表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
楽園は遠く
120/371

王の客人

【種族】ゴブリン

【レベル】36

【階級】キング・統べる者

【保有スキル】《混沌の子鬼の支配者》《叛逆の魂》《天地を喰らう咆哮》《剣技A−》《覇道の主》《王者の魂》《王者の心得Ⅲ》《神々の眷属》《王は死線で踊る》《一つ目蛇の魔眼》《魔力操作》《猛る覇者の魂》《三度の詠唱》《直感》《冥府の女神の祝福》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死

【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv77)灰色狼ガストラ(Lv20)灰色狼シンシア(Lv20)オークキング《ブイ》(Lv82)

【状態】《一つ目蛇の祝福》《双頭の蛇の守護》





「……で、なぜお前がここにいる?」

 目の前にはこの前助けた人間の女。おろおろと辺りを伺う弟だと思われる男と妖精族の娘。

「いや、旦那の男気に惚れたっていうか……」

 手にした槍の石突で頭を掻く……確かシュメア。

「嘘を言え」

 苦笑気味に俺が笑うと、相手も苦笑気味に口の端を吊り上げる。

「まぁ実のところ行き場所がないんでさ。少し置いて貰えないかなって」

 この女、出会ったときから思っていたが肝が据わり過ぎてやしないか? 後ろで青くなっている妖精族の娘──セレナと、弟のヨーシュだったか。記憶の隅から名前を引っ張り出して彼らを交互に眺める。この二人の反応こそが普通だろう。

「お前らは人間だ。人間の町で生きれば良かろう」

 以前の集落ならともかく、今は“人食い蛇”のスキルを持った者や少なからず人間に好意的でない者が大半だった。そんな中で俺の目が光っているとはいえ、万が一ということがある。いずれ人間を支配するつもりではいるが、無駄に殺すのは俺の好むところではない。

「いや、実は私ら奴隷でね。元のゴシュジンサマってのが死んじまって往生しちまってんのさ。ゴブリンの旦那は知らないと思うけど、主なしの奴隷ってのは、捕まえた奴のモノってのが不文律で……」

 気安く話しかけるシュメアの言葉に頷きながら、俺は彼女の話に耳を傾ける。なるほど、レシアから聞く話は確かに貴重で新鮮なものだったが、このシュメアという女が話すことは社会の底辺で生き抜いてきた生々しさがある。

