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狼浪奇譚  作者: ただ
17/47

エレント2 / 本気も本気。大マジですよ

眼前には山と積まれた皿がある。

その隙間から覗くのは一人の亜人の少女。少女、ヒメはナイフとフォークで自らを武装し、眼前に並べられた敵軍を容赦なく貪っていく。その容赦の無い様はいっそ清々しい。対面に座る青年は胸焼けした様に胃を押さえながら、未だ戦を終えない少女に言った。


「なあ、ヒメ。食い過ぎじゃね?」


ヒメは従者である青年の言葉を聞いて不満気な表情を作ると青年に言う。


「たわけ。食べれる時に食べれるだけ食すのは当然じゃろうが」


青年、草麻は呆れた様にそうですかとだけ零すと、ヒメの隣に座る女性に視線を向けた。女性、セーミアはにこりと微笑み草麻の視線を受け止めると、表情に疑問符を浮かべる。その穏やかな笑みは、まるで草麻の言葉を心待ちにしているようだった。ややあり、草麻はさり気無さを装いながら口を開いた。


「そういえばフレルさんて、協会の受付やってるんですよね。ちょっと聞きたい事あるんですけど、いいですか?」


「ええ、私が答えられる範囲でしたらお答えしますよ」


「あの、協会の試験なんですけど、証明術受けて無い奴が短期間で受けれる方法ってあります?」


草麻の言葉にぴくりとヒメが反応した。

手と口は止めずに、耳だけを会話に向ける。セーミアは思案顔を数瞬浮かべると、確認するように草麻に問い掛けた。


「それは、冒学を卒業せずに、という事ですか」


「そうですね。正直甲斐性無しになる前に、手に職を持ちたいんですよ」


「成る程。それでしたら、特例か推薦。またはスカウトの三つになりますね」


「特例と推薦、あとスカウトですか」


「はい。先ず特例とは特別登録法と言って文字通り特殊な例です。例えば町の危機を救う事や大規模災害の解決に尽力した等、人格や戦闘力が多数の人達、または強大な力を持つ人に認められた場合に適用されます。もっとも、特例が適用される例は、冒険者協会全支部でも年に一度か二度ほど。理由は証明術を受けていない人が稀な事と、それ程の力があるのなら特例の前にスカウトされるか、既に協会以外に加入してますしね」


「成る程」


「それで推薦なのですが、これは冒険者が信用出来る者を協会に推薦する事です。主に推薦する者の弟子が使用する制度ですね。これを使うと冒険者になった時に、師によりますけど箔がつき、依頼を受注する時に有利になります」


「信用って訳ですか」


「誰だって実力も判らない人物に頼みたくは無いですからね。それでスカウトですが、ソウマさんが思っている通りだと思います。飛び抜けた力を持つ者を引き抜いたり、青田買いする事ですね。残念ですけど、スカウトもそう有るものではないです。基本的に証明術を受けて無い人の多くは、やはり冒学か推薦ですね」


