表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
楽園は遠く
104/371

交錯

【種族】ゴブリン

【レベル】1

【階級】キング・統べる者

【保有スキル】《混沌の子鬼の支配者》《叛逆の魂》《天地を喰らう咆哮》《剣技A-》《覇道の主》《王者の魂》《王者の心得Ⅲ》《神々の眷属》《王は死線で踊る》《一つ目蛇の魔眼》《魔力操作》《猛る覇者の魂》《三度の詠唱》《直感》《冥府の女神の祝福》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死

【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv1)灰色狼ガストラ(Lv20)灰色狼シンシア(Lv20)オークキング《ブイ》(Lv40)

【状態】《一つ目蛇の祝福》《双頭の蛇の守護》




「……来る」

 戦場の音を聞き分けようと目を閉じていたゴーウェンは、茂みの騒めきに目を開いた。

「グルゥルゥオオオアァ!」

 目の前に現れたのはオーガもかくやという巨躯。猛々しき咆哮をあげ大剣を振り回す様子に、一瞬だけ目を見張る。飛び出した勢いのまま、ゴーウェンに迫るゴブリンに、咄嗟に地面を転がって避ける。飛退きざまに手にした長剣を抜き放って攻撃に転じたのは、百戦錬磨の戦士の為せる業だった。

 脇腹を掠めた一撃は、致命傷には程遠い。

 血よりも赤い瞳が、ゴーウェンを捉える。

「貴様が人間の頭か」

 聞こえた声は、低く響いた。まるでこの世の地下深くにあるという冥府の風が吹き上げてきたかのようなその声に、ゴーウェンは却って冷静さを取り戻す。

「知性の有る魔物、といったところだな」

 立ち上がり長剣をゆらりと構える。

「降るならこれ以上の殺しはせん」

 頭上高くに振りかぶられた大剣と相まって、ゴーウェンにはそのゴブリンの姿が倍程にもなって見えた。だが、それでも怯まずゴーウェンは剣先を地面に向けて、“防御”の構えを取る。

「……お前が死ねばこれ以上我が兵は死なぬ」

 彼の役割はまずもって聖女が帰還するまでの時間を稼ぐことだ。この目の前の巨大な“何か”が聖女を追って出てきたのなら、ここで足止めをせねばならない。ガランドを付けているとはいえ、決して安心できはしないのだから。

 そこまで考えてゴーウェンは僅かに首を傾げる。コレが一匹だけか?

 目の前にいる存在は他のゴブリンとはあまりにも一線を画している。今まで始末してきたゴブリンは多くがノーマル級。レア級が3匹程にノーブル級が1匹だけいたという話だった。この森のゴブリンの勢力としてはまずまず多いと言っていい戦力だ。

 だが、これほどのゴブリンがいて、本当にそれだけしかゴブリンがいなかったのか……?

「……予想が甘かったか」

 未だ1合も剣を合わせてはいない。だが、ゴーウェンは森の開拓が半ば挫折したと悟った。これほどのゴブリン──おそらくはロード級というのだろうが──それがこの近辺にまで出張ってきているのなら、森の開拓は今以上の困難を伴うだろう。

 ならばここは一刻も早く退くべきだ。戦力を温存し、森の外縁を少しずつ削っていく今までのやり方を堅持するべきだ。だが、まずそのためには──。

「どうした、来ないのか?」

 威風堂々と構える目の前の難敵を排除しなければならなかった。


◇◆◆


 向き合った人間の頭らしき人物。ゆるりとしたその構えに隙はない。大上段に振りかぶった俺の視線を物ともせず、堂々と言い返すさまは歴戦の猛者であることを感じさせた。

 銀色の丁寧に撫で付けられた髪に、口髭。こんな戦場でなければ執事を連想させたであろう風貌だが、その身から感じられるのは内包する力強さだった。

「降らんのなら──」

 俺の一撃を止められると思っているのならとんだお門違いだ。その身をもって味あわせてやろう。

 ──こちらから往くまでだ!

 振り上げていた腕に力を込め、地面を掴む足の裏に力を入れる。今にも飛び出そうと思った俺を止めたのは後方……つまり人間の世界に通じる道の方から聞こえた喚声だった。この先で戦っているのが俺の部下なら、大体予想はつく。

 先行させたギ・ギーとハールーの騎獣部隊か、集落の生き残りだろう。どちらにしても危ない。目の前の男を殺すのと、どちらを優先すべきだ?

