戦士、再び
【種族】ゴブリン
【レベル】1
【階級】キング・統べる者
【保有スキル】《混沌の子鬼の支配者》《叛逆の魂》《天地を喰らう咆哮》《剣技A-》《覇道の主》《王者の魂》《王者の心得Ⅲ》《神々の眷属》《王は死線で踊る》《一つ目蛇の魔眼》《魔力操作》《猛る覇者の魂》《三度の詠唱》《直感》《冥府の女神の祝福》
【加護】冥府の女神
【属性】闇、死
【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv1)灰色狼(Lv20)灰色狼(Lv20)オークキング《ブイ》(Lv40)
【状態】《一つ目蛇の祝福》《双頭の蛇の守護》
集落へ向かう俺の耳に、人間の叫ぶ声が聞こえてくる。
「あそこか!」
──近い。
その剣戟の音の聞こえるほうへ、俺は全力で地を蹴った。肩に担いだ鋼鉄の大剣に魔素を纏わせる。大剣自体が燃えているように一気に吹き上がる黒の炎をそのままに、胸の激情をも燃え上がっていた。
「化け物だ! 後ろからも来たぞ!」
聞こえた人間の悲鳴に、前で誰かが奮戦しているのだと知る。腕に、足に、力を込めて射程に入った人間目掛けて大剣を振り下ろす。
肩から袈裟懸けに切り下ろした一撃は、腹まで割いて敵の命を奪った。吹き出る血潮を意に介さず俺は宣言した。
「向かってくる者は容赦せん!」
抜き取った大剣を振るって人間の血脂を飛ばす。俺の宣言に、臆するかと思われた人間達は意外なほどの勇敢さを持って、俺の前に壁を作る。盾を地面に固定し、槍列を形成する“針鼠”だ。
そちらがその気なら……。
「お前達の勇気に死を以って報いよう」
肩に再び担いだ大剣をそのままに、俺は槍列に向かって走る。狙いを定めるのは槍の穂先。今にも突き出そうとするその間際を狙って、敢えて脇腹を晒す。
槍の列が突き出される瞬間。
「グルゥゥオオォォォオアァァ!!」
咆哮を浴びせかけ、動きを鈍らせると同時に大剣を振るって槍列を崩す。そのまま体を入れて槍を使えなくしてから、存分に大剣を振るう。盾ごと人間を吹き飛ばし、体当たりをして人間を弾き飛ばすとそのまま駆け抜ける。
何よりも恐れなければならないのは足止めを食らって体力を削り取られることだ。いくら力の差があろうと、数の差に抗し切れなくなる時がいつかはくる。それを避けるためには、常に俺が先手を取り続ける必要がある。
俺の戦場に、奴等を引き込む。そうでなければ勝ち目は薄い。
「なんだ、あの化け物は!? ゴブリンなのか!?」
怒号、悲鳴が交差する中、俺は無防備な人間を大剣の錆にする。そして徐々に俺以外の誰かが戦っている戦場へと近づいていった。
◇◆◇
「敵襲か。間の悪い」
長剣を地面に突き立てたゴーウェンは、剣の柄頭に両手を据え置いて前方を睨んでいた。
「じゃあ俺は行くぜ」
出発しようとするガランドの言葉に、振り向きもせず返事を返す。
「さっさと行くが良い」
余計な言葉は一切放たず、ただその姿勢のみで敵に対する壁として立ちはだかる事を宣言しているようだった。
「ミール、森を抜けるまではお前が御者だ。何があっても速度を落とすんじゃねえぞ」
ガランドはそう言うなり馬車の屋根に飛び乗ると、青雷の大剣を担ぐ。仁王立ちで前方を見据えるその威風堂々とした姿は、まるで古に聞こえた勇者のよう。
猛々しさを内包しながら引き締めた横顔に、ガランドを嫌っているはずのミールでさえ一瞬見惚れた。
「勝手なことを言いやがって!」
自分自身のそんな感情に気づいて舌打ちすると、ミールは軽々と御者台へ飛び乗る。
「振り落とされても置いて行くからな!」
怒鳴るミールは馬に鞭をくれた。
「ふん、争乱と流血の匂いがするじゃねえか。俺の大好きな、血みどろの戦いの匂いがよォ!」
高々と笑うと、その大剣へ力を込める。大剣に収斂されていく嵐が、全ての敵を薙ぎ払わんと待ち構えていた。
◇◆◇
ギ・ギーと共に突撃したハールー以下パラドゥアの精鋭達は、槍先を揃えて突撃した序盤こそ騎馬兵達を圧倒していたが、歩兵が援軍に着き始めると次第に劣勢に立たされていった。
平らに均された地面の上では、黒虎よりも騎馬の機動力が勝り、歩兵の援護まであっては如何に精強を誇るパラドゥアゴブリン達でも劣勢に立たされずにはいられなかった。
そんな中、ギ・ギーだけは戦況とは別に、レシアの押し込められた不可思議な箱が出発しようとするのを目敏く見つける。
「ハールー殿、アレを!」
「応っ!」
瞬く間に騎兵を突き殺すと、周囲で戦っている他のゴブリンの援護に回り、3匹を自由にするとギ・ギーの側に駈け寄る。
「あれが、王の財か!」
「援護は俺がする。そちらの方が速い。行ってくれ!」
三つ首の大角駝鳥の腹を軽く蹴ってやると歩兵に斧を振り下ろす。
「はっはっは、手柄は譲ってくれるというのか。ありがたい! 者ども、続けェ!」
快活に笑うと槍を脇に抱えて装甲馬車に向かって突撃を仕掛ける。付き従うパラドゥアゴブリンは3匹。左右と後方に配置した彼らの先頭に立って、パラドゥアの若き族長が愛騎と共に駆ける。
