商人
【種族】ゴブリン
【レベル】45
【階級】キング・統べる者
【保有スキル】《混沌の子鬼の支配者》《叛逆の魂》《天地を喰らう咆哮》《剣技A−》《覇道の主》《王者の魂》《王者の心得Ⅲ》《神々の眷属》《王は死線で踊る》《一つ目蛇の魔眼》《魔力操作》《猛る覇者の魂》《三度の詠唱》《直感》《冥府の女神の祝福》
【加護】冥府の女神
【属性】闇、死
【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv77)灰色狼(Lv20)灰色狼(Lv20)オークキング《ブイ》(Lv82)
【状態】《一つ目蛇の祝福》《双頭の蛇の守護》
亜人の集落は種族ごとに纏まりを作り、森の各地で暮らしている。
「初めまして。ゴブリンの王よ」
俺の前に跪くのは、有翼の亜人。広い森の中に無数に点在する亜人の集落の間を往復するのはかなりの日数を必要とする。
亜人の王国を──正確には共和国を──作ろうとした亜人達は、まずはその集落間で連絡を取り合うことから始めた。
そこで活躍するのが商人。目の前に傅く有翼の亜人達だった。
「翼有る者の一族、ユーシカと申します。なにとぞ今後ともご贔屓に」
たまたま蜘蛛脚人の集落へと来訪した商人がいるということで、ニケーアに頼んで紹介してもらったのだ。
広い森の中でその一生を定住せずに生きる彼ら翼有る者は集落同士を繋ぐ大事な連絡手段であると同時に、集落での特産品を届ける商人達だった。
たとえば、蜘蛛脚人のアラーネアの糸、牙の一族が齎す魔獣の牙、長尾の一族が採取する宝石類、甲羅の一族が掘りだす木工品、人馬が加工する鉄製品など。亜人の中で有力とされている一族の特産品を他の集落のそれと交換して回っている。
他には、翼有る者では行き辛い場所を回る土鱗の一族。更には変わり種の牛人の一族がある。
「今後何かと頼むことがあるだろう。宜しく頼む」
「ええ、それはもう。お得意様が増えるのは良いことです」
笑みを浮かべるユーシカに頷きを返す。その背に生えた白い翼と、鳥のような足を器用に折り曲げて俺に一礼する。人の首から下げた大きな袋を2本の腕で大事そうに抱えているその姿は、子供を抱く母親を連想させる。
彼女は、笑みをそのままに、少しだけ身を乗り出した。
「ところでゴブリンの王様。貴方はこの先どこまで行かれるおつもりで?」
下から俺を見上げる笑みの質が、狡猾なものへと変わる。
「もしご用命なら、私がご案内をさせていただきますが……」
「あまり客人を揶揄うなよ。鉱石の末の一番翼」
俺とユーシカの会話に割り込んできたのはニケーアだった。腕を組んで眉間に皺を寄せる様子は中々迫力がある。
「おや、驚きました。蜘蛛脚人は、本気で彼らを友人にするつもりなので?」
「我らは信義を重んじる。……ゴブリンの王よ、あまりユーシカを信用しない方がいいぞ。彼らは狡猾でよく悪戯をする」
どうやら、道案内をすると言って森の中に迷いこませるつもりだったようだ。
「ほう、それは困るな」
「……一応それでも有翼人の族長なのだ」
俺の視線に不穏なものを感じ取ったらしいニケーアの言葉に、彼女がフォローを加える。
「ふふん、まぁよろしいでしょう。先ほども言った通り、ご要望のものがあればお届けいたします。もちろん、それ相応の対価を頂いてからということになりますが」
艶然とほほ笑んで、ユーシカは俺の側から離れる。
「それでは八旗の会議を招集したい。その旨、他の一族に伝えてくれないか」
「……グルフィアの夢はもう潰えたと思いますが」
炎の亜人の名前が確かグルフィアだったな。
「私はまだ諦めていたわけではない。その為の代償も払った。この件に関しては、決して退かぬ」
「宜しいでしょう。元々対策を立てねばならないところでした。今後の見通しのこともありますし」
一瞬だけ俺に視線を向け、では、と一礼するとユーシカは白い翼を大きく広げる。
