不可侵の盟約
【種族】ゴブリン
【レベル】21
【階級】キング・統べる者
【保有スキル】《混沌の子鬼の支配者》《叛逆の魂》《天地を喰らう咆哮》《剣技A−》《覇道の主》《王者の魂》《王者の心得Ⅲ》《神々の眷属》《王は死線で踊る》《一つ目蛇の魔眼》《魔力操作》《猛る覇者の魂》《三度の詠唱》《直感》《冥府の女神の祝福》
【加護】冥府の女神
【属性】闇、死
【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv1)灰色狼(Lv20)灰色狼(Lv20)オークキング《ブイ》(Lv40)
【状態】《一つ目蛇の祝福》《双頭の蛇の守護》
吹き荒れる暴力の嵐の中に身を躍らせる。
先頭を切り俺に向かってくる騎兵に向かって、弓を引き絞るように体を撓め、逆手に持った槍の狙いを定めると一気に解き放った。体のバネをフルに使って投じられた槍の一投は、狙いを外すことなく馬の胸板を貫いて、盛大に地面へと倒す。
だが一騎が倒れたからといって敵がその速度を緩めることはなかった。
くそ、精鋭だな。
その乱れた隊列を即座に整えると突撃槍の穂先を揃え、一糸乱れぬ突撃体勢に移ってくる。生半可に避けては串刺しにされるだろう。
巨大な馬に乗り人馬一体となって突撃を仕掛けられるその錬度の高さ。仲間が射落とされて尚その速度を緩めないどころか、更に速度を上げて来るその士気の高さ。
敵にするには厄介に過ぎる!
だが、それを乗り越えてこそ戦に終止符を打てるのだ。ここで俺が敗れれば一度倒した筈の人間勢が再び勢力を盛り返し、ゴブリン達を駆逐していくだろう。
「グルルゥゥオオオアアア!!」
《天地を喰らう咆哮》をあげると自分自身に渇を入れて迫り来る騎馬兵に向かって大地を蹴る。あっという間に距離は縮まり、直ぐ目の前にまで突撃槍の穂先が迫る。
「死ねえええ!」
思わず感極まって叫んだ敵兵の必殺の声。振り上げられる槍──後ろにも、横にも、最早逃げる場所は存在せず、後は馬蹄に掛けられ槍の穂先に貫かれるのを幻視し──だが、それをこそ俺は待っていた!
力んで振り上げらた槍の穂先の更に上、瞬時に魔素の操作により足に集中した魔素を操って上空へ跳ぶ。飛び上がりざまに一撃。右手に握った長剣を振り抜き、驚愕の瞳を向ける騎兵を切り倒す。後は腕を組み合わせ重力に任せて落下の衝撃を少しでも外す。
突撃槍というものは非常に重い。その重量を抱えて敵に突撃することによって文字通り必殺の威力を生み出す武器だからだ。だが、それ故に扱いは非常に困難を伴う。上空に跳び上がった敵に瞬時に振り上げて迎撃など、殆ど不可能なのだ。
重力の法則に従って落ちる俺の下には、驚愕に目を見開く騎兵の姿。巨大な俺の体を、そこ目掛けて思い切り肩からぶち当てる。堪らず転げ落ちる騎兵と重みに押し潰される馬。
「跳んだぞ!」
「ええい、構うな! 囲い込んで殺せ!」
通り抜けた騎馬隊が急速反転。再び槍の穂先を揃えて俺に向かってくる。しかし先頭が反転したからといって全ての騎馬兵が反転できたとは限らない。その尻尾に喰らいつく。
化け物の強力な脚力で地面を蹴ると同時に。
「我が命は砂塵の如く!」
加速の魔法を唱えると同時、長剣を振りかぶって騎馬兵が反転しようとしたところに一撃。背中から切り倒された兵士は、断末魔も上げずに地面に落ちた。長剣を覆っていた魔素を開放すると地面に突き立てて、騎兵の使っていた突撃槍を拾い上げる。
槍は使ったことがないが、斬るや突くなどの精妙な動きを要求しなければ問題はない。振り回して敵を叩き落す。それだけのために使うなら長剣よりも長さのある突撃槍のほうが扱いやすい。
「ケダモノが、賢しげにっ!」
再び反転を終えて騎兵が突撃してくる。無理を承知で行った急激な反転は見事だったが、その代償は突撃の威力の減少に繋がった。隊列が先程に比べて乱れている。ほんの僅かな差だが、俺にとってそれは付け込むべき隙に他ならない。
「死ねえええい、魔物ォ!」
穂先を揃えた突撃はあいかわずの威力だ。激して威力が上がっているのか、穂先にこもる力の強さは先程と遜色ないか、あるいは少し上。
力の入り過ぎたその狭間に、巨躯を捩じ込む様にして槍を振り回す。
「我が身は不可侵にて!」
馬上にいる人間に力負かせに突撃槍をたたき付けると、勢いそのままに後列に続いてくる騎兵たち向かって叩き付ける。無残な音を立ててぐにゃりと歪む鋼鉄製の穂先。それを投げ捨てると、再び地面に刺してあった長剣を手に取る。
細かい傷はシールドで防ぎ得たが強烈なものも何度かもらってしまった。シールドの防御を突破してくる辺り、何か特殊な加工でもしてあるのか?
