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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
楽園は遠く
111/371

夜襲

【種族】ゴブリン

【レベル】20

【階級】キング・統べる者

【保有スキル】《混沌の子鬼の支配者》《叛逆の魂》《天地を喰らう咆哮》《剣技A−》《覇道の主》《王者の魂》《王者の心得Ⅲ》《神々の眷属》《王は死線で踊る》《一つ目蛇の魔眼》《魔力操作》《猛る覇者の魂》《三度の詠唱》《直感》《冥府の女神の祝福》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死

【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv1)灰色狼ガストラ(Lv20)灰色狼シンシア(Lv20)オークキング《ブイ》(Lv40)

【状態】《一つ目蛇の祝福》《双頭の蛇の守護》





 炎に照らし出されるその巨躯。

 並みの人間が持てば手に余るような長剣を、軽々と振り回す。ソレが持てば、重量感のある長剣がまるで細剣のように細く小さく見えてしまう。剣に絡みつくのは冥府の黒き炎。冥府へ誘う死の炎が周囲の闇よりも濃く揺らめいている。

 他のゴブリンどもより頭二つほど高い視線が周囲を見渡す。まるで死神か、冥府の悪鬼が獲物を探すような視線。

 ──奴は何をしようとしている?

 呆然とその目を見返したユアンは即座に後悔したが、そのときには既に遅かった。

 人間を──お前達を殺してやると強烈な殺意を篭めた視線に身が竦む。

「あ、あ、ア──」

 兵たちを動かさねば。焦る気持ちとは裏腹に、彼の口から漏れるのは意味を為さない音の羅列。震える足元には水溜りができているが、それにすらも気付かない程、ゴブリンキングの鮮血のような赤い眼に魅入られる。

 轟音を伴って死が振るわれる。

 近くにいた兵士のヘルムが頭ごと吹き飛ぶ。くるくると勢い良く回った生首がユアンの足元に転がる。何かの冗談のようなその光景の中、生首の無念の視線がユアンを責めた。

 ──何を怯えている? 仲間を助けるんじゃないのか? 何故お前だけ生きている。お前が来ないから俺は死んだじゃないか。

「あ、ぁぁ、ア──」

 ──さあ、さっさとあれに挑んでお前も死ね。死ね! 死ねェ! 死ねェ!!

 生者を妬む死者の声が、確かにユアンの耳には聞こえていた。

 殺される。死ぬ。その二言だけが頭の中に充満する。

 ──いやだ。死ぬのはいやだ。

 向かってくるゴブリンキングに、ユアンは首を振って拒絶を示す。だが無慈悲な死を具現化したようなソレが、その程度で矛先を緩めてくれる筈もない。段々と近づいてくる“死”そのものに、手に持った剣を振るうのも忘れ、ただ嫌だと拒絶を繰り返す。

「グルゥゥゥアアァァアア!!」

 “死”が吼える。

 この森に入ったものは一人残らず冥府へ送り込むとの宣言の如く、怒りの咆哮をあげる。手に持った剣で兵士を切り裂き、もう片方の手で鉄のヘルムごと兵士の頭を握り潰す。炎に照らされたその影は、神話に聞いた冥府の悪鬼そのものだった。

 ──化け物だ。人間が勝てる筈のない化け物達が冥府の底から這い上がって来た。

 “死”が頭を握り潰した兵士の屍を投げ捨てる。気付けばユアンの目の前にそれは立っていた。振り上げられる黒き炎揺らめく長剣。何もできないまま呆然とそれを見上げ──。

「ユアン、下がれ!!」

 聞いたこともない怒声を上げる英雄の声に、ユアンは反射的に飛退いた。


◇◆◆


 《一つ目蛇の魔眼》の力の一つ。自分より下位の者のステータスを読み取る力を使って、集落の中にいる人間を出会った側から解析する。頭が焼き切れそうな情報量が一気に脳髄を沸騰させるが、歯を食い縛ってそれを耐える。

