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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
楽園は遠く
126/371

幕間◇群狼

南へ旅立ったギ・グーのお話

【個体名】ギ・グー・ベルベナ

【種族】ゴブリン

【レベル】75

【階級】ノーブル・サブリーダー

【保有スキル】《威圧の咆哮》《剣技C+》《王の右腕》《連携》《投擲》《万能の遣い手》《遠くを見る目》




 王からの命令により南へ進んだギ・グーは行く先々で獣を狩りながら、配下にするべく手下を探していた。弱小のゴブリンどもを引き連れて王の前に参上すれば、きっと王はお喜びになるだろう。

 まして自身の配下を持つことを許されるのは特別な意味がある。自身の王に対する信頼度の高さの証明に他ならない。もし人間と戦う段になれば一軍を任されるのだろう。

 その心積もりがあるから、ギ・グー・ベルベナは今回の王の命令に乗り気だった。

 だが……。

「いない」

 唸り声を上げて周囲を窺うが、ここはどのあたりだろう。皮の袋に溜めた水にはまだ余裕がある。獲物も今のところ、食えないものは居ない。だがどれほどの旅路がこの先に控えてるかわからないのなら、食糧は少しでも多めに確保しておくべきだ。

 なるべく補給をしておこうと思い立ち、耳を済ませる。

 水の音を求めて耳を澄ますと、僅かに聞こえた音に向かって歩みを進める。

「む」

「ギ!?」

 見つけたのはゴブリン……の筈だが、どうにも格好がおかしい。奇形というやつだろうか? 異常に両手の長い小柄なゴブリンだった。足は短く、それ故に長い腕だけが目立つ。背丈はノーブル級のギ・グーの腰にも及ばない。普通のノーマル級ゴブリンですら、もう少し背丈がある。

「ギ・ガーの遠縁か? 幼生か?」

 首を傾げるギ・グーに、不思議なゴブリンも同様に首を傾げる。

「まぁ、どちらでも良いか」

 そう思って一歩を踏み出したギ・グーに驚いたのか、逃げ出すゴブリン。

「ふむ……」

 追いかければ或いは集落が見つかるかもしれない。そう考えたギ・グーは見失わない程度の速さで追いかける。

「ギ、グ、ギギ!?」

 言葉が喋れないのか、罵っているような感じの鳴き声。やはり幼生かとギ・グーが判断しかけていたとき、頭上に気配を感じる。

「ぬ!?」

 咄嗟に後方に飛び退く。目の前に着地するのは、やはり腕の長い小柄なゴブリン。その数2匹。

「ギ、ギ──」

「エモノ」

 手にしている木を尖らせた槍に、ギ・グーはニヤリと笑う。

「うむ、手頃だ」

 その笑みを目にしたゴブリン達は思わず後ずさる。ノーブル級ゴブリンとなって幾度も強敵と戦ってきたギ・グーは知らず知らずのうちに、獰猛な笑みを浮かべるようになっていた。自身では知的な笑みだと思っているが、他の者から見ればゴブリンの凶悪な、その中でも更に怖い笑みだ。

 現に目の前のゴブリン達は互いに目を合わせると、ギ・グーが一歩を踏み出すと同時に駆け去る。

 当然向かってくるものと思っていたギ・グーは拍子抜けして、目をぱちくりとする。

「むむ」

 ここは王に習って《威圧の咆哮》でもしてみようか?

 昔アレでやられたなぁと、のんびりそんなことを考えていると、逃げ去ったゴブリンの姿は直ぐに見えなくなる。

「いかん」

 見失えば一大事。慌てて追いかけ、少しすると、目の前にゴブリン達が3匹纏まっている。何やら目の前には枝を被せただけの拙い罠の存在。じっと見つめて、再び3匹を見る。

 なにやら手を打ち合わせて喜びあっている。

「む……」

 その3匹と罠を見比べている内にギ・グーは腹が立ってきた。

 こんな罠に掛かってしまうと思われている自身に、そしてこの罠の拙さに!

「愚か者メぇェぇ!!」

 《威圧の咆哮》でゴブリン達を震え上がらせると、目の前の罠を一蹴する。上に乗せただけの枝を蹴散らす。

 一番小さなゴブリンが泣きそうな顔で目を潤ませる。

 ついでに自分が入るには小さな穴の半径を強靭な右腕によって拡張。

 一番胴の太いゴブリンが頭を抱える。

 中に仕掛けてあった棘のある植物を邪魔だとばかりに投げ捨てる。

 一番大きなゴブリンが絶望と共に地面にへたり込む。

「よく聞け貴様ら! 罠とは我らが生き残る為の武器である! 術である! そして何より、芸術である! それをこんな拙いものにするとは、このギ・グーへの冒涜!」

 手にした斧で近くの細い木を何本も切り倒し、鋭い切り口を持った槍を作る。その内の一本を使って穴の半径を広げる。広げた穴に木の槍を剣山のように等間隔で埋めていく。太い枝を何本か組み合わせ、その上に細い枝を置き、隙間が少なくなってきたところに落ち葉を重ね、更にその上に土を被せる。

 そうすることによって周囲との違和感をなくし、更に!