説明を終え、セーミアは紅茶を飲んだ。

一口目に比べると香りは若干薄いがそれでも芳しい。セーミアが視線をカップから草麻に向け直すと、草麻は真っ直ぐにセーミアを見ていた。


「了解です。それで、フレルさんは推薦してくれそうな人を紹介してくれるんですか?」


「……どうして、そう思ったんですか?」


挑む様な強い視線を感じたまま、セーミアは眉根を寄せる。

その表情は、困惑しているのか不信に思っているのか、真意が読めない。草麻は一度頭をかくとセーミアの質問に答えた。


「いや、だって証明術受けて無い俺達に、わざわざ専属受付とか教えてくれたんで、てっきりそういう事なのかと思ったんですけど」


セーミアは草麻の言葉に一泊おいて言葉を返した。


「ソウマさんて、意外と厚かましいんですね」


セーミアの言葉に草麻は顔を崩すと、どもりながら謝る。


「うぇ、マジすか。すいません、勝手に勘違いして」


先の言葉には自信があっただけに、草麻は気落ちと羞恥で紛らわす様に頬をかいた。その仕草にセーミアは頬を緩めるとからかう様に言った。


「まあ、当たってるんですけどね」

「フレルさぁん」


草麻の情けない言葉にセーミアは満足気に頷くと、もう一口紅茶を飲む。

ヒメはセーミアを半眼で見詰めると、空になった口を開いた。


「で、誰じゃ。まさか、クロスやセリシアではあるまい」

「安心して下さい。あの二人より余程単純な人ですから。だって、戦うだけですよ」

「戦うだけ、のう。……お主の言う事は今一信用出来んわ」


あからさまな言葉を聞いても、セーミアは笑みを崩さない。


「大丈夫ですよ。弱かったら死ぬだけですから。冒険者の依頼と何も変わりありせん」


セーミアの表情は変わらない。

完璧なまでの微笑を浮かべたまま、彼女は条件を口にした。


「狂戦士・ディートリヒ・ベクター。戦闘力のみで準二級冒険者に登り詰めた化け物と戦って生き残ればいい。それだけですよ」


それはまるで、託宣のようであり魔へと誘う蛇の甘言にも聞こえる。

草麻は相反する感想をそのまま口に出した。


「んん……!?」





冒険者協会。

主要都市エレントでも一際巨大な建物の一室、第五映写室に草麻とヒメは居た。


セーミアの提案に乗る前に、狂戦士と呼ばれる男の参考資料はあるかとヒメが質問し、案内されたのがこの部屋だった。事前に連絡がしてあったのだろう、映像を投影する魔具(三十㎝四方の黒い立方体で、その一面には丸いレンズが取り付けられた箱)には、ディートリヒの戦闘記録が保存された魔具(直径五㎝程で高さが十㎝程の円柱)がセットされていた。


映写機のレンズから投射され、スクリーンに映し出されているのは一人の男の戦闘シーンだ。


男の身長は二mを超え、その身を屈強な筋肉で纏う姿は日本で言う鬼を連想させる。

唇には禍々しい笑みを湛え、立ち塞がる者を遠慮容赦なしに粉砕する姿は正しく鬼だ。鬼の両手には金棒の代わりにハルバート。両手それぞれに重厚な武器を握り、それを小枝の様に振り回している。余りにも圧倒的で絶望的な暴力だった。


右の一振りで粉砕し、左の一振りで切断する。鬼が振るう毎に命が消える。朱に染まる。それは鬼から離れていても変わらない。ハルバートが地面を穿つなら、大地は棘となり槍となり遥かへ走っていく。ハルバートが宙を切るなら、火炎が昇り濁流となって彼方を燃やし尽くす。鬼は呪文を詠唱していない。ただ、ハルバートを自在に扱っているだけだ。その動作によるワンアクションだけで、鬼は魔術を行使する。まるで隙が無い。遠距離には大地の槍と業火が襲い、近距離ではハルバート二刀流という異常が襲う。


やがて、鬼がハルバートを降ろした頃には周囲は地獄に変わっていた。瑞々しい草原は焦げた大地に、色鮮やかな草花は赤一色に、涼やかな風音は呪怨の呻きに全てが塗り潰された。地獄の中心には、紅の魔力を纏い狂笑を響かせる鬼。『狂戦士』ディートリヒ・ベクターが佇むだけだ。


