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少年少女とお弁当

作者: AIBO

 柔らかな日差しが校舎を綺羅やかに照らし、春と言う人生の節目の季節を象徴するかのごとく空は青々と澄み渡っている。


 太陽が紫外線を本格的に照射して来ないのは夏に向けて力を温存しているのか、ほかほかとした日和の中、そんな事を考えながら窓の外を眺めていた生徒が在籍するクラスに、『さくっ』と言う軽い音がした。

「うん、美味い」

 ふっくらと纏った衣の中には、プリプリとした食感のエビ。弁当のおかずの中でも定番とも言える具材。

「いやー、美味いな」

「――そう」

 4時限目終了を告げるチャイムが鳴り仲の良い者達が集まり机をくっつけ、各々の弁当に舌鼓を打ちながら談笑を交わしている光景が所かしこに見られる5年2組の昼休み。

「お、おぉ、唐揚げだ」

 小寺直哉は半分になったエビフライを尻尾ごと口にねじ込み、次の標的に箸の標準を合わせる。

「ほぅ、結構時間たってるのにこのカリカリした食感。これはまた結構なお手前で」

「――そう」

 ――ん?

 常日頃からクラスメイトに『鈍感男』の称号を授けられている直哉でも気付く程、向かいの席に座っている少女の態度はいつもと違っていた。

「えーっと、もう2つも食べちゃったけど、手、怪我してるとか?」

 机は二つ、弁当箱も二つ、直哉の弁当は手付かずのままだったが、綾原奈緒の弁当はおかず二つ分減っていた。

「目、悪いの?どう見ても怪我なんてしてないでしょ」

 直哉の目の前で奈緒が大仰に腕を振って見せる。

 奈緒の母が作った弁当のおかずを奪おうと伸ばした箸を、片っ端から正当防衛の如く叩かれるのが日々展開される『お約束』なのだが、今日の奈緒はお約束など無かったかの様に、じっと直哉の様子を窺っていた。


 二人は小さい頃から一緒、名前もなんとなく似ている事は関係無いが、家族ぐるみで付き合いがある為か自然といつも一緒だった。昼食の時間も例外ではない。


「それより、本当においしかった?エビフライと、から揚げ」

 弁当を開いてからずっと澄ました顔をしていた奈緒がふと、自分の弁当に視線を落す。

 奈緒に反応したのかしないのか、春を感じさせる心地よい風が教室を吹き抜ける。風に乗って奈緒の髪からシャンプーの良い香りが漂い、直哉の鼻をくすぐる。

「あぁ、うん、奈緒の母ちゃんの料理は美味いな、うちの母ちゃんにも見習わせたいよ」

「本当に?・・・おいしい?」

 はっと息を飲み、奈緒が上目遣いで聞いてきた。『鈍感男』直哉は気づくはずもないが、よく見ると奈緒の頬はほんのり朱に染まってる。

「なんだよ?美味いって言ってるじゃん」

 ――やった。直哉にはそう聞こえた。

「え?」

「ううん」

 奈緒は弾かれた様に背筋を伸ばし、一瞬の間を置き、

「え、あ、いただきまーす!・・・ほら、直も早く食べなさいよ」

 何が奈緒を突き動かしたか直哉には知る由もないが、いきなりせかせかと自分の弁当を空にする事に集中し始める。

 おいしいからって私の食べないでよね。と、一心不乱に弁当を食べ続ける奈緒を直哉は少しの間あっけに取られた様に見ていたが、言われた通り自分の弁当に手をつける事にした。

「お、おう。召し上がれ」

「あんたは作ってないでしょ!」


 しばし二人は己の弁当に意識を取られていたが、習慣と言うものは早々すぐには治らない。直哉は食べるなと言われて「はいそうですか」と、言う事を聞く性格では無かった。

 なんだったんだろう、もしかして昨日の晩御飯の残り物だったのか、はたまた奈緒の母ちゃんが床に落としたおかずを弁当に入れる所を見てしまったのか。そんな事を考えてる内に直哉はなんだかじっとしていられなくなった。

 考えるより、行動しろ。これが直哉の座右の銘である。

「あらあら、美味しそうなタコさんウインナーが――」

「へ?あぁ!ダメッ!」

 直哉の箸は後数センチでタコさんに届くと言う所で、奈緒に思いっきり叩き落とされた。

「いっ、さっきはくれたのにこれはダメなのかよ」

 叩かれて喜ぶのもなんだか滑稽だが、直哉は奈緒がいつもの奈緒に戻った事に内心、胸を撫で下ろした。

 直哉はさっきの態度について聞いてみたくなったが、奈緒の弁当に入ってる唐揚げが目に入ったのでどうでも良くなった。

「唐揚げ、もう一個くれ」

「だーめっ」

 唐揚げを取ろうと伸ばした箸を叩かれた。

「なんだよ、いいじゃ――」

「だーめ」

「――私だって、まだ自分で味見してないんだから」

「なにが?」

 直哉が特に思う事も無く、ただなんとなく言っただけの一言に奈緒はいきなり顔を紅潮させ、

「うあっ、なんでもない、とにかくだめなのっ!」

 奈緒は弁当を小脇に抱える様に遠ざけ、「自分の食べればいいでしょ」と直哉に強烈な視線を浴びせた。

「いいだろ、けちだな」

「けちで結構です」

 直哉は、むすっとした表情で自分の弁当に手をつけ始めた。




 いつもと変わらないごく普通の昼休み。

 子供から大人へは、いつの間にか変わっている。

 その境目は誰も知らない。

 そんな難しい話は当然、二人も知らない。

 春の日差しが心地よいそんなある日の昼休み。

今回が初投稿です。

どうでしたか?私は今不安で胸がいっぱいです^^;

皆様の意見、ご感想を是非聞きたいと思っているので、感想を激しく募集しています(笑)


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― 新着の感想 ―
[一言] 少年と少女のやりとりがおもしろかったです! 私も小説を書き始めたばかりなので、おたがい頑張りましょうね!
[一言] ほのぼのとした感じが良かったです。 何気ない日常の一コマが再現されていて、読んでいて微笑ましく感じる作品でした。
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