懺悔
男性間の恋愛が基になっています。
言葉遣いがおかしいのは、召使い身分出身者の目線による話なので稚拙と考えていただければ幸いです。
拝啓
お元気ですか。私はおかげさまで元気に暮らしております。
縁あって結婚した私どもですが今年で十年目を迎えます。
今の私たち、いや私が居られるのも全てはあなた様のおかげではございます。あの日以来のこととはなりますが、今こうしてあなた様へ手紙を 認めていますのもようやくあなた様へ向き合うことができ、今こうして十年目を迎えたことを一つの区切りとし、あなた様と私めの過去を決別するときと考えるに至ったからではあります。
あなた様はもう、私のことをお許しにはならないでしょう。
今こうして手紙を読んでいてもすぐにでもお破きになりたいことでしょう。或いは、ここも読まずしてとうに破り捨てになられているかもしれませんね。それでも構いません。自己満足かもしれませんが、こうしてあなた様に手紙を認めることによって、一つの区切りにしたいのです。
あなた様にはどれほど謝っても足りないほどではございます。一介の下郎であった私をお目にかけて
いただき、苦しくない生活の程にしていただいたのみならず絶えずお気遣いいただきそれはそれは私にとって天国、いやそれ以上の楽園でした。
貧しくはなくなくなった生活や布切れ同然の衣服ではない上等なお召物をいただいたことがそう感じさせたのではなく、あなた様と過ごした時間が私にそう感じさせていたと確信し、そこには確かに大切な何かがあったものと思っております。例え生活が変わらなかったとしても、あなた様といるだけできっと同じように感じたと思います。
そこまでしていただいたのにも関わらず、私は最低な行為をしてしまいました。
本当は、あなた様のお気持にわずかながらも気付いておりました。しかし私は結果としてあなた様の心を弄ぶような行為をしてしまいました。
私もまだ若かったとは言え、若さ故の過ちで済まされるほど容易なものではないと思います。弁明させていただくのも甚だしい話ですが、私めの話を聞いていただきたい所存でございます
私は、あなた様のお気持ちも考えない愚者でした。ただ、あなた様が私に好意を持ってくださっているのではないか、とそのことだけに浮ついてしまい、若かりし愚者は名家血筋の跡目ともあろうあなた様とはこれ以上深入りしてはいけないとばかりが頭にあり、遠くから、けれどじわじわとあなた様を拒絶していったのです。しかし、優しいあなた様は変わらず私に接して下さいました。そのことを得意気になっていたのかもしれません。どんなに酷いことをしてもあなた様は私をお許しになる、と甘えがあったのかもしれません。拒絶してもあなた様は赦してくれる、しかし確実に好意はなくなるだろう。このままならば深く立ち入られることもなかろうと愚者は愚者らしい愚案を考えていたのでした。既にこのときあなた様の心を深く傷つけているとも知らずに。
その後、今の私の妻が当時の私に言い寄ってきたのです。私は彼女があなた様の許嫁となることを知っていました。私のせいで深く傷ついてしまったその傷を彼女の手によって癒されようとしていたことも知っておりました。しかし、彼女の家も家柄よく大きな存在。彼女は私に自分と交際せねばあなた様の家を脅かすと言ってきたのです。彼女の家程度ではあなた様の家がお潰れになるなどという危惧はしておりませんでしたが、万が一、そのせいでお家が傾かれては、またこのような裏のあるお嬢様をあなた様のお傍に置いておけぬと思い、彼女の要求を呑むに至りました。
一度は癒されかけた傷を、もう一度またこの私の手で今度は倍に、いえ累乗程に傷つけてしまいました。それでもあなた様は祝福なさって下さいました。それどころか、身分差での交際は大変だろうと取り計らっていただいた上に身形見繕っていただき、結婚式の準備・手配まで交際に関わる一から百まで全て助けて下さいました。しかし、手助けして下さる一方で日に日に痩せこけ、髪は色が抜けてゆくあなたを、私は見て見ぬフリをしてしまったのです。彼女の家はあなた様の家の後ろ盾になってくれると言っていましたし、次なる許嫁も見つかりそうだと聞いておりましたのでこの交際さえうまくいけば何もかにもうまくいく。あまつさえ、あなた様も新たな癒しを見つけ、ほとぼり冷め冗談で済まされるようになれば今度は家族単位でのお付き合いができるのではなどと悠長なことを考えていたのです。
あぁ、私はなんて馬鹿で愚かだったのでしょう。
結婚式当日のあなた様は、誰の目から見ても明らかに、不自然に、やつれておりました。しかし、誰がなんと言おうと決して自分は病んでなどいない、疲れただけだと言い張り、私が心配しても「なんてこともない。こんな晴れの日に君に心配をかけさせるなんてダメな人間だな私は。それにしても、やはり良く似合っている。君は元がいい。誰も君を従僕の出だなんて思わないだろう」などとと、あろうことかご自分を叱り私を元気づけてくれたのです。あのとき、今まで見て見ぬふりをしてきた全てがこみ上げ、自分の愚かさを実感したのです。でも、気付くには遅すぎたのです。
そして、あなたは結婚式が終わると同時に姿を消しました。
後に彼女の家を伝い、弟御さんが家を継ぎ、あなた様は廃人同然となってしまったというお話を耳に挟みました。その日以来、私の時は止まってしまいました。
あなた様の時は結婚式以来止まったままでしょう。
生きる実感を無くしたのはいつからでしょうか
私は、あなた様の全てを奪いました。
全てを狂わせました。
ここまで書き記したことも身勝手な弁解にもならない弁解だと存じております。
本当ならば、すぐにでもこうして手紙を差し出すか会いに行くべきでした。
いえ、会いに行く行かないなどの話ではなくもっと早くに自分の愚かさに気付いていれば、むしろ出会ったときに戻れるならば・・・・
しかし、十年経った今でないと整理もつかない自分のような人間が、例え戻れたとしても同じことの繰り返しとなってしまう気がするのです。
赦しを請おうなどとは露ほども思っていません。
しかし、この度書き記したことによりあの日以来止まっていた時は、今ようやく実感として荷となる罪悪感と共に動き始めようとしています。
そして、今更な話ではありますが私があなた様の全てを奪ったのなら、私が戻すこともできるのではないかと、相変わらずの愚劣な考えをしております。
時は取り戻せはしません。あなた様の時を再び動かすことが良いことなのか、愚かな私はまた気付けずにいます。それどころか、あなた様の時を動かすことができるのかも分からぬ状態です。
しかし、こうして整理がついた今、今なら出来る気がするのです。
最後に
私は、ずっとあなた様を想い続けておりました。片時も忘れたことはございません
許されるのなら、今でも。
敬具 愚者より
素人による初作品なので様々な部分が変なのはご愛敬ということでお願いします