ぷつんと映像が消えた。

映写室から音が無くなり沈黙が二人を包んでいた。草麻は奥歯を噛み締めていた。余りにも凄惨な戦闘は既にただの虐殺だった。ぽつりとヒメが零す。


「強いの」


それはただの確認だった。

草麻は強がる様にヒメに言う。


「ああ、強いな。普通に戦ったら九十パー死ぬだろうな」

「それでも、やるのか」

「まあ、甲斐性無しにはなりたくねえからなあ」

「儂は勝手に死ぬ従者を持ったつもりはないがの」

「俺だってそんな従者は嫌だよ」

「………草麻。辞退しろ」

「………」

「お主は何時かはあ奴を追い抜く力はある。じゃが、それは今では無い。無駄死には許さん」

「………」

「草麻。聞いておるのか」

「聞いてるさ。けど、俺はやるよ」


二人の言葉には何時もの噛み合わせが感じられない。

まるで、潤滑油が切れた歯車だ。互いを削り合う言葉はもはや刃に等しい。ヒメは拳を握り締めると、草麻を睨んだ。そして叫んだ。


「草麻!!」


ヒメの言葉はまるで悲鳴だった。

届かぬ者への懇願、理解が出来ぬ苛立ち、あらゆる感情が混ぜ合わさった言葉は悲痛ですらある。草麻は何も映さないスクリーンに視線を向けたまま、ぽつりと決意をこぼした。


「俺はさ、ヒメの期待に応えるだけじゃ、嫌なんだよ。俺はシルフィーアさんにも認めて欲しいんだよ」


冷水を頭から浴びせられた。

白熱した思考は瞬時に冷却され思考は固まった。震える唇からは上手く言葉が出ない。掠れた喉から出たのはもはや罅割れた残骸だった。


「何、じゃと」


震える声は必死に感情を抑え込んでいるのだろう。

だが、その懸命さがヒメの感情のふり幅の大きさを表していた。それに、草麻も気付いている。気付いていながら、草麻は決定的で致命的な言葉を放った。


「だから、引けない。この程度じゃ引けない」


ぷちんと何かが切れた音がした。

冷えた脳は全てを振り切り既にレッドゾーン。草麻の放った一言はヒメの逆鱗を打ち抜いていた。


「バカ者!!昨夜震えておった者が何を言うとるんじゃ!!お主は死ぬのが怖くないのか!!」


髪を振り乱し、金の瞳が草麻を貫く。

魔力が迸り、縦に裂かれた瞳孔は魔眼と呼ぶに相応しい。だが、草麻は怯まなかった。畏怖すら感じる視線を草麻は真正面から受け止めると、真っ直ぐと言った。自分のエゴを。


「怖えよ。けどな、期待に応えられない方がもっと怖い」


ああ、と草麻の瞳を見てヒメは不本意ながら納得してしまった。

この男は生き方に殉ずる生物なのだと。そんな単純な事を改めて思い知らされた。


自分は知っていた筈だ。

この五澄草麻という男は、自身の根幹を否定する事が死ぬ事よりも余程恐ろしいと考える、臆病者なのだと。だが、感情が許さない。そんな身勝手許せる筈が無かった。


「バカ者!!勝手に死ね!!」


乱暴に閉められるドアの音を聞きながら、草麻は椅子の背凭れに寄りかかる。

困った様に表情を濁すと草麻は強く溜息を吐いた。


「どうしたもんかね」


髪を乱暴に掻くと、もう一度溜息を吐く。

草麻の脳裏には双月が煌めくあの夜が描き出されていた。あの時、シルフィーアは言っていた。


「あの子はあるべき所で、何も起こせない様に過ごすだけだよ」と。


つまり、ヒメは何かの鍵なのだろう。

そして、おそらくだが、“その時”までの時間は余り無い。シルフィーアがヒメにどういう感情を持っているのかは判らない。ただ、ヒメを自分に託した事だけは理解出来ていた。


シルフィーアの期待に応えられなければ、ヒメはいずれ草麻の許から離れていくだろう。故に草麻はシルフィーアの期待に応えなければならない。例え、命を懸けても。


「本当、どうしたもんか」


言って、草麻は身を起こすと、一先ず画面に集中する事にした。

問題を脇に置き、一つのことに意識を向けられるのは師匠である静流の教育の賜物だろう。今できる最善を尽くす事が、次に繋がると草麻は知っていた。


草麻の視線の先にはハルバートを振り乱す戦鬼の姿が見える。

草麻は『観応』を使いながら戦闘に没入していった。




「バカ者が」

ヒメはホテルに戻ると口汚く草麻を罵った。

それでも、彼女の怒りは収まらない。手近にあるベッドをヒメは蹴った。ドンという音が部屋に響く。ヒメは息を荒げるともう一度ベッドを蹴った。足先に響く衝撃がいやに痛かった。戦いまで後一日。じわりと目尻に涙が浮かんだ。




セーミアは協会の近くにある喫茶店で一人紅茶を飲んでいた。

夕日の光が窓から差し込み、世界をセピア色に染めて行く。喫茶店には気怠そうに煙草を咥えたままグラスを拭く女マスターと客であるセーミアだけだ。


女マスターは背に掛る程の黒髪を首下で結い、整った顔立ちに吊り目が印象的な美女だ。だが、視線を半分程伏せ無愛想な姿は、まるで世捨て人を連想させた。マスターとして客と会話はするが、余分な関心を持たない彼女の雰囲気を好む客は多い。セーミアもその一人だった。


頼んだ紅茶は既に十杯目。

草麻達と別れてから数時間が経つとはいえ、明らかに多い。普段のセーミアならマスターと談笑なり読書をするなりで時間を過ごすのだが、今日の彼女は窓際の席に座りずっと外を眺めるだけだ。


その余りに何時もとは違う彼女を見て何かを感じ取ったのだろう。

グラスを拭くのを止めるとマスターはカウンターから出た。基本的に不干渉を旨とする彼女だが、常連客位は贔屓にするべきだ。マスターの手には苺が乗ったショートケーキがあった。