巻き起こる風圧を、揚力に変えて空へ羽ばたく。森の高い木々の上へ飛び出すと、風に乗ってあっという間にその姿を小さくしていった。
「有翼人か……」
ギ・ザーも一時的に風の力を利用して空を飛ぶことはできる。だが、それは一時的なもので長距離を移動したり、長時間留まっていることなど出来ない。やはり翼を持つ彼らの特徴は唯一無二のものといっていい。
亜人全てを配下に加えることが出来るなら、中々面白そうだな。
◇◆◇
亜人の会議が開かれるまで8日程掛かる。翼有る者のユーシカが報せてから森の中に広がる亜人達が揃うまでに、その程度の日数は必要だそうだ。
その間に俺は配下のゴブリン達と共に、周辺の散策を始めていた。序でに暗殺のギ・ジー・アルシルを深淵の砦へ戻すとともに、何匹かのゴブリン達をこちら側へ呼び寄せる。折角手に入れた足場なのだから、強化しておくことに越したことはない。
ギ・ジーを送り出したあと、俺達の散策に同行するのは若い蜘蛛脚人で、名前をルケノンというそうだ。
「この辺りに住む魔獣を知りたい」
「俺は少し、考えることがある」
というギ・ザーを残して、俺達はニケーアが付けた案内人兼監視要員と共に周辺の散策へ出掛けた
岩蛙と呼称される蜘蛛脚人の天敵、空を駆ける吸血蝶が知られているらしいが、意外にこの辺りの魔獣の脅威度は高くないようだった。
何でも凶悪なものは亜人の方が積極的に狩り尽くしてしまって、今はそれほど残っていないとのことだ。長く住んでいれば、確かに凶悪な魔獣は滅ぼしてしまった方が簡単なのかもしれないが……。
岩蛙は茶色の肌に、ぬめぬめとした薄い粘液を膜状にして全身に巡らせている。大概は群れで行動しているらしく、俺達が出会ったのも群れだった。
大きな岩蛙2匹を筆頭に、手の平に乗る程の小さな尻尾付きが多数いる。聞けば岩蛙の幼生があのような形態を取るのだとか。またその尻尾には栄養があり、非常に美味だそうだ。
配下のゴブリンを嗾け、獲物を倒す訓練とする。
序でに俺の傍にいたシンシアにもやらせてみたのだが、小さな岩蛙相手に大分苦戦しているようだった。
少し甘やかし過ぎただろうか。
まぁ焦っているわけではないが、少し自分で獲物を狩る訓練をさせた方がいいだろう。そう思って俺はシンシアが獲物を倒すのを邪魔しなかった。他のゴブリンにも邪魔をしないように言い含めてある。
シンシアが苦労して岩蛙の幼生を倒し俺のところに運んできた頃には、岩蛙の群れの掃討は終わっていた。群れの頭であろう大きな2匹を仕留めたのはギ・ドー、そしてギ・バー率いる3匹のノーマル級ゴブリン。
活躍の著しかったギ・バー達には、岩蛙の上等な肉を分け与えておく。
そろそろギ・バーの下に居るノーマル達もレベルが上がりそうだ。成長は順調だが、新しい名前を考えねばならない……さて、どうする?
◇◆◇
あの怖いゴブリンが居なくなり、心の平穏を取り戻したと思ったのに……。
人間に襲撃された集落も今では元通り、更に拡張のために工事を進めている。
「ブイ~、これどこに置くんだ?」
あの一件以来、集落で僕を見る目は改善したといっていい。やっぱりゴル・ゴル様のように強いリーダーを望むオーク達に、僕の姿は希望の光として映ったみたいだ。
遠くから聞こえるグーイ達の声に、足を向けようとし。
「エサ」
下から睨みつけてくるコボルトに、足を引っ掻かれた。
「痛いよ、ハスさん!?」
「ハス、痛くない。エサ!」
そういう問題ではないと僕は思うのだけれど、餌をくれと言われても、さっきも三角猪の肉をあげたばかりなのにっ!
怖いゴブリンから南の地区を解放すると言われて危険と利益を考えながら承諾したのは、この間のことだ。お陰で豊かな湖周辺の獲物を取ることが出来るようになり、僕らの食糧事情は改善した。天敵である巨大蜘蛛もゴブリンを真似て複数のオークで当たらせることによって、被害を最小限にできている。
だけど!
