同時にギ・ガーを助け起こす。
茂みを掻き分けて出てきた彼女に、ギ・ガーを差し出す。
「こいつの傷を癒せ!」
いつもの無表情に、僅かに疑問の色が浮かぶ。
「貴方も重傷ですが?」
「こいつが先だ! 早くしろ!」
じりじりと身を焼くような焦燥感。内側から湧き上がる内臓を食い破るような感覚を何とか耐える。
「……分かりました」
納得し難い様子のレシアがギ・ガーに治癒の魔法を唱えると同時に、俺は膝を突いた。
体の内側から俺自身を変える何か。肌の下を這い回る悪寒とも言うべきそれが、内側から俺を作り変えていく。
──熱い。
体の各部分から湯気が立ち昇る。
「──っ!?」
驚愕に息を呑む声が聞こえたが、無視した。
そうして、俺は目を閉じた。
“姿かたちは魂のカタチ”
忌々しい母なる女神の言葉が思い出されたのは、何の因果か。
◇◇◆◆◇◇◆◆
【レベル】が上昇。99⇒100
【階級】が上昇。
ノーブル⇒デューク
【スキル】《剣技C+》→《剣技B-》
【スキル】《強欲》→《果て無き強欲》
【レベル】が上昇。
1⇒10
一つ目の赤蛇が体内で変質。
【スキル】《魔力操作》を習得。
アイテム:長槍を獲得。
◇◇◆◆◇◇◆◆