 指揮官の首が取れれば最上。

「王!」

 先頭で突っ込んだ俺の後ろには、レア級の2匹のゴブリン。そいつらに命じて集落にいる敵の陣形を切り裂く。

「行け! アッラシッド、ギ・ズー! 脇目も振らず西側まで駆け抜けろ!」

 駆け抜ける2匹を見送る。主力は送り出した。最後尾に回ると、同時に敵を切り裂く。

 夜襲を仕掛ける上で最大の目的は奴等に恐怖を刻み込むことだった。その為ならば、集落に火を放つことも厭わない。ガンラのナーサ姫の持つ流星の弓(ビューネイ・ボウ)の力の一端──鏃の先に拳大の炎を宿らせた一矢が、月明かりさえない夜の空を走り王の家を焼いた。

 夜の空を切り裂く炎の一矢。命中し、燃え上がる俺の家を契機に集落に踏み込む。

 指揮官の首さえ取れれば、敵の混乱は更に増す。俺の容姿をフルに活用し、地獄の悪鬼を演出してみせる。

 ──どこだ、指揮官は!?

 出会う側から人間を切り裂き、派手に殺していく。頭を握り潰し、顔面を殴りつけて凹ませる。冷静さを保ちながら人を殺す。オークキングだったゴル・ゴルや、オーガ・ロードを相手にしてきたときとは違う魂の悲鳴が内側から俺を圧迫する。

「グルゥゥゥオオアオアアァ!」

 竦め、人間ども! 奴等を殺す事に嫌悪を感じる俺の魂を捩じ伏せる。俺が見逃せば、助かる命を刈り取っていく。

 ──正しいのか、俺は。

 瞬時の迷いに槍が頬を掠める。

 ──いや、迷うな。こんなところまで踏み込んで、今更人間などと笑わせる。俺は俺だ。化け物どもの王として、この地を支配する。あの女を、レシアを今度こそ救うのだ。一度として守れなかった誓いを……今度こそ!

 既に茫漠としてしまった記憶の彼方、レシアの面影に重なる誰かが一瞬悲しげに微笑む。

 頬を掠めた槍を掴み取り、恐怖に竦んだ目を向ける兵士を蹴り飛ばす。

 ──そうだ、恐れろ。恐怖しろ! 貴様らは触れてはいけないものに手を出した!!

 奪った槍を投擲。俺に向かってきた兵士の鉄の鎧を貫いて地面に縫い付ける。

 ──指揮官は、どこだ!

 視線を巡らせ戦場を見渡す。

 ─違う。

 見切るたびに兵士を切り裂く。

 ─っ、違う!

 突き出された剣に、エンチャントした長剣を叩き付ける。強化された膂力りょりょくと《剣技A-》という補正を受けた俺の長剣が、突き出された剣ごと敵を切り裂いて赤黒い血を噴出させた。

 ──、いたァ!!

 遠目にステータスを確認。サブリーダーと言う文字が脳裏に鮮やかに浮かび上がる。それに向かって突進。邪魔な兵士を切り裂き殴り飛ばす。

「グルゥゥォオオアァァアァ!」

 剣を振りかぶる。これを戦果として引き上げる。既に充分な恐怖を与えたはずだ。後は、崩れ去る人間側を追い討つのみ。

 そう考えて振りかぶった俺の剣の間合いの中、怯える敵を切り殺そうとした瞬間、怒声と共に長剣使いが突っ込んでくる。

 ステータスを読み取ろうとして失敗する。

 ──同格か!

 振り上げた剣先を長剣使いに向け振り下ろす。こいつが、指揮官(ほんめい)かっ!


◆◇◆


「これは重畳」

 巨躯に棍棒を携えたラーシュカは、口元をにやりと歪ませた。

「くっ……今朝のゴブリンか!」

 相対するのは金剛力のワイアード。西側から奇襲を仕掛けたラーシュカ中心のゴブリン達の主力は統率に優れたギ・グー・ベルベナと、先日ノーブル級に進化を遂げた古獣士ギ・ギーだった。後方で指揮を取るタイプのギ・グーが怪我が少ないのは当然としても、少人数での戦闘を繰り返したギ・ギーの傷が少ないのは偶然の賜物だった。