「待ち人か?」


マスターは頼んでいないケーキを机に置くと、セーミアの対面に座った。

想像通りのハスキーな声は耳に心地よい。セーミアは無愛想だが気の良い女マスターの厚意に素直に甘える事にした。


「はい。でも、振られたかもしれません」

「ふむ。お前でも振られる事があるんだな」

「それはありますよ。私がそんなにモテると思いますか?」

「ああ、思うね。少なくとも私よりはモテるだろう」

「既婚者が何を言ってるんですか。テイルさんが居なければ告白されるでしょう」


マスターはセーミアの言葉に肯定はしなかった。

男勝りである自分と、花咲く様なセーミアとでは勝負になりはしないし、そもそも夫さえ居てくれれば気にもならない事だ。


「ふん、どうだかな。ここでグラスを拭いていると大抵聞こえてくるぞ、受付のあの人良いよなーと」

「あは、それは嬉しいですねー」


皮肉気な言葉もセーミアは上手くかわす。

絶えない微笑は目眩ましに近い。マスターは相変らずな彼女に溜息を吐いた。


「ふう、お前の相手になる男は大変だろうよ」

「そんな事ありませんよ。私のちょっとした我が儘を聞いてくれる人ならウエルカムです」

「お前の要求は朔夜姫並みに難しいだろうが」


セーミアの言葉にマスターは呆れた様に言った。

彼女のちょっとした我が儘というのは、下手な冒険よりも命懸けだ。昔話に出て来る、絶世の美女が求婚話を断る話を例えに出せる位には。セーミアは心外そうに言った。


「そんな事ないですよ。始祖龍の宝玉を持って来る事に比べれば余程簡単です」

「で、今度は何だ」


マスターはじとっとした視線をセーミアに送る。

彼女の事を全く信用していない信頼ある視線だった。それに、セーミアはばつ悪く目線を彷徨わせると、さも言い辛そうに我が儘を口にした。


「えーーと、狂戦士と戦う事です」


マスターは目を細めると即答した。


「お前は本気で朔夜姫になる気か?」


あの狂戦士と戦うというのは、力が無ければ自殺行為に等しい。

事実、腕試しと狂戦士に挑んだ身の程知らずは、余りに高価で替えの利かない自身の命と言うチップを払っている。その事件をセーミアが知らない筈はない。それを我が儘に言うとは豪胆にも程がある。セーミアは何時も通りの微笑を湛えたまま、誤魔化す様に笑った。


「あはっ」


マスターは溜息を吐き言った。


「それで、その不幸なチャレンジャーは私が知ってる奴か?」

「いえ、知らないと思います。だって、私と知り合ったのも昨日ですしね」


さも当然とセーミアは口にするが、彼女の突拍子も無い言葉に流石にマスターも口を尖らせた。


「はあ。お前、いくらなんでもやりすぎだろう」

「いえ、こうビビっときまして。この人ならと思ったんですよ」

「………セーミア。お前さ、この前もそんな事言ってなかったか」

「………あはっ」

「馬鹿たれ」


マスターがセーミアを小突いたのと、ドアベルが鳴ったのは同時だった。

からんとドアに付いたベルの音が鳴り、一人の青年が顔を出す。マスターは反射的に挨拶をした。


「いらっしゃい」


良く通るハスキーな声が店内に響いたのと、青年の影が瞬時に間合いを詰めたのは同時だった。


「初めまして。僕は草麻・五澄と言います。よろしければ、お名前教えてくれませんか」


余りに突然の事にマスターは気怠そうな目を開いた。

一般人よりも余程強い彼女は、へえと咥え煙草のまま唇を笑みに変えると、簡潔に自己紹介した。


「シン・ソーヤだ。因みに私は既婚者だよ」

「マジですか」


左手の薬指に光るシンプルな指輪を見て、草麻はがっくりと肩を落とした。

喫茶店の女マスターとの一時の交わり。何とも憧れる話だったのだが、仕方なしか。草麻は深い溜息を吐くと、未練がましそうに言った。


「行きずりって憧れません?」


草麻の口振りが可笑しかったのだろう。

シンはくっと小さく笑うと緩やかに椅子から立ち上がった。


「残念だけどね、私は夫一筋なんだ」

「左様ですか」


余りに残念そうな言葉にセーミアは苦笑した。あからさまな態度がおかしかった。草麻はシンが空けた椅子に座ると、メニューをぱっと見てシンに果実ジュースを注文した。シンは判ったと言うと、カウンターで注文を作り始めた。


