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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
楽園は遠く
135/371

更新が遅れて申し訳ありません。


12月16日一部矛盾があったため修正いたしました。



【種族】ゴブリン

【レベル】45

【階級】キング・統べる者

【保有スキル】《混沌の子鬼の支配者》《叛逆の魂》《天地を喰らう咆哮》《剣技A−》《覇道の主》《王者の魂》《王者の心得Ⅲ》《神々の眷属》《王は死線で踊る》《一つ目蛇の魔眼》《魔力操作》《猛る覇者の魂》《三度の詠唱》《直感》《冥府の女神の祝福》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死

【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv77)灰色狼ガストラ(Lv20)灰色狼シンシア(Lv20)オークキング《ブイ》(Lv82)

【状態】《一つ目蛇の祝福》《双頭の蛇の守護》





 暗闇に紛れて脚の先から吐き出される糸が地面に付着する。暗闇を苦にするのは人間や妖精族と一緒だと思ったが……蜘蛛脚人(アラーネア)の情報をもう一度見直す必要があるな。

 ニケーアを信用し過ぎたか?

 天井に張り付いた蜘蛛脚人が、頭上から落ちてくる。手にしているのは短槍。狭い室内での戦闘を考えて用いられたソレを、呪術師ギ・ザー・ザークエンドの風が襲う。態勢を崩して落下する地点に居たのは獰猛なる腕のギ・バー。更にそれに率いられたノーマル級ゴブリン3匹。

 蜘蛛脚人の足元を狙ったノーマル級3匹の攻撃に敵が悲鳴を上げ、短槍を持った腕をギ・バーの長剣が叩き斬る。別の一角では、こちらに迫る蜘蛛脚人の背後に回り込むギ・ジー・アルシルの姿。“暗殺”の名の通り、背後からの一撃を加えて急速離脱。

「ゴブリンの旦那!」

「お前たちは下がっていろ」

 宿に供された部屋で繰り広げられる暗闘。

 暗闇に強いゴブリンなら未だしも、人間や妖精族には荷が重い。シュメアとセレナを俺の背後に隠すようにして敵と対峙する。彼女達に迫る蜘蛛脚人に、風術師ギ・ドーの風弾が炸裂する。

「随分と熱狂的な歓迎だな、王よ」

 口元に笑みを浮かべるギ・ザーの言葉に、俺も苦笑を禁じ得ない。

「ふむ、物騒な客には、それ相応のもてなしをくれてやらねばなるまいッ!」

 左右から迫る敵は配下に任せ、正面からくる蜘蛛脚人を一撃のもとに葬り去る。

 倒れた蜘蛛脚人の目元を覗き込めば、薄らと光るものがある。

「苔、か」

 それに触ってみて、指先に着いた光る苔を擦り合わせる。用意周到なことだ。

 どうやら、ニケーアは蜘蛛脚人の説得に失敗したらしい。

「なるべく殺すな。誰の命令か知りたい」

 虫の息の蜘蛛脚人を蹴り飛ばし、配下のゴブリンに指示を出す。無言の頷きを返すゴブリン達に頼もしさを覚えつつ、周囲を警戒する。さて、どの程度が敵に回った?

 増えるとしたら、あとどれくらい増えるのだ。

 体力を温存しつつ戦局を見極めようと、俺は目を細めた。


◇◆◇


「族長ッ!」

 その悲鳴は、少ないニケーア派の面々を振り向かせるには充分だった。今にも死んでしまいそうな悲痛な表情をしたその同胞に、ニケーアの背中に冷たい汗が伝う。

「ネロウ派が暴走しました! 宿に、ゴブリン達の宿に攻撃をッ!」

「馬鹿な!?」

 言うなり伝令に走って来た同胞の横をすり抜け、ニケーアは走り出す。

 集落で最も高い木の上からゴブリン達の泊っている宿を見る。まさかという思いと、もしかしたらという絶望にも似た気持ちが綯い交ぜになる。見たくないのに、視線はその宿に吸い寄せられる。

「ネロウッ……」

 歯軋りの音を自覚しないまま、ニケーアは宿の外観を捉える。見れば屋根に張り付いた蜘蛛脚人の姿。扉を巻き込みながら、一匹の蜘蛛脚人が外に投げ出される。全身を切り刻まれ、片方の腕を失い、8本の脚の幾つかが斬り落とされてしまっている。