考えるのを中断して再加速。長剣を引っ下げたまま、反転する騎馬隊へ突っ込む。だが敵もさるもの。先に反転したものだけが仲間を庇う為に即座に槍を突き出す。だが先程戦列を揃えて行った突撃に比べれば、その攻撃はなんと粗が多いことか。一つ一つ突き出されるその刺突を最小限の動きですり抜け、馬上の敵に長剣を振るっていく。
頭上を通り過ぎる巨大な質量を、風切る音で感じながら馬の首に向かって長剣を振り抜く。踏み込みざま放った一撃は、馬の首を刎ねた勢いのまま馬上の兵士の体をも両断してみせる。だがそれを見ても敵の騎兵どもは怯まない。
勇敢だなっ! くそ、忌々しい!
下から掬い上げるようにして放たれる突撃槍を長剣で弾き、次いで迫ってくる胸を狙ってきた一撃に合わせて跳躍。狙いを定める余裕もなかったが、馬上の敵に体ごとぶつかり槍を突き出したままの無防備な敵を吹き飛ばすことに成功。
重力に引かれて地面に着地するや否や2騎による同時攻撃。正面から襲い来るほぼ同時に突き出される突撃槍の2連撃。腰を低く長剣を脇に構えると。
「我は刃に為り往く!」
シールドを解除して魔素を長剣に集積。《三度の詠唱》と同時、突き出される槍の一撃が脇腹を掠めるのを無視して馬ごと騎兵を切り倒す。もう一騎には手が回らないかっ!?
食いつこうとしていた騎兵が時間を稼がれ反転するのを確認して熱い息を吐き出す。傷口が燃える。文字通り黒い炎が俺の傷口を嘗め、出鱈目な回復力を齎す。見れば長剣には無数のひびが入っていた。
当然といえば当然だ。本来切れるはずのない騎馬を、馬ごと叩き切っているのだから。
──ちくしょう。壊れない武器が欲しいもんだ。
愚痴を漏らす間に、敵の攻撃が再度始まる。
敵の一騎が声を張り上げている。あれが指揮官か!
狙いを定めると屍から長剣を剥ぎ取り、手に馴染むのを確認して一振り。《王者の心得Ⅲ》を発動させる。敵の指揮官と戦う場合に戦力が増すスキルを発動。受けるダメージ増大と引き換えに、相手のダメージを増大させる。短期決戦型のスキルを選択し、俺は地面を蹴る。
後列、中列を襲いに行ったはずのゴブリン達が遅すぎる。何かあったと見るべきだ。
昨日の奇襲の手応えからなら、もうとっくに殲滅していて良いはず。
「グルゥゥゥオオアアァ!」
腹の底から咆哮を搾り出す。俺の中に眠る覇気を声に乗せて敵に叩きつける。だがよく訓練された敵の馬と士気の高い兵士相手には流石に効果が薄い。駆ける間に魔素の操作を行い、相手の加速が乗らないうちに接近戦に持ち込むべく距離を縮める。
先頭で駆けて来るのは敵の指揮官!
──いい度胸だッ!