「馬車を狙っているぞ! 防げ!」
槍衾を作る人間達に向かってギ・ギーが大角駝鳥を突進させて槍列を崩す。
「抜刀! 半数で駝鳥を迎え撃て! 残りは虎だ! 槍ィ構えぇぇいィ!」
だが人間の指揮官も決して無能ではない。盾と剣を操る歩兵でギ・ギーを防ぎ止めると、再び槍衾の形成に成功する。
「もっとだ……ひきつけろ」
勢いを付けて走るハールーの黒虎はその槍衾に向かって一直線に進む。左右には森の木々があり、横に逸れる道はない。
「ハールー殿!」
「──今だ、突き出せぇぇ!」
「跳べぇェ! ミオウ!」
指揮官の号令の下一糸乱れぬ刺突が繰り出される。ハールーが愛騎の名を呼ぶと、ハールーの黒虎が槍衾を避けて木々の中に飛び込むかに見え、人間の指揮官は一瞬笑いかけた。
ならば、勢いの衰えた所を突き殺すまで──と。
だが、次の瞬間その口元は凍りつく。
「オオォォオォオォ!」
黒虎が曲がりくねった木々を四肢で掴み、勢いを殺さぬままに横から槍列に突っ込んできたのだ。
「馬鹿な!?」
騎馬では決して出来ない動きに、思わず漏れる叫び。
「食い破れ、ミオウ!」
凶暴な牙が兵士の肩口に食い込み、血が噴き出す。上がる悲鳴をそのままに、騎上でハールーが槍を旋回させて兵士達を打ち払う。その隙間を狙ってハールーに続いて来たパラドゥアゴブリン達3騎が槍衾をズタズタに引き裂いて駆け抜ける。
ハールー自身も3騎の後を追う形で槍衾を走り抜けると、目指す馬車に向かって駆ける。
「正面に回って四足を潰すぞ!」
森の中を駆け抜け、正面に回るとハールー率いる3騎が一塊になって駆け抜けざまに槍を狙おうとし。
「くっ!?」
御者台の上から、投擲された短剣がハールーの顔の横を突き抜ける。当たって平気な威力ではなかった。次々に投擲される短剣を槍で払い退けるしかなく、徐々にだがハールーが遅れる。
「今だ、四足をやれ!」
襲い来る短剣を避けつつ、指示を飛ばす。
応える3騎が馬車に迫ろうとし──。
「蹂躙する嵐」
厳かにすら聞こえる声が、装甲馬車の上に陣取ったガランドから聞こえた。肩に担いだガランドの大剣が振るわれる。同時にその収斂されていた嵐が、大気を切り裂き剣の軌道をなぞって吹き荒れ──その剣先にいたパラドゥアの騎兵を飲み込んで引き裂いた。
◇◆◇
遠く聞こえる剣戟の音と、咆哮の声に耳を澄ませば主たるべき者をその胸に思い出す。浅い眠りから目を覚まし、ギ・ガー・ラークスは周囲を見渡した。
「ぐ──、無事か?」
ハクオウの背を撫で、周りで眠るゴブリン達に声をかける。幾人か動かない者がいるが、動くもの達でさえ傷を負っていない者は皆無だった。
そういう自分自身でさえ人間の大群に突っ込んだときに肩と脇腹に傷を負っていた。決して浅い傷ではないが──。
「聞こえるか、お前達……耳を澄ましてみろ。王がご帰還なされたぞ」
身のうちに湧き上がる歓喜。
ゴブリン達も顔を見合わせたり、目を閉じたりして王の咆哮を聞き分けようと耳を澄ます。
やがて頷き合うと、ギ・ガーに視線を向けた。
まるで、ギ・ガーが何を命じようとしているのかわかっているかのように。
「我ら傷ついたとはいえ、王の戦士である。王の御前に、恥ずかしい姿を見せることは許さん!」
傷を負った者達はギ・ガーの檄に応えて立ち上がる。足を怪我したもの、腕をやられたもの、それぞれが傷を抱え、槍を剣を杖にして立ち上がる。
母体のゴブリン達を逃がすため、人間に立ち向かったギ・ガー達だったが、序盤こそ優勢に人間達を押し込んでいたものの、次第に数の差に圧倒され最後には散り散りになって逃げざるを得なかった。ギ・ガーにしてみても、劣勢になってしまっては仲間を守って撤退するのが精一杯。
夜になって人間の追撃がなくなったところで、一塊になって眠っていたのだ。
「あの声が聞こえるか。我らの王が戦っていらっしゃる! 王の戦士ならば、その御前で死ぬのが戦士の誉れ!」
傷ついた体を引き摺り、ゴブリン達がハクオウに乗ったギ・ガーに続いていく。
「進むぞ! 我らこそ精鋭!我らこそが王の戦士!!」
燃え滾る気炎を瞳に込めて、王の戦士たちが再び戦場に舞い戻る。
◇◇◆◆◇◇◆◆
【個体名】ハールー
【種族】パラドゥア・ゴブリン
【レベル】55
【階級】レア
【保有スキル】《獣上槍》《魔獣操作》《槍技C-》《統率C+》《突進》《連携C+》《騎乗》《鼓舞》《猛進》
【加護】なし
【属性】なし
【愛騎】ミオウ
《獣上槍》
騎獣の上で槍を振るうことができます。両手を離しても、獣が思い通りに動いてくれます。
《魔獣操作》
騎獣の操作に補正がかかります。
《騎乗》
騎獣の上で戦うときに、腕力上昇、統率1段階上昇。
《猛進》
突撃、突進の際に威力が増加します。
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次の更新は水曜日あたり。