 わざと離れた距離から取ってきた草などを埋めることによって擬装を凝らす。

「これが罠というものだ!」

 堂々と胸を張るギ・グーに3匹のゴブリン達は顔を見合わせ、ギ・グーと罠を見比べていた。一番小さいゴブリンが罠の近くまで行って、その出来を確かめる。次第にあとの2匹も近寄って議論じみたことを始める。

 決着がついたのか、3匹は揃ってギ・グーの前に平伏した。

「オウ、サマ!」

「うん?」

「オウサマ!」

「俺がオウサマか」

「オウサマ!」

 ううむ、とギ・グーは唸る。王様は駄目だ。王がいるからだ。

「王様は駄目だ」

 再び相談する3匹のゴブリン達。

「そうだ。貴様らは互いを何と呼び合っているのだ」

 3匹が互いに顔を見合わせて、それぞれを指差す。

「チビ」

 一番手の長いゴブリンが指差される。

「デブ」

 胴の太いゴブリンが指差される。

「デク」

 一番大きなゴブリンが指差される。

「ならば改名しよう。俺が新たにお前らに名前を与える。今後はそれで呼び合え」

 目をきらきらさせる3匹に、ギ・グーは順番に名前を授ける。

 まずは一番小さなゴブリン。

「グー・ナガ」

 おお、と2匹から感嘆の声が漏れ、羨ましそうに小さなゴブリンを見つめる。

 続いて胴が太いゴブリン。

「グー・タフ」

 おお、と2匹から再び感動の声が聞こえる。

 最後に大きなゴブリン。

「グー・ビグ」

 おお、と残り2匹から声が上がる。

 とりあえずこんなものかと自分が配下になったときの事を考えてギ・グーは頷く。

 後は自分のことを何と呼ばせるか、だ。

「さて、お前ら。俺のことは大兄と呼べ」

「「「オオアニ!」」」

 これでよし、とギ・グーは頷く。

「次はお前らの集落に案内してもらおう」

 これで王からの命令が果たせると喜んだギ・グーだったが、3匹の顔色は沈む。

「集落、オイダサレタ」

 地面にめり込みそうな程沈みきったビグの様子に、ギ・グーは首を傾げる。

「オウ、怒ッタ!」

 体を震わせながらタフが言う。

「俺タチ、ニゲタ」

 ナガは悲しそうに呟く。

 ギ・グーは更に首を傾げる。どうもよくわからない。だが看過できないことが一つだけあった。

「王、だと?」

 ぎろり、と目を剥いたギ・グーに3匹は震え上がる。今まで優しげな態度だったのが嘘のように、その声音は低く恐ろしげだった。

「王は唯一、我が王のみ」

 腰に挿した剣の柄を強く握ると、荒い息を吐き出す。

「案内しろ。僭称を許すわけにはいかぬ!」

 鼻息も荒く、ギ・グーは3匹を引き連れて水辺を後にする。途中立ち塞がる魔獣をギ・グーの指揮の下、3匹が連携して駆逐する。その的確な指示と普段の強敵が驚く程簡単に始末できてしまう現実。

 3匹が抱き合って感涙に咽ぶ。一方ギ・グーは初めて見た魔獣の肉を胃に収めると、周囲に視線を巡らせる。ここいら一帯だけ木々が随分と高くなっている。だがその分、木々の隙間は広くなり中天から注ぐ陽光は普段の暗黒の森よりも大分明るい。

 暗黒の森と総称される場所から離れてしまったのだろうか。日の昇る方向を見る限り、間違ってはいない筈なのだが。

「集落は遠いのか?」

「モウスグ!」

「「スグ」」

 背の低い南のゴブリン3匹が頷く。

 腹拵えを済ませて、しばらく歩く。そうすると3匹のゴブリンがギ・グーに注意を促すように頭上を睨んでいる。

「見張り、ウエイル」

 見張りは木の上にいるということか。視線を上げたギ・グーの視界に飛び降りてくるゴブリンの姿。やはり長い腕に、手にした武器は錆びた短剣。

「らしくなってきたではないか」

 獰猛に笑うと、腰だめに構えた長剣を降りてくるゴブリンに一閃。胴体ごと背骨まで一刀両断し、青い血と共に臓物がぶち撒けられる。

「オオアニ!」

 見れば既に四方を取り囲まれ、3匹のゴブリンと背中合わせになってしまっている。だが危機的な状況に、ギ・グーはむしろ獰猛に笑う。

「良いか、俺の指示通りに戦え。間違いなく勝てるだろう」

 タフが自分の腹を、ビグは胸を、ナガは地面を叩いて興奮と賛同を示す。

「我が名はギ・グー・ベルベナ! ゴブリンの王命を受けこの地に来た。我が指揮下に加わり、王の下へ馳せ参じるべし! さもなくば、貴様らに生きる価値などないと知れッ!」