「勝負だ、化け物め!!」
敵の指揮官が叫ぶ。
姿勢を低く、獣の如く四肢を付きそうなほど背をかがめて敵に迫る。こうしたほうが敵から狙う範囲が小さくなって狙いにくいのだ。
互いの刃が命を奪おうと交差する。突き出される突撃槍の穂先が俺の肩を掠めてバランスを崩させる。だが、同時に俺の振るった刃も馬ごと騎兵を引き裂いていた。
「がッ……勝ったぞ!」
敵の指揮官の会心の笑みに、俺が疑問に思う間もなく衝撃は直ぐにやってきた。彼の後から続いてきた騎兵が指揮官ごと俺を貫こうと、突撃槍の穂先が直ぐ傍まで迫っていたのだ。振り切った長剣を引き戻すが、間に合わない!
──自分の命を勘定に入れていないのかッ!?
驚愕とともに、俺の体を突撃槍の群れが跳ね飛ばす。咄嗟に後ろに飛んで衝撃を逃がそうとするが、それでも襲ってきた痛みと衝撃は想像を絶するものだった。受身を取ることもできずに地面を転げまわる。だがその回転する視界の中でも、迫ってくる馬蹄の音と指揮官の身を犠牲にした意志に奮い立った騎兵達の強烈な殺気を感じる。
片腕は完全に殺されていた。動く気配のない左腕は突撃槍を受け、肩肉ごと抉られ吹き出る血がそのまま黒い炎となって燃えている。人の力を舐めていたわけではない。
だが、どこかで油断があったのではないか? 巨大鬼よりも、オークキングよりも彼らは肉体的に劣っている。灰色狼よりも俊敏さには欠け、氏族の誰よりも森での戦いなら劣るであろう。
だが、奴らは強い!
命を糧に意志を突き通す力!
誰かの為に自身を捨てる覚悟!
個ではなく群で戦う人間の強み。奴らは間違いなく強い。そんな相手に出し惜しみをして、俺は一体何を勘違いしていた!?
化け物の体を手に入れたとはいえ、俺も元は人間だ。追い詰められた時の人の力を見縊るべきではない。追い詰められれば奴らは神さえ殺す。
立ち上がると同時にスキル《猛る覇者の魂》を発動。
「グルゥウゥァアアぁオガアアァァガアァ!!」
精神を蝕む苦痛と引き換えに。
──俺に、敵を敵敵敵を、千切る力、をッ!!
握り締めた長剣の柄が力の入れ過ぎで軋み、悲鳴を上げる。
──知ったことか!
同時に《叛逆の魂》を同時発動。精神侵略に抗う。意識を引き絞り手綱を俺の手に引き戻す。少しでも油断したら精神侵食に食い破られそうな拮抗の中、迫る敵の騎馬兵ども。
噴出す魔素をそのままに、回復を後回しに長剣を起点として世界に解き放つ。黒い炎が剣を中心に、怒り猛るように燃え盛る。
長剣から大剣のサイズにまで魔素の力で吹き上がった黒い炎。左の肩から流れ出る血はとめどない。時間をかけている暇はない。
一塊となって迫り来る揃えた突撃槍の穂先が地面に付くか付かないかの高さで俺に迫る。下から掬い上げるように俺を跳ね飛ばすつもりなのだろう。大地を揺らす馬蹄の響き。指揮官の仇を討つためなら文字通り命を投げだしてでも本懐を遂げようとする人の群れ。戦場の狂気そのままに馬すら俺を食い殺そうと息を荒げて迫ってくる。
右手一本で魔素の迸る黒い炎を担ぐ。
──だが、負けん!!
