表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
王の帰還
13/371

襲撃

【種族】ゴブリン

【レベル】99

【階級】ノーブル・群れの主

【保有スキル】《群れの統率者》 《反逆の意志》 《威圧の咆哮》 《剣技C+》 《強欲》 《孤高の魂》 《王者の心得Ⅰ》 《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死



 オークの群れの襲撃。

 周辺に住み着いたオークを始末したことで油断をしていた。

 群れて移動するオークの脅威は、俺が考えていた以上に深刻だったらしい。

 集落を襲ったのはその数6匹。

 俺を守って逃げたギ・グーをはじめとする一部を除いては、散り散りに逃げてしまいどこにいるかもわからないそうだ。

 集落へ向かう中、ギ・グーに話を聞きながら情報をまとめる。

 蜘蛛にやられて眠っていたとはいえ、運がない。いや、限界までの戦いをするには、いまだ油断ならない状況と言うことだろう。

 眠っている間に、殺されていた可能性もあったことにぞっとする。手下が自分達でオークに対処出来るまで、無理な戦闘は控えるべきだろう。

 俺が対処できるレベルでの出来事だった幸運に感謝すべきだ。

 従えるのは、10匹ほどのゴブリンと、ギ・ガー。そして女剣士を救い出したいらしいレシア。

 この数で真正面から打ち合うなどは無謀としか言いようがない。

「ギ・グー」


 小細工が必要だった。元集落のリーダーであるギ・グーを呼ぶ。

「先行してオークを狩猟地域へ引っ張っていけ」

「はイ」

 オークの行動パターンを考える。奴らは、ゴブリンにしてもそうだが、欲望に忠実だ。ほしいものを奪ったなら、腹を満たし、その後で欲望を遂げるはず。

 なら未だにあの集落にとどまっている可能性は高い。

「罠を使えば時間を稼げるはずだ。オークを無理に狩ろうとなどするなよ」

「時間ヲかセぐ」

「そうだ。逃げ回ればそれでいい」

 リーダーが率先してゴブリンを追っていく、などということはまず無い。

 オークの群れの中のでも下っ端……つまり腕力が無いもの頭の弱いものがギ・グー達を追うはずだ。

 ならば、分断すればオークの群れとて勝てないことは無いはずだ。

 ギ・グーが無言で頭を下げるとゴブリン達を率いて走り出す。

「グルウウゥ!」

 猛る声をあげるとゴブリンを4匹連れて集落へ向かって走る。

「他は石を集めて、北の入り口に隠れていろ!」

 残ったゴブリンに指示をすると、残ったギ・ガーとレシアに声をかけた。

「俺たちは南門だ」

 鋼鉄の大剣を肩に担ぎなおすと、俺は自分自身に宣言するように言った。

「奪い返すぞ! 全てをな!」

 北から吹き抜ける風が、戦の予感に梢を揺らしていた。


◇◆◇


 所々朽ちた柵に囲まれたゴブリンの集落では、オーク達が食事の真っ最中だった。

 数は3匹。ギ・グー達が上手く敵を引き離したらしい。

 もし引き離しに失敗していたなら、レシアとギ・ガーを囮として使うために南門まで走ってきたが、その必要もないようだ。

 それなら、後はあの3匹にさえ集中すればいい。

 長槍を担いで、首には牙を連ねたような首飾りをしたオーク。明らかに他のオークとは一線を画する装い。そして体格に目を凝らせば、ぼんやりと脳裏に浮かぶ文字の羅列。

 【スキル】《赤蛇の瞳》が発動。


 【種族】オーク

 【レベル】67

 【階級】リーダー・群れの主

 【保有スキル】《怒声》《威圧の咆哮》《悪食》《突進》

 【加護】なし


 あれは、夢じゃなかったらしい……。

 胸の中に入り込んだ一つ目の赤蛇が、【スキル】として発動しているらしかった。

 改めて自身の【スキル】を確認する。


 【スキル】《赤蛇の瞳》

 ──相手のレベルが自身よりも低い場合のみ、相手のステータスを読み取ります。


 【レベル】、ときたか。

 人数差などならわかりやすかったのだろうが、【レベル】が必要となると単純に階級が上位になったからといって使い勝手がよくなるというわけではない。

 現在の俺の【レベル】が99だったから上手く読み取れてはいるものの、階級が上がった直後などはほとんど読み取れないと考えていい。

 使いところを間違えないようにしないとな。

 だが、それとは別に今はこの力がありがたい。

 敵の戦力が判明するというのは何にも増して作戦を立てやすい。