「それでソウマさん。どうしますか」

「とりあえず、鎧通し取りにヴェルンデさんとこですかね」


とりあえず、か。セーミアは頷いた。


「……判りました。私も一緒に行って大丈夫ですか」

「当たり前じゃないですか。むしろこっちがお願いしたい位ですよ」

「ありがとうございます。そういえば、ヒメさんはどうしたんですか」

「あー、ヒメなら怒ってホテルに帰っちゃいました」

「そう、ですか。その、すいません」

「いやフレルさんが謝る事は無いですよ。俺が頼んだ事で承諾した事ですしね。明日俺がどうなろうとも、そりゃあ自己責任ってやつですよ」


苦笑しながら草麻が言った時に、丁度果実ジュースが運ばれてきた。

トレーも使わず直接グラスを持ってきたシンは、グラスをコースターに置きながらセーミアに視線を向けた。


「セーミア。こいつなのかい、ディートリヒと戦う奴は」

「はい。ソウマ・イズミさん。冒険者になる予定の人です」

「ふうん、そうかい。ま、死なない程度に頑張るんだね」


品定めする様な視線で草麻を見た後、シンはカウンターに戻っていった。

これ以上の詮索は余分だろう。いや既に十分余分だったかも知れない。シンは新しい煙草に火を点けた。紫煙が立ち昇るなか、草麻の声が聞こえる。


「勿論ですよ」


さて、この青年の声がもう一度聞ける事はあるのだろうか。

シンは口の中だけで、ぽつりと零した。


「どうなることやら」




クロスの工房のドアにはクローズの看板がぶら下がっていた。

朝からずっと掛っていたに違いないそれは、クロスが熱中している証拠だろう。草麻はううむと不安を口から零した。余計な事がされてなければいいが。


「草麻でーす。開けて下さい」


ドアに付いた来客用ベルを叩くと、直ぐにドアが開いた。

出迎えてくれたセリシアの顔には何故か緊張が見て取れる。


「ああ、待ってたよ。悪いんだけど、直ぐに来てくれるかい」


焦る様なセリシアの口振りに、草麻は何も言う事無く肯定した。


「了解です」


リビングにはクロスが椅子に座っていた。

眼前のテーブルには草麻の鎧通しが置かれている。四人掛けのテーブルには果実ジュースが置かれているだけで、客と話すにしては随分と簡素と言えた。


何時もなら紅茶かコーヒーを出してくれる筈だが。

彼等を良く知るセーミアとしては、不躾とも取れるクロスの対応が不思議でしょうがない。それに、草麻とセットであるヒメが居ないのにクロスは尋ねる事もしなかった。草麻とセーミアは怪訝に思いながらも椅子に座る事にした。


クロスの対面に草麻が座り、セーミアは草麻の隣に座った。セリシアはクロスの隣だ。全員座ったのを確認するとクロスは口を開いた。


「ソウマ君。聞きたい事がある」


鎧通しに眼を向けたまま、クロスが草麻に問い掛けた。

その声には明らかな緊張が孕んでおり、いがらっぽい喉から出た言葉は掠れてさえいた。いよいよ、何かあったのだろう。そう確信させるには十分な仕草だった。草麻はジャブでも放つ様に軽く言った。


「何ですか?俺の好みは理知的なお姉さんで、メンズは軒並みお断りっすよ」


「この鎧通しについてだ」


だが、そんな草麻の軽口に付き合う事もせずに、クロスは本題を切り出した。

その顔立ちには剣幕さえ宿っている。草麻は軽口を叩く事を止め、クロスの視線を受け止めた。


「この刀の製作者は、シルフィーア・W・エドウィンかい」


はっと、息を飲む音が草麻に聞こえた。

斜め向いに座るセリシアと隣に座るセーミア、二人から驚愕の気配が伝わる。二人の顔にはまさかという言葉が張り付いていた。感情を表に出しやすいセリシアはともかく、微笑を絶やさず何事も爽やかに受け流すセーミアでさえ、驚きを隠す事は出来なかった。それ程までにシルフィーアの名は畏怖されているのだろうか。


草麻はセーミアの初めて見る表情で、事の重大さを正確に測る事が出来た。

しかし、草麻にはクロス達の緊張の意味までは解らなかい。確かにヒメからは世界レベルと聞いているが、ここまで緊迫する程だろうか。まあ、いいやと草麻は軽く答えた。


「いや、違いますよ」


草麻の言葉に、クロスは眉根を寄せた。

彼の言葉が本当なら茎に刻んであった紋章は嘘になる。だが、あれは間違いなくシルフィーア・W・エドウィンの紋章だった。鍛冶という特技も含めて準二級冒険者の肩書を持つクロスが見間違える筈も無い。クロスは問い詰める様に草麻に言った。


「本当かい」

「ええ、間違いないです」

「嘘ではないんだね」

「嘘じゃないです」

「本当に」

「ええ、本当です」

「絶対だね!」

「絶対です!ていうか、何なんすか!?」


言葉だけでは無く、身を乗り出してきたクロスに草麻は苛立った声で反論した。

男に問い詰められるだけでも不快なのに、迫られたらいい加減にしろと思う。まだ、怒りまではいかないが、問い詰められる意味が判らない。草麻は怪訝な視線をクロスに送った。それを感じ取ったのだろう、クロスは慌てて椅子に戻るとこほんと居住まいを直した。


