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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
楽園は遠く
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咬み合う双牙

今まで出番がなかったことの鬱憤を晴らすかのような王様の暴れっぷり。どこまでも先手を打ってくるゴーウェンの手腕。結果は如何に。


【種族】ゴブリン

【レベル】1

【階級】キング・統べる者

【保有スキル】《混沌の子鬼の支配者》《叛逆の魂》《天地を喰らう咆哮》《剣技A-》《覇道の主》《王者の魂》《王者の心得Ⅲ》《神々の眷属》《王は死線で踊る》《一つ目蛇の魔眼》《魔力操作》《猛る覇者の魂》《三度の詠唱》《直感》《冥府の女神の祝福》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死

【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv1)灰色狼ガストラ(Lv20)灰色狼シンシア(Lv20)オークキング《ブイ》(Lv40)

【状態】《一つ目蛇の祝福》《双頭の蛇の守護》



「グルゥウゥアアァオオオオォ!」

 響き渡る声が敵をすくませる。俺は一つ目の陣地を潰した後、二つ目の陣地に向かっていた。この夜のどこかにレシア達がいるはずなのだ。

 なんとしても見つけ出して、取り戻す。

 死んでいった部下たちのためにも、必ず取り戻さなければならない。

「……っ来たぞ!」

 視線を向ければ鉄の鎧に身を固めた人間達が槍衾を作っているところだった。統一された装備と訓練された動き。これは手強いかっ……!? 

「突き出せ!!」

 盾の後ろに身を隠し、盾と盾の隙間から槍を突き出したその様子は針鼠を連想させる。ぶつかれば肌が裂かれ、肉を捩じ切られそうな槍列が一糸乱れぬ速度で繰り出される。

「オオォォオオオアアォ!」

 それを、鋼鉄の大剣(アイアン・セカンド)で力任せに薙ぎ払った。吹き飛び、バラバラになる槍の穂先の根元には腰を抜かす人間たち。だが、手加減をしてやるつもりはない。

 盾と盾の間に踊り込むと、目に付くものを片っ端から薙ぎ払う。人間たちの手が、足が、上半身が夜の闇に鮮血と共に飛び散る。

「……化け、者、め……」

 俺の足元で腕を斬り飛ばされた兵士が恐怖と共に見上げてくる視線を、振り下ろす大剣と共に断ち切った。血溜まりに沈む兵士を見下ろし、再び周囲に視線を飛ばす。

 どこだ、どこにいる!?

「レシアァァ!!!」

 俺の声は夜の森に響き渡った。


◆◇◇


 定期的に入るはずの連絡がない。

 ゴーウェンは、集落の周辺に配置した兵士達の連絡がないことに眉を顰めた。肩にある古傷がズキンと痛む。

「ふむ、或いは最悪の事態も有り得る、か……」

 聖騎士で最も長く戦い続けてきた歴戦の勇士は、如何なる時もその冷徹な思考を鈍らせることがなかった。

「伝令、些か早いがガランドに連絡せよ。装甲馬車を用意する故、早めに森を出ろとな」

 集落の周囲に配置した兵士たちは、ゴーウェンの下で兵士としての実戦を積んだ若く優秀で勇敢な者達だ。ゴーウェンに忠誠を誓う兵士達が定期連絡を寄越してこない。ということは、恐らく何らかの阻害要因が発生したのだ。

 この暗黒の森の中で、阻害要因となれば……。

「夜陰に乗じてオークが襲撃してきたか。或いは、昼間のゴブリンの集団か?」

 例え大鬼オーガだったとしても、単騎であるなら決して連絡は怠らないはずだった。

 であるなら、敵は集団。包囲され連絡を出す間もなく全滅させられたということだ。

「伝令、兵士たちを起こせ。集落の周辺に集まり、密集隊形。領地から騎馬兵を増援に寄越すよう伝えよ」

 静かに闇を見据えるゴーウェンは、集落を利用して攻め寄せる者達に逆撃を加えようとしていた。

「……随分と用心深いんだな」

「起きていたのか」

 指揮をするゴーウェンにガランドが声を掛ける。先ほどまで寝ていたはずなのに、今は寸毫もその気配を感じさせない。戦いに向かう前の戦士の気配を漂わせるガランドは不敵に笑っていた。