 長槍を持っているオーク・リーダーを除けば後は普通のオークだった。

 俺一人でも対処できないことはないが。

「ギ・ガー、レシア、中央を駆け抜けて北の門まで走れ」

「仰せノマまに」

 レシアを確認するギ・ガー。レシアを見ればこちらの言葉に頷いていた。

 不審はあるだろうが、今は俺の言葉に従うしかないはずだ。

「行け!」

 こちらにオークが背を向けると同時に二人を走らせる。

 と、同時に俺は食事に夢中なオークに向かって走る。

 座り込んで食事をしているオーク3匹。

 オークまで後10歩。まだオークはこちらに気がついていない。

 異様に鼻が効くオークの為に、わざわざ南門から進入した甲斐があったというものだ。

 後7歩。

 その距離まで来たとき、目に入る光景。

 死した俺の手下の屍を喰らうオークと死んだように動かない女剣士の姿。

 ──ぎりぃ。

 知らずに奥歯をかみ締めていた。

「ブギュァアァ!」

 後4歩。

 やっと気づいたオークが怒声をあげる。

 が、もうおそい。

 そこはすでに俺の射程圏内。肩に担いだ鋼鉄の大剣(アイアン・セカンド)を大上段に振りかぶり、オークの頭に降り下ろした。

 大剣の重みに加えて、加速する遠心力まで加えた一撃は容易に取り巻きの頭を叩き割る。

 返す刀で中央に座っていたリーダーを狙うが、さすがに長槍を盾に距離を取られてしまった。

「プギュュァアアァ! ギュアア!」

 何やら怒り狂っているが、生憎と怒りの嵩ならこっちも負けてない。

 ──良くもやってくれたな!

「グルゥゥアアァ!」

 威圧の咆哮に取り巻きオークの一匹が怯む。

 一匹は俺よりも格下と考えてよい。だが──。

 思考を中断させるオーク・リーダーの攻撃。俺の大剣の二倍はあろうかという長射程の横薙ぎの一撃が頭上を通り過ぎる。

 射程が長いなら、間合いの内側へ──!

 槍が俺の頭上を通り過ぎた瞬間身を縮めてオーク・リーダーに肉薄する。

「プギュァアア!」

 四足(よつあし)の獣のように地面に体をこすり付けるようにして、オーク・リーダーの頭を狙うべく大剣を背に隠すように持った。

 にやり、と豚に相応しい醜悪な笑顔を見た瞬間俺は背筋が凍りついた。

 視界の隅からわずかに見えた物に確認もせず、反射的に反対に飛ぶ。

 太ももに走る熱が攻撃を受けたのだと知らせるが、それを確認する間もなく頭上から長槍が降ってくる。

 転がってなんとかそれをかわすと、背を向けて北門へ走り出す。

 もう少し相手の戦力を削っておきたかったが、無理をしてもはじまらない。

「プギュァアァ!」

 背後から聞こえる怒りの声。血を見て猛ったオークは、もはや生半可なことではとまらない。

 頭に血の上ったオークを連れて、俺は北門へ向かった。


◇◆◆


 集落の北門は集落からでるとすぐにその道が森に閉ざされている。

 人が住まなくなったこの集落から、山中へ向かうものがほとんどいなかったためだ。自然の侵食を受けた山道はすでに半ば以上閉ざされ、足元には草木が茂っていた。

 左右には道を圧迫するように藪が這い出て、小さな草木が道を覆う。

 周囲に林立する木々にはさまれた狭い道に俺とオークの2匹は対峙していた。

 すでにゴブリンの配置は終わり、後はゴブリンどもに牽制させながら、俺がオークを仕留めればそれで終わる。

 だが、そう簡単に勝たせてくれるほど相手も甘くは無かった。

 周囲に林立する木々が邪魔をして満足にオークが槍を振るえないと考えていたが、オーク・リーダーは俺の想像の上をいく。

 小さな木々などなぎ倒しつつ頭上で長槍を旋回させると、遠心力を利用した一撃を難なく繰り出してくる。

 大剣を両手で構え全力で防御に回さなければ弾き飛ばされてしまうその威力!

 不意打ちで奇襲をかけるなら、こっちを狙うべきだったかと後悔がよぎる。

 そしてその隙を突いて、仕掛けてくる取り巻きのオークの一撃。

 手にした長剣を繰り出し、槍の間合いの中に俺を入らせないように上手く動きを止める。

 ──豚の癖に、連携なんぞしやがって!

 焦れば焦るほど、ずるずると相手のペースに嵌っていく。

 小さいながらも無数にできる傷は、間断なく血を流し俺の体力を削り取る。

「グ」

 取り巻きオークの一撃を避けた直後襲い来る長槍の一撃に、俺は吹き飛ばされた。

 取り巻きのオークが、にやけた顔で長剣を振りかぶったのが見え──。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