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狼浪奇譚  作者: ただ
13/47

出会い1/ いいっすよ

視界の先には盗賊であろう七人の男を相手取る二人の男女。

僕は直ぐに二人組の助太刀に入ろうとしたが、隣に居るセリシアに行動を止められた。彼女の瞳には戦闘者としての好奇心がありありと見える。


それを見て僕は何も言わなかった。

こうなった彼女を止めるのは難儀だと知っているからだ。事実、助太刀する必要も無く、珍しい装束を着た彼は盗賊達を容易く蹴散らしている。隣のセリシアは彼の武器を使わない戦法に興味を抱いている様だが僕は違った。


彼の持つ短剣。

見た事も無い剣身とその鋭さに眼を奪われていた。彼の短剣に魔力を浸透させたらどうなるのだろうと埒も無く考え、興奮していくのが判る。やがて、彼がハルバート使いの男を相手にした時に僕はいよいよ感極まった。その衝撃は電撃の様に僕の体を貫き、視線の全てを奪う。それは感激だった。




抜刀したまま、草麻は油断無く眼前の男を観察する。

男は頭を下げたままの姿勢だが、そこから何をしてくるか判らない以上気を抜く訳にはいかなかった。殺伐とした空気が広がり、場が重くなっていく。じりじりと間合いを削られる感覚は予想以上に草麻の神経を尖らせる。


そんな草麻を見て、男の隣に立っている女は溜息を付くと男の後頭部を殴った。

いたっと男は言うが、女は歯牙にもかけなない。長い付き合いだが男のこういう性格は拙いと思う。


「突然、すまなかったね。こいつに悪気は無いんだ。許して欲しい。とりあえず自己紹介をしようか。私はセリシア・エークリル、一応準二級冒険者をやってる。それで、隣のこいつはクロス・ヴェルンデ。鍛冶師兼冒険者だ」


女、セリシアは準二級冒険者の証である宝玉の嵌った腕輪を見せた。

ヒメはセリシアの言葉に怪訝な表情を隠さない。セリシアは準二級冒険者と軽く言ったが、準二級は一流のランクだ。言ってはなんだが、こんな辺鄙な場所にそう居て良い存在ではない。ヒメは草麻の後ろから隣に移動すると口を開いた。


「儂はヒメ・サクラじゃ。こ奴はわしの従者で草麻・五澄。エレントに行く途中じゃよ。それで、主らは何しにこんな所にいるのじゃ」


「それは、イズミ君の短」「ああ、実はグレードグリーンの近くの山に鍛冶に使う鉱物を採掘しに行く途中でね。それで、ついでに最近出没している盗賊団討伐の依頼も受けたんだけど、そっちは片付いてるみたいね」


セリシアはクロスの口を抑えながら、ちらりとヒメの背後を見た。

そこには地面から生えた男達の顔が七つ。さっきの戦闘も見ていたが、間違いないだろう。


「成る程の。それで、疑う訳じゃが依頼書はあるのか」

「勿論よ。はい、これ」


セリシアは腰につけているポーチから依頼書を出すと突き出す様にヒメ達に見せた。

それには、冒険者協会発行のサインがしっかりと記載されている。ヒメは注意深くそれらを観察すると首を竦めた。


「判った。それで結局の所、主らは儂等に何をさせたいのじゃ」


半信半疑がありありと判る表情を作りながらヒメは言う。

セリシアはクロスを邪魔するなときっと睨んでから、口を開いた。クロスの鍛冶師の能力は認めるがそれに関すると暴走気味になるのがクロスの悪癖だった。


「そうね。私は後ろに居る男達の身柄を引き渡してくれれば、それでいいわ」

「ふん。そう簡単にはいと言うと思うか」

「……だよねえ」


セリシアはヒメの言葉に同意すると、溜息をついた。

こういう風に、依頼された側と偶然討伐した側が同じタイミングで出くわした場合は厄介なのだ。単純に依頼料の配分、または懸賞金の配分が問題になるし、俺が先だった、いや俺がと、冒険者同士、または冒険者と傭兵などで言い争いになるケースは珍しくない。