 要約すれば、奴隷にとって人間の町は生きにくいらしい。ゴブリンの巣の中にいるほうが未だマシだということになる。

 その例えに苦笑しながら、俺は尚も問い掛ける。

「話は分かった。だがゴブリンには他種族の雌を拐って自らの子を生ませようとする者もいる。お前はそれを恐れないのか?」

 なるべく笑みを作りながら話しかける。俺にそのつもりがなくても、俺の笑顔は恐ろしい。悪魔が笑っているようにしか見えない。

「ん、まぁ旦那の傍なら大丈夫でしょ」

 無邪気に笑うシュメアに、思わず眉をひそめる。

「ね、姉さん!」

 悲鳴を上げるヨーシュがあまりに滑稽で、俺は毒気を抜かれるのを感じた。

「良いだろう。好きなだけ居ればいい。お前たちの安全は王の名の下に保証しよう」

「良かったねぇヨーシュ、セレナ! いやぁ旦那ありがとう!」

「分かった。皆に伝えよう」

 どこからともなく現れたギ・ザーが、人間と妖精族……特に妖精族を凝視しながら頷く。

「ひっ……祭祀(ドルイド)!?」

 セレナの悲鳴に、ギ・ザーは眉をひそめた。

「発言には気をつけろ娘。俺は祭祀(ドルイド)ではなく、呪術師(シャーマン)だ」

 セレナの周りを歩き、上から下まで眺め回すと頷く。

「本物の妖精族か。ふむ……よし、まずは俺のところに来い」

 首を振るセレナの手を強引に掴むギ・ザー。

「い、いや、何をするの!?」

「何をだと? お前のことを色々と教えてもらうのだ。さあ、時間はないぞ!」

「ちょ、ちょっと旦那!?」

 慌てた様子でシュメアが俺に問いかけるが、まぁ……誤解を生む言い方ではあるな。少々呆れ気味に見守るが、事態が中々解決しないので口を挟むことにした。

「ギ・ザー、セレナはお前に無理矢理犯されると思っているのだ」

「なに!?」

 きっ、と睨み付けるギ・ザーの視線が鋭い。怯えるセレナを横目に、更に人間を睨んで、俺に向き直る。苦笑気味に俺が頷くと、呆れに似た溜め息を吐いてセレナの手を離す。

 シュメアの影に隠れるセレナの様子に、意地の悪い笑みを向けておく。

「誤解を解いておくと、ギ・ザーは妖精族の“魔法に関して”知っていることを色々教えてほしいと言ったのだ」

 憮然として頷くギ・ザーの様子に、恐る恐るセレナが俺とギ・ザー、そしてシュメアを交互に見つめる。

「ギ・ザー、今日のところは諦めろ」

「む……、仕方あるまい。無理強いは好むところではない」

 大人しく引き下がるギ・ザーの様子に、心底ほっとした様子でセレナは頷く。

「ギ・ザー……ギ・ガー達に彼女らを王の客人(まれびと)だと伝えろ」

「財ではなく?」

「そうだ。確認が必要か?」

「いや、失言だったな」

「それと、今回ノーブル級に上がった者達に家名を授けるから集合せよと伝えてくれ」

 頷きを返すと、ギ・ザーは狩りに出ている者を含めて呼び集める為に風に乗って掻き消えた。

 ギ・ザーの傷はもう良いようだな。


◇◆◇


 俺の前に跪くのは新たにノーブル級になった者達。すなわち……。

 古獣士ギ・ギー、暗殺のギ・ジー、狂い獅子ギ・ズー、ガンラのラ・ギルミ。そして呪術師ギ・ザーらの面々だ。

 まず、先の深淵の砦から帰還の際にノーブル級に進化を遂げたギ・ギー。集落に所属する中では古参の部類に入る。

「オルドの家名を与える。これよりはギ・ギー・オルドと名乗り、一家を構える権利を与える」

 恭しく頭を垂れて、ギ・ギー・オルドは感謝を述べる。

「王のご恩情に感謝いたします」

 続いて暗殺のギ・ジーだ。偵察などの任務を獣よりも鋭い嗅覚で察知し、森の中で縦横に動き回ってもらわねばならない。これからの森の外への侵攻の際には、なくてはならないゴブリンだ。

「アルシルの家名を与える。ギ・ジー・アルシルを名乗り、一家を構える権利を与えよう」

「これからも王の為に、我が力を振るいます」

 ギ・ジー・アルシルは胸を張って答える。

 次は狂い獅子ギ・ズー。

 自身の凶暴さを抑える力を身につけてもらいたいものだ。スキルの凶暴さは俺といい勝負だが、果たしてギ・ズーはそれに負けることがないだろうか。 

「ルオの家名を与える。これからはギ・ズー・ルオの名を名乗り、一家を構える権利を与える」

「王に永久の忠誠を!」

 言葉もおかしいところはない。今のところ上手く自身を押さえつけているようだな。頭を下げるギ・ズー・ルオは俺の前から退出する。

 続いてラ・ギルミ。ガンラの英雄であるこのゴブリンに俺から家名を与えるのはどうかと思うのだが、ギルミ自身が希望するのであれば、やぶさかではない。

「フィシガの家名を与える。自身の望む未来のために力を尽くせ」

「王のご期待に応えるよう微力を尽くします」

 ラ・ギルミ・フィシガはナーサ姫の為に力を尽くすのだろう。今はまだ俺のために、とは言わなくていい。俺を助けることがナーサ姫を、ひいてはゴブリン族全体を助けることになるのだ。