「西側は一番防備が固いんじゃなかったのかよ!」

 負傷者の手当てに走り回っていたヴィッツが、長剣を構えながら悪態をつく。

「先陣はもらうぞ」

 ワイアードと対峙するラーシュカの横をすり抜けるギ・グーがヴィッツに切り掛かる。拮抗する力に、ギ・グーはにやりと笑った。

「自分達の集落だ。罠の在り処も、防備の隙も知り尽くしていて当然っ!」

 言い切ると同時に、ヴィッツを押し込む。

「くそっ! こいつら、本当にゴブリンか!?」

 炎のように激しく打ち込むギ・グーに、徐々にヴィッツが追い込まれていく。割って入るユギルがいなければ、彼の命は尽きていただろう。

「気をつけろ、ユギル! こいつら強い!」

 無口な性質の盾役のユギルが頷いて前に出る。連携を図る剣のヴィッツと盾のユギル二人。ギ・グーが盾に切り付けると、ユギルはその力を上手く受け流し態勢を崩した所にヴィッツが切りかかる。

 隙を見せない二人に、ギ・グーは獰猛に笑った。

「この俺に、連携で挑むかっ!」

 ギ・グーとヴィッツ、ユギル。ラーシュカとワイアードの戦いを尻目に、三つ首の大角駝鳥(トリプルヘッド)を乗り回したギ・ギーが動けない負傷者に構わず奥へ進む。

 率いるのは、今は亡きギ・デーが率いていた獣士達。生き残りの獣士達からギ・デーの最期を聞いたギ・ギーは、王の夜襲に加わると一隊を率いて人間側に襲い掛かった。

 ──仇をとる。

 ギ・ギーが率いる群れにあるのは、その一念で固まった強い意志。魔獣を使役する彼らは獣を愛すると同じように仲間を大切にする。数あるゴブリンの中でも、特にその傾向が顕著だった。

 向かってくる人間を蹴散らし、一塊となって進む彼らの視界に炎の剣を操る人間の姿が映った。

「ボス、アレ!」

 生き残りの獣士が指差す方向には、破杖のベラン。

 その姿を視界に納めたギ・ギーは、大角駝鳥(トリプル)の腹を軽く蹴った。あっという間に距離が縮まり、ギ・ギーの斧とベランの杖が激突する。

「獣遣い、か。良く当たるッ!」

 斧を押し返すベランに、再びギ・ギーは斧を振りかぶる。

「貴様がッ! 仇ッ!!」

炎を孕みて剣と成せ(ファイヤーソード)!」

 杖の先の赤い宝玉が輝きを増して、炎を生み出す。

 西側の戦いは激しさを増していく。


◆◇◆


 振り下ろす長剣が、敵の長剣に弾かれる。エンチャントを施した一撃も、敵の剣技の前ではその力を充分に発揮するのは難しかった。とにかく直撃がない。俺が放つ一撃が、絶妙の力加減を加えられて流されてしまう。

 敵が僅かに視線を周囲に向ける。

 そろそろ奇襲の衝撃が柔らいで混乱を立て直してくる頃か。ここで敵の指揮官を仕留めるのはかなり難しい。何より防御に重きを置く敵の剣技が凄まじい。

 惜しいところだが、撤退を考えねばならないだろう。

 下段から切り上げた俺の剣筋に、敵がその下を掻い潜る様にして回避。直後振り下ろす俺の剣を更に後方に下がって敵が回避する。

 距離が開いたのを見計らって、魔素を操る。

我が命は砂塵の如く(アクセル)!」

 空気をぶち破る急加速。だが、敵はそれにも合わせて上体を躱す。

 俺はそのまま振り返ることなく、背を向けた。

 今はまだいい。ここで焦ってこちらが損害を負うことになってもつまらないし、本番は夜が明けてからだ。目的の第一は達成したのだから、指揮官までは望むべくもなかったのだろう。

 立ち塞がる人間に剣を振り下ろし、拳を振るって西への退路を開く。

 それにしても剣の重さが足りない。振り回す分にはこの長剣でも構わないのだが、敵を断ち切るにはやはり重量が欲しい。

 そんなことを思いながら俺は撤退の咆哮をあげる。

 さあ、人間ども。

 どうでる?

 進めば地獄を見せてやる。退くなら更なる地獄が待っているぞ。


◇◇◆◆◇◇◆◆


レベルが上がります。

20→21


◇◇◆◆◇◇◆◆

三人称を多くして、戦争の臨場感を出そうかと試行錯誤中。


よろしければ、ご感想などお願いします。


次の更新は木曜日あたり

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