基本的に先に倒した方が権利を有するので、今回はヒメ達に権利がある。

だが、ヒメ達は連絡手段を持っておらず、ヒメ達がエレントに行っている間に、セリシア達が魔具を使い先に街と連絡を取ったら、セリシア達に権利が移るのだ。


後でヒメ達が文句を言っても、証拠が無い以上(犯罪者の意見は基本的に通らない)後の祭りになるだろう。かといって、草麻が残りヒメがエレントに行くのも危険だ。何せ、二人が草麻を殺す可能性だってあるのだから。そうなったら、死人に口なし。どうする事も出来ない。


ならば、どうするか。

ヒメとセリシアは同じ解決案を考えている。それは、こういうケースで最もポピュラーな解決法、いわゆる達成金分担方と呼ばれる方法だ。文字通り、依頼料を分担するのだが、この方法には一つだけ問題があるのが欠点だった。即ち、


「配分はどうするのじゃ?」


達成金の配分割合である。

過去、割合に納得出来ずに両者が争いになったケースは山ほどあるが、これが一番ベターな解決方である事も全旅人の共通認識だった。


「そうね。ここはフィフティーフィフティーでいいんじゃない」

「馬鹿を申すでない。八・二じゃ」

「随分業突く張りなセリフね。5・5よ」

「何もしとらんのに、よう言うわ。八・二じゃ」

「連絡というのも、重要な事でしょ。5・5よ」


バチバチと火花が散る。

ヒメとしては、無一文な今出来る限りせびるのは至極当然。むしろ九・一でいきたいとすら思っている。


一方のセリシアとしては、正直全額渡しても問題は無い。

先に言った通りこの依頼はついでであり、準二級の依頼としては格安といえる。貯蓄も十分にある以上今回の依頼料を渡しても問題は無いのだが、これで、準二級冒険者のセリシア・エークリルは全額渡したという風評が立つのはいただけない。舐められるのは、我慢ならないのだ。それに、準二級冒険者になる前の、あの頃の血がふつふつと滾ってきた。


「4.5・5.5」

「ふん、駄目じゃな。せめて、七・三じゃ」

「へー、良く言ったわね。4・6。これ以上はまけれないわ」

「六.五・三.五」

「4・6」

「七・三」


もはや、それは交渉というよりは意地の張り合いになり始めている。

すわ、戦闘勃発かという時に、とうとう今まで黙っていたクロスが動いた。


「0・10でいいよ」


それは鶴の一声だった。

ヒメは信じられないと顔に出し、セリシアは文句を言うどころか、むしろ諦観していた。それは、クロスとセリシアの付き合いの長さを表していた。クロスはおもむろに草麻とヒメに向き直ると、カッと目を見開いた。


「その代わり、イズミ君の短剣を貸して下さい!!」


クロスの眼光を受け、無駄に眼鏡が光る。

紅蓮の業火すらその背に負うクロスは、正しく鍛冶師の生き様を体現し、尋常では無いプレッシャーを相手に与える。対象者が一般人ならその威圧だけで気を飛ばしてもおかしくは無い。正しく準二級冒険者の迫力がそこにはあった。クロスの鋭い視線にヒメは引き、もとい若干怯みながらクロスを見返す。


「……条件が良すぎる。まさかお主、草麻の短剣を盗むつもりではあるまいな」


「まあ、そう取られてもしょうがありませんけどね。さっき言った様に僕の本職は鍛冶師です。鍛冶師の誇りに懸けて人の武器を盗む事はしません」


心外だとクロスは真っ直ぐにヒメを見返した。

端正な顔はより引き締まり、先程までとは別人の様だった。


「イズミ君が持つ短剣は僕も見た事が無い位に珍しい代物なんですよ。正直、僕にとって今回の依頼料よりも短剣を観察出来る方がよっぽど価値がある」


「………草麻。どうする?」


ヒメはクロスから視線を外さずに草麻に声を飛ばした。

契約を結んでいるとはいえ、ヒメに草麻の武器をどうこうする権限はないし、したくも無かった。依頼料全額は確かに美味しい話だが、草麻の半身と対等かと言われれば、否としか言えない。草麻は後帯に差した鎧通しを握る。そこには確かな存在感があった。