 意図せずニケーアは走る速度を上げた。木の幹を8本の脚を使って垂直に走り、足の先から糸を木の枝に絡ませ自身の体重を支えながら住宅の屋根を飛び越える。

 枝を軋ませ、反動を利用して空を飛ぶ。

 急速に近づいてくる地面を認識しながら、視界の端に宿から出てくるゴブリンとそれに襲いかかる同胞の姿を見た。

「やめ──」

 言葉を上げようとした瞬間、向かっていった同胞は風の刃に切り裂かれる。血を流しながら地面を這う同胞の姿が見えた時、足の裏に感じる衝撃と上下に動く視界。

「……くっ」

 彼女が到着したときには殆ど勝負は着いていた。強靭な肉体を持つ筈の同胞達が、ゴブリンの前に成す術もなく倒されている。

 確かに、今倒れているのは蜘蛛脚人の戦士ではない。

 だが、その膂力は他の種族よりも遥かに勝る筈だ。目の前にいるゴブリン達よりも遥かに……。

 ではなぜ負けているのか。混乱しつつある頭で必死に考えるが、答えは出ない。

「動くな」

 その鋭い声に、同胞に刃を向けたゴブリンを制止しようと出しかけた足を、ニケーアは止めた。

「確か、ギ・ジー殿だったな。私は敵ではない。信じてほしい」

「それは王が決めること」

 淡々とした口調ながらも、ギ・ジーの声は滲み出る感情がとぐろを巻ているようだった。

 先の炎の亜人を討つ際のことをギ・ジーは悔やんでいた。あのときひと思いに殺してしまえばこのような事態にはならなかった筈。その思いが、ギ・ジーの感情を複雑にしている。

 王の命であるなら守らねばならない。これは王に仕えるゴブリンとして当然のこと。だが一方で、王の命令が王の為にならないとすれば、どうだ。

 王の命令に逆らってでも、王の御為に動くべきではないか。例え叱責を受けようとも……。

「ならば、王と話をさせてほしい」

 ギ・ジーの迷いを阻むようにニケーアの声が聞こえる。震えたその声に、ギ・ジーの迷いは中断される。

「……良かろう。ただし、勝手な真似をするな」

「感謝する」

 剣を突きつけたまま、ギ・ジーはニケーアを宿の中に導き、入れる。

 宿の中の光景が明らかになるにつれ、ニケーアの表情が青くなる。倒れているのは何れも若い蜘蛛脚人だ。ネロウ派、或いは中立派の若者達。

 ネロウに(そそのか)されたのか、あるいは脅されたのか。その殆どが命の危険を感じる程に深い傷を負い、対照的にゴブリン達の犠牲が皆無であることに背筋に寒いものが走る。

 ここまで差があったのかという思いがニケーアの頭を占め、踏み出す脚が震えそうになる。さして広くもない宿。直ぐにニケーアはゴブリンの王の前に立つことになった。

「このたびは、私の不始末で大変なご迷惑をおかけした」

 勇気を奮って切り出したニケーアに、応えたのはギ・ザーだった。

「確か、次はないと言いましたな」

 吊り上がるギ・ザーの口元を視界の隅に留めながら、ニケーアはただ王を見つめる。この場でこの王の言葉に逆らう者はいない。だからこちらの意図を理解してもらうには王の言質が必要なのだ。

 じりじりと、胸の奥底を焼かれるような焦燥を感じながらニケーアは王を見つめる。

 だが、王は口を開こうとしない。

 そのうち焦れてきたのは、ニケーアもギ・ザーも同様だったらしい。

「王、生きている者の内、何人かを貰っても構いませんな?」

 取り繕った言葉使いで、ギ・ザーは倒れている亜人に手をかける。

「……ギ・ザー。止せ」

 明らかに不満げな表情を見せるギ・ザーに、王は口元を歪めて視線を交わす。

「ニケーア殿」

 そして再びニケーアに向けられる視線は、威厳と威圧の伴うものだった。

「はい」

「単刀直入に聞こう。この度の不始末、どうしてくれる?」

 何をどこまで譲歩するのか、ニケーアは図らねばならなかった。時間はない。倒れている亜人の傷は刻一刻と彼らを死の淵へと追い込んでいる。

「……混沌の子鬼(あなたがた)を妖精族と同じ扱いを持って、我らの賓客としたいと考えています」

 集落の若い者達の命を救う。これが族長に課せられた最大の義務である。今は派閥を作り、愚かな戦いを演じていようとも、時が来ればきっと彼らは眼を覚ましてくれる。

「我らは鉱石の末にその力があるのか不安に思う。ニケーア殿が集落の者達を大切に思うのと同様、俺もまた配下のゴブリン達を大事に思っているのだ」

「理解している、つもりです」

 お前達は手を取り合うのに必要な力を備えているのか。

 王の言葉は、ニケーアにも身につまされる思いを抱かせた。理想を掲げ、率いることを誓った誇り高き蜘蛛脚人。ネロウのような、伝統だの血筋だのに拘っている者ではこの先蜘蛛脚人の未来はない。

