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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
楽園は遠く
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閑話◇ギ・ザー教授の講義録

時間的には、深淵の砦を攻略した直後

【個体名】ギ・ザー

【種族】ゴブリン・サブリーダー

【レベル】23

【階級】呪術師(シャーマン)

【保有スキル】《魔力操作》《三節詠唱》《詠唱破棄》《知恵の神の導き》《風の守護》《王の信奉者》《風操作》《魔素転移》

【加護】風神

【属性】風





 本日の講義内容

 【魔素と階級】

 【魔素行使】

 【魔素の歴史】



 【魔素と階級】

 空は晴天。祭祀ドルイド級の部下達、或いはノーブル級、レア級の者達を座らせ、俺は教育を始めた。出来れば王にも来てほしかったのだが、中々忙しいらしい。

 階級と魔素。これについて俺は、ギ・ドーに意見を求めた。

「階級が上がれば魔素を多く使えます」

 うむ、正解。だが完璧ではない。しかし流石はドルイド級に属するギ・ドーだ。俺が誉めたのが良かったのか、ギ・ドーに触発されてギ・ギーが手を上げる。

「ギ・ギー殿、なんだ?」

「お腹空いた」

豪風の如く疾風の如く(ウィンドカッター)!」

 目の前の大気を、魔素を纏った風が切り裂く。祭祀ドルイドから呪術師(シャーマン)へと進化を遂げた俺の力が目の前の無知蒙昧の輩の足元に砂煙を上げて飛来する。

「煙でも食ってろ」

 氷点下の視線と共にギ・ギーの戯言を封じると、多少の解説を加える。

「ゴブリンの中に稀に生まれる魔素を扱う素養を持った者達。其れ等を一纏めに術者と呼ぶことにする。ノーマルゴブリン達が、レア、ノーブルと進化していくように、術者達もドルイド、シャーマンと階級を上げていくことが先日の俺の例で証明されている。【階級】が上がると扱える魔素は増えるが、果たしてそれは魔素自体が増えているのか? それとも扱える種類が増えているのか、これは術者によっても多少違うのだろうが、恐らく種類が増えているのだと思われる」

「三文字で頼む」

「だ、ま、れ」

 手に持った枝でギ・ギーの頭を叩いておく。

「なるほど、だまれ、うん3文字、なるほど……」

 よく分からない頷きをしているギ・ギーを無視して更に話を進める。

「そもそも魔素とは、術者、非術者の区別なく誰しもが体内に保有しているものなのだ。そして大気中にも魔素は存在している。これは先日のオーガ・ロード戦でのことだが、巻き上がった砂煙の中の魔素を操る感覚を俺は会得している」

「自慢か!」

 ギ・グーの発言に、思わず手が滑って小さな竜巻をぶつけてしまう。青空の下ノーブル級ゴブリンが一匹空を飛んだが、気にすることはあるまい。


【魔素行使】


「体内の魔素を色のついた魔素。体外の魔素を色のついていない魔素と考えれば想像をしやすいかもしれない。我らの体内にある色のついた魔素を空気に触れさせると、そこから色が滲み出していく。勿論最初に接触した場所が最も濃く染まりやすく、離れれば離れるほどその色は薄くなっていく。つまり効果が落ちるということだ」

「先生。ということは至近であればあるほど強力な魔素による攻撃が可能なのでしょうか?」

 ギ・ドーの質問に俺は頷く。

「その通り。ただし各々得意な距離というものがある。仮に遠距離、中距離、近距離、そして体内という区分があるとしよう。ギ・ドー、自分の攻撃できる範囲を覚えておいて損はない。これは武器を使う者にも言える事だが、我ら全員にとっての死活問題ともなり得る」

「確かに、間合いも知らぬのでは戦いにならぬ」

 ギ・ゴーの重々しい発言に、レア級ノーブル級のゴブリン達が頷く。何だこの落差は。

「俺が遠距離と仮定しているのは、ここから他の集落までの距離程度と考えておいてくれ」

 今俺達が講義をしているのは、深淵の砦の丁度目の前。ここから集落といえば走って丸一日はかかってしまう距離だ。

「そして中距離が、視界に映る範囲。近距離が体の周りという程度に覚えておけばいい」

「先生は遠距離攻撃が可能なのですか?」

「ま、いずれはな」

「出来ないのか。先生なのに」

 ギ・グーが再び宙を舞う。鳥になる気持ちはどうだろう? 味わいたくはないが。

「誰も出来ない区分に意味はあるのか?」

 氏族の長老格アルハリハの言葉に、ハールーとアッラシッドが頷く。

「出来ることと出来ないことの差異を明確にすることは非常に大切なことだ。アルハリハ殿、貴殿の槍で空中にいる鳥は落とせないが、ガンラの弓矢でなら落とせることもある。逆にガンラの弓では仕留め切れない猛獣も、パラドゥアの槍でなら仕留める事が可能なときもある。可能不可能を知るとは、戦の幅にも繋がりましょう」