 ギ・ギー達は数が少ないだろうし、集落の生き残りならおそらく満身創痍だ。

 ……決まっている。俺の目的は奪われたものを奪い返す為だ。人間に対して仇を討ちたいのはやまやまだが、これ以上大切な部下を失いたくはなかった。

 未だ目の前の人間の間合いにはないのだろう。向こうから来るつもりがないのなら好都合。力を入れていた足に、前ではなく後ろ方向に飛退くと、声のする方向に一気に駆け出す。

 途中で立ちはだかろうとする人間を一薙ぎに切り払って走る。

 ──間に合え。これ以上何者をも俺は失わせはしない!

 後ろから聞こえる人間達の怒号に背を向けて、俺は走る。強化された肉体は人間の走る速度を易々と超え、争いの現場に辿り着いた。

「王!」

 ギ・ギーが俺を見つけて走り寄って来る。騎馬と歩兵相手に僅かなこの数で対抗していたのだろう。全身に返り血を浴びて、濛々と湯気を立てるその全身からは頼もしさすら感じる。

「無事か!? ハールーは!?」

「王の財を追って行かれました」

 その言葉を聴いたとき、俺はぎり、と無意識に奥歯を噛み締めた。

「どこだ!?」

「この道の先にて……ここはお任せあれ」

「任せるぞ!!」

 俺にも、ギ・ギー達にも危険は承知の上だ。だが、すぐ手を伸ばせばレシアに手が届く。少しの間だけでいい。持ち堪えてくれ!

「御意!」

 今までの全力が嘘だったかのように、ギ・ギーをすり抜けて走り出す。

「我はここに在り! あと少しの辛抱だ。奮えパラドゥアの勇士達!」

 天地を喰らう咆哮を置き土産に残すと、俺は彼らの血で作った道を走り抜ける。

「レシアァアァ!!」

 喉を枯らして叫べば、この声は届くだろうか?

 待っていろ。

 これが運命だと言うのなら、そんなものは俺が打ち砕いてやる。


◆◆◇


「くっ……何たることだ」

 薙ぎ払われた3匹のパラドゥアゴブリンを見つめてハールーは悔しさに手に持った槍を強く握り込んだ。自身の判断が部下を死なせてしまった。

 だが悔やんでいる暇はない。すでに目の前に四足を連ねた馬車が迫ってきている。

 先ほどの一撃が、ラーシュカ並みの攻撃力を持っていたとしても、あの馬車を止めるためには行くしかない。

「パラドゥアが1番槍、参るッ!」

 自分自身を鼓舞すると、すれ違いざまに馬を攻撃するべく槍を構える。

 望みはある。間合いは既に至近。あの一撃が強力であればあるほど、馬車の近くでは使えないはずだ。自分自身を巻き込む攻撃などはしないはず。

 馬車の至近に近づいても来ない先ほどの攻撃に、ハールーは確信を強め、槍を振りかぶる。

「もらっ──ぐっ!?」

 馬を狙った一撃を放とうとした直後、投擲された短剣がハールーの肩を貫く。視線を馬から御者台に上げれば手綱を括り付け、両手の指の間に短剣を持った小柄な人間の姿。

「悪いね」

「ヌゥゥアアァァ!」

 指呼の合間に生死が交差する。投げられた短剣はハールー自身とハールーの愛騎であるミオウに幾つか当たり、道路上から跳ね除けさせることに成功した。

 だがハールーも氏族を率いるゴブリンである。槍が届かないと悟るや、持っていた槍を馬に向かって投げつける。狙いすら定まらない一投だったが、それが馬の足を掠めて地面に突き刺さる。2頭立ての馬車の1頭の足を掠めたハールーの槍は確実に馬の速度を奪っていた。

「ちっ……なんだったんだ」

 周囲を警戒しながら手綱を再び握るミールは、屋根の上にいるはずのガランドを怒鳴りつける。

「馬が怪我をした。騎馬兵のと交代させないと、馬が潰れる!」

「……いや、このまま行く!」

 ミールより高い位置で前後を確認するガランドは、凶暴な笑みを浮かべる。

「前から騎兵が来る。お出迎えだ」

 その言葉にミールが前を確認すると、重装備で身を固めた騎馬兵達が道の両側に避けながら走ってきているところだった。

 ──助かった。

 だが、ならば尚の事不審だった。なぜ止まらない?

 見れば騎兵の数は30を下らない。西部の領主といえども一大戦力の筈だ。

「来たぜ。でけえのがなァ! ハーハッハッハッハ!」

 屋根の上で高笑いをするガランド。その視線が捕らえたのは、疾駆するゴブリン達の王の姿だった。


◇◆◆


 見れば遠くに馬車の姿。

 ──追いついたァ!!