「返すぞ!」
目の前に迫った槍の穂先が俺を貫く寸前、空中に身を躍らせる。同時に《王は死線に踊る》を発動。受けたダメージを2倍にして相手に返す。
振り切られる魔剣の一撃。
スキルの重ね掛けにより何倍にも膨れ上がったダメージは騎馬兵の悉くを巻き込んで大地に爪痕を刻む。黒き炎が巨大な剣戟となって、剣閃の先にいた者たちを全員切り裂いていた。
重力に従い地面に着地すると同時、止めていた息を吐き出す。同時に重ねていたスキルを全て解除。黒い炎を回復に使う。振り返れば50からなる騎馬隊は全滅していた。
無理をし過ぎた。
軋みを上げる体は、この先の戦闘を不安にさせる。一度回復をせねば為らない。
だがその前に、人間達にはこの森に近づくことがどれだけ危険なのか叩き込んでからでなくてはならない。恐怖と共にこの森から去ってもらわねば。そしてこの森の恐怖を喧伝させるのだ。
“あの森に近づいてはならない”
その意識を植え付ける。
勿論それが永続的なものとなる筈はない。だがせめて1年。戦力を回復し、戦士を育て上げ、森の内部を攻略する。その為の時間が要る。
◇◆◇
ゴーウェン・ラニードは殿を務めながら、散り散りに為った部下たちを糾合し進んでいった。迫るオークの首を刎ね、ゴブリンの四肢を飛ばし、コボルトを踏み潰す。片手に握った長剣は血と脂で既に切れ味など望むべくもないが、突き穿てればそれで良いとばかりに向かってくる敵を次々と葬る。
巨躯のオークと戦っていた冒険者達を救い出し、獣に襲い掛かられていた部下を救い出す。負傷をして動けなくなった兵達も死に物狂いで戦った。自らの体を盾にして魔物の攻撃を防ぎ、まだ壮健な者が泣きながら味方ごと魔物を仕留めていく。
凄惨な光景が戦列の各処で繰り返され、森の軍勢と人間の軍双方の数を減らしながら戦いの舞台は森から徐々に離れていく。
王の命に忠実に、人間たちを殲滅しようしたゴブリン達も手ひどい被害を受ける。ギ・ザー率いるドルイド達も例外ではなく、ゴーウェンを討ち取ろうとした際に手傷を負ってしまう。傷を負うものが多くとも致命傷に至るものは殆どいなかった。それはゴーウェンが撤退を優先したからであり、白き癒し手の術による強化も効果範囲が限られる為に長続きをしなかった。
ゴーウェンは森の入り口に到達して、表情には出さず愕然とする。死屍累々と散らばる騎馬兵の屍。重装騎兵の鎧は斬り裂かれ、それどころか馬までも引き裂かれている。
どのような力でこれを成したのか。
およそ想像の付かないほどの膂力だ。
そしてそこに立つ異形の魔物。
「人間ども」
命からがら森から逃れてきた人間たちに、その声は冥府の鬼を想像させた。低く響く声は魂を引きずり込まれるかのように。その体を覆う黒き炎はまさに冥府にて己が魂を焼くとされている鬼火。
「この森は我らが領域。決して立ち入ることは許さぬ」
絶対の威圧を持って告げられる宣言。
「もし、これ以上森を削り我らの領域を侵すなら、復讐の刃は直ぐにでも貴様らの頭上に振り下ろされるだろう……返答は如何に?」
圧倒的な暴力の痕を見て、だがそれでも内心の動揺を隠し、ゴーウェンは威儀を正してゴブリンの王に向き合う。
「……良かろう。我らはこれ以上森に侵攻せぬ」
数多の負傷兵と士気のどん底まで落ちた兵士達を率いて目の前のゴブリンの王、背後から迫る魔物の大群。それと戦う決断はゴーウェンにはできなかった。
森への不可侵を誓ってゴブリンの王と西域領主の会見は終わった。刃で始まった戦は言葉により終焉を迎えたが、そのどちらもが次に来る戦への予感を感じずにはいられなかった。
王は最愛の人間と多くの配下を喪い、西方領主は心血を注いで育てた兵士達を失った。どちらが次の戦までに力を蓄えられるのかは、未だ未知数だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
レベルが上がります。
21⇒36
ハス
1⇒77
ブイ
40⇒82
ギ・ガー・ラークス
99⇒1《階級が上がります》
ノーブル⇒ナイト
ギ・ゴー・アマツキ
54⇒92
ギ・グー・ベルベナ
46⇒75
ギ・ザー
23⇒43
ギ・ギー
1⇒14
ギ・ヂー
68⇒86
ギ・ズー
46⇒1《階級が上がります》
レア⇒ノーブル
ギ・ドー
30⇒60
ギ・ジー
87⇒3《階級が上がります》
レア⇒ノーブル
ラーシュカ
40⇒67
ラ・ギルミ
87⇒2《階級が上がります》
レア⇒ノーブル
ラ・ナーサ
12⇒78
ハールー
55⇒86
アッラシッド
70⇒91
◇◆◇◆◇◆◇◆
人間の侵略編ひとまず終了。
王様は森と平野の境で戦っていました。
次回更新は少し時間を頂きます。仕事が忙しく、執筆が思うように進まないため、来週は更新が厳しいです。
再来週に更新したいと思います。