その南の開拓で出会ったのが、今僕の足に齧り付いているコボルト達だった。
元々あのゴブリンの庇護を受けていたらしいのだが、そのリーダーであるハスさんとは初対面から何故か苦手意識が拭えない。
眼をぎらぎらさせて、涎を垂らして僕を見るあの目つき。
種族的には僕が優位な筈なのに、どうも……苦手……いや正直に言おう。怖い。
出会った時から何故か餌を要求され、なけなしの食料を与えたらコボルトが大群で僕等を取り囲んだ。口々に餌餌言われるのは、正直トラウマになる程恐ろしかった。
ここにはないからと言って必死に逃げようとしたところ、とうとう集落まで付いてきてしまった。
集落の仲間からは、コボルトを配下にしたのかっ! 流石だっ!
なんて言われてるけど、実際の力関係は非常に危うい。
ともすれば僕が下に居るような錯覚に陥ってしまう。だけど悪いことばかりではないのも確かなのだ。コボルト達が周辺の獲物の情報を集めてきてくれるから、食料事情は劇的な改善をしている。
「ブイ~、コボルトと遊んでないで手伝ってくれよー!」
先の戦いでオーク・リーダーに進化していたグーイの声に、我に返る。
「エサだ!」
がぶり、と噛み付かれても殆ど痛みはないけれど……精神的にくるものがある。
「これ、豆だけど……」
「肉っ!」
差し出した豆は尻尾で一蹴される。
我儘なコボルトに頭を抱えつつ、なけなしの非常食を分け与える。尻尾を振りながら齧り付くハスさんを横目に作業の現場に駆け付ける。
今、僕らは村を拡張している最中だった。食料事情の改善と敵のいなくなった……その、気分と言うか何というか、僕らは繁殖期を迎えていた。僕等の雌達は多産である。ゴブリンのように一匹が一匹を生むのではなく、雌が10匹の子供を産む。
手に乗るほど小さな幼生は、凡そ60日程で立派な牙を持つ成人になるのだ。
ゴブリンと比較すればその成長速度は遅いし、一度子供を産んだ雌は1年ほど休養を取らないといけないから、そこまで繁殖期が頻繁にあるわけでもないのだけれど。
それでも新しく生まれた子供達は可愛い。
それらが全員育ったなら今までの村では小さくなってしまう。だから、その為を考えて拡張を行っているのだ。これには村の皆んなも積極的に賛成してくれて、水堀の位置を変えたり、丈夫な柵を作ってみたり、人間が再度攻め込んできても大丈夫なようにゴブリンを真似て落とし穴を作ってみたりしている。
ゴル・ゴル様以前は集落で新しいオークが生まれると東に旅をさせていたのだけれど、それはあまり効率的じゃないと思うのだ。新しいオークが生まれる度にそんなことをさせていたのでは、返り討ちにあってしまうというのは、あの怖いゴブリンの住処に僕ら以外のオークがいないことでもわかる。
恐らく新しい集落を目指したオーク達は、悉くあの怖いゴブリンにやられたのだろう。
ならば、僕の取る選択肢は大きく二つ。
今ある集落を限りなく巨大にしていくこと。
もう一つは、返り討ちに出来ないぐらい大人数のオークを新しい集落建設に送り出すこと。
幸い今の集落は豊富な食料に恵まれているし、まだまだ多くの同胞達を養えると思う。だけど、いずれ新しい力がオークの中から勃興してきたときにはその若いオークを筆頭に、集団での移住をさせてやらなくてはならない。
その為には、先ず集団での生活を根付かせることだ。
土木作業や複数での狩りなどを通じて、多人数でいることのメリットを感じてくれれば自然と集団での生活が当たり前になってくる筈なのだ。
「グーイ、こっちの岩は、あの木の根元に移動して。あっ、ゴーイ、ドラリアの近くの草刈りもよろしくね」
指示を出しながら振り返ると、我が物顔で歩いてくるコボルトのハスさんの姿。
……僕の心の平穏はまだ遠い。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ギ・バーのレベルがあがります。
10⇒18
ギ・ドーのレベルがあがります。
63⇒67
シンシアのレベルがあがります。
20⇒30
◇◆◇◆◇◆◇◆