 肩に担いだ鋼鉄の大剣(アイアン・セカンド)に魔素を込める。馬車の横を通り過ぎる騎馬兵の姿。

我は刃に為りゆく(エンチャント)!」

 俺と馬車の間を塞ぐように、濛々と土煙を上げる騎馬達が俺に向かって疾駆してくる。全力で駆ける俺との距離は瞬く間に縮まり──。

「どけェ!」

 馬上から突き出された槍ごと先頭の騎馬を叩き斬った。人間一人を軽々と吹き飛ばす騎馬兵の突撃が俺の顔の横を通り過ぎる。突撃槍(ランス)の穂先を潜り抜け、馬上の相手に大剣を叩きつける。魔素を纏った大剣が、全身を鎧で固めた敵を紙のように切り裂く。

 ──足を、止めるな!

 直後に襲い来る第2、第3の槍を大剣で防ぎ切ると、魔素を切り替える。

我が身は砂塵の如く(アクセル)!」

 垂直に構えた大剣を盾にして、俺は騎馬の群れを一気に飛び抜ける。触れ合う馬体を跳ね除け、正面にいた騎馬の目の前で急停止。

「グルゥゥォオオオオ!」

 腕に、足にかかる反動を無視して、大剣を下から振り抜く。馬ごと宙を舞う騎馬兵の下を潜り抜け、更にアクセルを使って再加速。

「反転、行かせるな! 騎士団の名誉にかけて聖女様をお守りしろ!」

 後ろから聞こえた声に確信する。

 いる。レシアがすぐそこに!

 全力を引き出せ。化け物の体の本領を見せてみろ! 地を蹴る足裏に魔素を込める。爆発に近い衝撃と共に、体が空気の壁を感じる。

 その壁を感じ、更に差を詰めるべくアクセルを発動。息すら出来ない圧迫の中、馬車との距離は確実に縮まっていた。

 後ろから聞こえる馬蹄の音が近づいてくる。アクセルで一時的に突破してもやはり苦しい。馬と競争をしては距離が長くなればなるほどこちらが不利か。一騎ずつがかなりの速度で俺との距離を詰めてくる。

 敵も精鋭というやつか!

「死ねぇぇイィィ!」

 後ろからの一撃を防ごうと、一か八かで大剣を背中に回す。

「王! 行かれませ!」

「っ、ギ・ガー!?」

 俺の背を押す声と共に、俺の送った騎獣を乗りこなすギ・ガーがその間に割り込んだ。

「王の敵を殺せ! 一人も生かして通すな!」

 続いて現れる満身創痍のゴブリン達。血を流し、腕を失い、だがそれでも歯を食い縛って騎馬と俺の間に立ち塞がる。

「突破せよ!! あのでかいのを仕留めろ!」

 騎馬兵の荒々しい声が響く。

 俺は、俺は──進むぞ!! ギ・ガー!

「頼むぞ!」

 死ぬなとは口に出さない。

 ギ・ダーの死に様を目の当たりにすれば、命を賭けてこそ貫ける道もあるのだと考えさせられたからだ。

 だが、出来れば生き残ってくれ。

 忠臣と呼べる彼らを失うのは、俺にとって何にも代え難い損失だ。

 戦士のそれぞれの生きる道を束ねて、覇道とするのが王の道。

 だからチャンスは一度だ。あの馬車に人間の領域まで逃げ切られるようなら、俺は引き返さざるを得ない。森の中で死闘を繰り広げる部下を見殺しにすることなどできはしない。

 レシアを救いに行くのは、俺の我儘だ。

 その我儘を命懸けで支えてくれる部下のために、俺は魔素を足に込めた。

「ヌウゥゥオオオアオァアアァ!」

 足も砕けよとばかりに、魔素を充填させる。オーガ・ロード戦では腕を持っていかれたが、進化した今ならその精妙な操作も可能の筈だ。

 平らに均された地面に亀裂が走る。全体重を片足で支える。右足の裏が爆発するような衝撃を受け止めて、体を前に運ぶ。

 空気が壁になり、再び出すのは左足。

 魔素を通した筋肉が爆発的な加速を生み出す。騎馬の速度など物ともしない超加速をもって、馬車との距離を一気に詰める。

 ──あと、少し!!

 息すら途絶えた加速の世界の中で、馬車との距離が迫る。手を伸ばせば、あと少しで届く!

 そのとき慈悲なき天が人間の姿をして、嵐を呼んだ。

嵐と雷の支配者(アシュトレト)!」

 稲光が嵐となって俺の視界を染め上げた。


◇◇◇◇◆◆◆◆


レベルが上がります。


1→3


◇◇◇◇◆◆◆◆

総合評価20000超えました。ありがとうございます。


現在閑話作成中、まったりとしたクザン中心のお話になると思います。


次の更新は土曜日を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