「いや、ごめん。興奮してしまった」

「まあ、別にいいですけど。俺の刀に何か問題あったんですか」


クロスは一度息を吸い込むと、努めて穏やかに言う。


「茎にシルフィーア・W・エドウィンの紋章が刻んであるから、気になったんだよ」


「ああ、あれですか。ていうか、シルフィーアさんの紋章があったからって、騒ぐ事なんですか」


まるで、著名人のゴシップネタがどうしたのかという、あくまでも暢気な草麻の言葉に周囲が凍った。まるで宇宙人でも見たかの様な視線が草麻に注がれ次いで空間が爆発した。


「君は何を言ってるんだい!!特級冒険者にして魔具作製の第一人者である彼女の紋章があるだけで、それはもうプレミアなんだよ!!」


「そうだよ。数多の冒険者にとってシルフィーアの銘が刻んである物は垂涎の品物。私だって二回しか見た事ないんだ!!」


「ソウマさん。貴方馬鹿ですよね!!」


テーブルをバンバンバンと叩く音がリビングにこだました。

ギロリと三対の視線が草麻を貫く。その剣呑な眼差しに草麻は思わず背筋を伸ばすと、伺う様に質問した。その声は余りにも弱々しかった。


「あの、すいません。俺いや僕、ど田舎から来たもんで、よく判らないので説明して頂けませんか」


「判りました。お馬鹿で無知で世間知らずなソウマさんに、判り易く一言で彼女の凄さを伝えます」


草麻の疑問に答えたのはセーミアだった。

ニコニコと常の笑顔だが、目だけは全く笑っていない。殺気すら発して手痛い言葉を投げかける彼女は、それだけ草麻に怒っているのだろう。無知とは時に罪なのだ。これは、知らなかったですまされる問題では無い。セーミアは草麻を睨みつけて、簡潔に言った。


「この武器の所有者というだけで、協会の特例に値します」


セーミアの言葉に沈黙が降り、草麻はその空気を壊そうと軽い言葉で笑いながら言う。


「またあ、フレルさんも冗談が上手いんだから。流石の俺も騙されませんよ」


沈黙。じとりと視線に込められた殺気が倍増した。

静かなリビングで、草麻の背中に流れる冷や汗が増えるのと、空笑いが終えるのは一緒だった。


「………マジですか」

「本当です」


もう、意味が判らなかった。




「えーと、じゃあ。シルフィーアさんは世界に四人しかいない特級冒険者で、世界有数の魔具製作者。その上、王ですら逆らえない実力を持つ極限の気分屋と。こんな感じですか」


「まあ、大雑把にはそんな感じです。もっと言うなら彼女の名前を気軽に言うのですら私達は憚れます」


「はあ」


「はあ、てソウマさん。事態の深刻さ判ってます?」


「いや、とりあえずシルフィーアさんがとんでもない人物なのは判りましたよ」


セーミアによるシルフィーア・W・エドウィンの逸話を聞いた草麻は曖昧に頷いた。知己という程の知り合いでもないが、いきなり知り合いが凄い人ですと言われても実感は湧かないだろう。正に今の草麻がその状態だった。


冒険者の三人は一先ず矛先を収めると、改めて草麻に聞いた。即ち、お前は何者だと。


「ソウマ君。話が大分逸れたけど、出来る事なら教えて欲しい。なんなら、情報料としていくらかのお礼も用意出来る」


「いや、別に深い理由も無いんで、その辺はいいですよ。むしろ、教えてくれてラッキーていうか」


「そうかい。それで、教えてくれるかい」


「まあ、クロスさん達が期待する程でも無いんですけど、シルフィーアさんと戦って気絶させられた後、起きたら刻んであっただけです。申し訳無いんですけど、気付いたらそうなってたんで、詳細は判りません」


草麻が話し終えるが、三人から反応が無い。

またミスったと思うのと、セリシアがテーブルを叩いたのは同時だった。セリシアがゆっくりと口を開く。


「ソウマ」


名前を呼ばれただけで既に息苦しい。草麻は下を向きはいと応えるだけで精一杯だった。


「お前、今何て言った」

「はい、気づいたらそうなってました」

「違うよ。その前だ」

「はい、起きたら刻んでありました」

「さらに、違う。もっと前だ」


だらだらと冷や汗が流れる。

答えを探すだけで神経ががりがり削られる気がする。草麻は慎重に言葉を探した。


「シルフィーアさんと戦って気絶しました」

「そこだ」

「はい」

「ソウマは、あのウインドマスターと戦ったのかい」

「はい。戦ったというか、ぎったんぎったんのぼろ負けの完敗で見逃して貰った感じです」

「それでも、剣を合わせたんだね」

「はい。馬鹿みたいな剣速と嘘みたいな全方位攻撃でした」

「何で生きてるんだい?」

「判りません」

「判らないじゃ判らないだろ!!」


理不尽だった。

どうしようもなく理不尽だが、そんなセリシアを止める者は居ない。むしろ、ストッパー役が多いクロスでさえ、セリシアに同意しているようだった。


「ソウマ。今嘘と言えば縊る位で許してやるよ」

「何を!?」

「ナニをだ。だって、おかしいんだよ!あの残虐非道暴虐不尽なウインドマスターと戦って生きている自体が!!」

「いや、残虐非道暴虐不尽て。言うほど悪人では無いと思うんですけど?」

「ソウマ。精神病院に行こうか」

「そこまで!?」

「ソウマ。とりあえず、私達全員に殴らせろ。頼むから」

「何故に!!」




仕切り直しも含め、草麻はクロスに問い掛けた。


「とりあえず、俺の鎧通しは何時の間にか魔具になってたんすね」


「うん、そうだね。普通では気付けないだろうけど、この刀は間違いなく魔具だ。それも一流のね。僕も初めは気付かなかったけど、奥の奥まで見てやっと気付けた程だよ」


「すいません。それって凄い事ですか」


「十分凄いよ。流石はシルフィーア・W・エドウィンの手が加えられていると言ったところだね。正直、この刀を売るだけで一財産築けるだろうね」


「マジですか」


「大マジだよ。ただ、この刀にはロックが掛っているから、魔具としての能力はソウマ君しか使えないだろうけどね。それでも、シルフィーア・W・エドウィンの銘だけで十分過ぎる価値だよ」