「駄目っすね。この刀は俺の師匠から渡された武器。それを易々と初見の人間に渡しては師匠に顔向け出来ません。全額というのは魅力的ですけどね、それ以上にこいつが大事なんですよ」


草麻の言葉には、はっきりとした拒絶があった。

草麻もまた武人を目指す青年だ。信用ならぬ相手に己の一端を渡す訳にはいかない。クロスは草麻の確かな意思を感じながらも、強い視線は崩さなかった。


「……そこを何とかしてくれないかい。イズミ君が僕を信用出来ないのは判る。それなら、一緒にエレントに行って僕の工房に着いてからでもいい。勿論、協会の名の下に依頼料も全額支払う。どうか、お願いします」


クロスは頭を下げる。

己の延髄が見える程に下げられた頭は、彼の誠意が伝わってくるようだ。何よりも準二級冒険者が見ず知らずの相手にここまで哀願するとは、驚きを超えて感心してしまう。


クロスを長年見て来たセリシアには判る。

普段はともすれば意思の弱い男に見られがちの彼だが、その芯は情熱という炎を常に燃やしている事を。そんな彼だからこそ、クロスは準二級まで伸し上がったのだ。ならば、自分は応援するしかないではないか。セリシアは両腰に下げた双剣を握る。クロスが鍛え上げた相棒だった。


「なあ、イズミと言ったな。こいつはこう見えても鍛冶師として本気なんだ。もし、あんたが信じれないと言うなら私の剣と交換でも良い。受け入れてくれないか?」


その言葉に躊躇いは無い。

クロスの鍛えた武器のお蔭で、何度も命を助けられた。そんな彼がまた一歩ステージを上がろうとしているのを傍で見ているだけでは居られなかった。そんな彼女の言葉を聞き、草麻はにっこりと笑った。それは、十七歳の青年らしい笑みだった。


「いいっすよ」


それは即答に近い。

完全にシンキングタイムゼロ。条件反射の域だ。草麻の言葉に一同が目を剥く。先程とは百八十度違う態度はもはや別人だろう。驚いているのは、クロスだけでは無い、セリシアも何よりもヒメも驚愕いていた。


ずっと見て来たヒメには判る。

草麻がどれ程冨田六合流を大切に思っているか、そうでなくてはここまで毎日自分の時間を修練に当てたりはしないだろう。そんな男がいきなり師匠から貰った刀を初見の相手に貸すというのは異常だった。


「え、本当かい。ありがたいんだけどさ、何で急に」


戸惑うセリシアの声は皆の総意だったろう。

ヒメもクロスもまた頷いていた。それを知ってか知らずか、草麻はあっけらかんと、さも当然の様に言った。煩悩濡れの答えを。


「そりゃあ、エークリルさんみたいな美人に頼まれて否っていう奴はおらんでしょうよ、普通」

「え、とそれだけなのかい」

「それだけって、美女の頼みってだけで十分だと思いますけどね。なんなら依頼料とか少なくしても良いんで、今度一緒に食事とかして下さいよ」

「……あ、ああ」


戸惑うセリシアを尻目に、草麻は鞘ごと鎧通しを後帯から引き抜いた。

はいとばかりに出された鎧通しを見て、クロスは逡巡する様に草麻とヒメを見た。草麻はニコニコとヒメはむっつりと黙り込んでいる。


対照的な二人を見ながら、クロスはおそるおそる鎧通しに手を伸ばした。

先程までとのギャップと戦人が武器を簡単に手放す行為に、基本的に真面目なクロスは戸惑ってさえいた。やがて、クロスが鎧通しに触れるかという瞬間、彼の視界から鎧通しが消えた。


