土鱗の姫
【種族】ゴブリン
【レベル】45
【階級】キング・統べる者
【保有スキル】《混沌の子鬼の支配者》《叛逆の魂》《天地を喰らう咆哮》《剣技A−》《覇道の主》《王者の魂》《王者の心得Ⅲ》《神々の眷属》《王は死線で踊る》《一つ目蛇の魔眼》《魔力操作》《猛る覇者の魂》《三度の詠唱》《直感》《冥府の女神の祝福》
【加護】冥府の女神
【属性】闇、死
【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv77)灰色狼(Lv20)灰色狼(Lv30)オークキング《ブイ》(Lv82)
【状態】《一つ目蛇の祝福》《双頭の蛇の守護》
石蟹の固い甲羅の隙間にシンシアの牙が突き立つ。前足でカニの体を抑えつけ、力任せに片方の凶悪なハサミを引き千切った。固い表皮ごと噛み砕く音が聞こえ、更にシンシアが追撃を加える。残った片方のハサミを振りかざして襲い来る石蟹の背後まで跳躍。着地と同時に体当たりし、石蟹を近くの木まで吹き飛ばす。
頭を打って昏倒している石蟹に止めを刺すべくゆっくりと近付く。悠然と歩むその動作は、幼いながらも気品と気高さに満ちているように見える。前脚でもって、止めを刺そうとしたシンシアの足を石蟹の残った片方のハサミが捉えた。
驚いて後ろに跳ぼうとしたシンシアだったが、振りほどこうとした石蟹のハサミは想像以上に強固にシンシアの足を固定していたらしい。バランスを崩して倒れてしまう彼女に対して、昏倒から立ち直った石蟹が再び立ち上がる。前足をハサミに掴まれたまま、持ち上げられてしまう。相当痛いのだろう。引き摺られるように石蟹に吊り上げられる形になる。掴まれていない前脚で何とか脱出を図るシンシアだったが、吊り上げられた状態では力が入らないのか石蟹の表皮に傷をつけるだけで現状の打開には至らない。
そうこうしているうちに、石蟹が勢い良く体を捻る。その強靭なハサミでシンシアの前脚を固定したままだ。当然彼女の体は宙を舞い地面に叩き付けられる。草の上だとしてもその衝撃は幼い彼女に相当のダメージを与えたようだった。そして続くそれは更に4回。
シンシアが抵抗できなくなるまで痛めつけた石蟹は、横歩きに立ち去ろうとし──。
「グルゥゥルゥウ」
怒りに燃え立ち上がるシンシアの姿に再び臨戦態勢を取った。
だが、先ほどは不意をつけたからシンシアを追い詰めることが出来たのだ。真正面から立ち合えば幼生とはいえ灰色狼に勝てるものではない。片方のハサミでシンシアの首筋を狙う石蟹に対して、シンシアはそれを冷静に躱し、残る最後の片方のハサミを食い千切る。攻撃手段を失ったと同時に戦意を喪失した石蟹が逃げようと背を向ける。
だがそれを許すことなく、頭に噛みつくとそのまま強靭な顎の力で噛み砕いた。
俺達は蜘蛛脚人の集落から少し離れた場所で狩りをしていた。ここ数日で、ニケーアとの話し合いはほぼ終わり、後は会議の開催を待つばかり。そして蜘蛛脚人の集落の近くではそろそろ戦う敵がいなくなってきていた。
あまり一か所で狩り過ぎると、蜘蛛脚人の狩猟に影響を齎すかもしれない。俺が目指しているのはあくまで亜人の力の活用なのだから、こんなことで彼らに恨まれる必要はない。
護衛のルケノンも同意する。西に行けばもう少し強いな魔物が多いということなので、足を伸ばした所で先ほどの石蟹に出会ったというわけだ。
小柄な体躯でシンシアの相手に丁度良いと嗾けたのだが、思いのほか苦戦したようだ。戦闘経験が足りないというのもあるのだろうが、途中までは優勢に戦っていたのだから単に油断したということなのだろう。
耳を垂れながら近寄ってくるシンシアの頭を撫でておく。途端に耳がぴんと立ち上がり、尻尾を嬉しそうにぶんぶん振り回す。
その変わり身の早さは見ていて微笑ましいものがある。
「王、敵、倒シ終ワりましタ」
獰猛なる腕のギ・バーの声に視線を上げる。肩に飛び乗るシンシアを確かめると、ギ・バーを中心として石蟹を残らず解体した様子に目を細めた。
「ならば帰るとしよう」
倒した石蟹は全て持ち帰る。ルケノンの顔が若干引き攣っているようだったが無視した。俺達の実力を精々過大に報告してくれればいい。“ゴブリンがたった5匹程度で脅威となり得る”そう評価してくれれば、ニケーアが余計なことを考えなくて済む筈だ。
弱肉強食の理は、未だに俺の周りを取り巻いている。
ならばそれを最大限に利用してやる。亜人を纏め、妖精族を従え、人間の世界に反旗を翻すのだ。
◇◆◇
蜘蛛脚人の集落から最も近いのは、土鱗の一族だ。八旗の会議が開催されるまでは未だ3日ほどあるが、ニケーアから先に到着していた土鱗の一族の長を紹介された。