「………マジですか。それで、能力って何か判ります?俺一週間振るってますけど違いに気付けなかったんですけど」


草麻の問いに、クロスは考える様に一度目線を上げた。


「そうだね。今までソウマ君は魔具を使った事があるかい?」

「いえ、ないです。というか、魔具は殆ど見た事すら無いです」


クロスは眼鏡のブリッジを中指で上げると、慣れた様に説明を開始した。

冒険者であり鍛冶師である以上、魔具の取り扱いは出来て当然。ならば、詳細を語る事に詰まる事などありえないということだろう。


「解った。それじゃあ簡単に説明しようか。先ずは一般的な魔具というのは魔力を流すだけで発動するのが殆どなんだ。僕の眼鏡しかり初めて会った時にセリシアが使った連絡用だったりね。けど、特殊な魔具は違う。ただ、魔力を流すだけじゃ駄目なんだ。魔力に意味を持たせて通わせる必要がある」


クロスの説明に草麻は疑問を抱いた。

流すというのは判る。だが、通わせるというのは良く判らない。確かに以前ヒメは草麻の魔力に関して、扱い方はともかく流し方は上手いからのという言葉を言っていた。ということは、通わせる=扱い方でいいのだろうか。


「意味を持たせる、ですか?」


「そう、意味だ。もしくは意識でもいい。ソウマ君は魔術を使う時に魔力の質を属性に合わせて変えるだろう。それと同じように、魔力に意味を与えるんだ」


また、草麻に判らない言葉が出た。

おそらくクロスの説明はこの世界の常識を有しているなら、大変解り易いものなのだろうが、ある程度の常識しかもたない草麻にとって、疑問を増やすだけだった。


「あー、すいません。俺、魔術使った事ないです。というか自分の属性すら知らないです」


草麻は頭をかきながら、申し訳なさそうにクロスに聞く。

何しろ、魔術に関しては早く覚えたい草麻であったが、ヒメから変な癖がつくといけないからと、属性を確認するまでは禁止されているのだ。『観応』を使っておおよその原理は理解しようとしているが、知識がなければ正解まで辿り着ける筈も無い。


だが、この世界に取って魔術というのは基本中の基本。

教育を受けていない者でも基礎は知っていて当然であり、ましてや属性すら知らずに戦いに赴くのは無謀だろう。クロスはにこりと笑った。


「よし、判った。ソウマ君、ちょっと表出ようか」


素敵な微笑のまま、クロスは右手で外に出ろという仕草をする。目は全く笑っていなかった。


「ヴェルンデさん。眼が怖いんですけど」

「だって、本気だからね」

「あっはっは。冗談ですよね」

「僕のセリフだよ、それは」

「すいません」


「いや、こちらこそごめん。僕もというか僕達が混乱しているんだ。あのウインドマスターと戦って生きている人間が、こんな初歩的な事も知らないなんて信じられないんだよ」


「はあ。あの、それなら俺が嘘ついてるって思わないんですか?」


「あの紋章が刻まれて、かつ専用の武器だからね。信じざるを負えないというのが本音かな」


クロスは一度グラスに注がれた果実ジュースを口に含むと、説明を再開した。


「話が逸れたね。とにかく、ソウマ君がきちんとした手順を踏んで魔力を通わせれば、この刀は魔具の特性を発動する」


「了解です。それで肝心の特性は何なんですかね」


「僕も全部理解したとは言えないけど、通わされた魔力属性が付与されるみたいだね。ソウマ君の属性が何かは知らないけど、単純な能力だからこそ使用者の質が試される魔具だね」


「シルフィーアさんの愛がいたい。で、魔力属性てなんで……」


【魔力属性】

魔力特性ともいう。木・火・土・金・水・風・雷・空・光・闇の十の属性の特徴を指す。基本は十属性だが、稀に特殊な属性を持つ者もいる。通常の魔力に属性の質を通わせる事により、各々の特徴を強く引き出す事が出来る。例えば火ならば攻撃力が上がり、土ならば防御力・風ならば速度といった具合に。また、一般的には三属性等複数の属性を持つ事が多い。