「え?」


ぽかんとしたクロスの眼前には憤然としたヒメが居る。

彼女の蹴撃は草麻を容易く吹き飛ばしていた。だが、ヒメは納まらぬとばかりに草麻に近づくと、足を思いっきり振り上げた。


「この、バカ者が!!そうやすやすと剣士の魂を渡すでない!というか、師匠はどうしたんじゃ師匠は!なによりも、依頼料を下げるでない!このバカ者が!!」


ストンピング、ストンピング、ストンピング。

体重が無いヒメながら、その高速の連打は侮れるものではない。荒ぶる攻撃に意識が飛ぶ前に彼は必死に抵抗する。


「いや、俺剣士じゃねえし!静流はバカだからどうでもいいし!美女と食事出来るんなら多少は目を瞑るだろ!」


「普通は瞑らんわ!!そもそも、お主は儂の従者なんじゃから女に眼をやる暇も無いわ!」


「横暴だ!雇用条件改正を要求する!!」


「却下じゃ!!」


「酷っ!」


幼女に踏まれる青年を見ながら、クロスは手を差し出した体勢のまま固まっている。

そんな彼を余所に、セリシアはクロスの荷物から連絡用の魔具を取り出すと使用した。赤い光が魔具から溢れ、今頃エレントにあるギルドに連絡がいった事だろう。だが、どんなに急いでも後五時間は掛る。その間、どうしようかとセリシアはぼけっと空を眺めた。




「それでは、盗賊団討伐の依頼料全額と引き換えに草麻の刀を診せる。条件はこれで良いな」


「ええ。盗賊団の引き渡し等終わり次第、依頼料を渡すよ」


「判った。しかし、よいのか。草麻の刀を観てからこんな物かと言われても、依頼料は返さぬぞ」


「勿論だよ。イズミ君の武器がどんな物であれ、約束を反故にすることないよ。それ以前に、盗賊を倒したのは僕達じゃないしね。ある意味これは君達に対する正当な報酬だよ」


「まあ、そう言ってくれると助かるがな」


ヒメが腕を組みながらやれやれと疲労感たっぷりに言葉を零す。

盗賊達の襲撃からいろいろあったので、彼女の反応は当然と言えた。セリシアはクロスとヒメの会話が一段落ついたところで、ふとした疑問を口にした。


「それより、サクラ。イズミは大丈夫なのかい」


ヒメの隣に居る筈の草麻の姿は消えていた。

セリシアの言葉にヒメは鼻息荒げた。明らかな怒気が彼女の小さい体から発せらている。


「ふん、あれだけ元気に呻けるんじゃ、大丈夫じゃよ」


「ま、あんたがそう言うんならいいけどね」


セリシアの言葉に反応する様に突然ヒメの背後から怒声が上がった。


「平気な訳あるか!」


土塗れになった草麻の声だった。

強烈なストンピングの後に、ヒメの魔術によって草麻は埋められたのだった。そこから魔力の補助があったとはいえ、筋力のみで這い出た草麻は尋常では無い。


「全く。普通、従者を簡単に埋めるか?」


「主人の前で鼻の下を伸ばす従者には丁度よいじゃろう。むしろ、殺されなかっただけ感謝すべきじゃ」


「判った。今度からヒメの居ない所でする」


「根本的に間違っとるわ!」


ヒメ必殺のグーパンチ。

腰の入った拳は綺麗に草麻の顎を捕えると、容易く草麻の意識を飛ばす。あれ、デジャブと思ったのと、どさりと倒れのは同じタイミングだった。


「ていうかさ、あんたらって何なの?冒険者?」


二人の寸劇を呆れた様に見た後、セリシアは口を開く。

彼女の疑問は尤もと言えた。亜人の少女にその従者と言う人族の青年。その組み合わせだけでも珍しいのに、盗賊団を容易く撃破し、準二級という高位冒険者にもたじろがない実力。


そのくせ、尋常でない量の荷物を持っている。

普通盗賊団を蹴散らせる程の力を持つ旅人なら、間違いなく収納の魔具は持っているのが普通だ。確かに値は張るがそれに勝る便利さがある。ここまでの実力を持ちながら、魔具を持たないのは不可解と言えた。