 そう判断して、我武者羅に族長の地位を射止めたというのに。

 だが現実はどうだ。

 ネロウの煽動に従い、客人として招待した筈のゴブリンを手に掛けようとする浅ましさ。一体どちらが邪悪な種族なのか。

「良いだろう」

「王っ!」

 ギ・ザーの声に、だが王は首を振る。

「ニケーア殿を信じよう。ただし、次に同じことがあれば我らは蜘蛛脚人を友人としてではなく、奴隷として我らの下に組み敷く」

「その時は、私の命をどうぞ最初に」

 少なくとも、ゴブリンは誠意を示した。

 対等な友人として、種族を共存させようと彼らの王は示したのだ。

「では、私は所用がありますので」

 背後から突きつけられていた剣が離れるのを感じて、ニケーアは宿から出る。怪我をした者の手当てをせねばならない。

 自身の派閥から人を選び、宿へと差し向ける。

 それと同時に、彼女にはやらねばならないことがあった。指の先に力を込めると、鋭い爪が伸びてくる。緑色の毒々しい色合いに、脚の細毛は怒りに逆立つ。

「ネロウッ……」


◇◆◇


 蜘蛛脚人達がこちらに恐怖の視線を向けながら怪我人を担ぎ上げ、宿を退出してから、ギ・ザーは抑えていた不満を爆発させていた。

「甘い、甘いぞ、王よ!」

 ギ・ザーが不満の声を上げる。

「まぁそう言うな」

 苦笑する俺に、普段なら口を挟むことの少ないギ・ジーまでもが声を重ねる。

「差し出がましいようですが、俺も甘いと思います」

 随分と俺の判断が甘いと思われているらしい。だが、本当にそうか?

「皆は俺の判断が甘いと考えているようだが……このまま蜘蛛脚人の集落がすんなりと纏まると思うか?」

 疑問に首を傾げるゴブリン達に説明してやる。

「先ほどのニケーアの態度からして、彼女がこの集落を掌握し切れていないのは間違いないだろう」

 頷くノーブル級のゴブリン達を確認して話を次に進める。

「しかも彼女に対抗する勢力はかなり大きい。彼女の意志に沿わないことが二度も起こっている状況なのだからな」

 一度目は俺達を尾行してきた二人の亜人。そして今度は本格的な襲撃だ。

「この問題を、短期間に後腐れなく解決するにはどうすればいいと思う?」

「……内紛を始めさせるつもりか」

 ギ・ザーの声に頷く。

「このまま眺めていれば、彼らは傷付き、倒れ、疲れ果ててゆく」

「鉱石の末を、友人だと認めたのではないのですか?」

 恐々と声を潜めて、だがその瞳には怒りがある。妖精族のセレナの言葉に、ゴブリン達が一斉に振り返る。途端にシュメアの背後に隠れる彼女は、親しみは持たれても尊敬はされそうにない。

「そう、友人だとも。それに値するかどうかを、これから彼らが証明してくれる筈だ」

 友となって手を取り合うか、敵となって牙を交えるか。

「だが、まぁ……」

 なるべくなら友であってほしい。その為なら多少の支援は許されよう。時間は有限で、この森がどこまで続いているのか分からないのだ。友好的な者が多いに越したことはない。

「流石、我らが王だ」

 ギ・ザーの言葉に苦笑するしかない。

「では支度を整えろ」

「支度?」

 シュメアの怪訝な表情に、苦笑を深くする。

「友人なら恩を売っておいて損はないし、敵なら早々に消えてもらった方が望ましい。そうだろう?」

「……旦那も素直じゃないねぇ」

 ぽん、とセレナの頭に手を置いてシュメアが苦笑する。

 俺達は蜘蛛脚人の一人を捕まえると、案内をさせ宿を出た。


◇◆◇◆◇◆◇◆

ギ・ザーのレベルが上がります。

43⇒45

ギ・ドーのレベルが上がります。

60⇒63

ギ・ジーのレベルが上がります。

3⇒7

ギ・バーのレベルが上がります。

1⇒10

◇◆◇◆◇◆◇◆

毒を盛ったのは、毒を喰らったのは、毒を薬としたのは、誰になるのでしょう。


次の更新は、月曜日辺りを考えています。

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