「聖女様を連れて森を先に抜けてもらおう。足はこちらで用意する」

「ふん……まぁ、いいがな。俺の雇った冒険者どもはどうした?」

「こちらの幾つかの部隊とも連絡が取れんのだ。指揮系統の違う彼らと連絡が取れるはずがあるまい」

「ふん……なるほどな」

 少しだけ考える風に目を伏せたガランドは、太い笑みを口元に浮かべて頷いた。

「良いだろう。敵がなんであれ、今回の一番の獲物はアレだ」

 視線の先には、集落で最も大きな建物。ギ・ザーが作らせた王の家がある。

「用意ができるまで俺は寝ているぞ。準備ができたなら起こしに来い」

「冒険者風情が……何様だと思っている」

 常にゴーウェンの傍らでその警護に当たる兵士の呟きに、やんわりとゴーウェンが訂正を加える。

「いや、あの男はアレでいい」

「しかし、いくら聖女様のためとはいえ、装甲馬車まで用意してやるなどっ! 奴に手柄を丸々くれてやって、ゴーウェン様ばかりが損をっ!」

 それ以上の言葉を、ゴーウェンは視線で封じ込めた。

「……あれは、あれの考えで動いているのだろう。聖女様が暴行を受けた形跡はあったか?」

「いいえ」

「ゴブリンやオークなど、奴等は欲望に忠実だ。それが何故聖女様に暴行を加えぬ?」

「分かりませんが……それが聖女様たる所以なのでは……?」

「そうかもしれぬ、が……或いはこう考えることもできる。聖女様を捕らえた魔物には知恵があり、自身の欲望を押さえ込むだけの力がある、とな」

「まさか。魔物などに」

「普通では考えられない程のゴブリンの群れ。弱体化しているオーク。そう仮定すれば辻褄は合う」

「では……その魔物は」

 顎の髭を指で触りながら、ゴーウェンは闇を見据える。

「或いは、こちらの動きに呼応して装甲馬車を真っ先に狙ってくるやも知れぬ。ガランドはその可能性があったから引き受けたのだろう」

「そんなことを、あの男が?」

「でなければ退却の指示になど従うものか。あれは単純な力だけで言えば、私をも凌駕している」

 護衛の兵士はガランドの寝ている小屋を見る。

「ガランド・リフェニン……憎悪の化身よ」

 口の端を吊り上げてゴーウェンは笑う。その冷たい笑いは、迫りくる強大な敵に向けられていた。


◆◆◇


 おかしい。先程から篝火の有る野営地を襲っても人間がいない。闇夜を見通すこの目も、強過ぎる火の光に当てられて他への視界が遮られてしまう。

 面倒でも一つずつ潰していくしかない。

 目を細めて熱くなり過ぎている頭を冷却する。細く吐き出す息に、体の熱を乗せて意識を集中し直す。大気の流れを感じれば、未だ人間たちを内包している森には騒めきと異質な気配が感じられる。未だ人間達が撤退したわけではない。

 どこだ?

 薄く延ばした紙のように意識を薄く張り巡らせて周囲を探る。

 俺の意識に引っかかるものがいた。

「まずい、来るぞ!」

 人間の声が聞こえる。

 100メートル以上離れた地点で梢が揺れるのを確認し、一気に加速する。

 ──いた!