「儂等は」「ええ。僕は未知を探求する冒険者です。ここで会ったのも何かの縁。これから、どうですか熱い一夜でも」


「話が進まんじゃろうが!」


言葉を被され、無駄に求愛する草麻に堪らずヒメが突っ込みをいれた。

脳天に踵落としを喰らった草麻は、ごろごろと地面をのたうち回り地面に喰われた。ぱっくりと。


「さて、バカは静かになった事じゃし質問に答えようか。先ず、儂等は冒険者ではない。エレントで登録出来ればとは思っとるがの」


「じゃあ、君達はそれ程の実力を持ちながら冒険者では無いのかい」


「そうじゃな。それより協会の者達はどれ位で来そうじゃ」


「そうだねえ。さっき連絡したばかりだから、早くて五時間位かな」


「ふむ。そうか。なら、儂等は先にエレントに行っておる。冒険者協会で待っておればよいか」


「別にそれでも大丈夫だけど、僕達と一緒に行かないのかい?」


「行ってもいいのじゃがな、あのバカ者が何をしでかすか判らんからの」


「だけど」


クロスの言葉には若干の疑念が見えた。

このままヒメと草麻が約束を破り、居なくなるのではという疑念だ。無論、依頼料で損する事は無いが、そんなものよりもクロスは草麻の鎧通しを観察する事の方が余程重要だった。それを、ヒメも判ったのだろう。クロスの疑念を払拭する様に言葉を選ぶ。


「……安心せい。儂等も依頼料は惜しいのでな、草麻の刀は必ず見せるわ」


それは単純な口約束だが、クロスはこれ以上何も言わなかった。

お願いしたのはこちらである以上、疑いすぎるのは無礼だろう。


「判った。楽しみにしておくよ。それで、協会には僕の名前と渡した依頼の誓約書を見せればいい、何かと利便を図ってくれる筈だ」


「承知した。それじゃあ、また後での」


「また、後で」


「うむ。では草麻!行くぞ!」


ヒメはクロスから視線を外すとこんもりと盛り上がった地面に声をかけた。

そこには草麻が埋まっており、彼の力なら直ぐに這い出れる固さになっている筈だが、一向に出て来る気配が無い。


やがてヒメの言葉が空しく響き始めた頃、地面から突然手首が出てきた。

肘から先を出し器用に横に動く様子は、首を横に振る動作、拒否と言っている様に見える。そのあからさまなハンドサインを見てヒメはゆっくり地面に手を付くと、優しく魔力を通した。


とたん、大地の密度が急速に上がり、盛り上がった土が次第に萎んで行く。

それは、何かを咀嚼する動きによく似ていた。にやりとヒメが哂うのと、草麻の叫び声が聞こえたのは同時。土から腕が一本だけ伸びた光景はさながら墓標の様だった。




クロスとセリシアは二人並んで彼方を眺めていた。

彼等の視線の先には、巨大な荷物を担ぎ走る青年と、荷物の上に乗る少女が見える。ヒメと草麻だった。走り去る主従を見ながら、セリシアはぽつりと口を開いた。


「変な奴らだったねえ」

「そうだね、僕も驚いた。………けど」


クロスはセリシアの言葉に同意するが、微かなを疑問を滲ませた。

それはふとした違和感、別に気にする程ではないが、喉に小骨が引っ掛かっている様な感触だった。


「けど、何だい?」

「……いや、タイミングいいなあって」


セリシアの問いに、クロスは若干悩みながら返答する。

それは、確信も何も無いただの勘に近いもの。実際、クロスも自身の言葉に疑問を持っている様だった。


「ま、確かにね。でも、私達は冒険者やってるんだ。驚く程の偶然が重なる事は珍しい事じゃないだろ」


セリシアは唇を皮肉気に曲げた。

様々なものに理由を見出そうとするのは、研究者に近い鍛冶師の職業病なのかもしれない。セリシアは軽く言うと、クロスの肩を叩いた。そんなあくまでも軽い彼女にクロスは苦笑する。考えすぎても仕様がないか。クロスは彼方を見ながら、子供の様に言葉を発した。


「それも、そうか。でも、久しぶりに本気で楽しみだよ。早く来ないかなあ協会の人間」

「まだ、来る訳ないだろ。ゆっくり待つしかないよ」

「だけどさ、それはそれとして待ちきれないんだよ」

「だったら、さっき私が言った様にあいつらと一緒に行けばよかったんだよ。別に確認くらい私一人でも出来るんだから」

「いや、流石にセリシア一人で待たせる訳にはいかないでしょ。危ないし」

「なら、我慢するんだね」

「だけどさ」


会話する二人は、先程のクロスの言葉は既に忘却の彼方に飛んでいた。

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