【主従契約】による知識の流入は相変らず突然だ。

唐突に言葉を切った草麻にクロスは疑問符を浮かべるが、草麻は何でも無いと誤魔化した。


「いや、何でもないです」


「そうかい。だけど、この刀は見事としか言えないよ。魔力に頼る事を否定しながら、魔力を通わせる事を否定していない。堅固さと柔軟さを兼ね備えた素晴らしい魔具だよ」


「本当、シルフィーアさんの愛がいたいことで。ところで、ヴェルンデさん魔力属性ってどうやって判るんですか」


「そうだね。大体は検知魔具で計測するよ。家にも簡易計測器があるから調べてみるかい?」


クロスの提案は願っても無い事だ。

草麻は躊躇いもせずに頷いた。


「はい、お願いします」

「判った。工房から持って来るからちょっと待っててくれるかい?」

「了解です」


言って、クロスは立ち上ると、工房へ向かった。

彼に続くようにセリシアも立ち上がるとキッチンへ向かった。テーブルに置かれた四つのグラスには殆ど中身が入っていなかった。二人がリビングから出て行くのを見送ると、セーミアは草麻に視線を向ける。


「良かったですね、ソウマさん。これで無駄に戦う事無く晴れて冒険者になれますよ」


にこりと愛想良くセーミアは草麻に言った。

事実、クロスに鑑定書を書いて貰い、それを冒険者協会に提出すれば特例で草麻は冒険者の仲間入りができる。わざわざあの狂戦士と戦う必要は何処にもない。


実際草麻は見ている筈だ。

あの虐殺鬼の戦闘を、一切の情もなく、一片の慈悲も無い。あるのは戦闘に対する純粋なまでの姿勢。それを知っているセーミアだからこそ、草麻の次の言葉が信じられなかった。


「まあ、そうですけど、俺はディートリヒさんと戦うつもりですよ」


口調はあくまでも軽い。

だが、眼光が、纏う雰囲気が草麻の本気を語っていた。それを数多の冒険者を観て来たセーミアが違える筈も無い。セーミアは微笑を消して草麻に問い掛けた。彼女もまた本気だった。空気が一瞬軋んだようだった。


「ソウマさん。本気ですか?」

「本気も本気。大マジですよ」

「……判りました。ソウマさんの意思が勇気なのか蛮勇なのかを見届けさせて貰います」

「お願いしますよ」


二人の契約が完了するのと同じくして、クロスとセリシアが戻って来た。

クロスの手には検知魔具が、セリシアの手には四つのグラスが乗ったトレーが、それぞれ握られていた。草麻とセーミアの空気は既に緩やかなものになっていた。




「ふう」

時刻は既に深夜に近い。

セーミアは一人、自宅であるマンションで一息ついた。簡素な鎧を脱ぎ部屋着に着替えると紅茶を淹れる。もう何度も何度も繰り返した習慣に淀みは無かった。


セーミアはキッチンにある椅子に腰かけると、自分で淹れた紅茶とクッキーを机に用意した。この紅茶を飲む瞬間が彼女にとって一番のリラックスタイムだ。芳しい匂いを堪能しながら、シンの喫茶店のクッキーを摘まむ。程よい甘みが口内に広がると、一日の疲れがすうと抜け出していく様だ。


セーミアは無言のままゆっくりと髪留めを外した。

ふわりと栗色の髪が広がると、次第に栗色から瑠璃色に変化していく。やがて、セーミアが紅茶を飲み終わる頃には暖かな栗色の髪は、深遠な瑠璃色に変わっていた。


瑠璃色の髪を一房握りながら、セーミアは胸元に収めたロケット形のネックレスを取り出した。精巧な彫刻がされたネックレスには一枚の写真が収められている。セーミアは懐古する様に目線を伏せると、子供の様に寂しげな声を出した。


「お父さん」


その声色に、どのような事情が含まれているのかは、一切読み取れなかった。




「失礼しますよ、と」

草麻はホテルに戻ってきた。

昨夜と同じ部屋の扉を開けると、中は薄暗い。一つしかないベッドが僅かに膨らんでいる所を見ると、ヒメは寝ているのだろう。そろりそろりと、師匠である静流に鍛えられ、グレートグリーンで練度を増した忍び足で草麻はベッドに近づいた。


すーすーと穏やかな寝息が聞こえてくる。

予想通り、ヒメは寝ていた様だ。その事に草麻は安堵の溜息を吐くと、静かに部屋の椅子に座った。草麻の視線はずっとヒメに注がれ、一瞬もぶれる事はない。やがて、草麻は立ち上がると静かに部屋を出た。


机の上には冒険者協会戦闘場に入る為のパスと、戦闘時刻が書いてあるメモが置いてあった。書き慣れていない汚い字が、草麻のものと一目で判る。扉が閉じられ、無音の静寂が部屋を支配する。ぽつりと一言だけ声が聞こえた。


「バカ者が」


諦めた様な納得した様な声だった。

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