 口上を述べる間に近寄った1匹を片手に持った斧で叩き伏せる。同時に迫っていたもう1匹のゴブリンを長剣で串刺しにして、そのまま投げ捨てる。

「グルゥルガガアアアァ!」

 《威圧の咆哮》を使い、背の低いゴブリン達を牽制すると、指揮下のナガ、ビグ、タフに命令を下す。

「ナガ、足を狙え。ビグ、タフ、付いて来い」

 ギ・グーの左に位置するナガが自慢の長腕を使って目の前に立ち塞がるゴブリンの足を狙う。手にしているのはギ・グーが与えた木の槍。先を削っただけの槍だが、その長さは優に彼らの身長程もある。

 圧倒的な間合いの攻撃に対処しようとした敵のゴブリン。

「行け、タフ」

 そこにギ・グーの右を走っていたタフが襲い掛かる。手にした武器は同じく木の槍だが、今度は長さがより短い。精々彼らの肩ぐらいまでしかないものを軽々と振り回すと、敵のゴブリンに突き刺す。

 痛みに叫び声を上げる敵のゴブリン目掛けて、止めを刺すべくビグが手にした短剣で咽を掻き切る。

「ギ、ギ!?」

 あまりの連携の良さに3匹は勿論のこと、周囲を囲む南のゴブリン達すらも驚愕する。

「走れ!」

 再びの命令に、自然と3匹は従う。ギ・グーの一撃が敵の頭を割り、囲もうとする敵に対してはナガが牽制を繰り返す。流れるような動きで3匹に命令を下すと、驚愕するゴブリン達を蹴散らし集落の中へ突き進む。

「グル、ギィ!?」

 赤い肌に長い腕。南のゴブリンの特徴を備えたレア級ゴブリンの姿に、ギ・グーは口元に獣の笑みを浮かべる。

「貴様が僭称者か?」

 手にした長剣にはゴブリン達の血がべっとりと付いている。それを振り血脂を落とすと、そのまま切っ先をレア級ゴブリンに向ける。

「グルガアァァ!」

 レア級ゴブリンの怒りの咆哮が響く。沸き立つ南のゴブリン達。

「何者ダ!? 王のオれに何ノようダ!?」

 ギ・グーの背後を固めるゴブリン3匹に僅かに動揺が走ったが、ギ・グーは悠然と斧を地面に叩き付けると、《威圧の咆哮》を被せる。

 周囲は既に静寂が支配していた。ゴブリン達はギ・グーの咆哮のあまりの圧力にすっかり気押されてしまっていた。それはレア級ゴブリンも例外ではない。

「……貴様が何匹のゴブリンを率いようと、誰を追放しようと、俺は全く関知せぬ。だが、王を名乗ることだけは許さぬ。俺がもしお前らを見逃したのなら、俺の王への忠誠が問われるからだ」

「何ノ話ダ!?」

 長い腕を地面に叩き付け、怒りを露にする南のゴブリンの主。

「王を名乗れるのは唯一、我が主のみ! 貴様は死をもってその罪を償え!」

 長剣を両手で持つと、ギ・グーがノーブル級の脚力を全力で使い、走る。その加速はレア級であるボスゴブリンが反応できるものではなかった。

 一刀両断。首を狙った一撃は誤りなくボスゴブリンの首を飛ばし、噴き出す血と同時にその体が倒れ込む。

 音もなくその決着を見届けた南のゴブリン達は騒めく。だがそれを許さず、ギ・グーが吼えた。

「今よりこの群れはギ・グー・ベルベナが貰い受けたッ!」

 高く上がる勝ち鬨に、南のゴブリン達は平伏した。


◇◆◇◆◇◆◇◆


ギ・グー・ベルベナのレベルが上がります。


75→1


レベルが一定を突破した為階級が上がります。


【個体名】ギ・グー・ベルベナ

【種族】ゴブリン

【レベル】1

【階級】デューク・サブリーダー

【保有スキル】《威圧の咆哮》《剣技B-》《王の右腕》《群狼》《投擲》《万能の遣い手》《遠くを見る目》《南の支配者》

【加護】なし

【属性】なし




《威圧の咆哮》

 →相手が自身よりも階級・レベルが低い場合、圧力を与える。

《剣技B-》

 →剣を扱う技量に補正。

《王の右腕》

 →群れのリーダーの近くで戦う際に能力上昇。

《群狼》

 →直接の指揮下に加えることにより、指揮下の同種族の能力上昇。

 →直接の指揮下にある自身より階級・レベルの低い同種族に対しての精神妨害を防ぐ。

 →統率能力が上昇。

《投擲》

 →武器を投擲する際に補正。

《万能の遣い手》

 →近接武器を器用に使いこなし、種類を選ばずC+までの補正を受ける。

《遠くを見る目》

 →斥候・敵追跡の成功率が上昇。

《南の支配者》

 →南のゴブリンに対して魅了効果。


◇◆◇◆◇◆◇◆

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