閑話◇ガストラの冒険
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【個体名】風鳴りの君
【種族】グレイウルフ
【レベル】20
【階級】幼生
【保有スキル】《疾風の一撃》《突進》
【加護】なし
【属性】なし
ボクの名前は風鳴りの君という。
ボクはご機嫌である。母上がボクの相手をよくしてくれるからだ。尻尾をちぎれんばかりに振り回し、愛しい愛しい母上に声をかければ、決まって母上はボクを抱き上げてくれる。
「ガウゥゥガウゥゥ!」
母上、母上!
「はいはい、甘えん坊さん」
ボクが呼びかければ優しい母であるその人は、ボクを抱き上げて膨らんだ胸元に抱き上げてくれる。いつも天上に広がっている空のような髪が、自慢の尻尾に当たってチクチクするが、それでも尻尾を振るのをやめられない。
そのくらい嬉しい。
最近父上を見ないのが少し寂しいけれど……。
母上の方がボクは好きだ。父上は黒っぽくてゴツゴツしてる上にあまり抱き上げてくれないから。でもやっぱり父上は大好きだ。大きな角を持った敵を一撃で仕留めてご飯をくれる。
いつかは父上のようにならなきゃ。
いつも一緒にいるシンシアの姿が最近見えないのが気がかりだ。
「クゥークゥン」
母上に、シンシアは? と聞いてみても、撫でてくれるだけで誤魔化されてしまう。
きっと父上とどこかに行っているんだな。
もしかして秘密の特訓だろうか、一匹だけボクより先に大きくなって、自慢げにボクの鼻先に尻尾を振るつもりなんだな!?
こうしちゃいられない。
「あっ!」
「ガウガウゥゥ!」
母上、ボクも修行に行って来ます!
◇◆◇
最近ボクが暮らしているのは森の中から、石の中に変わっている。母上の周りには母上と同じような人がいっぱいいるけれど、どれも母上みたいに優しくはない。ボクを見たとたん長い棒で叩こうとする奴までいるのだ。
そんなやつには、きっちりとジョウゲカンケイというものを教えてやるのだ。
父上が一番強くて、母上が二番目、ボクが三番目で、シンシアが四番目だ。シンシアが一人で修行しているのはきっとジョウゲカンケイを逆転するつもりなのだ。
ボクに会っただけで棒を振り上げるような奴には、ジョウゲカンケイをしっかり教えている。その数はすでに片方の爪の数より多い。つまりはボクの部下というわけだ!
でも部下ならボクの指示に従うはずなのに、ボクを見たとたん逃げてしまうのはどうしたことだろう。きっとボクがおっかないのだな! ボクも怒ったときのシンシアはおっかない。
思わず背を向けてしまうほどだ。だからボクは怒ったりしない。
「クゥーン、グルゥゥ」
何もしないよー、こっちへおいで!
部下の一人に声をかけたら、奇声を上げて逃げていってしまった。
むむむ……おかしいな。
はて、何をするんだっただろう……はっ!? 修行だ!
こんな石の中にいたのでは、シンシアに対抗できないんじゃないのかな。修行って、何すればいいんだろう。とりあえず部下をいっぱい作ればいいのかな?
でも二本足の部下は、頼りにならなさそうだ。やっぱり4本足の部下がいい。
でも、ここらの石の中には4本足がいなさそうだ。
う~ん……出てみようか!
「ハフッハフッ!」
石の中をぐるりと回って、どこかに穴がないか調べて回ると……あった。
無理やり頭を突っ込んで、後ろ足で地面を思い切り蹴り付ける。
頭が半ばまで通ったところで、外の景色を見ると、人人人だ。
「グルゥゥ」
駆け出すために後ろ足で何度も地面を蹴る。
やっと抜け出したと思ったら、今度は四足の大きなのが土煙を上げてむかってくる!
なんとかそれの前から逃げ出すと、狭いところへ逃げ込む。流石にボクでも、あんな大きなものは無理だ。父上ならなんとかするかもしれないけれど。
しばらく狭くて暗い場所を歩いていると前から、四足の毛むくじゃらなのが歩いてくる。
「ニャァァ!」
毛を逆立てて威嚇!?
「グルゥルゥゥ!」
ボクだって負けてない。唸り声は得意なのだ。いつもシンシアにやられているだけに、見よう見まねで真似っこぐらいならボクにも出来る。
「ニャぁ!?」
ボクが一歩踏み出すとびっくりして、毛むくじゃらなのは背を向けて逃げてしまう。
むむ、まずい!
「ガウゥ!」
逃げようとする毛むくじゃらにおいついて、前足で背中から押さえつける。
「ニャ、ニャニャァ!?」
前足の下で暴れる毛むくじゃらの上に両足を乗せて、相手が疲れ果てるまで抑え付ける。
「グゥ、ガウゥ!」
やがておとなしくなったところで、開放して毛むくじゃらの耳元をボクの部下になるように、思いをこめて軽く噛む。
「ニャァ!?」
びっくりして飛び起きる毛むくじゃらに、鼻先を付き付ける。最初は逃げようとしていた毛むくじゃらだったが、途中からボクに体を擦り付けてくるようになった。細くてぴんと立った尻尾が、絡みつくようにボクの前足をなぞる。
毛むくじゃらの鼻がボクの脇腹にあたってくすぐったい。
「ガウ、ガウ!」
よし、部下第一号! 早速母上に報告に行こう!
首をかしげる毛むくじゃらを促して、ボクは母上の元に戻った。
◆◇◇
「ガウゥ、ガウゥ!」
母上母上!
「あら、ガストラ今戻ったの?」
「む、何か変なものを連れていますねガストラ……」
何やら“てーぶる”というものに向かっていた母上に、後ろから付いてきた部下第一号を紹介する。母上の部下が、怪訝な顔をしてボクの部下を眺める。
「ガウゥ、ガウゥゥゥ!」
すごいでしょ!? 部下第一号ですよっ!
尻尾を振ってやると、部下第一号が擦り寄ってきてボクの隣にくる。
「……レシア様」
「ええ、ガストラ」
褒めて褒めて~!
母上の足元に擦り寄るといつものように、抱き上げられる。きっと暖かい胸元に抱えられるのだろうというボクの予想は、あっさりと裏切られた。母上の顔の前まで抱き上げられると、眉を寄せて不快感を表す母上。
あれぇ?
「ガストラ……貴方は狼なんですから、猫はダメでしょう?」
猫? 見下ろす形になった部下第一号に向かって首をかしげる。部下第一号も首をかしげる。
ぽんと地面に下ろされる。
あれぇ? 抱っこは?
疑問に首をかしげるボクに、部下第一号が擦り寄ってくる。
「ガストラに、早速悪い虫がっ!?」
母上の部下第一号が天井を見ている。
「ガゥ?」
お前猫なの? と部下第一号に首をかしげてみせる。
「にゃぁ!」
猫でもいいの、ついていくと言わんばかりに体をボクに摺り寄せてくる部下第一号。
「むぅ……王都の悪い風に当たったのかしら?」
母上がボクと部下第一号を見て首をかしげる。
ねえ母上、猫ってなぁに!?
手下にしたのは、もちろんメス。裏路地一帯を縄張りにしていたルルシュと呼ばれる猫さん。
これからガストラは王都中の獣を手下に加えます。
……主に、メスを。