「暗き鉱石の末……土鱗の一族の最硬爪ファンファン殿だ」
「ファンファンだ。お客人」
全身を茶色い体毛で覆う小柄な亜人はちょこん、と頭を下げた。ニケーアが長身ということもあるのだろうが、彼女の腰程しかない身長と大きく発達した両腕と両足。胴体は短く、その姿を一言で表すなら二本足で立ち上がっているモグラのような外見だった。
長い体毛の奥からこちらを覗き込む円らな瞳は、興味深く俺を見つめている。発達した両腕についている長く伸びた爪は、戦うために存在するかのように研ぎ澄まされている。高い鼻を爪で掻きながら、俺から視線を外すとニケーアを見る。
「ニケーア殿が紹介したい者がいると言うから、心躍らせて来てみれば……」
眉を顰めるニケーアに、鼻を動かしてファンファンが真顔で迫る。
「異種族間とは、また……燃える」
「何の話だ?」
腕を組んだまま堂々と聞き返すニケーア。背丈が足りず、ちょうど頭の上に当たるニケーアの手を必死に掴むと、ファンファンは無意味に何度も頷いた。
「ニケーア殿、ファンファンは応援するぞ」
暫く首を傾げていたニケーアだったが、何かに納得したように眼を輝かせる。
「おお、そうか。それはありがたい」
「うむ。ではな!」
もごもごと体毛に隠れた口を動かし、鼻息荒く退出していったファンファン。ニケーアは晴れやかに笑って俺に話しかける。
「幸先が良いな。何が気に入ったのか分からないのが困りものだが、ファンファン殿の信頼は得られたようではないか。会議に向けて一つ弾みがついた」
「土鱗の一族は皆、あのような者達なのか?」
「うむ? 彼女を始めとして、翼有る者と並ぶ商人だ。見識は広く、柔らかい土の中なら泳ぐように進むらしいぞ。報せを齎す術も発達していてな──」
あれはメスだったのか。
「あー……恐らくだが」
俺の口からは非常に言い辛いが、ここは言っておいた方がいい筈だ。
「どうしたゴブリンの王、言い淀むとは珍しい」
「あのファンファン殿は俺をお前の婚約者として紹介されたと思っているぞ」
「……な、に?」
一瞬にして彫刻のように固まるニケーア。そういう反応をされると、俺も溜息しか出てこないのだが。
「訂正するなら早めに──」
「ファンファン殿ッ!!」
俺の言葉を聞くまでもなく、脱兎のごとくニケーアは駆け去っていった。
後にルケノンから聞いた話では、あれほど慌てた彼女を見たことは未だ嘗て無かったとのことだった。
◇◆◇
ファンファンの誤解を解き、再度会って話し合いをする。
「なんだ、残念だな。だがファンファンは未だ望みはあると思っているぞ」
再会した俺の顔を見て言い放つ言葉の新鮮さ斬新さは他に比類ない。俺にこんなことを言ってくるのは、度胸があるのかそれとも馬鹿なのか。ゴブリンに好意を抱く要素が何かあるのだろうか。
それとも他に理由が?
「随分我らに好意的なのだな」
俺の言葉に、やはりもごもごと口元を動かして笑う。
「曲解せんでほしいな、お客人。ファンファンはファンファンの信条に従っているだけなのだ。それにこの程度は好意ではない」
随分友好的な一族だ。出来れば敵に回したくはないものだな。ここまで“普通”の扱いを受けるのはゴブリンとして生きてきて経験がないものだ。
「ゴブリンであろうと人間であろうと、オスがいてメスが居れば、恋は芽生えるものだ。恋の前に障害は大きければ大きいほど燃えるというもの。ファンファンはそういう者を応援するのだ」
……何と言えばいいのだ。感謝か?
視線をニケーアに向けると、なぜか全力で“私に水を向けてくれるな”と主張してくる。俺がコレに単独で対処しろと?
炎の亜人と向き合った時よりも更に絶望的な戦いではないのか。
「あ、あぁよろしく……頼む」
今後とも友好的な関係を築こう。という程度の意味を込めた俺の言葉に、ファンファンは大きく頷いた。
「勿論だ。ファンファンは応援するぞ」
深みに嵌る一方の会話に、脱出の糸口を探して周囲に視線を走らせる。
どこかに脱出の糸口はないのか、この妙に生温い会話から抜け出す何かがっ!
空気のようになったニケーアの他には何の変哲もない風景のみ。
──くそ、何もない、何も思いつかない。
「族長、甲羅の一族のルージャー殿がお越しです」
「おお、そうか。通してくれ」
ほっと息をつく、俺とニケーア。
ファンファンは黙りこむ。次々と知らされる亜人の族長の報告に、俺は小さく安堵の息をついた。
◇◆◆◇◇◆◆◇
シンシアのレベルが上がります。
30⇒45
ギ・バーのレベルがあがります。
18⇒24
ギ・ドーのレベルがあがります。
67⇒71
◇◆◆◇◇◆◆◇
女子会(異種族)ファンファンが非常にユルイ感じですが、遊び心です。