「……最もだ」

 項垂れるハールー、アッラシッド。お前らは取り敢えず噛み付きたいだけなのか。

「でだ、先ほども述べたように魔素の伝達は体に近い方が威力が増すと言ったな? つまり外に放出する系統の魔法は自身の体の周りに生み出してから放つのが最も威力が高くなる。普段は意識の外に置いているその感覚を、意識すれば自身の体から離れた位置。つまり中距離規模での戦いが可能となるのだ」

 目を輝かせるギ・ドー。そして舟を漕ぐ脳筋ラーシュカ

「つまり、こういうことだ!」

 ラーシュカの目の前、威力は殆どないウィンドカッターが眠っていたラーシュカに直撃する。

「ん? お? 飯か? おお、狩りなら俺が行くぞ!」

 どんな夢を見ていた脳筋。

「いえ、のう……ラーシュカ殿こちらへ」

「うむ」

 今更どんな威厳を繕うというんだ。

「そして最後に、体内での魔素行使」

 ぽんぽんと、全身筋肉ゴブリンの腕を叩いておく。

「これは王が居れば良かったのだが……のうき……ラーシュカ殿、ラ・ギリオンをお願いできますか?」

「おお、俺の技が見たいか」

「ええ、とても」

 嬉しそうに頷いて、ラ・ギリオンを発動させる。

 棍棒を持たない状態では自身の手に収縮されていく黒の光。それが最高潮に達し今にも放とうとしているときに俺は待ったをかける。

「今現在ラーシュカ殿の体の中に魔素が入り込んでいる。これは非常に危険なことなのだが、分かるかね?」

「ぐ、ぐむ」

 ラーシュカの歯を食い縛る声が聞こえてくるが無視。

「体内に発現させた魔素をそのままにしておくことは、刃となった魔素をそのまま体内に留め置くことと同じだ。これには精妙な魔素の操作とソレに耐えうるだけの対魔素の素養がなければならない。王は可能だそうだが、オーガ・ロード戦では自身の右腕を失いかけたと言っていたしな。王ですらそうなのだ。この方法はなるべくとらない方が良いだろう」

 青筋を浮かべているラーシュカ。放っておいてもいいが……。

「あ、放ってください」

「応!」

 天高く黒の光が飛び去っていった。


【魔素の歴史】


「魔素とは体の外に働きかけるもの、或いは内部に働きかけるものとして認識されることが多い。ではそもそも魔素とは何なのか?魔法を神の御技と称えることはあるが、それは強ち唯の褒め言葉というだけではない。魔法とは神の奇跡の具現。傷を癒し、炎を立ち上らせ、或いは俺の風のように敵を切り裂く。魔法には魔素を必要とし、詠唱を持ってその効果を発現させる」

 最後に簡単に魔素の歴史を語っておくとしよう。人間側では魔素をマナと言い換えているらしいが、大した問題ではない。

「だが、伝承によれば神々は詠唱などしなくとも魔法を使う事が出来たらしい。これは老ゴブリンから聞いた話で、どこまでの信憑性があるのかは分からないが、400年前の大戦の折には、神々が腕を振り上げるだけで破壊の雷が世界に鳴り響き、振るった武器が巻き起こす風で大地に亀裂が入ったそうだ」

 老ゴブリンからの受け売りだが、まぁ気にすることはあるまい。

「その技を人間、亜人、ゴブリンら多種多様な者達が使いこなしている。一体誰が、とは今となっては知り得る術もないが、少なくとも神かそれに準ずる者であったのは間違いない。息をするのと同じように魔法を使う種族もいるのだ。生命そのものを魔法によって保っている生き物もいる。思うに詠唱とは、神の力をほんの僅かに借り受ける儀式のようなものではないのだろうか。加護を受ける神の力を行使する。まるで神々の箱庭で踊る人形のようだ」

 そう考えれば術者というのは業が深い。魔素を研究して己の物にしていくのだから。神々にしかなし得ない筈の御技を盗み奪う行為だ。

「結びとして、魔素の研究は未だ始まったばかりだ。これから手に入るであろう人間や妖精族などがいたら、直ぐ様俺の元に連れて来い……以上だ。因みに次回は詠唱の手順と魔素の最も単純な工程をやるからそのつもりで」

 ぐったりとしたゴブリン達から上がる悲鳴を楽しみながら、俺は講義を終えた。




時間の関係上あまり、上手く書ききれなかったことをお詫びいたします。


次回は本編、更新は土曜日

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