 肩に背負った鋼鉄の大剣(アイアン・セカンド)で獲物との距離を測る。

「……くっ、速い!?」

「グルゥゥォオオアオォ!」

 気合と共に振り下ろした大剣が──。

金剛(ガーディアン)!」

 ──身の丈はあろうかという鉄塊に受け止められた。

「ワイアード!?」

「行け。ここは食い止める」

 大男が叫ぶと、小さな男が一言詫びを入れて駆け去る。大剣を引くと同時に鉄塊に蹴りを放ち、距離をとる。

 俺は相手の出方を見守りながら、考えを整理する。

 目の前の大男は行けと言った。襲われている人間の心理を考えれば、なるべく同じ人間のいる方向に向かいたがる筈だ。

 ならばあの小男の向かう先には、人間の集団がいるのではないか?

「通してもらおう」

 ここで時間を費やしては小男を取り逃がす危険もある。俺の言葉に驚いた様子の大男。

「ここまで流暢に言葉が喋れる知性があるのか……」

「貴様らが倒した俺の手下も、言葉を喋ったろうが!」

 下段に持ってきた大剣を鉄塊に向けて下から上への切り上げ。右下から左上へ大木を薙ぎ倒す一撃が駆け抜ける。だが、並の人間なら上半身ごと吹き飛ばされて然るべき一撃に、その大男は小揺るぎもしなかった。

 鉄塊を体の前に構え、俺の力を半分以上受け流しやがった。

「悪いが貴様を通せば仲間が死ぬ。通すわけにはいかん!」

 鬼気迫るその気迫。肌にびりびりと伝わる圧力は、目の前の男が強敵であると嫌でも感じられる。大剣の柄を握り直す。

 一撃で崩せない防御なら何度でも!

 肩に担ぎ直した大剣を、俺は高速で振り下ろした。鉄と鉄のぶつかる音が夜の森に響く。盾を使った防御術とでもいうのか、体全体を覆える盾で俺の力を受け流し、此方の隙を誘う。

 俺は一撃を加えるごとに苛立っていた。こいつは時間稼ぎをしている。あの小男が逃げるまでの時間を必死に作り出そうとしているのだ。

 仲間を守るためというその姿勢が、俺に苛立ちを増加させる。何故その心がありながら、森に入って俺の仲間を平然と殺すのか。ギ・ダーの死に様が脳裏にちらつく。

 だが何よりも敵の策に乗って、その守りを崩せない俺自身が最大の苛立ちの原因だった。

我は刃に為り行く(エンチャント)!」

 大剣に黒の炎を纏わせる。《一つ目蛇の祝福》による魔素のスムーズな浸透は、大剣が燃え上がったような印象すら受ける。

「何故貴様らは!」

 大盾を真っ二つに切り裂く。だが、その後ろに隠れていた大男は距離をとって、大きな斧を構える。

「俺の部下を殺したっ!!」

 その大男の間合いに跳躍。頭上高く振りかぶった大剣を、落下の勢いのままに振り下ろす。

「……っ!?」

 大男が寸前で避ける。代わりにその背後にあった大木を根元まで切り裂いてしまう。即座に反転。大剣を引き抜くのと、大男の周りに人間が集まるのが同時だった。

「べラン、ヴィッツ、白き癒し手!」

 大男の驚愕の表情に、奴にとってもこれが予想外の出来事なのだと察知する。だが俺の前には障害となり得る筈もないだろう!

剣よ炎を孕め(ファイヤーソード)!」

 振るわれる剣に炎が巻きつく、だがそんなものが俺のエンチャントに勝てるはずがない。打ち合わせると同時に弾き飛ばされる炎剣使い。

 追撃しようとしたところに、足元に痛み。

 素早い一撃離脱をする奴がいる!

 だが──!

神の光は道を指し示す(ライト)!」

 一瞬にして俺の視界を光が遮った。



次回の更新は水曜日になります。


ライト万能説! これを使えば最初の一回だけは誰からでも逃げられるっ!?


王様は鉄塊と表現していますが、ワイアートの使っているのは巨大な盾ですね。


ゴブリンの夜目が利く代わりに炎などに照らされて、夜目が利きにくいという意外な弱点が! 闇の中ならいいのに、焚き火などあると目が眩んでしまうのですね。



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