 さて、最後にギ・ザーだ。何が良いだろう。やっぱりザー辺りを与えてみるか? 意地悪そうな笑みを向けていたのを察知したのだろうか。ギ・ザーは、苦虫を噛み潰したかのように口をへの字に曲げている。

「さて、ギ・ザー……お前にはザー……」

「おい!」

「焦るな、冗談だ。ザークエンドの家名を与える。これからも俺の力になれ」

「ふん、貰えるものは貰っておく」

 これで一通り階級を上げた者達に対する処置は終わった。

 それを見計らったかのように、一匹のゴブリンが進み出てきた。


◆◆◇


「王!」

 新たにレア級になった獰猛なる腕のギ・バーが俺の前に進み出る。

「なゼ、人間なドを集落ニ置くノですカ!? 奴らハ災イだ!」

 歯軋りをさせて、詰め寄るギ・バーを暗殺のギ・ジー・アルシルが殴りつけて抑え付ける。

「貴様、王の命に不満を言うのか?」

 手にした剣をギ・バーの首筋に突きつけ、少しでも抵抗しようとすれば今すぐ首を掻き切らんばかりの勢いだった。

「よせ、ギ・ジー・アルシル」

「はっ……」

 鋭い視線をギ・バーに注ぎながら、ギ・ジーが剣を引く。

 なおも不満の視線を俺に向けるギ・バーに、俺は視線を合わせる。僅かに震えるギ・バーの体。だがそれに抗ってギ・バーは俺の視線に耐えた。

「他の者も聞いておけ! 俺はこの世界を支配する。人も、獣も、妖精族も、もちろんお前たちも、全てを統べる王となるのだ」

 語り聞かせるようなことではない。これは一つの宣言だ。

「王ハ、奴等が憎クは無いノですカ!?」

「人間全員が憎いのではない。俺の財を奪った者が憎いだけだ」

 俯くギ・バーの様子に更に言葉を重ねる。

「憎むなとは言わぬ。もし、どうしても俺の客人を殺したくなったのなら、俺の前に来い。俺は逃げも隠せもせん」

 土くれを握り締め、ギ・バーが歯軋りする。

 思った以上に“冥府の眷属神(ヴェリド)”の加護の影響が強いようだった。もし奴等の精神が憎悪に食われるようなら、俺自ら手を下さねばならないだろう。自身の部下を殺す役目を、部下などに押し付けては王たる者の名が泣くというものだ。

 見ろ、俺の部下に余計なことをしてくれたおかげで、扱いが難しくなっただろう!

 ──ふむ、加護が強すぎたか。哀れなことだ。

 身勝手に過ぎる声に思いっきり罵っておく。

 ──もしもの時は始末すればいい。さすれば弟よ、お前が我が力を喰らうこともできよう。

 奥歯を砕けるほどに食い縛る。そうはならない。奴等は、貴様らの思い通りになどなるものか。

 全ての配下は俺の血肉。

 自身の血肉を削ぎ落とす責任を回避しようとは思わないが、だがそれでも……。

「分かったなら、下がれ」

 なるべく声を荒げないように諭す。頭を冷やさせる。レア級に進化する運と実力があるのなら、乗り越えてもらわなければならない。

 戦士を束ねる者となって王国を支えていく者達だ。見合わないようなら俺の手は味方の血に濡れる。恐ろしいことだが、怖れてはいけない。

 全ては覚悟の上だったはずだ。

 俺は既に覇道の只中にいるのだから。


◇◆◆◆◇◆◆◆


ギ・バー【冥府の眷属神】の影響が強まります。


ギ・ベー【冥府の眷属神】の影響が強まります。


◇◆◆◆◇◆◆◆



週に一度は更新したいと思います。

次の更新日は、恐らく水、か木曜日。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